学習院大学 法学部 | 法学科|政治学科

教員紹介Messages from Professors

法学科 教授

横山 久芳Hisayoshi Yokoyama

専攻:知的財産法

出身地
和歌山県
最終学歴/学位
東京大学/法学修士
所属学会
工業所有権法学会、著作権法学会
研究テーマ
特許法、著作権法、商標法
担当科目
知的財産法、知的財産法演習

「知的財産法」のススメ

 私は、「知的財産法」という科目を担当しています。「知的財産法」といっても、そんな名前の法律があるわけではありません。「知的財産法」は、特許法や実用新案法、意匠法、著作権法などの様々な法律の総称なのです。「知的財産法」に含まれるこれらの法律には一つの共通点があります。それは、人間の知的な活動により生み出された「情報」を保護する法律であるということです。人間が知的な活動により生み出す情報には、発明や著作物、デザインなど様々なものがあります。これらの情報は私たちが便利で快適な生活を送るために必要不可欠なものです。しかし、せっかく新しい情報を苦労して創作しても、その情報を誰でもタダで自由に利用できるということになると、創作者は創作意欲を失い、新しい情報が生み出されなくなるおそれがあります。そこで、「知的財産法」は、情報の創作者に一定の権利を認めて、情報を利用する私たちから適切な対価を取得できるようにしているのです。例えば、皆さんが日々愛用しているスマートフォンには様々な技術が活用されており、それらの技術は特許権という権利で保護されていますし、皆さんがスマートフォンにダウンロードした音楽や映像などのコンテンツは著作権という権利で保護されています。このように、私たちに身近なモノを扱う「知的財産法」なのですが、ここでは皆さんにもう少し「知的財産法」に馴染んでもらうために、最近話題になっている著作権法の問題を一つ取り上げてみたいと思います。

 最近、著作権法の分野では、「音楽教育を守る会」という団体が、作曲家などの著作権を管理する団体(JASRAC)に対して、音楽教室内での楽曲の演奏について著作権使用料を支払う義務がないことを確認するための訴訟を提起したということが話題になっています。楽譜の出版や、コンサートの演奏について、権利者に使用料を支払わなければならないのはわかる。しかし、音楽教室内での楽曲の演奏は、生徒の演奏技術の指導のために行われているものであって、このような演奏についてまで使用料を支払わなければならないのはおかしいのではないかというわけです。

 楽曲は作曲家が個性を発揮して創作した著作物であり、「著作権」という権利によって保護されています。著作権は著作物を独占的に利用するための権利ですから、権利者以外の人は、権利者に無断で著作物を利用することができません。これは、他人の所有物を他人に無断で利用することができないのと同じです。なので、他人の著作物を利用したいと思う人は、権利者に対価を支払い、権利者から許諾を得ることが必要となるのです。

 もっとも、著作権法は、ありとあらゆる著作物の利用について権利者に独占を認めているわけではありません。例えば、私たちが音楽を聴くことも音楽の利用行為の一つですが、著作権法は、「音楽を聴く行為」を著作権の保護の対象としていないため、私たちは、音楽を好きな時に好きなだけ自由に聴くことができます。かりに音楽を聴く行為が著作権の保護の対象になっていたとすると、私たちは音楽を聴くたびに、権利者の許可を得なければならないということになりますが、これは非常に面倒なことですし、権利者にしても、音楽をCDに録音して販売したり、ネット上で音楽を配信したりする行為が著作権の保護の対象となっていれば、十分な利益を得ることができるので、音楽を聴く行為については、特に著作権の保護の対象としないことにしているのです。

 このように、著作権法は、権利者と利用者の利益のバランスを考慮して、どのような著作物の利用行為を著作権の保護の対象とするかを法律上規定しています。具体的に見てみましょう。例えば、著作権法22条は、「著作者は、その著作物を、公衆に直接聞かせることを目的として演奏する権利を専有する」と規定しています。これによれば、同じ音楽を演奏するにしても、公衆に直接聞かせる目的があれば、著作権の保護の対象となり、通常は、権利者に使用料を支払う必要があることになりますが、公衆に直接聞かせる目的がなければ、著作権の保護の対象とならないため、権利者に使用料を支払わずにいくらでも自由に演奏してよいことになります。例えば、アーティストがコンサートで他人の歌を歌う場合には、来場者に聞かせる目的で歌うわけですから、著作権の保護の対象となります。街頭で他人の歌を歌っておひねりをもらう場合も同じです。いずれの場合も、使用料を支払わずに行えば、他人の著作権を侵害することになります。一方、私たちが風呂の中で歌を歌ったりすることは(少なくとも私には)よくあることですが、普通は自己満足で歌っているのであって、他人に聞かせるために歌っているわけではないので、著作権の保護の対象とはなりません。かりに大きな声で歌ったために、外の通行人に聞こえたとしても、他人に聞かせるために歌っていなければ、著作権の保護の対象とはなりませんから、権利者に使用料を支払うことなく、いくらでも自由に歌ってよいことになります。

 このように著作権法の条文を見れば、どのような利用行為が著作権の保護の対象になっているかが一応わかるようになっているのですが、実際には、著作権の保護の対象となる利用行為かどうかについて、解釈が分かれる場合も少なくありません。今回問題となっている音楽教室内での楽曲の演奏行為もその一つです。いったい音楽教室内での楽曲の演奏は「公衆に直接聞かせることを目的」としたものといえるのでしょうか。この点の解釈は、権利者側と利用者側とで真っ向から対立しています。権利者側は、先生が楽曲を演奏するのは生徒に聞かせることを目的としているのだから、著作権の保護の対象になると主張しています。そもそも音楽教室は営利企業であり、他人の楽曲を利用して収益を上げている以上、その一部を権利者に還元すべきであるという考え方が背景にあります。これに対し、利用者側は、著作権法が定める「公衆に直接聞かせることを目的とした演奏」というのは、例えば、コンサートにおける演奏のように、楽曲の鑑賞を目的として演奏する行為をいうのであって、音楽教室内での楽曲の演奏行為のように、演奏技術の習得を目的とする行為を含まないと主張しています。また、音楽教室での楽曲の演奏が著作権の保護の対象となり、権利者に使用料を支払わなければならなくなるとすると、その使用料は結局生徒が負担することになるため、音楽教育を受ける生徒が減少し、音楽文化の発展を妨げることになるという主張もされています。

 いずれの解釈にも一理あると思います。先ほど述べたように、著作物の利用行為のうち、どのような行為を著作権の保護の対象とするかは、権利者と利用者の利益のバランスを考慮して決定されているわけですから、今回の音楽教室の事例のように、著作権の保護の対象となる利用行為かどうか疑問が生じた場合には、原則に立ち返って、そのような利用行為に著作権の保護を認めることがバランスの取れた解決になるかどうかを考えるより他にありません。皆さんは音楽教室の問題をどのように考えるでしょうか。権利者、利用者それぞれの立場に立っていろいろ考えてみて下さい。

 法律学では、あらかじめ定められたルールの下で、様々な価値や利益のバランスを図りながら問題を解決していく手法を学ぶことになるわけですが、知的財産法の分野では、この音楽教室の例のように、私たちの身近なところでバランス感覚の問われる問題が日々多数生じています。学生の皆さんは、社会経験がないため、法律問題を自分に関係のない世界の話として考えてしまいがちですが、そんな人でも、「知的財産法」ならば、自分の体験や経験に照らして具体的に法律問題を考えることができるかもしれません。皆さんも、学習院大学に入って、「知的財産法」を勉強してみませんか?

著書・論文紹介

『特許法入門』(共著)

(島並良=上野達弘=横山久芳著、有斐閣、2014年、担当した章:第3章・第5章・第7章)

『著作権法入門(第2版)』(共著)

(島並良=上野達弘=横山久芳著、有斐閣、2016年、担当した章:第2章・第6章・第7章)