生活者のリスク認知と評価に関するデータ分析(Ⅲ)

 

――共分散構造分析による,構成概念妥当性の検証――

 

豊田 尚吾

 

 

17頁】

はじめに

 

本稿は,生活者がリスクを伴う財の選択に際して,どのような判断を行っているのかについて考察を行う。具体的には,豊田(2003),豊田(2004)をもとに,生活者の意思決定に影響するであろう構成概念を仮説として提示し,それを検証するために新たなデータを用いて分析を行った。リスクを伴う財を評価する場合には,期待効用を算出し,それらを比較することで最終的な意思決定を導くという考え方が一般的である。しかし,生活者はしばしば期待効用仮説から逸脱する行動を取ることがあり,その記述的な分析がプロスペクト理論などによって試みられている。豊田(2003)では,生活者の意思決定の構造を検証するためのアンケート調査を行い,度数集計をもとに確実性志向,確率分布,ギャンブル志向,初期コストバイアス,認知錯誤という5つの要因が影響しているのではないかとの問題認識を得た。豊田(2004)では,同じデータの個票に注目し,設問に関する等質性分析を行った。その結果,リスクに対する経済合理性と,熟慮なきギャンブル志向という2つの要因によって回答を構造化し,それに基づいて回答者を4つのグループに分類した。

本稿では,以上の経緯を踏まえ,生活者が意思決定する場合に,様々な要因が影響しているとの問題意識のもと,その構造を理解することを目的としている。第1節では,消費者情報処理理論に基づき,意思決定に関係すると思われる構成概念を仮説として提示する。第2節では,その仮説を検証するために行ったデータ収集について論ずる。そして,第3節では,共分散構造分析を用いて第1節で提示した仮説の妥当性を検証し,考察を行う。結論を要約すれば以下のようになる。統計的にはある程度の説明力を持つモデルが得られ,複数の構成概念が意思決定に影響しているという問題意識に関しては,一定の結果が得られた。一方,その構成概念がいかなるものであるかについては,十分説得的なモデルを構築することができず,今後の課題として残った。

 

1.意思決定に関する仮説設定

 

本稿の目的は,リスクを伴う財の選択に関して,いかなる要因が影響しているかを検討することである。それを,豊田(2003),豊田(2004)での議論を踏まえ,かつ消費者行動論における,消費者情報処理理論に基づいて,仮説を設定する。そして,仮説を検証できるようなデータを収集し,統計的手法を用いて分析を行う。

18頁】 豊田(2003)においては,確実な収益と,不確実ではあるが期待値としてはかなり優位な財との選択を通して,生活者のリスクに対する選好を確認した。同時に,繰り返し試行等,多様な条件を用意し,その回答の変化を見た。その結果,確実性志向,確率分布,ギャンブル志向,初期コストバイアス,認知錯誤という,5つの要因の存在可能性を指摘した。これはデータの度数集計から導き出したものであり,消費者行動との理論的考察を行った結果ではない。本稿ではその存在を検討するための論点整理として,消費者情報処理理論との関連で,上に述べた構成概念を明確化していく。言うまでもなく,消費者情報処理理論はBettmanらによって発展してきた考え方である。特に記憶の役割を明示的にモデルに取り込んでいる。様々な概念モデルがあるが,その中で簡略化したものは図表1のように整理することができる。

 

 

図表1を用いながら,上に挙げた構成概念案を論ずると以下のようになる。第一に,外部の環境情報を間違った形で理解してしまうという「錯誤」要因は,感覚レジスターでの読み間違い,制御プロセス内での符号化の失敗が考えられる。選択肢を取り巻く客観的な条件は認識しているものの,それがいかなる意味を持っているかを理解する過程で,間違いが生ずるということを意味する。その原因として,例えば,情報処理の節約行動(直感的判断),あるいは統計学などの情報処理に必要な知識の不足などがある。反対に,第二の,確率分布というのは,正確な情報処理を行い,状況を理解することで,より正確で合理的な選択肢の評価が可能になることを表している。図表1では長期記憶の統計処理能力の助けを得て,制御プロセスの中で適切な統合が行われることを意味する。第3の,ギャンブル志向は,個人の嗜好に関わることであるがここでは特にリスクに対する基本的態度という意味を持っている。ここでは情報処理後の最後の意思決定における評価に関わる部分と考えることができる。第4,第5の,確実性志向,初期コストバイアスは,豊田(2003)でも論じたプロスペクト理論の特徴から導かれるものである。確実性志向は,99%など,100%から少しでも確率が乖離すると,一気にその主観的評価が減じられてしまうというもので,その結果,期待効用を算出する際の確率部分の係数が,一般的な期待効用仮説とは異なる結論を導くというものである。これを表しているのが図表2における確率評価関数である。これは確率が1(=100%)が少しでも減じた時の,その評価19頁】 の大幅な減少(縦軸の「重み」で表現されている)を表している。逆に,確率が0%では,主観的にはより大きな評価を与えるという特徴がある。これを非合理と考えるか,長期記憶に蓄積された適応的智恵と見るかは別として,図表1で言えば,長期記憶の知識を活用して,制御プロセスで符号化を行う際の一種のバイアスと捉えることができる。

一方,初期コストバイアスは,同じくプロスペクト理論の参照点(レファレンス・ポイント)という特徴(図表2のS字型効用関数)から導かれるものである。豊田(2003)では,最初に選択のための初期費用を課すかどうかという条件を付加することの影響を指摘している。個人の効用判断が,いつも同じ効用関数をもとにしているのではなく,現在目の前にある,自分のポジションに影響を受けること,さらに,そのポジションを基準に収益と費用との効用の評価が非対称であるとの仮説をもとに説明することができる。すなわち,はじめに参加料という形で一定の支出を強制された場合には,参照点からマイナス方向にポジションが移動することとなる。それによって,より多くの不効用を感じることを通じて,リスクに対して消極的態度を取りがちになるという,従来から指摘されていた事実を追認するものである。

 

 

 

さらに,豊田(2004)では,豊田(2003)で得た個票データを分析した。アンケートで用いた設問の答えを等質性分析することにより,リスクに対する経済合理性と,熟慮なきギャンブル志向という2つの軸によって回答を構造的にポジショニングすることを試みた。一つは,リスクに対する経済合理性を示す軸であり,統計的な意味での状況改善があれば,リスクを伴う選択肢を,より選びやすくなることを表している。一方,言葉を逆にすれば,合理性を無視して行動する場合があるとも言える。具体的には統計的可能性を無視してかたくなに確実性を志向する選択が実際にあることも同時に示しているのである。第2の軸は,熟慮なきギャンブル志向という,混乱したネーミングになっている。これは,錯誤の要因とリスク嗜好要因が弁別できず,混同した形で評価されていることを示している。

以上のことから,事前の注意として,豊田(2003)で示した5つの構成概念を抽出するような調査を設計するものの,構成概念間の関連が大きく,弁別不能に陥る可能性にも配慮が必要である。

 

2.仮説構築と新規データ・ベースの作成

 

本節は,前節までの問題意識に従って,仮説を構築し,それを検証するための調査を行う。具体的には,リスクを伴う財の選択に影響する構成概念を仮定し,アンケート・データによってその妥当性を検討する。その際,まず,豊田(2003)で用いた問いを利用しつつ,それらに20頁】 構成概念の存在を確認するための設問を加えた。共分散構造分析によって,検討を行うことを前提に,構成概念の弁別可能性を考えたところ,ギャンブル嗜好にあたる構成概念は,豊田(2003)でも指摘したように,確実性志向と分散(統計的要因)とに並行的に影響するため,識別が困難であることがわかった。そこで,この分析においては,確実性,統計能力(分散の変化を理解できるか否か),錯誤,参照点効果(参加料という固定負担がいかなる形で影響するか)の4つの構成概念を設定し(図表3),それを検証するための設問を付け加えた。

豊田(2003)では,確実な収益と,くじによる期待収益の選択は2択としたが,今回は,どちらがより好ましいかを問い,7件法とすることでデータを間隔尺度と見なしている。

 

 

 

具体的には,以下のように問いを設定した。

 

.以下のような選択に直面した場合,どちらをより好みますか?

Aが非常に好ましい,Aが好ましい,どちらかというとAが好ましい,どちらともいえない,どちらかというとBが好ましい,Bが好ましい,Bが非常に好ましい,のいずれかを選んでください

(1) A.確実に100万円もらえる

B.5%の確率で1000万円,90%の確率で100万円,5%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

(2) A.確実に100万円もらえる

B.5%の確率で500万円,90%の確率で50万円,5%の確率でなにももらえないくじを2回ひき,合計金額をもらう(2回とも500万円当たれば,合計1000万円。逆に2回ともはずれであれば0円。1回でも500万円当たれば当然500万円もらえる)

(3) A.確実に100万円もらえる

B.5%の確率で100万円,90%の確率で10万円,5%の確率でなにももらえないくじを10回ひき,合計金額をもらう(10回とも全部100万円当たれば,合計1000万円。逆に全部はずれであれば0円。1回でも100万円当たれば当然100万円もらえる)

(4) A.確実に100万円もらえる

B.4分の125%)の確率で赤玉,4分の125%)の確率で青玉,50%の確率で黄玉がでるくじを2度ひく。2回とも赤玉なら1000万円,2回とも青玉ならなにももらえない,それ以外なら全て100万円もらえる

(5) A.確実に100万円もらえる

B.40%の確率で赤玉,40%の確率で青玉,20%の確率で黄玉がでるくじを3度ひく3回とも赤玉なら1000万円,3回とも青玉ならなにももらえない,それ以外なら全て100万円もらえる

※(6)〜(10)の設問は,(1)〜(5)を選択する前に参加料として1万円を取られるとの条件を付加したものである(それ以外は(1)〜(10)と同じ質問)      ※詳細は巻末の資料参照

 

 

21頁】 さらに,次のような設問を付け加えた。上の設問は,確実なものとリスクを伴うものとの選択である。そこでまず,リスク嗜好を問うための設問として,リスクの程度が異なる選択肢を提示した。具体的には,

 

A.50%の確率で100万円,50%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

B.25%の確率で200万円,70%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

 

という問いを,上の設問に加えた。同時に,この質問に参加料1万円のケースも付け加えた。

つぎに,各構成概念を検証するための設問を用意した。詳細は巻末の(資料1)に掲載するが,簡単にまとめると以下のようになる。

○確実性志向を検証するための設問(※確実性志向とギャンブル嗜好性を区別できないが,ここでギャンブルに対する嗜好を問う設問も付加している)

・確実に100万円もらえる喜びを100としたとき,「10回に1回はずれるくじをもらう。当たると100万円もらえる」というくじは,どの程度の価値があるか(具体的な数値):図表2での確率評価関数の形状を問い,数値が低いほど確実なものに対する評価を高く見積もると予想した設問

・生活の余裕度を問う設問:生活に余裕がないほど確実性を志向するのではないか。一方で,余裕がないほど一発勝負という意味でリスクを選択するかもしれない。

・資産の運用に当たって,リスク商品をどの程度組み込むかに関する質問:確実性をどの程度好むかの例として設定

・あなたはギャンブル(競馬,競輪,パチンコから宝くじまで何でも)が好きですか:直接,ギャンブル嗜好度を問う設問

○統計計算(能力)要因を検証するための設問

・あなたは統計や数字の計算が得意なほうですか:直接,統計計算能力に関する主観的な評価を問う設問

・実際に期待値を計算させる設問:統計計算能力に関する客観的なデータを得るための設問

○錯誤要因を検証するための設問

・既存の設問(赤玉,青玉,黄玉)の例が,それにあたると考え,追加的な設定は行わなかった

○参照点効果を検証するための設問

・状況のフレーミングに対する自己評価:社会心理学における,状況のフレーミングによる影響を考察する例を提示し(ここでは身近な買い物と大きな買い物での態度の変化),その態度から,参照点効果に対する影響を推測しようとしたもの

 

・心理的会計に関する設問:同様に社会心理学における,心理的会計に関する例を提示し,(ここでは映画のチケットを紛失した際の行動)その内容から,参照点効果に対する影響を推測しようとしたもの

 

 以上のような問題意識と設問内容で,調査計画を作成し,実際にデータ収集を行った。方法は,インターネット上でのアンケート調査であり,その概要は以下の通りである。

 

22頁】  

 

 

豊田(2003)でも類似した質問を同じ調査会社で行ったため,前回の回答者は調査サンプルから除いている。すなわち,今回の回答者は前回の回答者とは重ならない新規のものである。従って,新規のデータとして,度数集計などの確認が必要であるが,豊田(2003)で詳細に行っているため,本稿では巻末資料にまとめた。本文では,次節以降での,構成概念の妥当性検証に絞って論じていくこととする。

 

3.データを用いた実証分析

 

既存の設問1)~(10)が,図表3にあるように,基本を問う(1),分散の効果を問う(2)(3),錯誤の有無を問う(4)(5),参照点効果を確認する(6)~(10)で構成されている。従って,まず,その効果を検証するに足る,最小構成のモデルで,データの検証を行う。すなわち,基本(1),分散効果(3),錯誤(5),それに対応する参照点効果(6),(8),(10)をもちいた。加えて確実性に関する設問のみを加えて構成したモデルが次ページの図表5である。(図表中のq1.2は,巻末資料1にある設問,問1(2)に対応している。設問を増やしたため,豊田(2003)で用いた設問番号とはずれが生じている)主要な結果を統計数値で示したのが図表4である。(なお,以下の分析にはAMOS5.0を用いている。)

結果を見ると,数値的には悪いものではない。GFI,AGFI,RMSEA,RMRいずれも数値的には望ましい条件を満たしている。図表6に各係数の値を掲げている。一部,検定上やや見劣りするものもあるが,符号条件などは満たしている。しかし,このモデルでは,採用データも限られており,「確実性」を除き,構成23頁】 概念を十分に検証しているとは言いがたい。従って,このモデルをいかにより良いものにしていくかが課題となってくる。

 

図表5 パス図

 

 

24頁】 最終的な結果を表したものが下のパス図(図表7)である。

図表7

 

 

25頁】

 

簡単に要約すると,第一に,確実性に関しては,図表8の通りである。問2(1)の確率評価関数の値を,基本的な確実性志向の基準値として用いた。質問内容として,大きな値を答えるほど確実性を減じるので,係数を-1とし,確実性志向を表す構成概念とした。問1(2)~(12)に影響すると考えた。その際,基準となる問1(2),(8)は同じ係数W1,その他比較のために条件を変えた設問はまとめてW2とした。両者ともマイナスの符号となっている。これは確実性志向が強いほど,確実な収益を選択することを示している。加えて,問2(3)ギャンブルの好き嫌いを聞いた設問,問2(8)資産運用に関する質問は一定の結果が得られた。前者は符号が正であり,確実性志向が強くなるほどギャンブルが嫌いと答えるという意味で整合的である。後者は符号が負であり,確実性志向が強くなるほど元本保証の割合を高めるという点で整合的である。検定値もほぼ条件を満たしている。

 

 

 

第二に,統計計算能力に関しては,図表9の通りである。問2(5)の主観的な統計能力評価を基準値として用いた。確実性を問う設問と同様,質問内容は大きな数値を取るほど,より「苦手」に近づくため,係数を-1とし,計算能力への自身を表す構成概念とした。設問で確率,特に分散値の変化によるリスク計算が必要なものは,問1(3)(4)(9)(10)である。計算能力が高いほど,設問でよりリスクをとる方向,すなわち,くじを選択する方向に影響しているという意味で整合的である。設問の内容はくじを繰り返し行うことにより,期待値は一定のままで分散が小さくなり,合理性に従えば,よりくじを選択することが魅力的になるというものである。問2(3)より(4)が,(9)より(10)がその程度が大きい。係数が2.56から3.33に増大しているのもモデル整合的である。検定量も条件を満たしている。

 

 

 

第三に,錯誤に関しては,図表10の通りである。錯誤という構成概念に関し,問1(5)(6)(10)(11)が錯誤を引き出す,いわゆる引っ掛け問題そのものであり,追加的な設問を加えることは必要ないとの考えで調査設計を行った。しかしながら,それで十分説得的であるのかということに関しては,現段階で反省がある。何らかの設問を加えることにより,構成概念の性格をより明確にすることが望ましい。その前提で図表10を見ると,最も典型的な錯誤誘発問題である,問1(5)を基準として,問1(6)(10)(11),さらに繰り返し試行においても錯誤的影響があるとの考えから,問1(3)(4)(9)(10)も含めて影響を見た。錯誤を引き起こす問いの内容は,見た目,リスクが低減したかに思えるような記述になっているため,それに惑わされた場合には,くじを選択することがより魅力的に感じられる。従って,係数はよりリスクを受け入れるようになるということで,正であることがモデルの想定と整合的である。そして問(5)よりも(6)の方が,あるいは問(11)よりも(12)の方が錯誤の程度が大きいため,26頁】 係数も大きくなることで筋が通っている。また,問1(3)(4)(9)(10)は意図的な錯誤を誘引する設問ではないため,係数も問1(5)(6)(10)(11)と比較して小さいものとなっている。検定量もほぼ条件を満たす水準となっている。

 

 

 

第四に,参照点に関しては図表11の通りとなっている。参照点に関しては,類似の社会心理学的特性から導くことを意図したが,全て説明力に欠けるものとなった。結果的に既存の設問のみで考察を行わなければならなくなった。とはいえ,参加料1万円を取った場合という条件が明確であり,これは設問の状況から言えば,本質的な意味に乏しいものである。逆にこれに反応しているということは,消費者の情報処理過程で特定の影響があるということとなる。それがここでは参照点効果であると考えているわけだが,今述べたような追加的補強材料に乏しく,決め手にかけることは否めない。さらに,この構成概念を参照点効果と命名したが,実際は係数が正値を取っており,やや問題がある。つまり,ここでは構成概念の影響が強いほど,設問の回答は正の方向にシフトする,つまりはよりリスクの大きいくじを選択することとなってしまう。実際は,初期コストの発生からの参照点効果は,リスクを避ける方法に影響する。

 

 

 

実際,回答データも,問1(2)(3)(4)(5)(6)と問1(8)(9)(10)(11)(12)を比較すると,後者のほうが確実なAを選択する傾向がより強くなっている。したがって,問1(8)で係数を1.00と固定したという意味で,この構成概念は実際は「参照点効果の逆」の意味を持つ概念と考えなければならない。このネーミングの問題を別とすれば,すべての係数が同じく正になっており,検定量もほぼ条件を満たすものとなっている。

 

 

以上がモデルの内容と,個別の結果である。一方,このモデルの全体的評価も行わなければならない。モデルの全体的評価に関する,主要な指標が図表12である。これを見ると,図表4と比較して,パフォーマンスが低下していることがわかる。取り扱うデータを増やしたため,27頁】 当然ともいえるが,水準を見ると,いずれもあと一歩,あるいは良いと悪いのグレーゾーンに位置している。問題外ではないものの,十分説得的とも言えない。さらなる検証が求められるというレベルであると判断する。

 

 

 

4.おわりに

 

生活者がリスクを伴う財に関する意思決定を行う場合,その中でも簡便な期待効用仮説が適切でないような特異な選択に焦点を絞り考察した。豊田(2003),豊田(2004)での検討を踏まえつつ,複数の構成概念を仮定して,意思決定モデルを構築し,その検証のためのデータ収集,共分散構造分析による妥当性の検討を行った。完全に満足できるモデルとはいえないものの,一定のインプリケーションは得られた。今後,より詳細な検証を通じて,問題とするリスクを伴う生活者の意思決定に関し,洞察を深め,より望ましい消費選択のあり方について考察していきたい。

 

 

 

[参考文献]

青木幸弘(1987).「第3章 消費者情報探索の分析」,『マーケティング理論と測定』,奥田和彦・阿部周造編著,中央経済社,47-72.

塩田静雄(2002).「消費者の包括的意思決定モデル」,『消費者行動の理論と分析』,中央経済社,211-227.

豊田尚吾(2003).生活者のリスク認知と評価に関するデータ分析,学習院大学経済論集第40巻第2号(通巻119号),学習院大学経済学会,131-155.

豊田尚吾(2004).生活者のリスク認知と評価に関するデータ分析(Ⅱ),学習院大学経済論集第40巻第4号(通巻121号),学習院大学経済学会,.

Kahneman, D., & Tversky,A. (1979). Prospect theory: An analysis of decision under risk. Econometrica, 47, 263-291

 

資料1:設問の詳細

 

1.以下のような選択に直面した場合,どちらをどの程度好みますか?

1:Aが非常に好ましい,2:Aが好ましい,3:どちらかというとAが好ましい,4:どちらともいえない,5:どちらかというとBが好ましい,6:Bが好ましい,7:Bが非常に好ましい,のいずれかを選んでください

(1) A.50%の確率で100万円,50%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

B.25%の確率で200万円,75%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

(2) A.確実に100万円もらえる

28頁】 B.5%の確率で1000万円,90%の確率で100万円,5%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

(3) A.確実に100万円もらえる

B.5%の確率で500万円,90%の確率で50万円,5%の確率でなにももらえないくじを2回ひき,合計金額をもらう(2回とも500万円当たれば,合計1000万円。逆に2回ともはずれであれば0円。1回でも500万円当たれば当然500万円もらえる)

(4) A.確実に100万円もらえる

B.5%の確率で100万円,90%の確率で10万円,5%の確率でなにももらえないくじを10回ひき,合計金額をもらう(10回とも全部100万円当たれば,合計1000万円。逆に全部はずれであれば0円。1回でも100万円当たれば当然100万円もらえる)

(5) A.確実に100万円もらえる

B.4分の1(25%)の確率で赤玉,4分の1(25%)の確率で青玉,50%の確率で黄玉がでるくじを2度ひく。2回とも赤玉なら1000万円,2回とも青玉ならなにももらえない,それ以外なら全て100万円もらえる

(6) A.確実に100万円もらえる

B.40%の確率で赤玉,40%の確率で青玉,20%の確率で黄玉がでるくじを3度ひく。3回とも赤玉なら1000万円,3回とも青玉ならなにももらえない,それ以外なら全て100万円もらえる

(7) まず,参加料として1万円取られる。その後,A,Bのどちらかを選ぶ。

A.50%の確率で100万円,50%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

B.25%の確率で200万円,75%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

(8) まず,参加料として1万円取られる。その後,A,Bのどちらかを選ぶ。

A.確実に100万円もらえる

B.5%の確率で1000万円,90%の確率で100万円,5%の確率でなにももらえないくじを1度だけひく

(9) まず,参加料として1万円取られる。その後,A,Bのどちらかを選ぶ。

A.確実に100万円もらえる

B.5%の確率で500万円,90%の確率で50万円,5%の確率でなにももらえないくじを2回ひき,合計金額をもらう(2回とも500万円当たれば,合計1000万円。逆に2回ともはずれであれば0円。1回でも500万円当たれば当然500万円もらえる)

10) まず,参加料として1万円取られる。その後,A,Bのどちらかを選ぶ。

A.確実に100万円もらえる

B.5%の確率で100万円,90%の確率で10万円,5%の確率でなにももらえないくじを10回ひき,合計金額をもらう(10回とも全部100万円当たれば,合計1000万円。逆に全部はずれであれば0円。1回でも100万円当たれば当然100万円もらえる)

11) まず,参加料として1万円取られる。その後,A,Bのどちらかを選ぶ。

A.確実に100万円もらえる

B.4分の1(25%)の確率で赤玉,4分の1(25%)の確率で青玉,50%の確率で黄玉がでるくじを2度ひく。2回とも赤玉なら1000万円,2回とも青玉ならなにももらえない,それ以外なら全て100万円もらえる

12) まず,参加料として1万円取られる。その後,A,Bのどちらかを選ぶ。

A.確実に100万円もらえる

B.40%の確率で赤玉,40%の確率で青玉,20%の確率で黄玉がでるくじを3度ひく。3回とも赤玉なら1000万円,3回とも青玉ならなにももらえない,それ以外なら全て100万円もらえる

 

2.以下の質問にお答えください。ただし,必ず,1の質問に御回答いただいた後でご記入いただきますよう,お願いします。

(1)確実に100万円もらえる喜びを100としたとき,以下のくじはどの程度の価値があるか,具体的な数値を記入してください(70など)

10回に1回はずれるくじをもらう。当たると100万円もらえる→(        )

(注)これは,確実にもらえる100万円とは異なり,もらう時点では当たるかはずれるかはわかりません。

(2)今現在のあなたの生活は金銭的に余裕がありますか。1:非常に余裕がある,2:余裕がある,3:どちらかといえば余裕がある,4:どちらともいえない,5:どちらかといえば余裕がない,6:余裕がない,7:非常に余裕がない,の中から選択してください(主観的な判断で結構です)

(3)あなたはギャンブル(競馬,競輪,パチンコから宝くじまで何でも)が好きですか。1:非常に好き,2:好き,3:どちらかといえば好き,4:どちらともいえない,5:どちらかといえば嫌い,6:嫌い,7:非常に嫌い,の中から選択してください

(4)あなたは,スーパーマーケットなど身近な買い物での10円や100円にこだわりながら,大きな買い物(車や大型29頁】 家電など)では大雑把な支払方をしてしまうほうですか。1:非常によく当てはまる,2:当てはまる,3:どちらかといえば当てはまる,4:どちらともいえない,5:どちらかといえば当てはまらない,6:当てはまらない,7:全く当てはまらないの中からひとつ選んでください

(5)あなたは統計や数字の計算が得意なほうですか。1:非常に得意,2:得意,3:どちらかといえば得意,4:どちらでもない,5:どちらかといえば苦手,6:苦手,7:非常に苦手,の中からひとつ選んでください

(6)もし,あなたが,1%の確率で100万円,30%の確率で5万円,69%の確率で1万円もらえる宝くじをもらったとするならば,「平均して」どれぐらいのお金が手に入ると期待しますか。その金額を記入してください

   →(        )円

(7)入場料2000円の映画を見るために入場券を買ったのですが,入り口でそれを落としていることに気がつきました。するとある人が見るのをやめたので入場券を譲ってあげると申し出てきました。あなたならいくらまでなら払いますか。その金額を記入してください。購入を断る場合には0円としてください(その映画には特別の執着はないものの,2000円程度の価値はあると判断しているとします)→(      )円

(8)今,あなたは100万円を預かりました。この100万円は5年間後に返さなければなりません。しかし,その運用利益(利子など)はあなたのものになります。あなたはこの100万円をA:元本保証の金融商品(定期預金など),B:株・投資信託などのハイリスク・ハイリターン商品をどのように組み合わせて運用しますか。

100万円のうち,1:全てA(元本保証の金融商品)にあてる,2:9割をAにあてる,3:7割をAにあてる,4:5割をA,5割をB(ハイリスク金融商品)にあてる,5:7割をBにあてる,6:9割をBにあてる,7:全てBにあてる,の中から選択してください。(ハイリスク商品で運用の結果,元本割れした場合には,自己責任で弁済する義務が生じます)

 

資料2:アンケート調査の結果概要(頻度分布)

 

<問1>ここで「1:Aが非常に好ましい,2:Aが好ましい,3:どちらかというとAが好ましい,4:どちらともいえない,5:どちらかというとBが好ましい,6:Bが好ましい,7:Bが非常に好ましい」を表している

また比較しやすさを考え,問1(1)-(7)という対応で表示している

 

 

30頁】

31頁】

 

<問2>データの詳細は,資料1の設問と対照のこと

 

32頁】