おとなり! 授業拝見

第4回

国立釜慶大学校
石塚 健 先生


科目名  :現場実務日本語

学生数  :Aクラス:21名 Bクラス:12名 (2013年度)

使用教科書: ①松本節子・長友恵美子・佐久間良子(2008)
       『フィールドビジネス会話 実践会話編(필드 비즈니스 회화
       실전회화편)』時事日本語社(韓国)
       (松本節子・長友恵美子・佐久間良子(2007)『外国人のた
       めの「ビジネス敬語」から「会社訪問」までビジネス日本語
       Drills』ユニコム(日本))
       ② 主婦の友社著・唐沢明監修(2008)
       『すぐに使える日本語敬語(바로 꺼내 쓰는 일본어경어)』
       時事日本語社(韓国)
       (主婦の友社編・唐沢明監修(2007)『これで解決!おとなの
       敬語』主婦の友社(日本))
参考図書 : ③ 日本語倶楽部著(2001)
       『Business Japanese Expressions 109』時事日本語社

目標   :幅広いビジネス場面で日本語による適切なコミュニケーション
      ができる。
      § 幅広いビジネス場面(自己紹介、電話、アポ、クレーム、交渉
       など)で、適切な表現を使いこなすことができる。
      § ビジネス場面で必要な敬語を使いこなすことができる。
      § 日本のビジネスマナーや企業文化を理解することができる。
      § 韓国人が苦手とする発音を克服し、自然な発音で話すことがで
       きる。
      § 韓国人が間違いやすい文法を理解し、二度と間違えないように
       使いこなすことができる。


  石塚 健 (いしづか けん)先生 プロフィール


所属   :国立釜慶大学校(韓国) 人文社会科学大学 日語日文学部

略歴   :学習院大学大学院 人文科学研究科 日本語・日本文学専攻修
      了(文学修士)
      釜慶大学校 人文社会大学 日語日文学科 一般大学院 (文
      学博士)

業績   :1 雑誌論文
       「ピア・リーディングによる読解授業の問題点を探る-JFL環
       境で学ぶ韓国語母語話者の学習者を対象とした実践を通して
       -」『日語日文学』 大韓日語日文学会 (2010) 
                               他多数
      2 翻訳
       『ドラえもんのどこでも日本語』
       原作 藤子・F・不二雄/稲原教子・マッキャグ五藤ゆかり・
       當作靖彦・ヴァージル藤本典子/孫東周・検校裕朗・市島佑起
       子・石塚健訳 다락원 (2012)
      3 教材作成
       『高等学校日本語会話Ⅱ(고등학교일본어회화Ⅱ)』
       ソンドンジュ・クォンギス・キムヒジョン・カンチャギョン
       ・石塚健・市島佑起子 釜山広域市教育庁  (2010)

その他  :日本語教育グローバルネットワークプロジェクト「J-GAP( 
      Japanese Global Articulation Project)Korea」メンバー

大学での日本語授業での位置づけお知らせ

 釜慶大学校日語日文学部は「日本語文学専攻」と「日本学専攻」の2つに分かれています。「現場実務日本語」は、A・Bの2クラスあり、Aクラスは日本語文学専攻の学生が、Bクラスは日本学専攻の学生が受講することになっています。この授業は4年生対象の授業で、日本語ネイティブ教師が担当する授業の中では最もレベルの高い内容となっています。この授業は選択科目で、2013年度2学期から新設された科目で今回が初めてです。1週間に1回、50分×2の連続2時間授業で期末試験も含め全15週です。

コース全体の流れ

 15回の授業は、「ビジネス会話」と「敬語」の二本柱を軸とし、「ビジネス会話」と「敬語」を交互に行っています。それぞれ、下記のテキストを使用しています。

ビジネス会話:松本節子他(2008)『フィールドビジネス会話 実践会話編
       (필드 비즈니스 회화 실전회화편)』時事日本語社(韓国)
敬語:主婦の友社編著・唐沢明監修(2008)『すぐに使える日本語敬語(바로 꺼내
   쓰는 일본어경어)』 時事日本語社(韓国)

 どちらも、テキストにそった導入問題と応用練習用教材を作成し、テキストと併用しています。
 その他に、「韓国人の間違いやすい日本語クイズ」(自作教材)や「発音練習」(韓国人が苦手とする発音(「長音」「促音」「ざ行」「つ」「アクセント」など)を自然に発音できるように発音ゲームや早口言葉などを通して楽しみながら練習)も行っています。


15回のシラバス

 

テキスト+自作教材

自作教材

1

オリエンテーション(授業内容の説明)

2

1 あいさつ
自己紹介をする/他の人を紹介する

韓国人の間違いやすい
     日本語クイズ

3

敬語ミッション1※
謝罪するときの表現

日本人の名字について
ビジネスマナー
「名刺交換」

4

1 あいさつ
午後出社したとき/席を離れるとき/外出するとき

韓国人の間違いやすい
     日本語クイズ

5

敬語ミッション2
・早退/欠勤の際の連絡
・動詞の敬語表現一覧表

ビジネスマナー「席次」

6

2 訪問
受付で/取り引き先の応接室で/
名刺交換/雑談

韓国人の間違いやすい
     日本語クイズ

7

中間試験

8

敬語ミッション3
・他者を訪問するときの流れ
・その場ですぐに返答できない
 ときの対処法

・会議でよく使われる表現
・催促する

働いてみたい会社
      ランキング

9

2 訪問
本題に入る/会談の終了/
帰りの挨拶/手土産

1 あいさつ
早退願い/休暇願い/休暇後

韓国人の間違いやすい
     日本語クイズ

10

敬語ミッション4
・接客の〔あ・い・う・え・お〕
お願いする
お客様のクレームに対応する
・お客様にお伺いする

韓国人の間違いやすい
  日本語クイズ会話版

11

3 電話
電話の受け方/取り次ぎ/伝言

韓国人の間違いやすい
  日本語クイズ
会話版

12

敬語ミッション5
・ビジネス場面で使える
       クッションワード
・感謝の言葉を言われた時
・季節の敬語

韓国人の間違いやすい
     日本語クイズ

13

3 電話
電話中の場合/席にいない場合
電話をかけなおす場合
家族からの電話/外出先からの電話
留守電が入っていた場合
電車やバスの中で電話がかかってきた場合

韓国人の間違いやすい
     日本語クイズ

14

敬語ミッション6
呼称の敬語表現
・合コンや会食で使える表現

韓国人の間違いやすい
     日本語クイズ

15

期末試験


※「敬語ミッション!」
「敬語ミッション!」とは、松本節子他(2008)『フィールドビジネス会話 実践会話編(필드 비즈니스 회화 실전회화편)』時事日本語社(韓国)から作成したビジネスの現場で役に立つ敬語の問題を、学生がグループワークを通して、自ら答えを導き出す活動である。
※クッションワード
「クッションワード」とは、何かを頼む時や断る時など、言いにくいことを言う場面で、相手への気遣いを表し、丁寧でやわらかい印象を与えるために使う表現である。



1回の授業の流れ

【ビジネス会話の日】
(1)ウォーミングアップ(10分)
 ビジネス関係のディスカッション(例えばビジネスに関連したランキングのベ
 スト3をグループで予想するなどのタスクを出してグループで話し合う。日本
 事情、時事会話の学習として )

(2)今日の授業の目標を説明

(3)導入(20分)
 その日に学習する範囲のクイズ(プリント)→ 解答をペアワークで話し合う
 → 解答と質問

 例:
  松本節子他(2008)『フィールドビジネス会話 実践会話編(필드 비즈니스
  회화 실전회화편)』時事日本語社(韓国)p.42より 
  ※答えの選択肢には、韓国人が間違いやすいような選択肢を追加する等の変
   更を加えている。
  ※ふりがなは、HP上では省略した。

 1)(場面:休みを取る)
   テリー:あの、忙しいときに申し訳ございませんが、実は来月妹の結
       婚式がありまして…。__________。
   部長:結婚式ですか。それは、おめでとう。いいでしょう
   テリー:はい、申し訳ございません。

   A 休ませていただきます。 
   B できましたら、休ませていただきたいのですが、よろしいでしょ
     うか。
   C 休ませていただきたいのですが、よろしいでしょうか。
   D できましたら、休みを取りたいのですが。

(4)リーディング (10分)
 教科書の会話を標準的なスピードで、ペアで何度も声に出して練習→発表(数
 名)→アクセントやイントネーションを中心にチェック

(5)ロールプレイ (20分) 
 ロールプレイカードを見て、学生は話し合いながら会話を作成する
 →ペアで練 習→発表(2、3組のペア)→ 内容&発音のチェック

(6)今日の重要表現の確認 (5分)

(7)「韓国人が間違いやすい日本語クイズ」(25分) 
 ペアで話し合いながら問題を解く→解答の配布・解説

(8)発音練習(10分)
 早口言葉などを介して韓国人が苦手な発音を声に出して練習する

【敬語の日】

(1)導入 「敬語ミッション!」(30分) 
 「敬語ミッション!」とは、松本節子他(2008)『フィールドビジネス会話 
 実践会話編(필드 비즈니스 회화 실전회화편)』時事日本語社(韓国)から作
 成したビジネスの現場で役に立つ敬語の問題を、学生がグループワークを通し
 て、自ら答えを導き出す活動である。

 〈流れ〉
  ペア、またはグループで問題を解く→ グループで出した解答を発表&共有
  → 解答(教師がテキストの解答のあるページを示し、学生は自分たちで答
  えを見つけて気づくことができるようにする)→教師による解説

  問題例:
 『フィールドビジネス会話 実践会話編(필드 비즈니스 회화 실전회화편)』
  pp.52-53より

 Ⅰ 他社を訪問する(解答時間:5分)
  Q:次の①~④は他社を訪問する時の流れです。Nの日本語は敬語やビ
    ジネスマナーの点から考えると、少し不十分です。では、どのよう
    な点が不十分なのでしょうか?理由を考えてください。

   ①(訪問前に電話で)相手の都合を確認する
   N:【1】「☆☆ショップの桃井です。本日おうかがいしたいのです
        が…」

   ②訪問する(15時の約束で会いに来た/受付で)
   N:【2】「加藤様に会いにまいりました。すみませんが、取り次い
        でいただけますか」

   ③案内された場所で待つ
   A:(相手先の社員の人に案内されて)「こちらへどうぞ」
   N:【3】「はい」
         ↓
   A:   「加藤は今電話中なので、こちらで少しお待ちいただけま
        すか?」
   N:【4】「わかりました。お待ちします」

   ④飲み物をいただく
   A:「コーヒーと緑茶、どちらがよろしいでしょうか?」
   N:【5】「コーヒーでいいです」
      ↓(飲み物が出される)
   N:【6】「いただきます」

(2)ダイアログのリーディング練習 (15分)

(3)敬語の応用練習(ロールプレイなど)(20分)

(4) 韓国人が間違いやすい日本語クイズor発音練習(30分)

(5) 今日の学習のまとめ(5分)


クラスの特徴

 学生のニーズとしてビジネス表現だけではなく、敬語をしっかりと勉強したいという要望が多いため、あえて敬語を中心に勉強する日も設けました。ビジネス会話を学習する際には、どうしても敬語の学習は避けて通れないため、結局は教えなければならないのですが、中途半端に敬語を小出しにするよりは、敬語に重点をおく日を決めて、じっくりやることにしました。
 日本での滞在経験が豊富で学習歴も長く、日本語を話すことに自信のある学生でも敬語になると頭を抱えるようで、難しいと嘆いています。しかし、その反面、やりがいはあるらしく、役に立ったと言ってくれる学生も少なくありません。
 大学生の場合は、社会での仕事の経験がほとんどないために、日本社会の常識やビジネスマナーなどもある程度時間をかけて教えられるように心がけています。しかし、中間試験や期末試験もしなければならないため、どうしても教科書の学習項目の中で割愛しなければならないものも出てきてしまいます。
 私が特に力を入れている点というか、気をつけている点は学生自身に気づいてもらうことです。内容が難しいので講義形式で一方的に話してしまうと、学生の動機付けが低下してしまうため、ペアやグループを活用し、メンバーと話し合いながら試行錯誤を繰り返して問題を解いてもらいます。そして、その後、教科書で確認し、「なるほど、こういう言い方があったのか!」と気づいてもらえるような授業になるように工夫しています。自分で発見した答えはなかなか忘れませんし、そのことで充実感を得られると思うからです。

社会人向けクラス 
BJA(Busan Japan Academy)

 大学以外にも、BJA(Busan Japan Academy)で、韓日文化交流協会が主催する一般の社会人向けのビジネス日本語会話の講座も担当しています。BJAには、このビジネス会話以外にも翻訳や時事会話の講座もあります。ビジネス日本語会話は、上級者向けの講座で、JLPTのN1以上のレベルの学習者を主に受講対象としています。この講座は1週間に2回、1コマ100分、全30回です。
 内容は、大学での授業の内容の他に、特別講義として日韓文化交流会が招待したゲストの講演や、「サラリーマン川柳から日本事情を理解する」といった授業も行っています。
 こちらは大学とは違って、受講者のほとんどが社会人で、中には日系の企業で働いている人もいます。そのため、レベルも非常に高く、意欲も高いです。役に立つビジネス表現や敬語の中でも、かなり難易度の高い日本語であっても理解が早いです。しかし、あまりに難しすぎるとモチベーションが下がってしまうので、その辺の兼ね合いが難しいです。BJAでも協働学習の理念を取り入れて、ペアやグループでの活動を活用し、話し合いながら問題を解決するというやり方で進めていますが、非常に活発なディスカッションになりますし、練習への取り組みも意欲的です。
 これは大学とも共通するのですが、1学期間だけの時間だけではビジネス会話、敬語、ビジネスマナー、ビジネスメールなど全てを学習することは現実的に不可能です。しかし、どれも学習者のニーズは高いため、1学期という限られた時間の中で何を学習項目として取り上げればいいのか常に頭を悩ませます
 教師として常に心がけていることは学生の皆さんに「達成感」「満足感」「伸長感」を感じてもらえるように授業デザインをすることです。そして、最終的にはそれら3つの先にある「充実感」を得てもらうため日々、目の前の1つ1つの授業に全力を尽くしています。




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