Answer
どんな進路があるの?
どんな仕事をするの?
- 弁護士、検察官、 裁判官だけではありません。
-
企業法務、研究者、教育者、官公庁など
幅広い分野で活躍できる人材を輩出しています。
Answer
Columnコラム
それまで、事業会社で人事系コンサルタントや財務・経理担当として働いた後、不動産業務を営む会社を設立、経営してきました。このような社会人経験を通じて、会社を経営する上でも、取引先との契約を交わす上でも、時に権利主張の根拠として、或いは活動を制限する理由として、法律に触れてきました。そのような経緯で、私が経営する会社が軌道に乗り、時間に余裕が出たときから、法律を一から体系的に学んでみたいという気持ちになり、その思いが蓄積されていったのです。そうして、どうせ法律を学ぶならば形に残したいと考え、法曹資格取得に挑むべく、40歳代になったことを契機に2017年の本学入学に繋がるのです。ご存知の通り、司法試験に合格後、1年間の司法修習期間を経て、二回試験に合格すると、法曹資格を得ることができます。司法修習後の進路としては、ほとんどの方が弁護士を選択します(令和2年度司法修習生の進路状況;終了者1,458人の内、裁判官73人、検察官72人、弁護士1,136人、その他177人)。弁護士になった方の多くは、法律事務所に勤務することになると思います。そこでは、渉外案件や企業法務、労働事件、IT関連事件、知財関連事件、離婚等の家事事件、刑事事件といった様々な事件を幅広く扱う事務所もありますし、専門分野に特化している事務所もあります。弁護士になる方が自らの志向と諸条件を加味し、勤務先の事務所を選択することとなります。法律事務所でのアソシエイト弁護士にならない弁護士も少なくなく、司法修習終了後、すぐに独立開業する弁護士も一定数いますし、最近では、企業内弁護士(所謂「インハウス」)も増えています。また、行政サービスの多様化に伴い、自治体が弁護士を採用するケースも増えています。以上が、弁護士としての活動として法律事務に携わるための主な進路先ですが、弁護士資格の価値は、単に業として法律事務を取り扱えるだけではありません。その社会的信用性の高さも、弁護士資格の持つ価値のひとつだと思います。
ある日、刑事事件の弁護人をしたときに知り合った、ある簡易宿泊所のオーナーの方からご連絡をいただきました。その簡易宿泊所で、共同洗面所等を土足で利用するなど、問題行動ばかりを起こす利用者の方がいて、宿泊費を支払っていただけないので退去してもらいたいとの相談でした。退去請求の訴訟を提起することは簡単ですが、その前に一度ご本人にお会いしようということになりました。その方にお会いしてみると20代前半で瘦せ型、一見、優しそうな青年に見えました。心療内科に通院しており幻覚妄想等に悩まされているというお話で、長時間の労働ができず、お金がないという事情を抱えているとのことでした。生活保護を受給しているとのことだったので、区の生活保護課の担当者の方にも連絡をとり、お話をして、この青年のこれまでの生活史やご親族には連絡が取れないことなどをお聞きしました。この青年には同情できるところは多々あるものの、生活保護費で滞納している宿泊費は支払ってもらったとしても、問題行動もあって簡易宿泊所としてはやはり退去してもらいたいとのこと。そこで、退去を請求されているこの青年から受任した上で青年の母親の住民票を取得してみると転居先が判明し、直接ご自宅に行ってみました。一度目はお会いできなかったのですが、お手紙を郵便受けに投函して数日待っていると、ご連絡を頂戴し区の生活保護課の担当者の方ご同席の上、母親にお会いすることができました。この母親も様々なご事情を抱えていて、この青年を扶養することはできないものの、母親のご実家が同居に応じてくださるとのことでした。経済的なことを相談すべく、区の担当者の方にもご協力いただきながら、ご実家のある市の生活保護課の担当者の方とお話をすると、市からの生活保護を受けながら、母親のご実家で生活できることになりました。そうして、この青年に当初の簡易宿泊所から退去してもらうこととなったのです。
このケースは、関係者間の連絡の間に弁護士が介入することで、お相手の警戒を解くとともに、能動的なご協力を促すことで、関係者の善意のもと、結果的に、当初ご相談をいただいた簡易宿泊所のオーナーが望む結論を、青年の安定した生活を奪うことなく、得ることができましたというものでした。すなわち、簡易宿泊所や青年の母親やご実家、区や市の生活保護課、心療内科病院等、関係者間を弁護士が繋ぐ上で、弁護士資格の持つ高い社会的信用性が有用性を発揮した例だと思います。
弁護士の中には、契約書レビューサービス等のIT技術を開発提供する会社や弁護士費用保険商品を開発提供する会社を設立、経営されている方もいらっしゃいます。私も、不動産業務を引続き行っていますが、相手方の不動産会社との交渉の際にも、金融機関との折衝の際にも、私が弁護士であることを言えば多少なりとの取引に前のめりになっていただけるようです。実際、ある地方信用金庫の担当者の方のお話では、融資を審査する際に弁護士であるということは与信に大きくプラスに働くとのことでした。
この弁護士資格が持つ高い社会的信用性は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命」(弁護士法1条1項)とする職責を背景に、先人の先生方が誠実に職務を行ってこられたことの蓄積によって形成されたものだと思います。このような資格を持つことができれば、法律事務を取り扱う上ではもちろん、社会貢献活動を行う上でも、ビジネスを行う上でも、その可能性は大きく広がると思います。そして、今後は、弁護士資格を有する方々の活躍のフィールドは益々、多岐に亘っていくものと思います。既成概念に囚われないアイデアを持って社会にアプローチして自己実現を行っていく上で、弁護士資格は大きな武器になるものと思います。