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田島義博先生を送る

 

経済学部長 杉     

 

故田島義博先生は,昭和6131日熊本県に生まれ,昭和303月に一橋大学社会学部を卒業された。卒業後,社団法人日本能率協会に勤務されたが,その間,「マネジメント」誌編集長,企画部長,「市場と企業」誌編集長を歴任された。昭和389月には,当時の学習院大学政経学部に専任講師として赴任され,以降経済学部助教授,教授を経て,平成元年4月には経済学部長に就任,35年以上の長きに渡り,経済学部の研究・教育に携われた。また,平成3年からは学校法人学習院の常務理事,平成4年には専務理事,そして平成14年から平成183月に急逝されるまで,二期にわたり,院長・理事長として学習院の発展に多大な貢献をされた。

この間,第二次世界大戦後の混乱から立ち直った日本経済が次に抱える問題である流通に注目されて,流通の機能と構造に関して,歴史的な視点と国際比較の視点から多面的に検討,数多くの論文・書籍を発表し,わが国流通研究の第一人者として活躍された。また,昭和4110月に財団法人流通経済研究所を設立し,長年にわたり理事長を務められたが,その間官公庁からの委託研究や産業界との共同研究プロジェクトなど,多くの実証研究を指導し,流通業の近代化に大きな貢献をされた。

田島先生は,政府の役職も多く務められたが,特に,経済産業省の産業構造審議会流通部会では,部会長として,わが国の流通行政に大きく貢献された。一方,学界においても,流通・マーケティングにおける中心的な学会である日本商業学会の理事を多年にわたり務め,平成4年から8年にかけてその会長を務められた。先生は,このような学外での活動と経済学部での教育・研究指導を通して,数多くの優れた人材を育成された。その中には,現在大学および研究機関において研究・教育職に従事する者も多数含まれている。

学習院の院長となられた後は,幼稚園から大学までの学校をそろえた学校法人の院長という立場を踏まえて,教育について執筆・講演活動を行い,社会への貢献にも務められた。そのため,お忙しく,お会いする機会もずいぶん減ってしまったが,私が経済学部長に選ばれて以来,各種の会議でお会いする機会が増え,特に会議の前後にお会いすると,ご自分の方がよっぽど忙しいにもかかわらず,「杉田さん,忙しいか」とよく声をかけていただいた。私が「忙しくないとは言えません」とお答えするといつもの笑顔で笑っておられた。ある時,会議の前に指定された席に座ると,議長席に座っておられた田島先生が,最近献本をさせていただいた本の巻頭に田島先生への感謝の言葉を書いたことについて,わざわざ席から立ち上がり,ご丁寧にお礼を言われたので,かえってこちらが恐縮してしまった。お話をさせていただいた時の笑顔と誰にでも丁寧で礼儀を忘れない田島先生の優しさは忘れられない思い出である。

本号は,故田島義博先生の本学のみならず,広く社会,学界に貢献された遺徳をしのび,ここに特別号として刊行するものです。