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教員メッセージMessage from Professors

阪口 功

政治学科 教授
阪口 功
Isao Sakaguchi
専攻:国際関係論

出身地
吉野・河内
最終学歴
東京大学大学院総合文化研究科/博士(学術)
所属学会
日本国際政治学会、環境経済政策学会、日本湿地学会、International Studies Association
研究テーマ
地球環境ガバナンス
担当科目
国際政治Ⅲ・Ⅳ(レジームとガバナンス)、特別演習(地球環境ガバナンス)、グローバルガバナンス論演習

世界市民社会論の新展開

最近、研究では世界市民社会論の新展開に着目しています。従来、NGOは国際機関に働きかけて国境を越える問題の解決に当たってきましたが、近年はNGOが企業や消費者を巻き込んで、あるいは企業が自ら進んで、民間の国際プログラムを構築し、公権力を迂回して問題解決に当たる動きが非常に強まっています。フェアトレードや森林認証ラベルがその代表例ですが、いまでは化学産業、鉱業、アパレルなどほぼ全ての領域に何らかの民間の国際プログラムが形成されています。
こういった動きの背景には、NGOの働きかけにもかかわらず、経済のグローバル化の負の側面を是正する国際条約の形成が社会分野(環境、人権、労働)で進まなかったことがあります。また、企業側としても、NGOの標的となり企業ブランドが傷ついたり、条約によりガチガチに規制されるよりは、自発的に問題解決に協力しておいた方が無難であるという計算があります。NGOも企業も世界政治にしたたかに適応しています。
しかし、こういった世界の市民社会の動きに日本の市民社会は完全に取り残されています。例えば、ニホンウナギもクロマグロ(太平洋種)も世界の生産量の約9割を日本1国で消費されていますが、ニホンウナギは絶滅危惧種に指定され、クロマグロ(太平洋種)は初期資源量の3.6%にまで減少しています。ここまで資源が枯渇したのは、政府や国際機関の無策もありますが、日本の消費者が資源状態を考えずに食べ続けたからです。
欧米ではこんなことは起きえません。欧米の大手スーパーは、持続性を証明する民間の水産認証ラベルであるMSCの取得を調達の条件としているからです。このように、国際機関や政府が果たすべき役割を果たさなくても、欧米では市民社会が公権力の機能不全を補完しています。しかし、日本ではMSCは全く普及していません。力を持った環境NGOが存在しないため、消費者は啓発されておらず、またスーパーや水産会社もNGOの標的になりブランドイメージが損なわれることを危惧する必要がないからです。そのため、日本のスーパーや回転寿司には乱獲により資源状態が著しく悪化した水産品が大量に並べられています。
日本のNGOが力を持たない理由には、日本では寄付文化が根付いていないことも大きいのですが、政府がNGOの法人格の取得や寄付控除を厳しく制限してきたからでもあります。「お上」の意識が強い日本では、市民社会が未成熟であることの問題点が政府からも市民からもあまり理解されていません。でも考えてみれば直ぐ分かることです。公権力が政策的措置を十分にとらない場合、貧弱な市民社会では、機能不全に陥った政府や国際機関を補完する役割が果たせなくなります。膨大な累積債務を抱える日本政府は、国内的にも国際的にも、今後ますます公共財を供給する能力を失っていくでしょう。そのとき、日本でも市民社会の役割を見つめ直すときが来るはずです。私の授業ではこんなことも教えています。

著書・論文紹介

  • 「市民社会:プライベート・ソーシャル・レジームにおけるNGOと企業の協働」大矢根聡編『コンストラクティヴィズムの国際関係論』
    (有斐閣、2013年)

    社会分野(環境、人権、労働など)の国際条約の取り組みの遅れを補完するために近年急増している、フェアトレード、森林認証など、民間(NGO、企業など)主導で形成された「プライベート・ソーシャル・レジーム」の全体像を明らかにした世界初の論文です。

  • 『日本の環境外交─ミドルパワー、NGO、地方自治体』
    国際政治166号(日本国際政治学会、2011年)

    冷戦終焉後日本が突如として環境外交を繰り広げるようになったプロセスを体系的に分析する初めての試み。既存のミドルパワー外交論の限界、NGOや地方自治体によるボトムアッププロセスの重要性を明らかにします。

  • 『IWCレジームの変容─活動家型NGOの戦略と規範の受容プロセス』
    国際政治153号(日本国際政治学会、2008年)

    IWCの商業捕鯨の禁止決定に対して、日本など3カ国が断固として捕鯨を継続する姿勢を示すようになった過程を分析し、NGOはグローバルな規範の分裂をもたらすエージェントとなるシステムを内包していることを示します。

  • 『地球環境ガバナンスとレジームの発展プロセス─ワシントン条約レジームとNGO・国家』
    (国際書院、2006年)

    博士論文を刊行したものです。アフリカの小国3カ国が、欧米諸国が主導した象牙取引禁止決定(1989年)を8年越しにひっくり返したプロセスを世界中を旅して解明したものです。貧乏院生時代の汗と涙と犠牲の結晶です。