学習院大学法学部 | 法学科|政治学科学習院大学法学部 | 法学科|政治学科

教員メッセージMessage from Professors

坂本 孝治郎

政治学科 教授
坂本 孝治郎
Kojiro Sakamoto
専攻:日本政治過程論

出身地
鹿児島県
最終学歴
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程(単位取得)/法学博士
所属学会
日本政治学会、日本選挙学会、日本公共政策学会
研究テーマ
象徴・儀礼研究、議会研究、政治と時間
担当科目
日本政治過程論、外国書講読、日本政治過程論演習(以上、法学部)、日本政治研究(大学院)

象徴と儀礼─研究メモ─

私は近年、「象徴」と「儀礼」といったテーマに関心をもっているが、2014年の事例でこの磁石に引きつけられてきたのは、英国における戦没者追悼儀礼(第1次大戦・開戦100周年記念)であった。すなわち、ロンドン塔の堀・壕に、第1次大戦での英国およびコモンウエルス諸国の戦死者数に合わせて、88万8246本のセラミック製の赤いポピー(大小、形の多様な)を、停戦記念日(Armistice Day)の11月11日までに植えて戦没者を追悼せんとするプロジェクトは、「象徴と儀礼」研究の格好のテーマとなった。
セラミック・アーティストのPaul Cumminsが舞台デザイナーのTom Piperの協力を得て創出した、〈 Blood Swept Lands and Sea of Red 〉と名称された象徴的儀礼空間は、1本25ポンドでの購入(うち1割は軍関連の6つの慈善団体へ寄付)に賛同してくれた数多の人々の善意と膨大な数のヴォランティアによる植樹作業によって実現されたものである。
最初のポピーはロンドン塔の一人の守衛(Yeoman Warder or Beefeater)によって7月に植えられ、英国各地からのヴォランティアがそれに続き、ときに若きケンブリッジ公夫妻やハリー王子が視察に訪れては植樹、かくして、エリザベス女王夫妻が追悼儀礼に来訪する10月16日ごろには67万本を超えて、朱色に彩られた陸・海の心打つ風景が展示されるに至り、たくさんの見物者が濠の周辺部に押し寄せてくる状況になっていた。
英国のキャメロン首相は妻のサマンサを伴って、Remembrance Sunday(11.9)の前日にこのポピー展示を訪れ、芸術的な植樹空間を見て回っては自らもポピーを植えてみせた。もとより、そのパフォーマンスは首相自身が提唱・主導するいくつかの第1次大戦100周年記念の企画・儀礼作戦と呼応するものであった。
毎年恒例の戦没者追悼の中央儀礼は、女王以下の王室成員と政府高官の臨在のもと、ロンドンの官庁街(ホワイトホール)にある無名戦没者の碑セノタフ(the Cenotaph)で執り行われた。午前11時を契機に2分間の黙とうのあと、女王や皇太子等の供花に続き、首相・副首相・野党第1党の党首、それに軍高官などが花輪をセノタフの周囲に横たえる儀礼がしめやかに展開され、退役軍人や諸種部隊の追悼行進が繰り広げられた。
いよいよ歴史的な停戦記念日を迎えて、ロンドン塔のポピー展示濠では、戦死者の名前の読み上げを終えて、最後の1本を植える儀礼が執り行われた。若き13歳の兵学校生徒がその第1次大戦の戦没者追悼の最終儀礼の光栄に浴した次第である。
ちなみに、儀礼作戦の〈名称〉はある無名戦没者の生前発行の遺書の1節から的確に抜粋されたものであったが、セラミックのポピーが創出した印象的光景・景観は絶大な支持を得て11月末までその展示が延期された。それを片付けた後は、第1次大戦100周年が終了する2018年11月まで、英国のいくつかの場所に移動して展示されることになっている。まさしく、統合的な戦没者追悼儀礼が英国内で繰り広げられるわけである。

著書・論文紹介

  • 『「政治と儀礼」研究ノート(Ⅳ)─2015年・総選挙後の英国議会儀礼を中心として』
    学習院大学法学会雑誌51巻1号(2015年9月)

    2015年5月の英国総選挙で保守単独政権が復活、「議長選出、議員宣誓、女王演説・集中討議、新人議員の初演説など」、一連の議会儀礼を4週間にわたって紹介したものです。

  • 『「政治と儀礼」研究ノート(Ⅲ)─2013年・戦没者追悼儀礼を中心として』
    学習院大学法学会雑誌49巻2号(2014年3月)

    英国における2013年のRemembrance Day、それに第1次大戦百周年に向けた儀礼作戦、すなわち北仏やベルギーの戦没者墓苑から聖なる砂を収集、追悼の庭を造出するキャンペーンを追跡しています。

  • 「『政治と儀礼』研究ノート(Ⅰ)」
    学習院大学法学会雑誌45巻2号(2010年3月)

    天皇や首相の動静情報をオンラインで追跡していると、新旧首相の議会内及び各宮家への挨拶回り、羽田空港送迎や御所会食などの儀礼展開に目がとまります。首相の新年・伊勢神宮参拝に照準を据えてみました。

  • ■『象徴天皇制へのパフォーマンス:昭和期の天皇行幸の変遷』
    (山川出版社、1989年)

    1945年の敗戦に伴う米国中心の占領下で、昭和天皇がどのように変身していったか、その変容過程を新聞写真や天皇の歌なども織り込み、分析・説明しています。