生活者のリスク認知と評価に関するデータ分析(Ⅱ)

 

豊田 尚吾

 

 

363頁】

はじめに

 

「生活者のリスク認知と評価に関するデータ分析」(豊田2003)では,生活者がリスクを伴う財を選択する場合,プロスペクト理論を含む,広い意味での期待効用仮説によって彼らの意思決定の方略が理解可能であるという考えのもと,アンケート・データを用いてその構造に関しての考察を行った。その結果,リスクに直面した場合には,適切な状況認識のもとでもあえて確率評価などに歪みを与える場合と,状況認識に錯誤が発生する場合とがあり,両者を分けて考察するべきとの主張に至った。

一方,以上の議論は,あくまで平均的な回答をもとにしたものであり,個々の回答について検討するまでには至らなかった。本稿では,同じデータを用いながらも,個々の回答に何らかのパターンが存在するか,それらを分類することが可能かということに対して更なる考察を加える。第1節で,本稿での個票データの分析という問題意識を明確にしたあと,第2節では,等質性分析を用いて,質問に対する回答間の関連性の有無を探る。第3節では,前節で得られた計算値をもとに,回答者を分類し,各グループの特徴を明らかにする。第4節では,回答者の分類を,他の指標を用いて推測が可能であるかを検討した後,今後の課題を確認する。

結論は以下のとおりである。個票データの分析により,リスクに対する経済合理性と,熟慮なきギャンブル志向という2つの要因によって回答を構造的に把握することができた。また回答者を,それぞれの特徴を持つ4つのグループに分類した。しかし,それを他の人口動態的特性により推測することは困難で,一部の指標との関連性を確認するにとどまった。リスクの認識と評価に関しての把握は,本データだけでは限界があり,新たな仮説に基づいたデータを収集することなどにより,問題意識の深堀を目指したい。

 

1.生活者のリスク評価

 

前稿・豊田(2003)では,2種類の質問からなるアンケート・データを用いて,生活者が直面するリスクをどう評価し,どのように意思決定するかについて論じた。第一の質問においては,利得が確実だが水準の低い選択肢と,リスクはあるが期待利得は非常に高い選択肢との評価を通じて,しばしば議論される「確実性効果」の存在などについての検討を行った。そこでは期待効用を最大化するという意味での合理的な選択は必ずしもなされず,リスクを必要以上に回避する傾向が確認された。同時にリスク分散に対する認識という合理性,複雑な表現による錯誤などの非合理性があることも明らかとなった。

第二の質問においては,確実に得られるものとリスクを伴うものとの比較を通じて,リスク364頁】が相対的にどのように位置づけられるかを検証した。結果は,実現可能性が高いものほどリスクを過大に評価する一方,実現性がわずかなものについてはリスクを過小に評価するという,従来から指摘されていることが確認された。また,その質問の方法において,リスクを強調するか,客観的な聞き方をするかによって,その評価が異なることも確認できた。一方,質問内容の重大性に応じてそのリスク評価が異なるであろうとの仮説は,結果を見る限り実証することはできなかった。

以上の結論は,データの平均値や占有率をもとにしたもので,前稿では個々のデータを分析するには至らなかった。しかし,個票を見れば,特徴的なパターンをいくつか発見することができる。アンケートで用いた質問を再掲すると(ただし,問1のみ。質問の目的等詳細は,豊田(2003)を参照していただきたい)以下のようであった。

 

1.以下のような選択に直面した場合、どちらをより好みますか?(1)~(10)それぞれにつき、AまたはBをお選びください(それぞれひとつずつ)

(1) A.確実に100万円もらえる

  B.5%の確率で1000万円、90%の確率で100万円、5%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

(2) A.確実に100万円もらえる

  B.5%の確率で500万円、90%の確率で50万円、5%の確率でなにももらえないくじを2回ひき、合計金額をもらう(2回とも500万円当たれば、合計1000万円。逆に2回ともはずれであれば0円。1回でも500万円当たれば当然500万円もらえる)

(3) A.確実に100万円もらえる

  B.5%の確率で100万円、90%の確率で10万円、5%の確率でなにももらえないくじを10回ひき、合計金額をもらう(10回とも全部100万円当たれば、合計1000万円。逆に全部はずれであれば0円。1回でも100万円当たれば当然100万円もらえる)

(4) A.確実に100万円もらえる

  B.4分の1(25%)の確率で赤玉、4分の1(25%)の確率で青玉、50%の確率で黄玉がでるくじを2度ひく。2回とも赤玉なら1000万円、2回とも青玉ならなにももらえない、それ以外なら全て100万円もらえる

(5) A.確実に100万円もらえる

  B.40%の確率で赤玉、40%の確率で青玉、20%の確率で黄玉がでるくじを3度ひく。3回とも赤玉なら1000万円、3回とも青玉ならなにももらえない、それ以外なら全て100万円もらえる

※(6)~(10)の設問は,(1)~(5)を選択する前に参加料として1万円を取られるとの条件を付加したものである(それ以外は(1)~(10)と同じ質問)

 

本稿では,これらの設問に回答することで得られた個票データに着目し,回答者がそれぞれどのような選択をしているのかを検討していく。個々の回答の背後には,何らかの心理的な構造があり,それをもとに回答者は選択肢の評価を行っているのであろうという問題意識に従い,具体的には以下のような考察を行っている。①回答のパターンを構造的に把握できるのか,②そのような構造の中で回答者を何らかの形で分類できるのか,できるとすれば分類後の各グループの特徴は何か,③その分類は他の指標,例えば人口動態的指標を用いて推測することがで【365頁】きるのか,である。

 

2.等質性分析によるリスク判断の構造化

 

前節で合計10の設問に対する回答を得たことを述べた。期待効用最大化の観点からは,全ての場合において,Bを選択することがほぼ合理的であるが,実際に10問全てBを選択した回答者は,全185人中,わずか9人(全体の4.9%)である。一方,そのまったく逆である,全てAを選択した回答者は64人(34.6%)にも達する。これらは回答が完全に一貫しているという意味で,わかりやすい例であるが,その他にも回答内容に何らかのパターンを読み取ることができそうなデータがいくつも存在する。

そこで本節では,10の設問をもとに等質性分析を行い,それぞれの設問の回答パターンからどのような特徴が導き出されるかについて考えてみたい。実際に計算を行い,散布図として表したのが図表1である。

 

 

具体的には,豊田(2003)での問1(1)(10)の合計10の質問に対する回答(185人分のデータ)を用いて等質性分析を行った。そのうえで上位2つの次元をx軸,y軸とし,各設問の選【366頁】択肢のスコアをもとに散布図を作成したのが図表1である。図における1-Aというのは,問1(1)における,選択肢Aの座標位置を表しており,10-Bとは,問1(10)における,選択肢Bの座標位置である。

図表1では第2象限のデータが重なっていてわかりにくいが,3-Aと4-Aがほぼ重なっており,その僅か上方に8-Aが,そのまた上方に5-Aが位置している。3-A(4-A)のやや右に9-Aが,その上方に10-Aが存在する。第4象限も3-Bと4-Bがほぼ重なっていることがわかる。図表2は,各設問と回答に対応する等質性分析のデータ,すなわち図表1作成のもととなる数値を表している。

 

 

図表1,2を利用して,抽出された次元の解釈を行う。第1次元,すなわちx座標は明らかに,A,Bの選択により大きく異なる値をとっている。x座標で正の方向にはリスクの大きいBが,負の方向には確実なAが位置している。より詳細に見れば,1-Aと6-A,2-Bと7-Bという設問間に一定の法則を確認することができる。前述のとおり,設問(1)(5)と,(6)(10)は対応している。(1)(5)にゲームの参加料として1万円を取られるという前提を加えたのが(6)(10)である。x座標では,A,Bの選択共に,(1)(5)のすぐ右(x座標ではより正の方向)に,(6)(10)が位置している。以上のことから明らかなように,x座標は大きな意味での回答者のリスク許容度を示していると判断することができる。

さらに言えば,リスクに関して差があるのは(1)→(2)→(3)(6)→(7)→(8)であり,順にリスクが小さくなっている。次元1のスコアを見ると,選択肢Aでは(1)→(2)→(3)(6)→(7)→(8)となるにつれて値がより小さくなる傾向があり,選択肢Bでは逆に値がより大きくなっている。リスクが小さくなり,Bを選択することに,より大きな合理性が伴うにもかかわらず,それでもあえて頑なに確実なAを選択することに,より小さい値がつけられ,合理性の増大に伴ってBを選択することに,より大きな値が対応している。

以上を総合してx座標の解釈を行うと,リスクとリターンのバランスにおいて,より合理的な選択肢に対して高いスコアが与えられることから,単にリスク許容度のみならず,経済合理性を示す指標と考えることができるかもしれない。

次に,第2次元,y座標について考察を行う。一見して明らかなのは,Aの選択肢群では,y座標の分散が大きくないのに対して,Bの選択肢群ではそれが大きいことである。さらに,Aの選択肢群では(1)⇒(5),あるいは(6)⇒(10)になるにしたがって,y座標の値が増大していくのに対し,Bの選択肢群では逆に減少していく。また,Aの選択肢群では(1)→(6)(2)→(7)(3)→(8)(4)→(9)(5)→(10)と例外なくy座標の値が増大していくのに対し,Bの選択肢群では(1)→(6)(2)→(7)ではAと同様に値が増大するが,(3)→(8)(4)→(9)(5)→(10)では逆に値が小さくなっていく。

本稿ではこれはやや複雑に解釈せざるを得ないと考える。B群を見ると,絶対値が大きくなるほどギャンブル性が高くなり,また負の方向に進むに従って,設問の複雑性が増していく。A群は当然,絶対的な変化はないが,Bの内容が変わるに従って,相対的な変化が生ずる。このように,もし回答者が,(4)(5)の内容を,(1)と実質的に同じ内容であると正確に理解してい367頁】るならば,絶対値による理解はある程度の妥当性があるが,一方,錯誤により,回答者が十分内容を把握していない可能性もある。もしそうだとすれば,設問が(1)⇒(5)になるに従って,B設定のギャンブル的要素が減少していくと認識されているのかもしれない。すると,AはBとの比較において,相対的なギャンブル性は高くなっていく。このため,(1)⇒(5)(6)⇒(10)となるに従って,Aはyの値が増加し,逆にBは減少していくと考える。当然,相対的なものであるため,Aの変化量自体は小さく,逆にBは大きくなる。つまり,y指標は回答者の錯誤を前提としており,合理性に対しての疑問が想定されている。いわば熟慮を避けたギャンブル志向とした方がよいのではないかと考える。ただし,そうなると(1)(5)(6)(10)の対応について,必ずしも明快な解釈ができないということは認めざるを得ない。他に複合的要因が含まれている可能性が高いものと考える。しかしながら,本稿では十分な解釈ではないと認識しながらも,第2次元の指標を熟慮なきギャンブル志向との理解で論を進めることとしたい。

図表1では散布図によって全体を鳥瞰するために2つの次元しか抽出していない。因みに3次元目は(1)(5)(6)(10)が完全に二分されるような指標となっている。つまり参加料の1万円を課すか否かという違いで,スコアが明確に異なる値をとる。

 

3.リスク評価に基づく生活者の分類

 

2節で計測した2つのスコアは,回答者一人一人にも与えられている。そこで本節では,各人に与えられたスコアをもとに,回答者を分類し,各グループがどのような特徴を持っているのかについて見てみたい。

まず,全部で185人いる回答者がどのような位置にいるのかを散布図で表したのが図表3である。やや見にくいが,密集している部分は濃くなっていたり,十字や*マークになっていたりしている。図から判断すると,x座標は負でy座標は0近辺,x座標は正でy座標は0近辺,x座標は0近辺でy座標は正,x座標は正でy座標は負のあたりに比較的回答者が集まっているように見える。

 

 

次に,回答者のx,y座標の値をもとにクラスター分析を行い,4つのクラスターに分類した。各クラスターの中心点を図で示したのが図表4であり,各クラスターに属する人数を表にしたものが図表5である。図表3を見てもわかるように,最も回答者が密集しているのは,x座標は負でy座標は0近辺に位置する回答者群であり,それが第1クラスターとして分類されている。ここは設問に対しAとした解答群と非常に近くなっている。従って,第1クラスターに属する回答者は,各設問に対してAと答えた割合が高くなっていると推測できる。各クラスター間で設問に対する解答を比較したのが図表6である。これを見れば明らかなとおり,実際に第1クラスターに属する回答者がBを選択する割合は極端に小さい。10問で平均しても5~6%にすぎない。明らかに,確実性を重視するグループである。そのグループに属する回答者の数は185人中,94人とほぼ半数となっている。経済合理性に則らずに保守的な選択をする人達が多いということは注目すべき事実である。

 

 

 

 

 

 

 

その次に理解が容易なのは第4クラスターである。第4クラスターの中心は,x座標は0近辺でy座標は正にある。図表6をみると,この回答者は,問(1)(5)に対しては積極的にリスクをとりにいくものの,(6)(10)という,1万円の参加料に対して非常に大きく反応し,一気に保守的な選択に転じている。経済合理性の観点から言えば,参加料1万円は単にA,Bの期【368頁】待収益を1万円シフトダウンさせるだけなので,(1)(5)との本質的な違いはない。その意味で,自分が担わなければならない犠牲がないという状況下では,積極的にリスクをとるものの,目先の利得減(参加料)に直面した場合は保守的になるという,腰の据わっていないギャンブル志向が観察される。このクラスターに属する回答者は42名おり,第2番目に大きなクラスターとなっている。第1クラスターとは異なり,リスクに対して何らかの行動をとる集団の代表的グループといえよう。

2クラスターは,x座標が0近辺でy座標は正に位置する。図表6でみると,問(1)(2)(6)(7)などでは積極的に,第4クラスター以上にリスクをとりに行く一方で,問(3)(5)(8)(10)などに対しては一転して保守的な評価を行っている。両者の違いは,問の「内容」の複雑さであり,後者の設問は十分に理解するために一定の能力と時間が要求される。第2クラスターの回答者は,このような複雑な設問を理解したうえで選択肢の評価を行うことを避けるような特徴を持つのではないかと考える。y座標の「熟慮しない」という要素が反映していると言えよう。問1では4グループ中もっとも高いリスク許容度を示しながら,平均的にはBを選択する確率は40%である。とはいうものの,第1クラスターに属する回答者よりは遥かにリスクに対しては前向きな姿勢を示している。人数は21人と,4つのグループの中では最小である。

369頁】反対に,第3クラスターは,x座標は正でy座標は負のあたりに中心が位置し,問(1)(2)(6)(7)のB選択率は非常に低く,問(3)(5)(8)(10)のB選択率は高くなっている。ある種理解しにくい回答者群である。実質的に(1)(4)(5)が同じことを意味しているのを理解していない上に,参加料を取る(6)(10)でむしろBの選択率が高くなっている。確実な損失(参加料)370頁】があるために,期待収益率の高さに,より多くの関心が向かったと解釈すれば合理的選択といえるかもしれない。しかし,問6のB選択率が0ということを考えると,その仮説は成り立ちにくい。選択の結果だけを見れば,(2)(3)に関しては分散の平準化に応じてBの選択率を高めるという点で合理的,一方,(4)(5)では見掛けの変化に惑わされているという点で錯誤状態にある。つまりは,合理的なようでいてだまされやすい面も持っているグループとなる。このグループも30人足らずと少数派である。第2~第4クラスターは,それぞれに異なる志向を持ってはいるものの,リスクに対しては総じて前向きな姿勢を持っているグループである。その点で,第1グループとは基本的に異なる集団と考えるべきであろう。

以上のような分類は,既存のデータをもとにしたものであり,それが一般に適用できるかという検証は行えていない。ただ,大きな意味でのリスクに対する態度や,合理性や錯誤の要因は,各人の心理的構造をもとにあるパターンを持ちながら決められているという可能性に関して,一定の示唆が得られたように思う。いまだ,問題意識の段階であり,それが意味を持つためには,今後これらを検証していく必要がある。

 

4.考察

 

3節で回答者のグルーピングを行った。これは何らかの方法で再現が可能であろうか。すなわち,人口動態的データ等を使って,回答者がどのグループに属しているかを判別することが可能であろうか。結論から言えば,本アンケートで採取した別のデータを説明変数として,回答者のクラスターを非説明変数とする適切なモデルを創ることはできなかった。年齢,性別,既婚・未婚,年収などのデータは,第2節,第3節で利用した2つの次元の数値とほとんど相関がないという結果となった。

ただし,全く何の示唆も得られなかったわけではない。事例を2つ挙げると,第一は,4つのクラスターと,アンケートの問2との関連である。問2とは,確実な収益を100としたときに,それが「確実」から「99%得られる」という状況に変化したときに,その魅力がどの程度減じられるかを数値で答えてもらったものである。問は99%だけでなく,95%,90%,80%,50%,20%,10%,5%,1%の7ケースに関して回答を得た。リスクに対する評価を表していると考えられるこの数値が,先のクラスターとある程度の関連を示している。それを表したのが図表7である。これは第1クラスターメンバーの回答の平均値をいずれも100としたときに,他のクラスターメンバーの,回答の平均値がどの程度の値をとっているかを表にしたものである。要するに,リスクに対して各グループがどのような評価を下しているかを比較したものと言える。これを見ると,第1クラスターのリスクに対する評価が低いことがわかる。第1クラスター以外のほとんどの欄で100%を超えている。これは,他のクラスターのメンバーが,平均的に第1クラスターの評価より高い評価を「リスクのある収益」に対して与え【371頁】ていることを示している。つまり,第1クラスターの構成員はやはりリスクを低く評価し,確実なものを選択する傾向がある。

 

 

第二の事例は,回答者の住居形態との関係である。持ち家であるほど小さい値を取り,賃貸であるほど大きな値をとる指標において,第1クラスター回答者の平均を再び100とすると,第2クラスターが129,第3クラスターが103,第4クラスターが84であった。リスクをとるグループの代表的存在である第4グループはかなりの程度持ち家化が進んでおり,比較的リスクをとりやすい状況にあるのかもしれない。逆に,第2クラスターは数値が高い。これに対する紋切り型の解釈は可能であるが,やや適切性を欠く可能性があるのでそれには言及しない。

いずれにせよ,今回のデータでは上で述べたようなヒントは得られたものの,他の指標と明快に関連付けられたモデルを提示することはできなかった。少なくとも相関係数などから判断する限り,これ以上データに手を加えても,意味のある結果は出てきそうにはない。より問題意識の焦点を絞った新たな調査等が必要だと考える。

 

おわりに

 

以上,前稿で不十分であった,個別のデータをもう一度吟味見して,何らかのメッセージを読み取ることを試みてきた。結論としては,アンケートの回答にはある種のパターンがあり,それは各人が持つ評価構造をもとに導き出されているものと考える。データを見る限り,リスクに対する態度や直面した問題の複雑さに挑む姿勢などがそれに関連しているようである。合理性が発揮されていると思われる一方で,錯誤が生じているという認識は前稿でも提示したものである。ただ,本稿で論じてきたことは,データを検討した結果を筆者なりに解釈したにすぎず,実証されているとはいえない。より意味のある結論を導くためには,これらの結果をもとに,より問題意識を先鋭化し,仮説を持った上での更なる調査をもって,その構造を解明していく必要がある。

 

[参考資料]

豊田尚吾(2003). 生活者のリスク認知と評価に関するデータ分析,学習院大学経済論集第40巻第2号(通巻119号),学習院大学経済学会,131-155.

広田すみれ(2002). Ⅱ章 認知的アプローチ:規範・記述・処方理論, 心理学が描くリスクの世界, 慶應義塾大学出版会.

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