おとなり! 授業拝見

第5回

香港中文大学
上田 早苗 先生


科目名   :上級ビジネス作文
       (Advanced Japanese Writing for Profession)

学生数  :10名 (2013-2014年度)

使用教科書:自作ハンドアウト
推薦参考書:奥村真希・安河内貴子(2007)
      「仕事で使う!日本語ビジネス文書マニュアル」アスク

履修条件 :1年間の日本への交換留学経験があること。留学経験がない場合
      は、日本語能力試験N2レベル合格以上。

目標   :香港の日系企業、日本と取引のある企業で働く際に必要なライ
      ティング・スキルを身につける。日本語のビジネスメール、エ
      ントリーシート、商品説明、企画書の書き方やパワーポイント
      の作成の仕方を学ぶ。


上田 早苗 先生 プロフィール

所属   :香港中文大学 日本研究学科

略歴   :大阪大学大学院文学研究科 修士課程修了(文学修士)
      国際交流基金海外派遣専門家としてマラヤ大学(マレーシア)
      香港中文大学に、交流協会日本語普及専門家として交流協会高
      雄事務所(台湾)に赴任。
      2005年より香港中文大学専任講師

業績   
既刊論文 :"ウェブを活用した香港の日本語学習者と日本の日本語教育実習
      生の協働学習―「雑談」の効果―"
      日本学刊 vol.16, 香港日本語教育研究會, 2013(共著)
      "SNSを活用した日本語教育実習生と日本語学習者の協働学習―
      SNS上での交流を活発にする要因とは―"
       教育システム情報学会誌 vol.28 no.1, 教育システム情報学会,
      2011(共著)

教科書 :『みんなの日本語 香港版 教科書1』 向日葵出版社, 2007(共著)
     『みんなの日本語 香港版 教科書2』向日葵出版社, 2009(共著)
     『香港少青日語1 入門』 向日葵出版社, 2010(共著)

香港の日系企業に就職を希望する4年生のための
ビジネス・ライティングの授業
お知らせ


 本学科の専攻生は全員、3年次に1年間、日本の交流協定校に留学することになっています。本コースは、留学から戻ってきた4年生向けの上級日本語コースの選択科目の1つです。ビジネス日本語を総合的に学ぶ「上級ビジネス日本語」とは別に、特にビジネス・ライティングのスキルを高めるためのコースとして2008-2009年度から開講しています。本学科の卒業生の多くは、香港にある日系企業や日本と取引のある企業に就職します。就職してすぐ取引先とメールでやりとりができる「即戦力」になることを目指します。

開講時期、時間数など


・開講時期:毎年第2学期(1月〜4月)
・週3コマ(1コマ45分)×14週間
・週2回(月曜日2コマ+水曜日1コマ)

14週間のスケジュール(2013-2014年度)

 この授業では、ビジネス文書のライティングと、ライティングで学んだことを応用したプレゼンテーションを行います。

授業の内容

宿題など

1

コース説明
ビジネス文書の基本
電話のメモ

 

2

通知
(メールアドレス変更、
着荷)
お礼

 

3

見積もり
注文

宿題1出題
(資料提供のお礼のメール)

4

申し出を受ける
申し出を断る
初めての相手に送るメール

→ 宿題1提出

5

新規取引の申し込み

 

6

企画書
発表用パワーポイントの作成
(第12回で新商品の企画案について、社内の会議でプレゼンテーションをする)

宿題2出題
(取引先訪問のアポイントメントを取るメール)

7

代金の請求
案内状

→ 宿題2提出

8

会食後のフォロー
交渉

 

9

クレーム
クレームへの対応
お詫び

宿題3出題
(注文品誤送送のお詫びのメール)

10

エントリーシート
履歴書

→ 宿題3提出
発表のための個人相談

11

中国語の商品説明を日本語に訳す

 

12

発表
新商品の企画案について、社内の会議でプレゼンテーションをする

 

13

社交儀礼文書
稟議書
出張報告

宿題4出題
(発表時に企画した新商品の説明文)

14

期末テスト1
期末テストの返却と解説

→ 宿題4提出


※1期末テスト:範囲は授業で扱ったメール文。a.語彙の読み方を書く、b.メール文の穴埋め、c.状況を与えられてメール文全文を書く、という形式で出題。

1週間の授業の流れの例―「見積もり・注文」

(45分×2コマ)

授業内容

時間

例など

ウォームアップ

10

・敬語の復習
話す時には何と言うか考えてみる。書く時にも使えそうな表現を紹介する。
例)取引先に請求書を送ってほしいと頼むとき、何と言ったらいいですか。

メールでよく使う表現を
紹介

15

例)「依頼」のバリエーション
〜ください。
〜いただけないでしょうか。
〜いただきたくお願い申し上げます。
〜いただければ幸いです。

文例1を読む

5

・「見積もり依頼」のメールを読む。

文例2を読む

5

・「注文」のメールを読む。

練習1

10

・「追加注文」のメールを書く。

練習1解説

10

・ヴィジュアライザーを用い、皆の前で1人の学生が書いたメールを添削。

・解答例を読む。

練習2

10

・「受注確認」のメールを書く。

練習2解説

10

・ヴィジュアライザーを用い、皆の前で
1人の学生が書いたメールを添削。

・解答例を読む

練習3

15

・「注文の変更」のメールを書き、提出。


(45分×1コマ)

ウォームアップ

 

15

・読み手にとってわかりにくいメールの例を読み、問題点を話し合う。
例)不要な情報を多く含んだ簡潔でない
  メールを読み、改善点を話し合う。
  改善例を読む。

練習3解説

15

・前回提出させた「注文の変更」のメールを添削したものを返却し、注意点を解説
・解答例を読む。

練習4

15

・「注文の取り消し」のメールを書き、
 提出。


授業の特徴

◆文例を「読む」ことに時間をかける
 本コースでは、「書く」練習を行うと同時に、文例を「読む」ことにも時間をかけています。1つのトピックに対して、文例を読み、関連のシチュエーションで文書を作成し、添削を受け、解答例を読むという作業を繰り返します。文例、解答例から使えそうなものはどんどん練習で使うように指導しています。同じことを述べるためにいくつかバリエーションがあることに気づき、最終的には自分でも使えるようになるように練習を行います。

◆日本語で商品の説明ができるようになる
 香港の日系企業では、日本語ができるスタッフはメールで取引先に新商品の紹介をしたり、中国語で書かれた商品の説明を日本語に訳したりすることを依頼されることがあるそうです。そこで、本コースでは、実際にインターネットや情報誌などで、日本語ではどのように商品の説明がなされているかを読み、架空の新商品の紹介メールを書いたり、企画書やプレゼンテーション用のパワーポイントを作成したりする活動を行っています。

◆香港と日本の習慣の違いを考える
 香港と日本ではやはり習慣の違いがあると感じます。例えば、自分の個人的な経験では、学生からの依頼で推薦状を書いた場合、推薦状を渡す際にはもちろんお礼の言葉がありますが、後日、結果を報告されたり、改めてお礼を言われたりすることはほとんどありません。また、親しくなると、メールでは最初の挨拶を省略し、いきなり本題から始めることも多いです。その他に、大学内では、特にメールではなく配達で書類を送り合う際、書類を見れば用件がわかる時にはわざわざメッセージを付けないこともあります。
 しかし、「日本ではあるはずのものがない」ことが日本人に失礼だと受け取られる可能性があることに、学生たちが自ら気づくことは難しいと思います。ですから、メールの書き方を教える際には、日本人は、お世話になった時、その場だけではなく後日改めてお礼を言うことや、書類を送る時には一言メッセージを付けるということを含めて話すようにしています。
 ただ、私自身も見落としている点があるかもしれませんし、香港在住の日本人と日本在住の日本人では、受け取り方が異なると思われますので、一概に言えないこともあります。このような習慣の問題については、どのような点についてどこまで指導するべきか難しいと感じています。

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