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教員メッセージMessage from Professors

中田 喜万

政治学科 教授
中田 喜万
Yoshikazu Nakada
専攻:日本政治思想史

出身地
東京都
最終学歴
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了/博士(法学)
所属学会
日本政治学会、政治思想学会、日本思想史学会、中国社会文化学会
研究テーマ
武士と学問と官僚制
担当科目
日本政治思想史

海外から日本を考える

昨年度の日本政治思想史演習(ゼミ)では、久米邦武編『米欧回覧実記』を学生さんたちと一緒に読みました。岩倉使節団の約1年9ヶ月にわたる世界一周の大旅行に随行した記録です。その書の中で、久米はこんなことを述べています。
「西洋を経めぐった後に、我が邦の気候の特異さに気づいた。一つめは、梅雨である。二つめは湿気の多さである。鉄がさびて駄目になりやすいことなど、西洋と比べものにならない。三つめは春夏秋冬の季節の長さが平均していることである。西洋のそれを同様のものと考えたら大いに間違える。・・・」(第10巻末尾。抄出・意訳)。
久米邦武は横浜出航時に数えで33歳。鍋島家中の武士で、佐賀や江戸でくらしてきた人ですから、日本の気候に十分慣れ親しんできたはずです。それなのに、わざわざ米欧回覧の旅をしてようやく気がつくなんて、ちょっと妙ではありませんか?
でも、それが久米(たち)の偽らざる実感だったのだろうと思います。明治初期、海外情報や世界地理書はそれなりに入手できましたから、知ろうと思えば、なるほど海外と日本の気候の違いを机の上で考えることもできたでしょう。そうだとしても、なかなか理解することは難しい。当たり前と思われることについて、わざわざ注意して読まないからです。
きっと学生の皆さんも、海外旅行をして見聞をひろめると同時に、今まで当然視して気づかなかった日本の良さ・悪さに思いをめぐらすことがあるでしょう。私も2年間の長期研修で慣れない海外生活をしてみて、そういう体験をしました。気候についていえば、カリフォルニアでは、毎日快晴で乾燥した夏(しかも長い)が何と気持ちよいことか、実感しましたし、オックスフォードでは、毎日曇りや雨で暗く寒い冬(日も短く、どうしても陰鬱になります)を楽しく過ごす文化があることを知りました。たかが天気、されど天気。気候がそこでくらす人々の生活や気風に影響しないわけにはいきません。日本の場合も然りで、しかも列島各地で差異がありますから、それらについて考えさせられました。
気候の問題に限らず、海外からの観察は、日本の政治・社会・文化等の、我々自身の気づかない特徴を教えてくれます。再び『米欧回覧実記』によれば、「西洋の図書館、博物館をみるごとに、その配慮がゆきとどいていることに感心させられる。我が邦のような遠い東の国の物でも、重荷をいとわず労苦を惜しまず収集している。そこで往々にして、我々でも知らないような我が邦の物を見せられて驚嘆させられ、むしろその解説を聞いて我が邦のことを詳しく知って帰るようになる。」(第43巻)
知っているつもりだった「我が邦」の、古くさいと顧みなかった文物について、かえって海外の方が珍重してくれて、きちんと研究を積み重ねていたという。今でもそういう面があります。日本の日本研究者が海外の日本研究者と交流すべき理由の一つです。
学生時代、国内でも海外でも、大いに旅行してください。そうすれば、必ず日本のことをもっと知りたくなるでしょう。そんな時こそ、日本政治思想史の教室にも足を運んでみてください。お待ちしています。

著書・論文紹介

  • 『日本思想史ハンドブック』 (共著)
    (苅部直、片岡龍編、新書館、2008年)

    「教育と政治、教育による政治」、「新井白石と徳川の政治」を担当。近年の日本思想史研究の成果を簡潔に分かりやすく解説しようとする入門書に、2点、短文を上記の表題で寄稿しました。

  • 『「封建」・「郡県」再考─東アジア社会体制論の深層』(共著)
    (張翔・園田英弘編、思文閣出版、2006年)

    「政治学からみた「封建」と「郡県」─概念の限定のために」を担当。国際日本文化研究センターにおいて「封建」・「郡県」という古典的観念に関する共同研究が行われた際に、これらの観念を利用する可能性と限界について、試論を述べました。

  • 「伊藤仁斎の「義」と「命」─ある反基礎づけ主義の出発」
    政治思想研究7号(風行社、2007年)

    政治思想学会第5回日韓共同学術会議(ソウル大学にて、2006年)での報告原稿を大幅に書き改めたもの。

  • 「近世日本武士と「学校の政」の秩序構想について」
    中国 社会と文化21号(中国社会文化学会、2006年)

    2005年に同学会で博士論文を要約して発表した記録。要約しすぎて骨と皮だけになってしまいましたが。