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政治学科 准教授

三輪 洋文Hirofumi Miwa

専攻:日本政治過程論

出身地
愛知県
最終学歴/学位
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学/修士(法学)
所属学会
日本政治学会、日本選挙学会
研究テーマ
世論・投票行動、現代日本政治
担当科目
特殊講義(イデオロギーと現代政治)、日本政治過程論演習、特別演習、外国書講読(以上、学部)、統計分析I(大学院)

手がかり情報としてのイデオロギー

 私は、主に日本政治を題材として、統計学の方法を使って様々な政治現象を分析しています。これまでに扱った、また現在扱っているテーマは、内閣改造が内閣支持率に与える効果、候補者の知名度が得票に与える効果、ミサイルやテロが内閣や政党の支持率に与える効果、死刑執行のタイミングなど、多岐にわたりますが、最も力を入れて取り組んでいるのは、イデオロギーに関する研究です。

 この文章を読んでいる皆さんは、「保守」「リベラル」「右(右派/右翼)」「左(左派/左翼)」などという言葉を聞いたことはないでしょうか。これらはみな、日本においてイデオロギーを表す言葉とされており、特定の政治的な立場を一言で示すのに便利なものです。

 近年の日本では、政治家や知識人の間で、これらの言葉でレッテルを貼る(貼られる)ことへの抵抗感があるようです。しかし、私を含む政治学研究者の一部、特に有権者の政治行動の研究者は、イデオロギー的な言葉による政党・政治家や政策への「レッテル貼り」は、私たち有権者に政治的な物事を判断する手がかりを与えてくれるものであると、イデオロギーの役割をもう少し肯定的に捉えています。政治的な情報を完璧には得ることができない以上、そのような「レッテル貼り」は誰にとっても避けられないことだと私は考えています。

 イデオロギーが政治的な判断の手がかりになるということについて、もう少し詳しく説明しましょう。私たち有権者が選挙で投票する候補者を選ぶときには、候補者やその所属政党の政策をよく吟味して、自分の立場に最も近い候補者あるいは政党を選ぶべきだと言われています。しかし、日本において政治が取り組むべき課題は無数に存在し、そのそれぞれについて全ての候補者・政党の立場を知ることは現実的ではありません。例えば、自民党の2017年の総合政策集は各ページに字がびっしり詰まって104ページにも及んでいます。このような政策集を全ての主要な候補者・政党のウェブサイト等を回って隅々まで読んでいる人は、ほとんどいないと言ってよいでしょう。もちろん、自分が重要だと考えている争点に絞って情報収集するという方針は考えられますが、私たちが使える時間は限られており、政治ばかりに時間を割いてはいられませんので、限られた争点であっても、多くの候補者・政党の立場を調べるのは大変なことです。

 したがって、私たちが支持政党や投票先などを決めるときには、政策的立場あるいは政策の遂行能力を示すと考えられる何らかの手がかりに頼らざるをえません。人によって用いる手がかりは様々ですが、最も簡単な、誰でも使える手がかりとして、候補者の性別が挙げられます。女性は男性よりも優しそうというイメージから、「この候補者は女性だから福祉政策を得意としているだろう」というような推測をするということです。このような推測が正しいという保証はありませんが、ある研究では有権者がこのように考えがちであるということが示されています。外見も単純な手がかりの一つです。選挙で投票したことがある皆さんの中には、ついつい美人・イケメンの候補者に投票してしまったという人もいるのではないでしょうか。これは、人々が魅力的な外見をもつ人を能力が高いと認識しがちであることによると言われています。しかしながら、候補者の性別や外見、あるいは年齢や学歴などといった情報は、手に入れるのは比較的簡単ですが、必ずしも政策的立場や政策の遂行能力を判断する材料として適切であるとは限りません。

 それに対してイデオロギーは、候補者や政党を評価する際の手がかりの中でも、比較的精度の高いものであるということができます。例えば、選挙区に新しい候補者が出てきたときに、その人が保守であると言われているのを(あるいは自称しているのを)聞けば、保守という言葉が表す一連の政策的立場がどのようなものか知っている人にとっては、様々な争点に関してその候補者がどのような主張をしているかをだいたい推測することできます。また、自分自身が保守であると自覚する有権者は、公約を詳しく精査しなくても、保守であると自称している候補者、あるいは特定の争点だけ見て保守的な特徴をもつような候補者(そのような候補者は他の争点でも保守的な立場である可能性が高い)に投票すればよいということになります。イデオロギーを手がかりとして使う推論は、自分の立場に最も近い候補者や政党を選ぶ上で正しい結論をもたらす確率が比較的高いですが、そのような推論をするためにはあらかじめ「保守」「リベラル」などの言葉の意味を知っていなければならず、自分のイデオロギー的な立ち位置を決めておかなければならないという点で、性別や外見などによる推論よりも使いこなすのが難しいといえます。

 もちろん、イデオロギーを手がかりとする推論も万能ではありません。すべての人・政党の政策的立場がイデオロギーを表す言葉が指すような典型的な方向に揃っているとは限りません。ふさわしくない場面で無理やりイデオロギーを当てはめて人や政党の評価をしてしまうと、本当にただの「レッテル貼り」になってしまいます。

 少し難しい話題になりますが、日本政治研究者の間で近年注目されている、イデオロギー的な手がかりに関する重要な問題として、「保守」や「リベラル」といった言葉の理解度や解釈、政策的立場のイデオロギー的な体系化のされ方が、有権者の間で人それぞれに異なるということがあります。こうした違いは特に政治に詳しい政治家・知識人・研究者と普通の有権者の間で大きく、両者の間でイデオロギー的な手がかりをめぐるミスコミュニケーションが生じているのではないかというのが、私の研究上の問題意識の一つです。例えば、政治に詳しい人の間では、「左―右」と言えば経済政策をめぐる対立が思い浮かびますし(今はピンと来なくても、政治学科の授業を受けていればいずれ学習しますし、私の授業に来ていただければ丁寧に教えます)、実際に新聞などにはそのような知識を前提とした記事も掲載されていますが、ほとんどの有権者は「左―右」という言葉を経済政策に関する立場を表すものとして解釈していません。私はこの問題について、イデオロギー的な手がかりの理解度や解釈の多様性をすくい上げられるような統計手法を用いたデータ分析を行うことで、知見を積み上げていきたいと考えています。

著書・論文紹介

「Can Reshuffles Improve Government Popularity? Evidence from a‘ Pooling the Polls’ Analysis」

(Oxford University Press、Public Opinion Quarterly)

「Heterogeneity in Voter Perceptions of Party Competition in Multidimensional Space: Evidence from Japan」(with Masaki Taniguchi)

(SAGE、International Political Science Review)