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教員メッセージMessage from Professors

岡 孝

法学科 教授
岡 孝
Takashi Oka
専攻:民法

出身地
生まれは栃木県(長く生活したのは福島県)
最終学歴
一橋大学大学院法学研究科
博士課程単位取得退学/法学修士
所属学会
日本私法学会、比較法学会、法制史学会、金融法学会など
研究テーマ
成年後見法、日独民法制定史、情報提供者の民事責任など
担当科目
法学部:民法Ⅱ、民法演習
法科大学院:民法入門1(総則・物権)、応用民法3(債権総論)

民法起草者の苦心

市民にとって基本法である民法は、時には大きな改正が必要であり、例えば第二次大戦後の親族編・相続編の大改正(1948年)が挙げられます。それまでの男女不平等、家督相続などの諸規定は、日本国憲法下ではとうてい受け入れられない内容だからです。しかし、2017年に予定されている債権編の改正については、私は企画の当初から反対です。今この時期に大改正をするための説得力ある理念も理由もないからです。
今の民法は120年以上前にさかのぼります。(治外法権、関税自主権がない)不平等条約の改正を悲願とした明治政府は、西洋列強から要求された「泰西主義(western principles)」による民法典を作ろうとしました。民法起草者は、西洋法をモデルとしつつも日本の慣習にも配慮しなければならないという並大抵ではない苦労を強いられました。
1890年公布の旧民法について、法典論争が生じました(施行は3年後を予定)。その施行を延期して作り直せと主張した延期派は、旧民法は西洋個人主義に基づいたものであり、日本の醇風美俗たる家制度を破壊あるいは軽視するものだと批判します。さらに、延期派は、旧民法の外形(規定の仕方、規定相互の関係など)についても、重複規定が多すぎるとか、法文が冗長であるなどと批判しました。最終的に延期派が勝利し、施行は延期されます。明治政府はただちに穂積陳重、富井政章、梅謙次郎を起草委員に任命して、修正作業に取りかかりました。
さて、梅謙次郎は、世界の民法典には例示・説明の多いものや規定が細かいものもあるが、一方できるだけ原則のみを規定するものもあり、日本は起草方針として後者に従ったと述べています。その理由として次の点を指摘しています。例示により規定の内容を説明することは便利かもしれないが、反面煩雑すぎる。社会が複雑になるにつれて法典も複雑にならざるをえないだろう。立法者はすべての事態を予見して規定を作ることはできない。とくに規定が細かくなればなるほど解釈上疑義が生じ、かえって原則だけを規定する場合よりも訴訟の数が増えかねない。
このように規定を簡潔に作ったおかげで、多くの規定は現在まで生命を保っています。しかも、起草者たちは十分に考え抜いて規定相互を緊密に関係づけています。学生諸君には、民法を学ぶときにこのような点にも思いをめぐらしてほしいのです。ひるがえって、今回債権法改正を推進している法制審議会のメンバーなり法務省なりは、果たして起草者の苦心を十分に斟酌した上で、しかも、条文相互の緊密な内的関連性を破壊せずに改正作業を行ったのだろうかと、非常に危惧しています。
なお、梅の上記発言については「法典編纂の方針」(太陽1巻2号[1895年]210頁以下)、今回の改正に対する私の批判については岡「近時の民法(債権法)改正事業の問題点」『債権法の近未来像』(下森定先生傘寿記念論文集、酒井書店、2010年)259頁以下を見ていただければ幸いです。

著書・論文紹介

  • 「中国成年監護(後見)制度についての梁慧星第二草案を読む」学習院法務研究7号
    (2013年)所収

    2011年に公表された中国社会科学院法学研究所・梁慧星教授グループが起草した草案のうち、成年監護の部分(翻訳)について(この部分は現在華東政法大学教授の李霞氏が担当)、日韓台湾と比較しながらその特色(例えば年齢による辞任事由を定めている。日韓台湾にはない)・問題点を指摘したもの。

  • 「明治民法起草過程における外国法の影響」東洋大学国際哲学研究センター編「国際哲学研究・別冊4・〈法〉の移転と変容」
    (2014年)所収

    表題のシンポジウムでの報告原稿。梅謙次郎など起草者は、フランス民法のほかに広く外国法を参照して明治民法を起草した。その際、慣習との関係が問題になった。とりわけ土地と建物の一体性(慣習的には別物と考えている)について激しい議論があった。そのことを紹介している。

  • 「スイス新法から日本の任意後見制度を再検討する」『民法の未来』
    (野村豊弘先生古稀記念論文集、商事法務、2014年)所収

    2013年1月からスイスで施行されている成年者保護法のうち、「事前支援委託」に着目し、その内容を紹介・分析したもの。委託が単独行為であること、受託者を支援するのは成年者保護庁であるが、これはカントン(州)によって行政庁の場合もあること、部分的ながら日本法に示唆を与えていることなどを述べている。