それらは山奥の小さな谷間の、楽園の静かな一隅のヴィジョンであり、濃密な詩情の絶妙な調子を見事に示しています。私はこれらの版画の光と陰について考えたのですが、目の前にありながら、これを描写するにふさわしい言葉を見出すに至りませんでした。非常な深さ、厳かさ、強烈な輝かしさなどと言ってみても、そのごく一部を冷やかに語るにすぎません。この世のどぎつい陽光とは異なって、神秘的で夢のような微光の中に、魂の根底に達してこれを燃え上がらせ、完璧で限りない喜びを与えるものがあります。これらの版画は、かの素晴らしき芸術家の他の全ての作品と同じく、現実のとばりを引き開けて、この上なく高徳で修養を積んだ聖人や賢者のみが享受してきたものを、われわれにも垣間見せてくれるのです。

 上記の文章は、サミュエル・パーマーのエッチング《囲いを開いて》(図1)の解説としてもほとんど違和感なく読めるだろう。だが実際には、これはパーマー自身がウィリアム・ブレイクの木口木版画(図2)について、ブレイクの伝記作者ギルクリストにその印象を語った1855年の手紙からの引用である(注1)。 ブレイクの版画は、1821年刊行のソーントン編『ウェルギリウスの牧歌』に付けられた。《囲いを開いて》は、それから60年後のパーマーの作品である。パーマーが若き日――当時、彼は仲間たちとともに「古代人たち(The Ancients) 」というグループを作っていた――に傾倒したブレイクの芸術は、南イングランドの自然とともに、最晩年まで彼の霊感源であり続けた。
 実際、画家としてのウィリアム・ブレイクの作品の中で、後世に最も大きな影響力をもったのは、『牧歌』の挿絵だった。これは二重の意味で矛盾した展開のように見える。第一に、コンパスを手に宇宙空間に座す老人を描いた有名な《太古の日々》(『ヨーロッパ』扉絵、1794)に代表されるように、ブレイクは何よりも観念的主題を人体を通じて表現した画家であり、第二に、その彼が珍しく風景中心の『牧歌』の挿絵を制作したのは、自身の発意ではなく注文によるものだったからである。もちろん、注文にもいろいろあるわけだが、パーマー伝の中でこの注文に触れた批評家デイヴィッド・セシルは、'But beggars cannot be choosers, even if the beggar be Blake.'と述べ、困窮したブレイクがやむなくこの仕事を引き受けたとする(注2)。 美術史家のアンソニー・ブラントも、『牧歌』の挿絵がブレイクの他の作品とはほとんど共通点がなく、「それらそのもののために思い出されることはまずないであろうが、晩年のブレイクの周辺に集まっていた若き画家たちの小さなグループ…に深い影響を与えた。… 彼らの芸術は、ブレイク自身が非常に重要視していたとはほとんど考えられない、これらの詩的だが取るに足らない作品によって君臨されたのである」という(注3)。
 しかし、『ウェルギリウスの牧歌』に付けられたブレイクの挿絵は、それほど非ブレイク的なものだろうか。パーマーとその仲間たちが何よりもこの小さな版画の作者としてのブレイクに霊感を受けたというのは、ブレイクの芸術への誤解(実り多い誤解であっても)でしかないのだろうか。本稿では、まず、パーマーの生涯と芸術を簡単に紹介し、次いで、作品を幾つか取り上げて、これを鑑賞する。しかるのちに、ブレイクの美術作品のみならず、詩にも比較例を求め、後続の世代がブレイクの風景版画から最大の影響を受けたことの意味を考えたい。

I

 サミュエル・パーマー(Samuel Palmer, 1805-81)は、今日それほど知名度の高い画家ではない。その理由は、一つには、彼がほとんど油彩画を描かず、専ら小規模な水彩画や版画を制作したことにあるだろう。こうした分野は、たとえ美術館に収められていても展示される機会は少なく、注目を集めにくい。また、かなり長い生涯の最後まで活動を続けていたにもかかわらず、個性的な芸術家として輝いたのが20代のほんの数年間だと見なされることも、名声が喧伝されることのない理由と考えられる。しかも、その数年間の作品は、同時代の美術界で一般的評価を得るには斬新すぎ、個性的でありすぎた。彼は在世中もさほど有名な存在ではなく、むしろ20世紀半ばに再発見されたといったほうがいい。再発見者の一人である美術史家のケネス・クラークは、1974年執筆の自伝の中で、自分が1928年に入手したパーマーの水彩画《月と宵の明星のもとの麦畑》(1830年頃、大英博物館蔵)は、当時誰の関心も引かなかったのに、今では自分の蒐集の中で最も頻繁に複製される作品になった、と述べている(注4)。

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註1:
A.H. Palmer, The Life and Letters of Samuel Palmer Painter and Etcher (1892), p.16, quoted in Raymond Lister, Samuel Palmer: His Life and Art (Cambridge UP, 1987), p.25.

註2:
David Cecil, Visionary and Dreamer: Two poetic Painters: Samuel Palmer and Edward Burne-Jones (Princeton UP, 1969), p.38.

註3:
アンソニー・ブラント『ウィリアム・ブレイクの芸術』(岡崎康一訳、晶文社、1982)(Anthony Blunt, The Art of William Blake [Cambridge UP, 1959]), p.99.

註4:
Kenneth Clark, Another Part of the Wood: A Self Portrait (London: John Murray, 1974), pp. 194f.

図1パーマー《囲いを開いて》
1880年,エッチング,16.7×23.2cm
図2 ブレイク『ウェルギリウスの牧歌』
挿絵より,1821年,木口木版画