2001年度 入試採点講評

4−1

(a) 炭酸カルシウムCaCO3を塩酸に溶かして発生する気体と,その気体を水酸化バリウムBa(OH)2水溶液に通した時に沈殿する物質を答える問題.正解はCO2とBaCO3.正解率は5割程度.
(b) CaCO3を強熱し発生させたガスの物質量を,体積から求める問題.正解は0.05 mol.正解率は6割程度.1割近くが「物質量」と「分子量」を勘違いしている.
(c) 白色固体生成物としてCaSO4・2H2Oとその物質量0.05 molを正しく解答した者は,全体の1〜2割.最も多かった誤答はCaSO4であり,この生成物が結晶水を含むと問題文に書かれていることを考慮していなかった.しかしこの場合,物質量をCaSO4に対応した0.063 molとしてあれば部分点を与えた.
(d) 正解のCaCO3を解答した者が約6割.これは,希塩酸に発泡して溶けるカルシウムを含む無機化合物として,CaCO3をすぐ思い浮かべたためと思われる.(b), (c) の解答に基づいて解答することを期待したが,そのように考えたと思われる者は少なかった.

4−2
 (a), (b), (c) は,ハロゲンに関する知識を問う問題,(d) は酸化剤・還元剤の理解を問う問題.(e) は化学全体についての理解を問う問題.(a), (b), (c) の正解率はいずれも8割弱,(d) は約4割,(e) の平均点は満点の約6割.(a), (b) の不正解者の多くは,元素記号と分子式の違いを理解していなかった.(c), (d) の不正解者の半分は,酸化剤・還元剤の定義を理解していない.また,酸化剤・還元剤が問われているにもかかわらず,化学反応式を書いた例が少なくなかった.
 (e) について期待した解答は,「水溶液中で水素Hは陽イオンとなり,陰イオンとなるハロゲンとは,この点で著しく性質が異なる」という趣旨のもの.このような解答を書いたのは3 〜 4名.単に「水素は陽イオンになりやすい」と書いた生徒が約2割.電気陰性度が小さい,電子親和力が小さい,価電子あるいは最外殻電子の数が違う,酸化力をもたない,などの解答にも,ある程度の評価を与えた.「水素はイオン化エネルギーが小さい」という解答がかなりあった.これは「水素は陽イオンになりやすい」と同じ理解のものと評価したが,水素原子の実際のイオン化エネルギーは,フッ素原子のそれよりは小さいが,他のハロゲン原子よりは大きい.また,水素の性質をアルカリ金属のそれと同様に考えているのではないかと感じる解答もあった.

5−1
 原子量や物質量,アボガドロ定数などについての基礎的理解を問う問題.平均得点率は5割から6割.満点の人数は1けた.
(a) (ア)は質量数で,定義により整数であるはずだが,12.0とか12.00と書いている答案があった.(イ)は12Cの相対質量なのに,原子量と勘違いしたのか12.01という答案が誤答の大部分を占めていた.(ウ)については,問題文にしたがって計算すればよいのに,質量数を使って原子量を算出している人が1割程度いた.
(b) ほとんどの人が何かしら書いていて,考えようとする意志は感じた.しかし,全体として出来は悪かった.3問のうち最も出来が悪かったのが (2) の問題.密度の定義があいまいな人,質量と相対質量を混同している人もいた.ダイヤモンドを気体だと考えたのか,気体の状態方程式から気体の密度の式を導き,説明を試みた受験生が多数みられた.また,式中の記号について何も説明せずに,採点者の想像に期待するという人が多数いた.

5−2
(a) 期待した答は「太陽光の熱で水面その他から蒸発した水が水蒸気として上空にあがり,山に雨として降る.これを高いところのダムに溜め,落差を利用して発電している.水力発電は,太陽光のエネルギーを水の位置のエネルギーに変えて使っているのだ」という内容のもの.「水の位置エネルギーにかえて発電している」と書いたものは,文章に多少難があっても満点とした.しかし,水が高いところに溜まることの重要性を感じさせない答案がかなりあった.
(b) 期待した答は「(1) 太陽光のエネルギーを利用した光合成で水と二酸化炭素から糖(でんぷん)が作られ,光のエネルギーが化学結合の形で蓄えられる,(2) 光合成で作られた糖(でんぷん)やこれらをもとに作られた物質を燃やし水と二酸化炭素にする過程で,それらの中に蓄えられていた太陽光のエネルギーがとりだされる」という内容のもの.満点ないし満点に近い解答は約1割.しかし,約半数が0点だった.解答例としては,(1) 生物学になりすぎ,結局のところエネルギーがどう蓄えられたのかなどはっきりしないもの,(2) エネルギーが蓄えられる前半の話だけで安心して終わりにしたもの,(3) 光を触媒と勘違いしたもの,(4) 光合成で作られる酸素がエネルギーになるというもの,(5) 環境論になっているものもあった.「・・・だから.」といった文の完結していない答案が非常に多い.完結した文を書き,主張を明確にすることがのぞましい.

6−1
 知識として知っていなくても,論理的に考えていけば答えに到達する.化合物自体を知らなくても,じっくりと考えることが必要. (a) はアラニンの構造を知らなくても,不斉炭素原子を有していることに気がつけば解ける.しかし,考えることを放棄した受験生も少なくなかった.(b) ではペンテンの構造を書くように指示があるのに,シクロペンタンなどの環状化合物の構造を書いている答案が多く見受けられた.6−2の正答率の高さからすると意外な結果.

6−2
 有機化学の反応としては基本的なものを出題.全般的によく出来ていた.原料や生成物の構造式や名称も期待以上によく書けていた.ただ,ベンゼン環をシクロヘキサンの形で省略したり,2-プロパノールの水素を省略した構造式を書いたり,炭素の原子価を3にしたりした答案があり,うっかりミスもかなり見受けられた.