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INTERVIEW.02

「生物物理」って? その醍醐味は?

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小島 「早稲田の理工学部で勉強されていたということですが、そもそもなぜ研究しようと思ったのですか?」

西坂 「もともとは生物に対する憧れですね。とにかく理科は大好きだったのですが、中学生の時の恩師、立木典子先生の影響は大きかったと思います。大学に進学する時には、理学部、そして生物物理の研究室で学ぶことを心に決めていました」

小島 「中学生の時にすでにビジョンを描かれていたんですね。生物物理とはどのような学問なのでしょうか? 正直聞いたことがなかったのですが…生物学とはどう違うのでしょうか?」

西坂 「生物学というのは、生物の現象を見ていく。調べていって、面白いことが見えてきたら、そこに一応の満足はあるわけです。だけど、物理学者というのは、それでは許せないんですよ。たとえば地球でボールを投げた時と月でボールを投げた時で、飛び方が違ったら満足できない。現象の違いに説明がつかないと気が済まない。理論、原理で納得したいんですね」

小島 「確かに生物は『これがこうなっている』って言われて終わっていたと思います」

西坂 「それが物理の人は許せないんです(笑) ゴリラがいて、ザリガニがいて、彼らが違うのは許せない。見た目は違えど、これらは結局は同じ部品でできていると考えて納得したい。違いを排除し、共通原理を見つけていこうという学問ですね。私の研究の場合は、具体的にはタンパク質の仕組みを理解していくということなんです」

小島 「なるほどー。文系理解で言うと、『どんな生き物にも共通の“命”というものを探る』…ということですかね」

西坂 「意外に歴史はあって、日本でもアメリカでも50年以上続いている研究分野です。『21世紀は生物物理の時代』とも言われているようです。学習院では、生物物理を始めたのは私が初めてでした」

小島 「学習院の学生で生物物理を学びたいという学生は多いんですか?」

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西坂 「すごーく少ないです(笑) でもこの前、私の高校での授業が面白かったらしくて、それで学習院高等科から物理学科に進学した女のコに会いました。嬉しかったですね」

小島 「先生冥利に尽きますね! 最先端の学問って、一般の方にはマイナーに見えるみたいですが、たぶんどこもそうなのでしょうね」

西坂 「若者で志ある人は、人気あるところ行くより、マイナーなところに行くほうがフロンティアを見いだせると思うんですけどね…」

小島 「『流行っているアレ』って言ったら、もう終わっているものだったりするんですけどね。でも、結論が出たりするのって、もしかすると寿命より後だったりするわけですよね。それってもどかしかったりしませんか?」

西坂 「確かに残酷な仕事ですね。私の恩師の石渡信一教授は『僕は納得したことがない』とおっしゃってました。それでもやる人たちの集団ですね」

小島 「でも学問というのはそういうものですよね。常に問い続けて、一部にしかたどり着けなくて、それでも全体を求め続けるもの。資格を取るため、とか出世するためじゃないんですよね」

西坂 「私がそうだなーと思った言葉は『映画館に途中で入って出ていくようなもの』ですね。入る前から上映されているので、それまでのストーリーは推理するしかない。そして結末も知らずに出ていく」

小島 「割と今って、答えを手っ取り早く見つけたい時代じゃないですか」

西坂 「完全に逆行していますよね。でもいいこともあるのです。人類で、初めて新しい何かを見ることができるのは、発見したその人なんですよ。その瞬間の達成感を知ってしまうと、やめられなくなりますね。宝探しが研究者の魅力です」

小島 「なるほど」

西坂 「人類が誕生するずっと前から、タンパク質は生物の中できちんと働いていたわけで、その動きを初めて見る、仕組みが少しでも分かるというのは、本当にすごいことです」

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最近かなえた夢は?

小島 「西坂さんが、最近かなえた夢ってありますか?」

西坂 「私の夢は『タンパク質が機能するメカニズムを、分子レベルで明らかにする』ことなのですが、1個の*分子モーターを観察しながら、回転を駆動するもっとも重要な動きを捉えることに成功したことです。この研究は2008年に『*ネイチャー・ストラクチュラル・アンド・モルキュラーバイオロジー』に発表しました。」

小島 「すごいですね」

西坂 「もともとは、うちの研究室で助教をされている、政池知子さんの学生時代からの夢だったのです。タンパク質の中にはさらに小さい構造があって、その動きを、蛍光色素の角度を通じて可視化することができました。実験はほとんど政池さんが独力で行ったのですが、私の顕微鏡や解析方法がこの研究を可能にしたのです」

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小島 「(論文を見ながら)内容は全然わからないですね(笑) でも『ネイチャー』が世界最高峰の科学雑誌ということはわかります。よく新聞で『ネイチャー』に発表された、という記事がありますね」

西坂 「そうですね。『ネイチャー』で発表されると、新聞に載るんですよ。私も学生時代の研究が『ネイチャー』に載ったことがあります」

小島 「学生の時に『ネイチャー』に載るってすごいですね!順風満帆の研究者人生ですね。若いのに…」

西坂 「そう若くもないんですけどね(笑)」

小島 「いえいえ」

西坂 「それと、研究の話題とはそれますが、2人の子供が小学生になりました。研究者はやっぱり大変な職業で、家庭を持って子供を育てるなんて夢とあきらめていたので、ビックリしています。これも、夢が叶ったことの一つです。」

小島 「何年生ですか?」

西坂 「四年生と一年生です。まだまだ手がかかって・・・そこがかわいいのですが」

小島 「そうですよね! 私は小学校三年生と年長です。研究者の方が家庭を持つのは大変なことですか?」

西坂 「そうですね…私は運よく食べていけてるんですが、学問で食べていくのはまともなことではないので…。ラジオやテレビのお仕事もそうだと思うのですが、競争が激しすぎるので難しいですね」

小島 「たとえば少し長期的な休みを取ろうとすると、他の研究者に遅れてしまったりするのでしょうか?」

西坂 「言い方は極端かもしれませんが、休もうという気持ちがあったら、研究はできないと思います」

小島 「奥さんは研究者と結婚するという覚悟があったんですか?」

西坂 「いまだに『だまされた』と言っていますね」

小島 「(笑) お子さんができたからよかったということはありますか?」

西坂 「深い深い質問で、簡単には答えられないのですが…子育ては、とても楽しんでます。実はそこも子供の勉強机なんですよ。ランドセル背負って、宿題をしに娘が研究室にきます」

小島 「ほんとだ、椅子に『アヤハ』って書いてありますね。微笑ましいです」

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『最先端・次世代研究開発支援プログラム』とは?

小島 「今年から始まった『*最先端・次世代研究開発支援プログラム』とはどのようなものでしょうか? ネーミングからは、最先端で、画期的な研究…特に若い世代をサポートするものと想像してしまいますが?」

西坂 「優れた若手の研究者や女性研究者に活躍してもらおうという、特別な助成研究です。内閣府の主導で、日本学術振興会で行っています。もともとは、ごく少数の有名な研究者に数十億を配布するという計画だったようですが、いろんな理由で今の形になったようです」

小島 「すごい競争率ですね。5.618件の応募に対して、329件しか選定されないんですね」

西坂 「やっぱり国公立大学や大きな研究機関が多いですね。私大は少ないです」

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小島 「学習院の名を高めましたね。野暮な話かもしれませんが、どれくらいの助成金がもらえるものなのでしょうか?」

西坂 「私のプロジェクトでは、4年間で2億円くらいです」

小島 「そんなになるんですね」

西坂 「やっぱり装置にお金がかかりまして、ちょっとした部品で100万円とかになるんですよね」

小島 「量産されてないですもんね」

西坂 「しかもそれの、試してはダメ、試してはダメ、という繰り返しですから。
私のテーマでは、2次元であるはずの顕微鏡の映像から、3次元の情報を取り出す新しい装置を開発しています。これまでは、データにするためにずいぶん時間がかかって、何日も調べた上で始めて新しいことが分かるという不便さがありました。新しいプロジェクトでは、実験しているその場で分子モーターの3次元の動きをとらえ、しかも、外から操作できるようにする計画です」

小島 「すごい! 楽しみですね」

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『学生さんへのメッセージ』

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西坂 「逆に小島さんが、学習院でよかったことってどういうところですか?」

小島 「学習院女子中高ときて、学習院大学に入ったんですが、割と私学の一貫教育で陥りがちなですね、自分たちのコミュニティの愛着が強すぎるがゆえに、なかなかその外に出ていけないっていうのがあんまり好きじゃなかったんですね。学習院大学に関しては、中高と違って、大学では愛校心が排他的に働くことがなかったのが良かったですね。大学の知名度と自分の価値を同一視しない、健全さがありました。」

西坂 「そうなんですね」

小島 「最後に、理系を目指す学生さんへのメッセージをお願いします」

西坂 「何かに真剣に打ち込むことを恐れないで欲しいと思います。みんな余計なことを気にしすぎだと思うんですよね、『リスク』とか言って。10代、20代のくせに…って思いますよ。もったいない。特に、ちょっとやそっとでは成就しそうにない、難しそうなことでも、諦めずに取り組んでほしいです。
他には・・・普段の生活で、何か便利なものに出会った時、自分にとって本当に必要かどうか、ちょっと考える癖を付けて欲しいと思います。最近は技術が進みすぎているので、連絡は簡単にとれるし検索もすぐにできる。でもコミュニケーションや理解のペースは、人によってぜんぜん違う。いちばん成長ができるはずの大切な時期ですから、テクノロジーというものに振り回されていないか、ときどき自分に問いかけてみて欲しいと思います」

小島 「今日はありがとうございました。初めてタンパク質を見させていただいたのですが、とっても面白いですね。いい経験をさせていただきました。息子にも『タンパク質を見てきたよ!』って自慢できます。」

西坂 「こちらこそありがとうございました。」

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編集後記

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生物物理学のフロントランナーである西坂と、文系出身として言葉のプロフェッショナルになった小島。もしかしたら噛み合わないのではないか…という心配もあったが、それは杞憂に終わった。タンパク質の研究を突き詰めていく西坂と、読者のことも想定し、わかるまで質問を続ける小島との対談は、まさに化学反応を起こしたかのように盛り上がった。特に子供の話や、趣味の水槽の話などでは、取材ということを忘れ二人とも楽しそうに話していた。さらに顕微鏡を嬉しそうにのぞいたり、ファンであるという奥さんと写真を撮っていた。
思うに、生物物理学の研究者、ラジオのパーソナリティと、道は違えど、一つのことを極めていく過程には、共通するものがあるのではないだろうか。そしてその土台を形成するための土壌は、学習院大学に確かにあると言える。
小島は後日、この日のことを自身の人気番組「キラ☆キラ」で、人気DJでありカリスマヒップホッパーのライムスター宇多丸氏に嬉々として語っていた。→ 6/1のポッドキャストにあるので興味のある方は聴いてみてほしい。