教員紹介

武内 教授

武内 房司 教授
TAKEUCHI, Fusaji
東洋近代史

■略歴

1956年生まれ
1985年3月 東京大学大学院人文科学研究科博士課程東洋史学専修課程単位取得中退
1985年4月 高知大学人文学部専任講師
1990年4月 学習院大学文学部助教授
2001年4月 学習院大学文学部教授,現在に至る。

■研究テーマ・分野

 何を研究テーマとしているか,と訊ねられれば,18〜19世紀を中心とする西南中国社会研究であると答えることにしています。大学で中国史の勉強を始めた頃,中国史研究の主流は経済の最先進地帯とされた江蘇省・浙江省など江南地域を対象とするものでした。ただ,中国全体を理解するためにはより内陸にも目を向ける必要があると感じ,以来,雲南・四川・貴州・広西といった西南中国の歴史に興味を持つようになりました。
西南中国の特徴は,タイ やヴェトナムなどの東南アジアに連なる民族が多数居住し,多様な文化を育んできたことです。これまで,中国やヴェトナムなどの国民国家において語られるナショナルヒストリーの枠組みでは往々にして切り捨てられるかゆがめられて伝えられる傾向のあった18世紀から20世紀にかけての中国西南諸民族,たとえば苗族やタイ族などの民族の歴史を漢民族の移住史や地域開発史と絡ませながら研究してきました。歴史の研究は,広大な領土を獲得し専制権力を発展させた民族や国家の歴史だけをかたればよいというものではありません。多数の民族が複雑にまじりあいながら共存してきた西南中国のユニークな歴史は,今日もっと注目されてよいように思います。
非漢民族の歴史の研究の難しさは,漢民族の立場で書かれた王朝側の史料に依拠せざるをえないことです。そこでこれまで,できるだけアーカイブや農村に埋もれている民間文書の掘り起こしにつとめてきました。貴州の苗族たちが残した契約文書を整理する仕事はその過程で生まれたものです。契約文書などの民間文書には,苗族などの少数民族が伝えてきた心性や世界観が息づいています。同時に,マイノリティ研究にとって民間文書やアーカイブが記憶や歴史の復元にいかに大切なものであるかも知ることができました。
  第二のテーマは,18・19世紀を中心とする民間宗教結社の研究です。西南中国はフロンティア社会としての特徴も持っています。そこに移住した漢民族は辺疆社会で生き抜くためにさまざななネットワークを発達させてきましたが,民間宗教はそのなかでも大変重要な役割を果たしてきました。興味深いことに,西南中国ではぐくまれた民間宗教結社は19世紀後半以降,中国全土へ,さらには東南アジア華僑社会やヴェトナムなどの漢字文化圏に伝播・浸透していく動きが見られました。こうした国境を越える宗教者の軌跡をたどることが現在進めている研究の一つの柱となっています。

[近年の主要講義・演習]

東洋史特殊講義:近代中国とヴェトナム
東洋史特殊講義:キリスト教宣教師からみた西南中国
東洋史演習:清代史史料選読

■主要研究業績

1982年 「太平天国期の苗族反乱について〜貴州東南部苗族地区を中心に」『史潮』新12号 pp.26-56
1997年 「西南少数民族〜土司制度とその崩壊過程をめぐって」 森正夫編『明清時代史の基本問題』汲古書院 pp.581-606

1998年

「清末宗教結社と民衆運動−青蓮教劉儀順派を中心に−」 『中国民衆史への視座−新シノロジー・歴史篇−』東方書店 pp.109-133.
2000年 「中華文明と『少数民族』」 『岩波講座世界歴史28巻・普遍と多元』岩波書店 pp.107-127.
2003年 「デオヴァンチとその周辺〜シプソンチャウタイ・タイ族領主層と清仏戦争」 塚田誠之編『民族の移動と文化の動態〜中国周縁地域の歴史と現在』風響社 pp. 645-708
2005年 クリスチャン・ダニエルス,楊有耕氏と共編『清代貴州苗族林業契約文書匯編(全3巻)』東京大学出版会
  「《民族図説》の成立とその時代〜一九世紀初,伯麟『雲南種人図説』に見るシプソンパンナーの辺疆風景」 長谷川清・塚田誠之編『中国の民族表象〜南部諸地域の人類学・歴史学研究』風響社,東京 pp.29-55.
  「社会主義とキリスト教土着教派〜耶蘇家庭・霊霊教・呼喊派・東方閃電」 野口鉄郎編『結社が描く中国近現代』山川出版社 pp.321-336.
2008年 「清代貴州のカトリックと民間宗教結社」 細谷良夫他編『清朝史研究の新たなる地平〜フィールドと文書を追って』山川出版社 pp.213-238.
  「清末雲南タイ系土司の近代化ヴィジョン〜刀安仁とその周辺」 塚田誠之編『民族表象のポリティクス〜中国南部における人類学・歴史学的研究』風響社 pp.189-224.

【私のゼミ(学部)で学ぼうとする皆さんへ】

 学部の演習では,ここ数年,王之春という清末期に活躍した官僚の著した『清朝柔遠記』という史料を読んでいます。この著作は清朝成立以来の対外関係を年代ごとに整理したものですが,単なる外交史の枠に入りきらないスケールを持っています。イギリスやフランスなど西洋諸国,朝鮮・越南(ヴェトナム)といった藩属国はもちろんのこと,今日でいえば中国国内の「少数民族」に至るまで,清朝政権とその周辺に位置する自立的な政治権力者との関係を当時の行政文書を巧みに整理紹介しながら,丹念に描いています。この著作を精読することで,今日の中国及びユーラシア世界が実に民族的多様性に富む多元世界を構成していたかを知ることが出来ます。
  史料の読解に取り組むいっぽう,本ゼミでは,参加者に各自関心のあるテーマを見つけてもらい,関連文献・史料を読み込み,その成果をゼミで発表してもらういっぽう,それを年度末のレポートにまとめてもらうことにしています。もちろんテーマは自由であり,必ずしも中国にこだわる必要はありません。これまで,朝鮮やヴェトナム,タイなどの大陸東南アジア,ネパール,チベットなどを研究発表のテーマに選び,そのまま卒業論文に発展させていった先輩も少なくありません。

【私のゼミ(大学院)で学ぼうとする皆さんへ】

大学院の演習では,史料の精読と研究発表が中心となります。ここ数年は,李星沅という清末期官僚が残した詳細な執務記録『李星沅日記』を読み続けています。この史料を精読することをつうじ,ちょうどアヘン戦争から太平天国の時期にあたる時代の政治と社会の動きを学んでいきます。研究発表では,修士論文や雑誌論文等を仕上げるにあたっての構想を参加者に定期的に発表してもらっています。

Key words: the society of southwest China in 18th and 19th centuries, the archives kept by the Miao, Folk Religious Sects


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