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政治学科Department of Political Studies

ゼミレポート

〈ゲストスピーカーの Dr. Rupakiyoti Borah( National University of Singapore )とともに〉

国際政治演習村主 道美 教授

 この授業では、年によりテーマは少しずつ異なりますが、2017年度は、シリア難民が巨大な問題として世界に影響している過去数年の状況から、難民、移住など「人口の移動」という角度から国際政治を考えました。シリア難民、アフガニスタン難民、脱北、ロヒンギャ、中国人の人口移動(国際、国内)といった現代の問題、そして英国植民地、フランス植民地における人口移動、インドの分離独立、満州国、大陸に戦後取り残された日本人、インドシナ難民などについて、教科書、参考書の読書を行ったり、研究発表を行ったりしています。

消える火

 30名ほど入れる教室に、集まったのは、例年より少ない6,7人の履修者で、聴衆のまばらな雨しぶく街角で誰の記憶にも残らない演説を視線定まらずにする泡沫候補者の近くでビラ配りをする関係者のように、この風前の灯を消すまいと私がそのがらんとした教室で学生ひとりひとりに手渡した教科書は、この種のものの中で最も新しいというだけの理由で、自分では全然読まずに選んだ「Global Politics:A New Introduction」という700ページ以上ある本で、内容はともかく、学生に、これから何か少しかっこいいことが始まると洗脳するための外見としては十分であった。
 読み進めてみると、この教科書は国際政治におけるイデオロギーとは何か、とか、世界ではなぜ、自分が人を指導できると考える人々が生まれるのか、とか、人の頭に一瞬は思い浮かんでも追究しないで消してしまうようなちょっと哲学的な問題に頻繁に触れている。読みにくい箇所もあり、全く何を言っているのか分からない箇所もあったが、自分の力不足を学生の前でごまかす技術だけは磨いてきたので、彼らに発表させながら、時には自分の研究関心に無理にひきつけながら、読んで討論する楽しい時間が経過していった。几帳面な学生ほど、この訳語は正しいか、とか気にしながら、できれば自分の担当する部分全体を網羅的に紹介しようとするものだが、確かにその種の外国語能力や読解能力はある程度必要だが、むしろ担当者の発するちょっとした感想、疑問の方が、彼らの報告の後の討論の素材としては意味があると思われた。
 アメリカの学会で発表してうちの大学の授業や会議も休めて楽しかったという話を私がたまたました時、学生の一人が、いいですね、私たちもやってみたいものです、と言ったので、この機会を逃すべきではないと私は敏速に反応し、その言質をとって、それならやりなさい、情報を収集して努力しなさい、さもなければ単位が危ないよと脅迫した。Association for Asian Studiesの支部会で現代のDiasporaという共通テーマで支部会が予定されていることが分かったので、そこに北朝鮮からの難民の政治意識というテーマで、4名の3年生―新4年生を参加させると決め、研究計画案を提出させたら、それが運よく通り、ある意味で泥縄式ではあったが、北朝鮮難民救援基金を通じてインタビューに応じてもらえる、東京に在住の脱北者約10名に会うことができ、またNO FENCEからの紹介でも少数の方に会うことができ、都内で各回数時間自分の経験を話してもらった。

 例えば、自分の娘をせっかく越境させながら、自分自身は後に越境しようとして逮捕されてしまう親の話とか、胸が潰れるようなドラマが淡々と語られるのを聞いている時間は、学生にとってはもちろん、私にも、最も充実した時間であり、猥雑な街頭の石畳に宝石を見つけた気がした。それらを2017年6月、オレゴン州の大学で開かれた前記の学会で学生4名が発表したときには、日本出身で北朝鮮に渡り、その後また難民として戻ってきた人間が日本にいる、といったことを知るアメリカ人は皆無で、少なくとも、会場に来てくれた人に対する啓発にはなったはずである。発表者が学生だからとて見下さず、同じ目線に立って質問したりしてくるところが日本にない、アメリカ社会の美点である。
 その後、学習院大学内で、やはり北朝鮮難民救援基金と協力して、韓国からの青年の脱北者二十数名の訪日団との、北朝鮮の人権についての討論会を行い、同一の国際政治演習の学生メンバーがやはり北朝鮮の人権について、報告をした。北朝鮮で生まれ育ち自分とほぼ同年齢の脱北者から直接その話を聞いたりする経験は出席した学生にとり初めてであり、忘れないだろう。教育の場で自分の研究対象との間でinteractiveという状態を持つのは、稀である。
 本来の仕事である、厚い教科書の読解も全章1年で終え、学生にちょっと自信がついた。それに続いて、今年は難民についての本「Refuge: Transforming a Broken Refugee System」を教科書にしてほぼ読み終えており、次にまた昨年とは別の教科書に移る予定である。シリア難民のケースを中心にして、難民についての過去の国際法的枠組みと、現在の現実の難民の出現や解決方法との間の大きなギャップを認識することから、議論は始まる。
 たとえ東京の下町の料理店で脱北者を囲んで学生たちが、なぜこの人の運命は自分の平凡な日常とこうもかけ離れたものになったのだとの疑問に取りつかれ始めたとしても、その数奇な人生から視線を逸らし、そのような問題に興味を持つ者を煙たがるのが日本社会であり、この傾向は若年層ほど強い。「最高の教師は子供の心に火をつける」とは私は承知しているが、外国の戦争や人権侵害のニュースのすぐ次にくるスポーツニュース、政治家と聞けば森友やら加計やら不倫やら小事をつつくマスコミ、無意味な選挙、その無意味な開票速報など、仮にどこかでたまに誰かの脳裏に火花が散っても、その周囲が消火剤で充満しているのが日本社会である。目標が高すぎてはいけない。学生が、今まで気に留めずに繰り返していた日本の日常を、耐えられないほど、犯罪的なほどにつまらないものに思い始め、常に遠くを見たいと思い始めたり、泥土の中に砂金を探そうとし始めたら、それは国際政治の教育の、成功への一歩なのだろう。

この演習に参加した理由は?

 私はもともと、紛争や虐殺といった問題に関心があったため、なぜ国家また人々は対立するのかを探求する国際政治を勉強したいと思い、政治学科ゼミに入りたいと考えました。
 3年、4年次ともに英語の本を輪読しました。4年の今年は、難民問題を中心に扱い、現在の難民政策、制度の問題点などを論じ合いました。また4年生は北朝鮮の脱北者の研究を行い、アメリカで学会発表をしました。
 大学卒業後は大学院に進み、より国際政治について深く学びたいと思います。そして将来的には国際機関やNGOなどで働き、国際問題を解決していく立場として働ければと考えています。

この演習のオススメはここ!

 少人数のクラスですので他の学生、先生と密に議論できるのは非常に刺激になると思います。英語の文献を扱うので英語力も同時に身に付きます。

先生に一言!

 毎授業、その深い洞察力にただ驚かされております。これからもどうかよろしくお願いします。

政治学科4年(取材当時)
稲垣 悠Yu Inagaki