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教員紹介Messages from Professors

政治学科 教授

村主 道美Michimi Muranushi

専攻:国際政治

出身地
山形県
最終学歴/学位
Ph.D. (Yale University)
所属学会
International Studies Association、
Association for Asian Studies
研究テーマ
戦争、人権、Genocide、アジア
担当科目
国際政治Ⅰ・Ⅱ

北朝鮮を笑えるか

 国際政治の講義の中で、レポート課題をいくつか出したところ、その中の「北朝鮮の人権問題の構造について、授業の中での脱北者の講演や、脱北者との討論会の内容を参考にしながら考察して分析せよ」という課題を選択しておきながら、その講演に言及せず、脱北者との討論会にも言及せず、あるいはそれに出席せず、ただ国連の北朝鮮人権問題について提出された近年のレポートをインターネットから見つけて、それをなぞるように復唱しただけのレポートを、少なからぬ数の学生が提出していることに、それらを読み採点しながら気づいた。入試偏重の選抜方式の中で、日本人は模範解答の存在を生涯意識し続け、自分が考えるよりも、より優れた考察があるはずだから、それを提示すれば、仮にそれが借り物であると知れても、採点者はまさかそれを不合格にはできないだろうと学生が考える傾向は前からあったはずだが、ネット社会になって、それが格段に容易になったということなのだろう。だがそのような日本人学生は、自分など偉大な首領に及びもつかず、そのお言葉を暗唱するしかないと教わってきた多くの北朝鮮国民と、結局、同類であると、気づいているだろうか。日本人も北朝鮮人も、個人としての意思を持とうとしない国民の考え方が結局は借り物のコピーに収斂するという点は同一で、ただ後者が唯一のものに収斂するのに対して、前者は複数のお手本のいずれかに収斂するというだけの違いだろう。

 約20年ほど前、やはり本学の学生で、レポートの課題を出すと、インターネットからのコピーをペーストしてくるだけの学生が目立ち始め、課題を出すときに何も警告を出さなければ、男性の3割、女性の2割が、大半、あるいは全部をコピーペーストで作る学生であるという結果となった。そして試験場でカンニングペーパーを持ち込む学生を厳罰に処する学内規定はあっても、この種のレポートについて取り締まる規定はない。当該学生に注意すると、素直に反省する者も多い一方、借りただけです、と開き直る者もいる。そこでまず学生全体に話したのは、本学の女子学生は、特に男子学生からの自己紹介は眉に唾をして聞けということである。

 一方で自分をとりまく問題が複雑化しており、他方で自分よりよい解答を出せそうな存在に、自分がアクセスできる、という点で、世界は社会的な問題について、個人の意思や思考の意味を縮小する方向に動いている。例えば北朝鮮に日本人が拉致された問題をとってみても、政府に認定された被害者のことは知っていても、認定されていないが拉致された可能性の高い人々の多数いることを知らず、日本人が拉致されたことを知っていても、日本以外の外国人も拉致されていることを必ずしも知らず、脱北という現象を知っていても、彼らがいかに苦難を経て安全な土地へ逃げられるか、あるいは、まだ逃げられないでいるか、を知らず、というように、人々は「知ってるつもり」の複雑な事実関係の中 にいる。授業の終わるころの、学生の感想のひとつの典型は、「この問題について、私は何を知っていたのだろう」というものである。そんな状況に人口知能など、自分より、あるいは人間より賢いとされるものが生まれてくれば、「そもそも私の知っていることがゼロでも、比較優位の原則に従い、私が努力するよりは、誰か得意な人に任せたほうがよい」と考えられ、結局、社会に対して人間が取り組むという発想が希薄になるはずで、それが、自分の周囲を見ながらではなく携帯電話を見ながら歩く、という一種の奴隷化現象に象徴されている。ただ厄介なのは、北朝鮮では誰に従っているかが明白だが、日本では誰、あるいは誰たちに従っているのかがよく分からない点である。

著書・論文紹介

『論日米安保関係和沖縄問題』

(臧宇世俊訳、香港天馬出版有限公司、2013年)

『朝青龍の災難 斜陽に照り映える日本の「品格」』

(Apple Kindle、2011年)

「中国のナショナリズムと西部」

学習院大学法学会雑誌(学習院大学法学会、2016年3月)

「ミャンマー『民主化』の明暗」

学習院大学法学会雑誌(学習院大学法学会、2017年9月)