学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A04-2 アジアの教育改革―社会変動とグローバル化の視点から―(2004-2005年度)

構成員
代表研究員 川口幸宏
研究員 斉藤利彦 山本政人 長沼豊 諏訪哲郎
客員研究員 雨田英一 所澤潤 杉村美紀 井澤直也(2004) 石川啓二
研究分担者 井澤直也(2005)
(1)研究の目的・意義

今日、アジアの各国における様々な改革動向の中で、最も重要な柱の一つとなっているのが、教育改革である。まさに、それなくして21世紀の国づくりはあり得ないという、国家の存亡をかけての教育改革が急ピッチで進められている。
日本でも同様に、「教育改革国民会議」の提言や、教育基本法改正問題、あるいは学習指導要領の全面改定等の動向に示される、これまでにない規模での「教育改革の時代」が訪れようとしている。
むろん、今日の教育改革の動向は、アジア地域のみならず、グローバルな視野のもとに分析されなければならない。OECDが昨年七月に公表した報告書「Literacy Skills for the World of Tomorrow」によれば、読解力ではフィンランド、数学と科学では日本、香港、韓国がトップを占めている。今や、欧米を含めた世界中の国々が、それぞれの既存の教育制度の優劣を点検し、比較しながら新たな教育制度の構築を行っているのである。
それ故、アジアの中でも、こうした教育改革の内実は、各国の状況によって実に多様である。一方でインドネシアのようにリテラシーの教育が重視されている国もあれば、他方でインドや台湾のように欧米の国々の情報・コンピュータ教育制度を摂取し、その振興が改革の鍵と目されている国もある。また、中産階層の育成を目ざし職業技術教育の改革を重視するフィリピンのような国もある。
こうした各国ごとの状況を見すえながら、そして日本の教育改革との連関という視点に立ち、本研究では、それぞれの国の教育改革の歴史とその成果、そして新たに進められている教育改革の内容とその意義を探ることを目的とする。さらには、それらの分析をふまえ、日本を含めた二一世紀型の教育改革の課題を行察しようとするものである。
なお、2003年度までのプロジェクト「アジアの社会変動と教育改革」との関連では、それが台湾・韓国を対象としたのに対し、今回は中国・インド・フィリピンにまで対象をひろげることが基本的な相違である。さらには、教育改革のグローバル化ともいうべき事態をふまえ、欧米の教育改革との比較の軸もすえることにする。

(2)研究内容・方法

本研究は、以下の視点からアジアの社会変動と教育改革を多元的にとらえようとする。
第一に、就学率の向上やliteracyの教育等の、最も基本的な義務教育レベルでの教育改革の進展を分析することである。周知のように、中国、インド、フィリピン等は、いまだに義務教育の普遍化に課題を残しており、その改革なくして国民教育の確立はあり得ない状況であるといえる。
第二に、アジアの各国は、以下のような最も基本的な教育課題の達成と並んで、最先端の「IT革命」や経済改革に対応する教育という、高度な教育課題をも同時に達成しなければならない状況に直面している。これらの課題への具体的な教育政策のあり様を、カリキュラムや教育内容改革の具体的な視座から分析する。
第三に、アジア各国の教育は、一元的な国民教育制度の確立というだけではすまない、きわめて複雑かつ多様な教育課題を合わせもっている。その中心的課題となるのは、多民族、多言語、多宗教という社会的現実への対処である。例えば中国は漢民族及び55の少数民族から成り立ち、仏教・イスラム教・キリスト教などの宗教を持つ。またインドネシアは、ジャワ、スンダ、アチェ、ブギス、マカッサル等々の数多くの民族から構成され、250種類に及ぶ独自の言語が使用されている。こうしたマイノリティー問題を含む、複雑な多文化状況の下での教育改革の舵取りが求められており、その態様を実証的に解明していく。
第四に、以上の点に関して日本さらには欧米の教育改革との比較を軸にすえながら分析を進めていく。

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