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島野卓爾先生の思い出

 

       

 

 

1986年に島野卓爾先生のゼミに入りそれ以来公私にわたって先生に大変お世話になってきました。先生は当時「経済政策」の講義を担当されていました。南3号館201号室の壇上から学生の顔をじっと見ながら,理論モデルや経済政策を颯爽と論じる先生の姿が今でも目に浮かびます。

当時の島野ゼミでは,先生から厳しいコメントが出ることもありましたが,かなり自由に勉強させていただきました。私も自分の好きなことの勉強に集中し,統計学の方向へ進む意思が固まったのも学部時代のことです。先生ご自身が大変多くの分野に興味を持っていらっしゃったので,自然と島野ゼミには様々な個性を持ち先生を学問と人生の両方の師として尊敬する学生が集まってきたのだと思います。

先生からうかがったお話は数多くあります。いつか,講義棟の廊下で騒いだ学生から学生証を取り上げ,後日研究室でその学生にお説教をしたという話を先生からうかがったことがあります。現在では,そのような指導のできる大学の教員は多くいないでしょう。教員になってからつくづく感じるのは,学生を叱ったり説得したりすることがいかに多くのエネルギーを必要とするかです。そのようなことは,学生に対する本当の愛情がなくてはできません。

島野先生からゼミや飲み会の席で助言や社会に出てから心得ておくべきことを話していただいたことが何度かありました。そんなときの先生は,いつもの真剣な表情で話をされましたが,話にはいつも学習院大生に対する愛情が満ち溢れていました。私たちが卒業する直前に先生を囲んで目白の太平山で懇親会を開いたときには,「社会に出てからは,時には努力や成果が評価されないこともあるだろうが,そういった時にもくさらずにがんばれ。」という話をされ私たちをはげましていただいきました。

私的な面では,島野先生ご夫妻に結婚式のお仲人をしていただきました。結婚式のスピーチでは,初の南極越冬を成功させた西堀栄三郎隊長の話を引用されながら,「人の一生には思いもかけないことが起こることがあるが,それにうまく対処できるかどうかが大事である。君たち夫婦が探検家家族として大成することを期待する。」という言葉をいただきました。私たちがとても大切にしている言葉です。

先生の言葉はご著書と私たちの記憶の中で生き続けています。これからも我々ゼミ生が困難にぶつかるたびに,先生の言葉に励まされていくことでしょう。

 

先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。