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教員紹介Messages from Professors

政治学科 教授

元田 結花Yuka Motoda

専攻:開発学

出身地
茨城県
最終学歴/学位
MPhil in Development Studies
所属学会
国際開発学会、日本政治学会
研究テーマ
開発援助の政治性、ガバナンスと開発援助
担当科目
国際開発協力論Ⅰ・Ⅱ、国際開発協力論演習、政治学科基礎演習Ⅰ・Ⅱ、外国書講読(FT)

国際開発援助政策の転換期を迎えて

 私が担当する国際開発協力論では、主たる題材として国際開発援助政策を取り上げます。開発援助政策の出発点には、途上国が抱える問題について、途上国自体には解決能力がなく、援助供与主体(いわゆる「ドナー」)には解決能力がある、という考えがあります。そこでは、途上国は自らの問題を改善できない困った存在であり、ドナーは途上国を正しく導く存在として君臨するという、非対称な関係が見て取れます。

 しかし、国際開発援助政策の実績を振り返ると、途上国の抱える問題についてドナーに解決能力があるとはとうてい言えません。発言力を享受してきた伝統的なドナーは世界銀行・国際通貨基金に代表される国際金融機関と先進国の援助機関ですが、これらのドナーはどうしても先進国中心のものの見方をしてしまいます。一方、途上国の抱える問題は複雑かつ多様であり、先進国中心のものの見方では問題の原因を十分には理解できないため、対策が的外れなものばかりとなるのはいわば当然の帰結です。

 こうなると、伝統的なドナーも傲慢な姿勢を改め、謙虚に途上国の現実を学ぶことが求められてきます。とりわけ、途上国の貧しい人々が日々直面している困難―リスクの大きさ、正しい情報へのアクセスの欠如、長期的な対応をとる余裕の欠如など―を鑑みれば、公共サービスや社会保障制度が整った先進国に拠点を置き、安全で豊かな生活を享受している立場から、壮大で普遍的な理論を振りかざして解決策を論じることがいかに非現実的であるか分かるというものです。

 このように、国際開発の分野においては、従来の議論の見直しが進められています。加えて、伝統的なドナーと途上国の力関係にも変化が見られます。中国やインドに代表される新興国は、経済成長に裏付けられた豊富な資金を自国の開発援助政策に振り向けるようになりました(これらの国々を新興ドナーと呼びます)。しかも、伝統的なドナーは援助を提供するときにさまざまな条件をつけていたのに対し、これらの条件を「新しい植民地主義」だと批判する中国などは、被援助国との対等な関係を提唱し、援助には条件をつけない立場をとっています。加えて、海外直接投資や海外送金など、援助以外の民間金融が途上国の開発資金として比重を高めています。

 途上国の立場からすれば、こういった変化は歓迎すべきことです。援助資金を受け取るために口うるさい伝統的ドナーの言うことをきく必要はなく、条件もない新興ドナーからの援助資金や海外の企業からの投資などを通じて、豊富な開発資金を得られるようになっているのです。伝統的ドナーからすれば、今までのように援助をテコに途上国に経済改革や貧困削減、政治行政改革を受け入れさせることは難しくなりました。

 それでは、今までの先進国・国際金融機関主導の開発援助のあり方はすっかり過去のものとなったのでしょうか。事はそれほど単純ではありません。依然として間違った途上国への理解に基づく政策は行われていますし、援助の対象となる国や政策分野ごとに、被援助国の行為主体と伝統的ドナーおよび新興ドナーの力関係は異なり、伝統的ドナーが多大な発言を享受しているケースもまだ認められます。これまでの開発援助政策のあり方と、現在進展している動きの双方に目を配りながら、具体的な事例を検討していく必要があるのです。

 国際開発協力論の授業は、以上のような転換期を迎えた国際開発の分野への導入となることを目指しています。なお、社会全般に関わる事象が「変化すべき対象」であり、開発の議論は学際的なものとなることから、授業では、政治学に軸足を置きつつも、他の領域での議論にも適宜触れていきます。政治学科が提供する授業との関係では、国際開発協力論Ⅰ・Ⅱを受講する前に、政治学・行政学・ 国際政治・国際政治経済・国際政治史等を履修しておいた方が、講義内容をより深く理解することができるでしょう。

 専門演習では、特定のテーマを取り上げ、それに関連する事例研究を扱った英語文献を用いながら、当該テーマを多面的に分析する能力を養います。私の方から適宜説明を入れるので、英語だからと変に構える必要はありません。大学にいる間に、英語の専門書を最初から最後まで読破することに、是非挑戦してみてください。

著書・論文紹介

「Governance of Development in African Countries under the Plural Aid Schemes: What is Emerging at the Confluence of the PRSP Approaches and HIV/AIDS Policies?」

University of Tokyo Journal of Law and Politics Vol.9(東京大学大学院法学政治学研究科、2012年)

『知的実践としての開発援助:アジェンダの興亡を超えて』

(東京大学出版会、2007年)