修了後のこと - 修了生座談会

修了生座談会 2012

司法試験合格者 座談会 2012

弁護士として活躍する5人の本学修了生が大橋洋一教授のもとに集まり、
勉学に激しく励んだロースクールでの日々を振り返るとともに、
これから法曹を目指す後輩のためにメッセージを送ります。

法曹を目指した動機

大橋
本日は本学の法科大学院で学び、弁護士となられた5名の卒業生にお集まりいただきました。日々のお仕事の内容や、法律家となるための基礎を培った在学中の様子を振り返っていただきたいと思います。まずは、皆さんが法曹を志すに至った動機からお聞かせください。
鈴木
私の父も弁護士なのですが、父が、個人や企業の法律問題を扱うだけではなく、自治体をサポートする役を務めたり、法律に関する講演や講義をしたり、執筆活動をするなど、様々なかたちで社会と関わって活躍している姿を見て魅力を感じ、自分も弁護士になりたいと思うようになりました。息が長く活動できる点も、この職業に魅かれた理由の一つです。
梶並
もともと技術的に興味があり、大学では電気電子情報工学を専攻しました。技術の研究自体は面白いと感じていましたが、特許業務に関わる弁理士である父の影響もあって、法律的な観点から幅広い技術を守る仕事に魅力を感じ、法曹を志しました。その意味では弁理士でもよいのですが、訴訟も扱える弁護士の方がより幅広い仕事ができるのではないかと思い、法科大学院への進学を決めました。
物理学科を卒業した私は、電機メーカーに技術者として15年ほど勤務し、加速器や核融合装置などの開発設計を行っていました。そのような最先端の技術分野には知的財産権の問題が常につきまとい、メーカー在職中は実際に特許権を巡って他社から警告を受けるという経験をしました。そのときは話し合いで解決できたのですが、社会には技術に明るい法律家の存在も必要であることを痛感し、自分自身が弁護士となって、技術者だったそれまではとは違う形で科学技術の発展に貢献したいと思うようになりました。
今田
私の場合は、大学4年時に将来の進路を考えたとき、法科大学院制度が発足することを知って、「法科大学院の1期生になれる」ということに魅力を覚えたんです。それまでは法律とはまったく無縁でしたが、父が地方で小さな会社を経営してることもあり、法律家となってさまざまな技術を持つ中小企業の役に立てればいいなという思いも抱くようになり、弁護士になるつもりで法科大学院への入学を決めました。
加藤
私はテレビドラマで見た検察官の姿に感銘を受けて漠然と法律の世界に興味を持ったこと、また、高校の先生から「法学部出身者はツブシがきくぞ」と言われたことから、法学部に進学しました。そんな動機ではあったのですが、大学で勉強するうちに法律がおもしろくなり、本気で法曹となることを志すようになりました。

法曹としての活動状況

大橋
皆さんは現在、弁護士としてご活躍ですが、主にどのような案件を日々担当しておられるのか、仕事の内容や法律事務所の様子など、紹介して下さい。
今田
私の勤務先は法律事務所としては比較的大きく、120人ほどの弁護士がいます。新人の頃はコーポレートの分野で株主総会の指導などを中心に行いましたが、最近は紛争関係を多く担当。ありとあらゆる種類の紛争を扱いますが、全体の4割ほどは知的財産に関する訴訟です。弁護士となって5年目を迎え、そろそろ得意分野と胸を張っていえる分野を築かなければならないと考えています。
加藤
私の事務所には弁護士が4人おり、私はいわゆる「イソ弁」です。今は映像制作に関連する仕事が多く、日本と海外の放送関係者間の交渉を取り持ち、契約書のチェックをしています。英文の契約書を翻訳会社に翻訳させてから弁護士にチェックさせるのに比べると、私は翻訳と内容のチェックを同時に行うので、より安い費用でサービスを提供できる。そこにクライアントにとってのメリットがあると思っています。
梶並
私の勤務先には、35人の弁護士と20人の弁理士がいます。私の担当する案件の6?7割が知的財産権関係で、その中には理工学部時代に研究していた半導体や通信に関連する案件もあります。一般に一人前の弁護士になるには10年ほどかかると言われるので、3年目の私はまだまだ駆け出しですね。訴訟以外に、企業がライセンス契約を結ぶ際にさまざまなアドバイスをする機会も少なくありません。
大橋
お話を伺っていると、実務にもなじんだご様子ですね。向さんと鈴木さんは新人で、弁護士となって1年目が過ぎたところですね。
知的財産権の問題に携わりたかった私は、ご縁があって、その分野の有名な先生がいらっしゃる事務所に入りました。所属する弁護士は40人弱です。まだまだ弁護士としての勉強段階で、パートナーの先生につく形で、知的財産事件の他、民事や家事事件を広く担当しています。知的財産権の問題を扱うには弁理士資格があった方がよいというアドバイスもあり、現在そのための実務修習も受けています。
鈴木
私の勤務先には8人の弁護士が在籍しています。一年目は、債務整理やマンションの明渡請求遺産相続をめぐる問題、離婚など、主に一般の民事・家事事件を担当してきました。他には、顧問先企業の契約書のチェックや労働問題に関するアドバイス、公正証書作成のサポートなども行ってきました。この1年間は、弁護士という以前に、まず、社会人として仕事をするということに慣れるのに精一杯という感じでした。ようやく生活が落ち着いてきたので、これからは弁護士として専門分野を広げていくことを考えなければならないと考えているところです。

優秀な教授陣による
懇切な指導に期待して学習院へ

大橋
皆さんのお話からは、真摯に仕事と格闘している熱意が伝わってきました。少し話を戻しまして、学習院との接点についてお聞かせ下さい。皆さんはどういった理由で本学の法科大学院を選ばれたのでしょうか。
私は理系出身で、法律とはあまり縁のない仕事をしていたので、少人数の法科大学院でなければついていけないだろうという思いがありました。学習院の未修者クラスは学生数がわずか15人ですから、なんといっても先生方と向き合って勉強ができる学習環境が大きな魅力でした。
梶並
私も向さんとまったく同じで、法学未修者にとって、規模の大きな法科大学院ほどドロップアウトする可能性が高いと思いました。先生からどれだけ親密な指導が受けられるかが、法科大学院選びの最大の基準でしたね。
今田
私もゼロからのスタートでしたから、少人数制であることは絶対条件でした。少人数制を謳う学校はほかにもありますが、司法試験の勉強をしている知人から「教授の陣容が素晴らしい」と聞いたことや、キャンパスの緑の多さに魅かれたことが、学習院を選ぶ決め手となりました。
加藤
この法科大学院には、各分野を代表するような高名な先生が揃っています。その先生方から親身な指導を受けられる環境は、既修者にとっても魅力的なものでしたね。
鈴木
独学で旧司法試験を受験していた私は、択一式試験には通るものの、いつも論文式試験で不合格となっていたことから、論述・文章作成能力に問題があることを自覚するに至りました。そこで、一流の先生に、少人数制で丁寧な指導をしていただけるということを期待をして学習院を選びました。

法曹に必要な思考能力を養う
カリキュラムと学習環境

大橋
少人数教育が気に入っていただけたようですが、学生時代を振り返って、どんな科目が特に印象に残っていますか。
加藤
学生が5人ほどという文字通りの少人数制で行われた、神前禎先生の「国際私法」が忘れられません。あの授業を通して養われたセンスが法律家としての今の自分の基礎になっている気がしますし、国際的な契約交渉を扱うという現在の仕事にもつながっています。
今田
なんと言っても入学直後に受けた「民法」ですね。特に岡孝先生の指導の厳しさは格別で、「生半可な気持ちでは通用しないな」という意識改革をさせられました。未修者だったために余裕がなく、3年間の在学中は基本科目の勉強に追われていましたが、今振り返ると、例えば「国際私法」や「租税法」など、弁護士になってから「勉強しておけばよかったな」と思う科目がたくさんあります。
岡先生の「民法」では毎回突っ込んだ質問をされるので、ただ教科書を読んでいるだけではとても対応できません。その先まで調べておくことが法律の勉強なんだということを叩き込まれたおかげで、その後の授業で判例を一審からきちんと調べたりする作業が苦にならなくなりました。
大橋
民法は法律の考え方を学ぶ上で基本となりますから、私たち教員は、まずそこをしっかり押さえて欲しいと考えています。併せて、本学の法科大学院の未修者向け「民法」には、法律の勉強の仕方を一から指導するという側面もありますね。民法以外では、いかがですか。
梶並
私は「起案等指導」を通して、苦手だった文章作成能力を伸ばすことができました。物事を筋道立てて考え、なおかつそれを文章で表現するという訓練を徹底的に行ったことは、まさに弁護士である現在の自分のベースになっています。また、「起案等指導」は学期ごとに先生が交替するので、専門分野を異にするさまざまな先生から指導を受けられたことも有意義でした。
鈴木
私も文章作成能力に難があると感じていたので、少人数制のクラスで、学生の書いた法律文書をもとに先生が丁寧に指導してくださる「起案等指導」は本当に貴重な授業でした。そのおかげもあって、刑事の「模擬裁判」で検察官役を務めた時にまとめた論告が先生方から高い評価を受け、新司法試験に向けて自身を深めることができました。法科大学院で身につけた文章作成能力は、現在の実務においても不可欠なものです。
梶並
大橋先生から教わった「比較法」も印象深いです。日本とドイツの行政法を比較してレポートを書いたのですが、A4の用紙1枚に収めよという制約があり、簡潔にまとめるのに大変な苦労をしました。結果的に予想外の高得点を得ることができたのですが、自分の文章に迷いが生じたときなど、今でも当時書いたレポートを読み返すことがあります。
大橋
ずいぶんと、お気遣いいただきました。たしかに、文章は、目的意識をもたずに書いても力は伸ばせませんね。先生による赤字の添削が入ったり、自分より適切に問題点を検討している学生のレポートに触れたりするとすると、「こう書けばよいのか」と実感できるはずです。司法試験では知識量ではなく自分の考えをどう表現するかが問われますから、法科大学院の勉強では、そこを意識することが重要になります。
加藤
法曹には、相手に話して分かりやすく伝える能力も必要です。在学中は机の上で勉強するだけではなく、受けた授業の内容を巡って仲間たちと話し合うことも多かったですね。傍からは雑談しているようにしか見えなかったかもしれませんが、私にとっては貴重な勉強時間でした。
今田
私もそうしたディスカッションにはよく参加していました。自分の考えをうまく伝えられないことも多いのですが、それは自分自身がきちんと理解できていないからです。自分はどこが分かっていないのかを突き詰めて考えることから理解につながることもあり、結果的にそのような思考訓練が試験対策にもなったという気がします。
大橋
たしかに、議論は法律学の学習には不可欠ですね。とくに、自分の理解していることを他者に分かりやすく伝えるのは、法曹にとって本当に大切なことです。私は授業中に、「中学生やお年寄りにに伝えるつもりで難解な法律用語を用いずに説明しなさい」と求めることがよくあります。そうした姿勢は、弁護士となってクライアントと接する上でも必要でしょう。授業時間外に仲間たちと切磋琢磨できる環境が身近にあるのも、本学の特長の一つです。授業との大きな相乗効果が生まれるものと思います。
議論を通して先輩が後輩を指導してくれる面もあり、同級生同士の話し合いだけでは未熟な部分を先輩にカバーしてもらうことができました。
梶並
先輩からは勉強の仕方や時間の使い方なども学べますし、法科大学院には社会を経験された人もいらっしゃるので、私にはそのような方たちと接することそれ自体にも大きな意味がありました。
鈴木
私が授業を受ける上で特に心がけていたのは、学生がどのような回答をしたときに先生が頷くのかをよく観察することでした。例えば、「この判例はどんな理由で結論を導いたのか」といったような、文章にして回答しなければならない問いに対しては、ポイントを押さえて順序を整理し、簡潔に回答をしなければ先生は首を縦に振ってくださいません。また、他の学生が発言するときには、自分ならどう答えるかを常に頭の中で文章にして考えていました。このように、先生と学生との口頭でのやり取りを通じて得た理解を、法律文章における表現にも活かすように意識していました。試験対策としては、有志の自主ゼミを組んで、過去問を解いた上で議論するということをしました。議論をとおして、自分の考え方や表現方法が妥当なものか相互に確認することができました。
大橋
本学の法科大学院には確かに教育や実務の経験が豊富で熱心な先生が多く、少人数で学べる環境が整っています。しかし、それをしっかり活用できるかどうかは、結局のところ本人次第なんですね。皆さんのお話をうかがうと、法曹としての実力を決するのは与えられた学習環境を上手に使えるかどうかだということがよくわかります。

法科大学院での学びを
実りあるものにするために

大橋
一層具体的な助言として、これから法曹を目指す人たちに、有意義な法科大学院生活を送るためのアドバイスを送っていただけませんか。
今田
大橋先生のおっしゃるとおり、自分の置かれた環境をフル活用することですね。真剣に取り組みさえすれば試験に合格できるはずですし、法科大学院で身につけた考え方は、法曹となって仕事に就いてからも有用です。
加藤
試験に受かりたければ、とにかく先生を活用すること。合格した人ほど質問に行く回数も多いように思います。ただし、むやみに質問をすればよいというものではなく、まずは自分で徹底的に考えて、どうしても疑問を解消できない問題について先生に教えを請うというスタイルが求められます。それから、恥ずかしがって授業での発言をたます。それから、恥ずかしがって授業での発言をためらうといった姿勢ではだめですね。法科大学院でかく恥は何のマイナスにもならないので、授業にはとにかく積極的に臨まないと。
鈴木
授業はあくまでも法的なセンスや表現方法を磨くことに重点をおくべきで、純粋な意味での試験対策は本人の努力や自主ゼミなどで手当てされるべきです。つまりは、授業とそれ以外の時間でするべきことの違いを意識するということです。これから学ぶ人には、そうした違いを意識することをお勧めします。
梶並
法律知識はもちろん、理解力、分析力、文章表現力など、自分が今どの力を伸ばすために勉強しているのかを念頭に置くことが効率的な勉強につながります。授業こそがそれらの力を育てるために最も有益なのですが、司法試験の合格にはもちろん試験対策の部分も必要です。自身の弱点は自分にしかわからないので、弱い部分をどれだけ自覚できるかもポイントになるはずです。
予習・復習をきちんとして、授業に集中するという基本を守ってください。法的な考え方を鍛えるためには、判例をたくさん読むことも欠かせません。
大橋
最後に、弁護士という仕事全般について御意見を伺います。法曹人口の拡大による弁護士の就職難の問題や競争激化といった問題がクローズアップされていますが、皆さんは弁護士という職業のやりがいや将来性について、どうお感じになっていますか。
加藤
弁護士の仕事は、自分のスキルでどこまでやれるかが常に試されます。難しい案件も多いのですが、それだけにうまくいったときの喜びもまた大きいですね。厳しいといわれる環境で生き残るには、なんといっても自分の得意分野を持つことでしょう。理系出身者とか、プラスαのある人ほど強いのではないかと思います。
私もかつてはそうでしたが、技術者は技術と法律の関わり方を知りません。特に中小企業には自分たちの開発した技術を法律的に保護するという意識が薄く、知的財産権が侵されたり、逆に意図せず他者の権利を侵していたりといった問題が生じがちです。また、知識がないばかりに不利なライセンス契約を結ぶといったことも少なくありません。そのような企業にとって法律家はまだまだ遠い存在なので、技術開発の段階から弁護士がコンサルタントの役割を担えるようになれば、両者にとってメリットがあるのではないでしょうか。私も、将来はそのような分野にも力を発揮できればと考えています。
梶並
企業の経営層から助言を求められる機会が多く、弁護士資格に対する信頼感がいかに厚いかを実感させられます。社会の大先輩が私のような20代の若造の発言に真剣に耳を傾けてくれるというのは、ほかの職業ではまず考えられません。例えばアメリカの企業の法務部のスタッフはたいてい弁護士資格を持っていますが、日本でも今後は社内で弁護士が活躍する場が拡大するでしょう。そうしたことを考えると、弁護士の将来性についてはそう悲観視する必要はないと思います。
鈴木
弁護士不在だった地方都市に法律事務所ができるなど、司法制度改革に伴う法曹人口の増員によるプラス面は決して小さくありません。これまでは本当に困らなければ弁護士に相談せず、相談したときには手遅れというケースも多々ありましたが、これからは、そのようになる前に弁護士を予防的に活用できるよう、我々の方から積極的に提案することで弁護士のニーズは拡大できると思います。また、梶並さんが指摘されるように、最近は企業の法務部も弁護士の採用に積極的になっており、昨今言われる弁護士の就職難は将来的には解消の方向へ向かうのではないでしょうか。
今田
ひたすら契約書を見るなど、イメージとは違い実際の弁護士の仕事はかなり地味です。でも、こんなに直接人の役に立つことを実感できる仕事は、ちょっとほかにないのではないでしょうか。この職業は女性にとって有利という側面もあり、結婚後の出産などを経ても自分次第で復職することができます。最近は改善されつつあるとはいえ、一般の企業の女性社員を見ると、結婚や出産をした女性が長く働くのはまだまだ難しいのが現実です。定年がないという点も、弁護士の魅力の一つだと思います。
大橋
それぞれに問題意識を持って職務に励んでおられ、将来もしっかりと見据えているようですね。ここにおられる皆さんは、計画的・戦略的に法科大学院時代を過ごし、常に自ら課題を見つけて学んでこられました。その姿勢をこれからも貫いて、一層御活躍されることを楽しみにしております。これから学ぶ人たちにも、ぜひこの先輩方の姿を見習ってほしいと思いました。有益なアドバイスをたくさん頂き、本日は本当にありがとうございました。

MEMBERS

司会進行
大橋 洋一 教授

1959年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。九州大学大学院法学研究院教授を経て、2007年より学習院大学法科大学院教授。2012年度より同法務研究科長。日本公法学会、日独法学会所属。内閣府情報公開・個人情報保護審査会委員、司法試験・予備試験考査委員。
加藤 伸樹 京都大学法学部出身。2006年学習院大学法科大学院修了
今田 瞳 早稲田大学社会科学部出身。2007年学習院大学法科大学院修了
梶並 彰一郎 早稲田大学理工学部出身。2009年学習院大学法科大学院修了
向 多美子 お茶の水女子大学理学部出身。2009年学習院大学法科大学院修了
鈴木 伸治 東京大学法学部出身。2010年学習院大学法科大学院修了