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教員メッセージMessage from Professors

橋本 陽子

法学科 教授
橋本 陽子
Yoko Hashimoto
専攻:労働法

出身地
東京都
最終学歴
東京大学法学部法学政治学研究科修士課程
修士(法学)
所属学会
日本労働法学会、日独労働法協会、日本EU 学会
研究テーマ
労働契約の諸問題
担当科目
労働法、労働法演習、特設演習

労働法の勉強について

ここ数年、労働法の講義とゼミの受講者数が減ってきています。その原因が何なのか、私も思うことはいろいろありますが、経済成長が終わり、かつ予測不能なグローバル経済に翻弄される現代の日本で、これから労働市場に出ていく学生に対して、労働法がいかに大切か、粘り強く伝え続けなければいけないと思います。
1891年のドイツの改正営業法の解説書(W. Kulemann, Der Arbeiterschutz sonst und jetzt, in Deutschland und im Auslande, 1893)の序文には、現代にも通じる労働法教育の意義が書かれているので、以下、その一部の翻訳を記載します。

クーレマン『ドイツおよび諸外国における労働者保護』(1893年)序文 「法律の文章は、しばしば法律家にも理解することが簡単ではなく、国民の大半にとってはまったく取り付く島もない。これは、誰もが法律を知らなければならず、違法状態が生じれば、法律は現実生活に直接介入しなければならないという要請に明らかに矛盾する。我々の社会政策立法では、この要請に加えて、さらに社会的融和という目的も考慮されなければならない。この目的は、無産階級の状態が事実上改善されることによって達成されるのではなく、国家権力が無産階級のためにこの法律を公布したことを無産階級自身が自覚することが必要である。これは、今までほとんど実現していない。労働者が知識を得る機会は、基本的に、社会民主主義の新聞と集会に限られているが、ここでは、この要請は、満たされるどころか、この要請に反することが行われている。社会的融和を現代の最大の課題であると認め、我々の社会政策立法がいくつかの欠陥にもかかわらずそのための優れた手段であると認める者は、労働者が法律を理解できるようになることを喜ばしい使命であると考えるであろう。法律の内容をわかりやすく叙述することは何よりもこの目的に資するであろう。…
過去と比較し、少しずつ、一歩一歩、我々の立法が前進していることがわかれば、現行法がいかに偉大な進歩であるのかよく理解できる。…さらに、欧米の文化国家と比較すれば、喜ばしいことに…ドイツの社会的発展段階は最上位にあることがわかる」。

上記の序文の骨子は、労働保護法の目的である社会的融和(労働者階級の社会的統合)を達成するためには労働者自身が法律の内容を正確に理解しなければならないというものです。上からの恩恵的な立法という考え方は、現代には妥当しませんが、反対に、むしろ現代こそ、主権者の大半を占める私たち労働者は自分たちの権利が何かを正確に知る必要があるのではないでしょうか。
また、筆者は扇動的な社会民主主義者を批判していますが、労働問題については、いつの時代にも偏った論調が目立つ傾向があります。さらに、序文では、立法史および比較法的検討の重要性も説かれており、これらの点は、未熟ながら私も労働法の研究・教育において常に念頭に置いていることです。
ぜひ、多くの学生に労働法を勉強してほしいと願っています。

著書・論文紹介

  • 「ハルツ改革後のドイツの雇用政策」
    日本労働研究雑誌647号51-65頁(2014年)

    最近のドイツ経済の好調は、10年前に行われた、失業給付の大幅な削減、マッチングサービスの効率化および労働法の規制緩和の一連の改革の効果であると言われている。本稿では、これらの改革の影響について整理し、日本にも参考になると思われるいくつかの施策について法的検討を行った。

  • 「『労働者』の概念形成─法解釈方法論における類型概念論を手がかりとして─」
    (荒木尚志・岩村正彦・山川隆一編『菅野和夫先生古稀記念論集・労働法学の展望』有斐閣、2013年、29-48頁)

    ドイツの法解釈方法論における類型概念(Typusbegriff)の議論を踏まえて、労働法の適用対象者である「労働者」の定義および判断基準をいかに考えるべきかについて論じた。