修了後のこと - 修了生座談会

修了生座談会 2010

司法試験合格者 座談会 2010

ハイレベルな教授陣による
親身な少人数教育に期待して入学

野坂
本日は、平成22年度新司法試験を見事突破した5人の修了生にお集まりいただきました。2年間(法学未修者コースの入学者は3年間)の法科大学院生活を振り返り、合格に至った要因をそれぞれに自己分析していただきたいのですが、まずは皆さんが法曹を志されたきっかけと、その学びの場として学習院大学法科大学院を選ばれた理由を教えてください。
川口
私は広告会社の法務部門に9年間勤務し、知的財産権の問題などを担当していました。退社して法科大学院で学ぼうと決意したのは、業務の中で弁護士に相談したり 、裁判所へ行ったりするうちに、自分も法律のプロになりたいと考えるようになったからです。
学習院の魅力は、何といっても先生方のレベルが高いこと。キャンパスに緑があふれ、静かに勉強に打ち込めそうな環境が整っていることもこの法科大学院を選ぶ決め手の1つとなりました。
早川
女性である私は、結婚や出産でブランクが生じても容易に復帰でき、一生続けられる仕事に就きたいと考えたことが出発点でした。高校時代は医師か法曹かで迷った時期もありましたが、実際の医師や法曹の仕事を垣間見るにつれて、法曹により強い魅力を感じるようになりました。
学習院を選んだのは、少人数制の教育環境で学びたかったからです。学部時代に読んだ論文の執筆者が学習院の先生だったり、法学部のゼミの先生との会話に学習院の先生の話題がよく出てきたりしたので、この法科大学院の先生方はきっと優秀なんだろうというイメージもありました。
江﨑
警察官の父、祖父、叔父を持つことから、自然と刑事関係の仕事に興味を抱くようになりました。「父親を超えたい」という気持ちから検察官を志して法学部に入ったのですが(笑)、経済系の授業を履修するうちに金融法務の分野に関心が湧き、弁護士として企業法務に携わるのもいいなと思うようになりました。
この法科大学院に入学したのは、学生一人ひとりに先生の目が行き届く少人数制授業に魅力を感じたからです。
萩原
学部時代には文学や芸術関連の授業に夢中になり、そちらの分野の大学院へ進むことを考えた時期もありました。しかし、せっかく法律を少しでも学んだのだからと考え直し、法曹となって社会のために働きたいという思いで法科大学院への進学を決めました。
未修者コースで法律を一から学び直したかった自分は、多人数の学生を相手にする講義ではなく、密度の濃い丁寧な指導を受けたかったので、少人数教育に定評のある学習院を選びました。
後藤
公益性の高い仕事に就きたくて国家1種試験を受け、官庁訪問をして様々な専門家と話したところ、自分の勉強不足や未熟さを痛感。もっと勉強をしたいと思う一方で、個別具体的な事件を一つひとつ解決していく法曹の仕事も公益性が高いと考え、新司法試験を目指すことにしました。
学習院に入学したのは、「少人数制」「基礎重視のカリキュラム」「一流の教授陣」という諸条件が揃い、法曹を養成するための理想的な教育が展開されていると感じたからです。
野坂
自画自賛になるかもしれませんが、皆さんがおっしゃるとおり、学習院には優れた業績を持つとともに、教えることに惜しみなく情熱をかたむける先生方が集まっています。少人数制教育については、ただ少ない数の学生を相手に教えるというのではなく、教員同士が絶えず情報交換をして学生の状況を把握し、一人ひとりに常にベストな指導ができるように努めています。皆さんがそうした特色をよく理解してこの法科大学院を選んでくださったことを、大変嬉しく思います。

法曹としての能力を
バランスよく育てる
オーソドックスなカリキュラム

野坂
この中で唯一未修者として入学した萩原さんは、法科大学院の授業を受けてまずどんな印象を受けましたか?
萩原
1年間で既修者と同じレベルまで基礎を固めなければならず、求められる勉強量が多いのに驚かされました。授業では、あらかじめ判例を一審から読み、重要な判例解説にも目を通しておかなければ答えられないような質問がなされます。ただ、そういう厳しさを期待して未修者コースに入ったのですから、私にとってはむしろ望むところでした。
野坂
皆さんの印象に特に強く残っているのはどんな授業ですか?
後藤
有意義な授業ばかりでしたが、少人数制の醍醐味を感じさせられたという点で、例えば阿部克則先生の「国際経済法」が挙げられます。履修者は私を含めて2名のみ。そのため、その日の講義で扱われたテーマに関連する社会問題、例えばエコカー減税とWTO法の関係など、国際経済や国際政治の分野にまで深く踏み込んで教えてもらうことができました。
江﨑
人に自分の考えを伝えることの難しさを痛感させられたという意味で「公法演習」。それから、刑事法系の授業で行った「模擬裁判」も思い出深いですね。私は裁判官役を務めましたが、検察官側と弁護人側の議論が白熱して。判決は有罪の方向に持っていったのですが、裁判官役同士でも意見が大きく割れました。
萩原
能見善久先生の「民法発展研究」です。議論主体の授業なのですが、ディスカッションをする過程で毎回まだ定説のないような問題点が次々と見つかるので、頭をフル回転させ続けなければなりませんでした。自分の考えをまとめるだけではなく、それを口頭でしっかり述べる訓練にもなりました。
早川
私が忘れられないのは、3年次後期の「民法事例研究」でテストを受けた時、「早川さんは民法の基本知識が足りない」とのコメントを受けたことです。新司法試験の直前に基本知識の不足を指摘されているようではどうにもならないのですが、あわてて教科書を一から読み直したところ、かなり基本的な部分が試験で出題されたので、あれには本当に助けられました。
川口
学習院は特に公法系が強く、憲法や行政法はすごくいい授業をしてもらったという思いがあります。「公法演習」で、一審から最高裁まで判決を読み、関係する論文にも目を通しておかなければなりません。さらに事前に与えられている課題への解答もつくるとなると、事前の準備に10時間以上の時間を費やさなければなりません。自分が司会役になる回には、より詳細に検討しました。それだけにすごく力がついたと思います。
野坂
「公法演習」では、憲法が専門の教員と行政法が専門の教員が一緒に教壇に立ち、憲法と行政法の両方に関わる問題を中心に取り上げて議論をします。皆さんが一度は目にしたことのあるような重要な判例を改めて徹底的に見直すことにより、問題のポイントを見極める力や、類似の事例を考える際に発揮できる応用力を養ってもらうことが狙いで、まさに「法律的なものの見方」を身につけるための授業だといえます。
後藤
「起案等指導」も非常に意味のある授業でした。入学直後、弁護士である荒木新五先生のクラスで契約書や訴状などの起案をしたのですが、毎回、答案が赤字だらけになって返ってきました。法律知識とその運用能力ばかりか、基本的な文章能力すら不十分であることを痛感しました。もっともそのおかげで、法科大学院の2年間で改善しなければならない課題を明確に認識することができました。
萩原
能見先生のクラスではいつも難問が出題され、調べても調べても答えに近づけずに苦労した覚えがあります。一方、長谷部由起子先生のクラスでは、問題はシンプルでも添削された文を書き直して再提出することを何度も繰り返しました。「起案等指導」によって、考える力と文章力が格段に向上したことを感じています。
江﨑
私はまず大橋洋一先生の指導を受け、最初の課題が100点満点で40点しか取れなかったのが、60点、80点と次第にアップして、着実に力がついていくのがわかりました。龍岡資晃先生のクラスでは、元裁判官に対してどれだけ自分の文章が通用するだろうかと、意図的に冒険的な文章を書くほどになっていました。
早川
文章の作成能力は実務家として不可欠なので、文を書く機会が豊富に与えられたことそれ自体に大きな意味がありました。
川口
「起案等指導」は先生と学生の距離が特に近く、ざっくばらんにどんなことでも質問できます。元検察官の先生に、強制捜査と任意捜査のどちらともつかない曖昧な領域について直接話を聞くという貴重なチャンスもありました。弁護士の渡部晃先生のクラスで取り上げられた問題は新司法試験の民法でほとんどそのまま出題されるという幸運もあり、私の場合は合格に直接つながる授業だったという気がします。
野坂
「起案等指導」は学習院ならではといえる特徴的な授業の1つです。各クラス5~7人程度の少人数編成で、各期ごとに教員の専門分野と研究者教員と実務家教員の別を考慮しながら担当教員を入れ替えるようにしているので、幅広いものの見方を身につけることが期待できます。
授業で取り上げられた問題が出題されたと川口さんがおっしゃいましたが、本番の試験を受けている時に授業で聞いた先生の声が蘇り、それに導かれるようにして答案が書けたという話をよく聞きます。授業は授業、試験対策は試験対策ととらえる人も稀にいますが、この法科大学院では授業に一生懸命取り組んだ人ほど合格しやすいという傾向が確実にあると思います。

授業そのものが何よりも
有効な新司法試験対策となる

野坂
法科大学院とは、法律家になるための基礎的能力を養うための場です。受験対策として予備校的な答案練習を繰り返すだけでは新司法試験には通用せず、授業を疎かにして合格はないと私たちは考えていますが、そのあたりについてみなさんはどのようにとらえていましたか?
萩原
新司法試験で問われるのは、論理的に考える力とそれを文章にする力です。テクニカルな試験対策は各自でできることなので、そこはあまり気にしませんでした。
後藤
私も同感です。試験で要求されるのは、まず事実を選別し、次にその法的意味を適切に評価し、そして、それを文章として的確に表現する能力です。それらは授業で行われる判例分析などを通して養われるものです。純粋な意味での受験対策は、各自で補うべきことだと思います。
江﨑
試験に合格するには、「法律知識」「文章力」「受験テクニック」の3つの要素が必要です。法律知識を満足に取得するには、予習を100パーセントの状態にして、授業を復習の場にするくらいの姿勢でいなければならないでしょう。文章力は、先ほども話題に出た「起案等指導」などで十分に鍛えられます。最後の受験テクニックについては、私の場合は仲間と自主ゼミを組み、過去問対策を徹底的にすることでカバーしました。
野坂
有志が集まっての自主ゼミは非常に盛んなようですね。
早川
本番の論述試験では手書きをしなければいけませんから、その訓練も兼ねて、決められた時間内に答案を書く練習を4~5名でしました。内容にまで踏み込むと法律論でたちまち2~3時間過ぎてしまうので、お互いの文章を読んで論旨の矛盾点を指摘する程度の批評をし合っていました。
川口
私はもともと理系だからか、ほかの人が考えないようなことをあえて考えたがる嫌いがあるのですが、法律というのはそうではなく、特に新司法試験では、まず多数の解釈を踏まえることが前提となります。自主ゼミでは、自分の書いた文章を「考え過ぎだ」と批判されることもあり、そのあたりのバランス感覚をつかむのにとても役立ちました。
野坂
在学中は遅くまで学校で勉強されている人が多かったと思いますが、自習室をはじめとする施設面の使い勝手はいかがでしたか?
早川
生活が朝型の私にとって、自習室が午前7時から開いているのはありがたかったです。ロッカールームには冷蔵庫や電子レンジまで備えられ、学校で長時間過ごすための環境が整っていました。
川口
自習室は夜11時までと長時間利用できますし、備え付けのパソコンからデータベースにアクセスできるので、文献を探すのにも苦労しなかったですね。
後藤
判例や論文雑誌のデータベースから、必要な資料を無料でプリントアウトできるのも便利でした。
江﨑
多くの法科大学院は有料だと聞きます。判例などをプリントアウトすると膨大な枚数になるので、それは本当にありがたかったです。
萩原
図書館の使い勝手も抜群でした。書庫は静かで集中して勉強ができ、蔵書も充実しています。必要な図書が貸し出し中の場合、追加購入を頼むとすぐに対応してもらえました。
野坂
2010年8月に中央研究棟がオープンして、学習環境はさらに快適になりました。法科大学院の主な機能が9~11階の3フロアに集約され、自習室と研究室が近くなったことで、学生と教員の距離もいっそう縮まったことを実感しています。

法曹としてのそれぞれの未来

野坂
皆さんはこれから司法修習を経て法律実務家となるわけですが、どのような法曹として活躍していきたいのか、展望をお聞かせください。
江﨑
自分が法曹を志した原点に立ち返ると、冤罪を防止しながら被害者の力にもなれる検察官になりたいという思いがある一方で、弁護士として予防法務のエキスパートになりたいという気持ちもあります。司法修習を受けながら、じっくり将来の道を見定めたいですね。
川口
私は知的財産権の分野に強い弁護士になりたいと考えています。広告会社の法務部門で著作権や肖像権、音楽ビジネスの権利関係などを扱っていたので、その経験を活かしてさらに専門性を高めたいです。また、私には会社に育ててもらったという思いがあるので、企業法務を手がけて経済活動をバックアップしたり、企業再生に携わってみたいとも考えています。
後藤
私も弁護士を志望しており、興味のある分野が3つあります。その1つは税務です。税は人の生活のあらゆる場面で生じるので、それを専門にできれば幅広く活躍できるのではないかと思っています。2つめは、高齢者に関わる分野。高齢化が進む日本では、成年後見の問題や高齢者をターゲットにした消費者問題、遺言相続の問題などが増加すると考えられるので、そういった高齢者が関わる問題を適切に解決できる法律家になりたいです。3つめは子どもに関する法分野です。虐待の問題などについては行政機関が関与する仕組みになっていますが、法律家が貢献的な観点から子供の保護に関わってもよいのではないかと私は考えており、そうした方向性への働きかけもしていきたいです。
早川
もともと弁護士を志望していましたが、裁判官にも関心があります。元裁判官の先生方に勧めていただいたということもあるのですが、私は性格的にのめり込むたちなので、例えば一般民事の離婚や虐待といった案件で被害者側の代理人になれば、依頼者と適切な距離を保ちつつ法律家として適切な行動ができるかどうかが不安なんです。それなら紛争に一定の距離を置ける裁判官としての方が向いているのではないか。最近はそんなふうに考えるようにもなりました。
萩原
近年、エンターテインメントローやアートローと呼ばれる分野のニーズが急増していますが、私は弁護士としてそのような著作権分野に携わることで、芸術文化の発展に寄与したいです。広範囲にわたる専門性が要求されるので難しい分野だとは思いますが、それだけにやりがいも大きいはずです。
野坂
それぞれにしっかりとした将来像を描いておられるようですね。ここにおられる皆さんはどの分野に進まれても、立派な仕事をしてくれるものと確信します。そもそも日本の法科大学院制度は、法曹人口が欧米と比較して少ないという観点から発足したものですが、現状では予想されたほど法曹は必要とされていないのではないかという見方もあり、制度改革が中途半端になっている印象が否めません。しかし、せっかく皆さんのように高い志を持った人材が法律家を目指しているのですから、このあたりでもう一度改革の原点に立ち返って、日本の社会がこういう意欲ある法曹を自然に受け入れるような形になってほしいと思います。
お忙しくなるでしょうが、今後はぜひ後輩の指導にも力を貸してください。これまでこの法科大学院の修了生の若手弁護士たちがチューターとして手伝ってくれていましたが、それをもう少し本格的に拡充する取り組みを進めています。修了生が団結して後輩の指導にあたっている法科大学院ほど成果があがっているようなので、皆さんにご協力いただければ、こんなに心強いことはありません。
本日はどうもありがとうございました。

MEMBERS

司会進行
野坂 泰司 教授

東京大学法学部卒。東京大学法学部助手、立教大学法学部教授を経て、1994年より学習院大学法学部教授。2004年より学習院大学法科大学院教授。新司法試験考査委員。
萩原 崇宏 2010年学習院大学法科大学院修了。東京大学法学部卒
江﨑 佳孝 2010年学習院大学法科大学院修了。一橋大学法学部卒
後藤 隆士 2010年学習院大学法科大学院修了。東京大学法学部卒
早川 咲耶 2010年学習院大学法科大学院修了。東京大学法学部卒
川口 和宏 2010年学習院大学法科大学院修了。気象大学校卒。東京大学大学院理学系研究科修士課程修了