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島野卓爾先生の死を悼む

 

経済学部長 新     

 

 

島野卓爾学習院大学名誉教授,平成1664日逝去。享年75歳。

 

平成15年の秋ごろだったと記憶している。目白のキャンパスでとある会が催され,その後の懇親会で島野先生とお会いした。お元気そうで,ますます学会でご活躍されるとの印象を持った。その頃,既に不治の病に冒されていたとは誰が思っただろうか。

 

島野先生は昭和3年に東京でお生まれになり,以後,幼少時代より学習院で学ばれた。学習院大学政経学部政治学科をご卒業後,ドイツ国キール大学に渡り思うところあり経済学を学ばれる。彼の地で経済学博士を授与され,帰国後,上智大学を経て,昭和35年,母校の学習院大学政経学部に奉職され,以来,平成11年にご退職されるまで40年の長きにわたり学習院において研究,教育活動に従事された。この間,経済学部長をはじめ学内の要職を務められたばかりでなく,第2の母校キール大学で2回にわたり客員教授として研究・教育にあたられた。学会においても,日本EU学会を始め多くの学会で活躍され,また,政府の審議会等でも重要な役割をはたされ,偉大なエコノミストとしての仕事をされた。

 

私自身,会議,研究会でご一緒することが多かったが,妥協を許さない厳しい発言は同席者を驚かせると同時に,だからこそ皆の信頼を勝ち得ていたと思う。公の場では厳格な人物であった一方,日常の島野先生は周りの人々にやさしかった。教育者としても立派な仕事をなさり,多くの後継者を育てたことは皆の知るところである。若い研究者と一献くみかわすときの島野先生は大きな存在でありながら,時折見せる少年のような眼差しは今も忘れがたい。

 

島野先生はスポーツマンでもあり,スキー,ゴルフを愛されていたが,と同時に囲碁もお好きで,在職時代,夕方から同僚とよく打っていたことを思い出す。懇親会でお会いしたとき,近いうちに目白で一局打ちましょうとお願い申し上げた。その矢先のご逝去である。議論をするとなかなか勝てない島野先生に一矢報いようとの目論みがみごとに崩されてしまった。お亡くなりになったとき,哀しさ,寂しさも大きかったが,勝ち逃げをされてしまったというのが本音であろうか。

 

心からご冥福をお祈り申し上げます。