貴重書コレクション
伊勢物語
【 翻 刻 】
翻刻本文 (PDFファイル)
【 解 題 】本書の底本は、学習院大学所蔵の伝定家筆本「伊勢物語」で、三条西家旧蔵の証本である。墨塗り箱入り。縦十六・三三センチ、横十六・一七センチの胡蝶装冊子。料紙は薄様の鳥の子。張数九十二葉のうち墨付は九十葉。その策一葉と第九十二葉が表紙で、表面中央に「伊勢物語」と墨書。本文は第二葉裏の頭初から第八十五葉裏の六行まで。
一面の行数はほぼ九行前後で、所々に朱書で声点(単語五十数か所)や武田本との校合(十八か所)を書き入れ、墨筆で勘物や異本の本文(四十八か所)を 注する。第八十六葉裏から第八十九葉裏にかけて、主要な登場人物の略歴および釈義を載せ、第九十葉裏には定家の付した天福本の奥書きを、第九十一葉の裏には武田本の奥書き (本書書写の後、明応七年<一四九八>六月、三条西実隆<一四五五~一五三七>の転載)を載せる。「戸部尚書」の下の定家の花押は、一度原本を模写し、さらに原本から影写したと思われる小紙片を、その上に貼付したものである。
なお、この影印は、表紙の見返しから第一葉表にかけて貼付されてあった実隆自筆の紙片。後花園院(一四一九~一四七〇)の御秘本であった定家自筆本を、三条西実連(一四四二~一四五八)に下賜され、実連没後は、旧好によって宮道親元(一四三三~一四八八)に遣わし、親元没後は、実連の弟前内大臣実隆に返還された旨の、伝来事情を記したもの。
本書が定家自筆本と伝えられたのは、主にこの記事によるが、底本の書写は鎌倉期を遡りえず、筆跡も定家自筆とは認めがたい。松尾聡博士は、返送された定家自筆本を他に譲るさい、新たに作らしめた臨写本に、先の貼紙だけはがしとって移貼したものと見られた。この臨写本が、本書の底本である。しかし、これがたとえ定家自筆本でないにせよ、その面影を忠実に留め、
天福本としてはほとんど完璧に近いところから、同系統本のうちもっとも信憑しうる証本の一つと認定されている。
【 典 拠 】
伊勢物語 小林茂美校注, 東京:新典社, 1975年刊, 影印校注古典叢書6 抜粋



