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教員メッセージMessage from Professors

原 恵美

法科大学院 教授
原 恵美
Megumi Hara
専攻:民法

出身地
大阪府
最終学歴
慶應義塾大学大学院法学研究科民事法学専攻博士課程単位取得退学/修士(法学)
所属学会
日本私法学会、日仏法学会、信託法学会
研究テーマ
民法、信託法
担当科目
[法学部]民法Ⅰ、[法科大学院]応用民法1、民法事例・判例研究1、法文書作成指導1、2

“解釈”のおもしろさ

痛快な解釈? シェイクスピアの『ヴェニスの商人』には次のような場面があります。アントニオは、シャイロックからお金を借りるという契約をします。その内容は、期日までに返済できないとき、体の肉1ポンドを切り取って渡すというものでした。シャイロックは、返済のあてがなくなったアントニオに、契約どおりの「肉1ポンド」を裁判で要求します。それに対して、裁判官のポーシャは、次のように契約を解釈して判決を下します。文面には確かに「肉1ポンド」と書かれているが「血」とは一滴も書いていない、だから肉は切り取ってもいいが血は流してはならない、と。そのため絶体絶命のアントニオは救われます。物語の痛快な一場面です。
皆さんが法学部で勉強する多くの法律科目では、法をどのように「解釈」すればいいのかについて学びます(全ての科目ではありませんが、民法は少なくともそうです)。まさに、ポーシャはこの解釈を通じて、紛争を解決しています。

民法の解釈 私の専攻する民法は、市民社会の基本的なルールを示す法律ですが、その基本構造は、人・物・人の行為に還元できます。そして、民法は、この三つの要素を結びつける色々な道具を用意しています。具体的には、「債権」や「物権」、「契約」などです。こうした道具は、社会一般に適用できるよう抽象的に書かれています。そのため、実際に紛争が起きた場合、抽象的に書かれたものを読み解くこと(=解釈)となります。その際、解釈の方法としては、立法の背景事情を探ったり、条文相互の関係を模索したり、あるいは当事者の利益衡量をするなどの手法が使われます。色々な「解釈」が説得的か「議論する」のが法学の重要な営みだと言えます。
ところで、『ヴェニスの商人』に戻ると、ポーシャは、いい解釈をしているでしょうか?正直、これはこじつけの悪い解釈です。人間が生きている限り、肉を切り落とせば血が流れることは当たり前です。したがって、本当は「肉1ポンド」に血も含まれるというのが素直な解釈です(ただし、別問題として、人の肉を担保として借金するような内容の契約は、今の日本においては公序良俗に反するので、無効です(民法90条))。
したがって、ポーシャの判決は解釈のいい例とはいえませんが、「肉1ポンド」という一見多義性の薄そうな言葉でさえ複数の解釈の可能性があって、(無理やりだとしても)正義にかなう解釈が探求されています。
皆さんも法学を学ぶ中で、説得力のある解釈とそうでもない解釈の両方に出会うと思います。大事なことは、生身の人間が実際に引き起こす紛争の中で、どんなふうに解決するのが良いだろうかと考える作業が必要だということです。一見退屈だなと思っても、色々な考え方、色々な解釈があるということを念頭に、不思議に思ったり批判的に考えたりすることを大事にして欲しいと思います。皆さんに会えることをとても楽しみにしています。

著書・論文紹介

  • 『プレステップ法学〔第2版〕』(共著)
    (池田真朗編著、弘文堂、2013年)

    第2章「結んだ契約は絶対に守るべき?」、第3章「もし人にケガをさせてしまったら?」を担当。初めて法学を学ぶ人を対象とした入門書。各章は、学生生活の中で起こりうる身近な話題から始まっており、共感を覚えながら学習することができます。

  • 『財の多様化と民法学』(共著)
    (吉田克己=片山直也編著、商事法務、2014)

    フランスにおいて展開されている財産を集合的に把握する手法について論じたものです。

  • 『判例にみるフランス民法の軌跡』(共著)
    (松川正毅ほか編著、法律文化社、2012年)

    フランスの有価証券のポートフォリオ、所有権留保の判例評釈を担当。
    フランス法の最前線がわかる一冊です。

  • 「フランスにおけるパトリモワーヌ論の原型─オーブリ=ローの理論の分析─」
    法学政治学論究69号(慶應義塾大学出版会、2006年)

    フランスにおいて19世紀に誕生し、爾後思考プロセスに組み込まれていると言われる「資産論」をその生成過程に遡って解明したものです。