文学部

学校長からのメッセージ

文学部長 鐘江 宏之(かねがえ ひろゆき) 「ひと」の営みを観る時間を過ごす

しばらく前、全国の大学における文学部をめぐる議論は、決して安泰なものではありませんでした。2015年夏に文部科学大臣が全国の国立大学に送った通知が波紋を呼び、あるいは人文・社会科学系の学部は大学にはいらないとまで言われているかのような、そのようにとれる見解であるともみられました。しかし、こうしたことがマスコミの話題を賑わせ始めたときに、あらゆる分野の科学者からなる機関の日本学術会議は、特定の分野が不要であるかのような論調に対して強く批判した声明を発信しましたし、さらに実利を追究している経済界からも、人文科学系学問の必要性を訴える発言が続きました。

文学部の存在意義とは何か。ひとことで語るには難しいものがあります。また、ひとことで片付けるにはもったいないとも思いますし、そして、語る人によってそれぞれ多様なことが述べられるであろうさまざまな意義が、文学部にはあります。学習院大学の文学部についてみれば、8つの学科があり、これらの各専門分野では、多くの学生が日々学んでいます。多様に枝分かれしている文学部の各専門分野ですが、しかし根底に共通していることを挙げるならば、それはどの分野でも人間の営みを考える学問分野であるということでしょう。われわれの世界で人間が「ひと」として様々な営みを行っている過去・現在・未来のことについて、文学部では多くの人々が関心を持ち、学び、研究を進めているのです。

文学部の各研究分野では、4年生が卒業する際には卒業論文もしくは卒業研究・卒業演習・卒業翻訳などが課されています。新入生として大学に入ったばかりの1年生が、この卒業するための課題を、1年生として過ごす1年間のうちに完成させてしまうことはまず無理です。ひたすらがんばって4年分の知識を1年間で詰め込んだらどうかと、もし聞かれたとしても、たぶん無理だと私は言うでしょう。「ひと」とその社会を研究するには、その営みをよく観ていく経験が大事なのだと思います。文学部の諸学問は、人格の陶冶が進む中で形成されるものなのです。4年間を過ごしてさまざまな経験を積む中で培われたものを、卒業してゆく4年目の学生のそれぞれが持っていることと思います。分野によって学ぶ内容に違いはあっても、「ひと」の社会の営みを観察してきた眼力こそが、文学部を出て社会で活躍していく人たちに備わっていくたくましい力の源であり、また社会が求めているものでもあるでしょう。

学習院大学の文学部は、こうした眼力を養う教育・研究とその環境を、これまで大切にしてきました。そのことが、この文学部の底力であり、魅力を感じていただけるところでもあろうと思います。そしてこれからも、私たちはこの教育・研究を大事にして、胸を張って誇れる文学部でありたいと考えます。

文学部長 鐘江宏之(平成29年4月 文学部長就任)