学習院大学 法学部 | 法学科|政治学科

法学科Department of Law

講義レポート

特殊講義(倒産法)林 圭介 教授

 倒産法は、債務者の財産が債権者に返済するのに不足を生じたときに、返済するための財産を確保する方法、確保された財産を債権者に分配するための方法を定めたものです。この特殊講義では、倒産手続の基本をしっかり理解するとともに、「倒産」という言葉のイメージとは異なり、倒産法が債務者の将来の再生に向けての手続であることの理解も深め、このことを自分の言葉で説明できるようになることを目指します。

倒産法は「未来を切り拓く法律」

 倒産法は「未来を切り拓く法律」です。未来に向けて新たな第一歩を踏み出すための法律です。「倒産」というとイメージが良くないです。このことは否定できません。しかし、このイメージを取り払って欲しいです。明るい未来を創り出すための法律。これが「倒産法」です。このようにイメージして欲しい。そう思いながら授業をしています。

倒産に至る理由はさまざま

 倒産に至る理由にはいろいろあります。ギャンブルに狂って生活が破綻してしまった。確かにこのような事例もあります。しかし、善意で友人の保証人になり友人の経営が破綻したため、保証人の自分も全財産を失った。このような不幸な事例もあります。また、現在は若い人に起業、つまり自分で事業を始めることを奨励する風潮もあります。これは社会全体の活性化や創造性豊かな社会を実現するために必要なことです。
 しかし、どんなにしっかりと経営をしても、いろいろな事情で事業に失敗することはあります。取引の相手方が突然行方不明になり取引代金を回収できなくなる。自分の責任ではない。このような事情で事業に失敗することもあります。

再出発を保証する法制度としての「倒産法」

 このように「倒産」するに至る理由はさまざまです。一度失敗したら立ち直れない社会であったらどうなりますか。新たなことにチャレンジする気になりませんよね。再出発するチャンスが保証されている。だから思い切ったこともできます。失敗したら終わり。このような萎縮した考えではユニークで斬新な発想も出てきません。もし何かがあったときは、次に向けて再出発しよう。このように思えれば萎縮しません。思い切ってチャレンジしようという気になります。若い人に未来に向けてチャレンジする機会を与える。このような社会であることが理想です。「倒産法」は法制度として社会のこのあり方を支えています。

極秘で行われる事業再生の申立て

 倒産法には事業再生という領域があります。破綻状況に陥った事業を再生させる。このような分野です。私は学習院の教授に就任する前、裁判官として、約36年間、民事事件を担当していました。その中で事業再生事件を担当する期間が比較的長くありました。会社更生事件や民事再生事件などです。テレビなどでこのような名前を聞いたことがあると思います。
 破綻状況にある会社には予想し得ない事態が次々と起こります。このような事件が裁判所に持ち込まれるときは極秘に行われます。事前に社会に知れ渡ると混乱が起きます。破綻状況にある会社に貸金などがある債権者は慌てて会社に乗り込んできたりもします。会社にある財産などが勝手に運び出されます。そのため、手続を申し立てる弁護士事務所や裁判所の中では対象企業の「〇〇会社」という名称は決して使いません。事件担当者以外には知られないように暗号を使います。「〇〇会社」という名称が弁護士事務所や裁判所内で話されているとこの情報が洩れる可能性があるからです。もし情報が漏れると「あの会社は弁護士事務所に依頼して裁判所に手続申立ての準備をしている」と認識されてしまいます。この情報が広まると大きな混乱が生じます。それを避けるためです。

事業再生は救命救急医療

 破綻状況にある企業では予期しないことがいろいろと起こります。ある意味、瀕死の患者が運び込まれた救命救急医療と同じです。「今はあの薬とあの器具がないから取り寄せてから処置をしよう。それまで待とう」は救命救急医療では通用しません。通常の場合に「最善を尽くす処置」であるならこれで良いでしょう。しかし、瀕死の患者にこの対応をすると患者は死亡してしまいます。「最善を尽くそう」とすると死亡という「最悪の結果」が生じます。「緊急時」には「次善の処置」や「三善の処置」をする必要があります。その状況に応じた臨機応変な対応が求められます。
 そのために手続に関与する人々があらゆる知識を総動員します。裁判官、弁護士、公認会計士などが現場にいる人々とともに一体感をもって昼夜を問わず対処します。緊迫した危機的状況を乗り越えるのが事業再生の現場です。これが「未来を切り拓く」ために必要なことです。倒産法はこのような案件も対象とします。

「手続法」と「実体法」の両方を含む「倒産法」

 「通常の場合」に適用される「実体法」が民法や商法などです。倒産法は「手続法」に分類されます。それなのに、倒産法には「緊急時」に適用される「実体法」も規定されています。これを「倒産実体法」といいます。倒産法を学ぶことは、「手続法」のみでなく「実体法」を学ぶことにもなります。「倒産法」はこのように大変奥が深く興味が尽きない法律です。

この講義を履修している先輩の声

 林先生の授業紹介文に書かれていた、「倒産法は明日に向けた未来に踏み出すための手続である」ということが、これまで抱いていた「倒産」のマイナスイメージと全く違うことから、倒産法に関心を持ちました。また、林先生が裁判官として事業再生に携わっていたときの「救命救急医療」に例えられる緊迫した経験談も聞いてみたいと思い、受講を希望しました。
 倒産手続において破産管財人の判断や行動のひとつひとつが債務者(破産者)や債権者にとっていかに重要なものであるかを、毎回の講義での先生の実体験に基づくお話や、学生同士での議論を通じて、強く感じています。
 来年、学習院大学の法科大学院に進学して、将来は弁護士になりたいと考えています。依頼者の明るい未来を創り出すことに一緒になって協力できるような頼もしい弁護士になりたいと思っています。

この講義のオススメはここ!

 講義と言っても対話型で進められるので、先生と一緒になって考えながら倒産法が具体的に機能する実情が理解でき、疑問点も先生に質問すれば丁寧に教えてもらうことができます。また、先生は実務経験が豊富なので、その経験談を聞きながら緊迫感をもって授業に臨めます。

先生に一言!

 いつも倒産手続について実体験を交えながら分かりやすく教えてくださり、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

法学科4年(取材当時)
氏家 雅Miyabi Ujiie