logW(E) by Hal Tasaki

list
latest logW
list with titles
how to link to logW

previous month  / next month

Those parts written in brown characters deal with rather technical topics related my work. You might wish to skip them.


1/4/2004 (Thu)

It's the day I tell you about my great grand mother (since it's her birthday), but let me do that after going back to Japan and switching back to the japanese mode.


Last night I was at Prof. Y. Sinai's house for dinner.

I believe I don't have to explain who he is to any of you who know something about statistical mechanics, probability, or dynamical systems. It is this Sinai!

Of course he does not know me well, and I was invited there almost accidentally. Perhaps he happened to be inviting those persons who are in touch with me now, and they kindly arranged me to join them. In any case I was very much surprised to hear this invitation. (I was simply thinking about having dinner alone at a local not-expensive restaurant.) According to Herbert Spohn,

That kind of danger is always waiting you at Princeton.

In Professor Sinai's house, there were Prof. and Mrs. Sinai, Prof. and Mrs. Lebowitz, Prof. Lieb, Prof. Spohn,



and me.

I was the only kid --- not only according to the age, but also as a scientist. (I will try to improve the latter.)

Anyway it was a great night and there were a lot of interesting conversation. I also very much enjoyed their Russian food. Since Mrs. Sinai aggressively served us, and the food was so nice, I felt that I had had about the twice of my limit. (Now it's morning, but I am not quite hungry.)


Math Phys Seminar at Rutgers. "Steady State Thermodynamics"

A great audience, including Joel Lebowitz, Herbert Spohn, Gene Speer, and more.

The seminar went on in a very lively atmosphere, which I loved very much. This time, I found myself not at all nervous. I think I was as positive, aggressive and fluent as possible.

I was also happy to find Herbert liked the talk. Of course Joel is interested in it, and basically encourages us to look for a new direction. We are having very useful discussions. (Yesterday we had an intensive discussion about what Raphael and I are doing now. It seems more likely that the d=1 model generically has a long-range correlation.)


Tomorrow I'll go back to Princeton, and will visit my friend there in the afternoon.

I am taking my flight back to Japan the day after tomorrow.


2/4/2004 (Fri)

Back to Princeton, good old Princeton.

Some more useful discussions and conversations. Elliott suggested a way to overcome a technical difficulty that Raphael and I encountered in our expansion for the hard core version of the DLG.


4/4/2004 (Sun)

This visit to the US has been extremely fruitful. I did not only have very useful and stimulating discussions, but was very much encouraged and refreshed as a scientist. At the same time, however, it is rather depressing to think about physics in Japan, especially after the exciting days at Princeton and Rutgers.

I believe people here have not yet learned that the most important thing for a scientist is to produce good science. Some insist on meaningless division between subfields in physics, and confine themselves within their small field. Big universities, including (or, especially) the most prestigious one, seem to regard that the major aim of their faculty members is to let students constantly produce mediocre papers, not to challenge truly hard problems. All these are inducing and enhancing the recent decline in the quality of researches in physics. I think this tendency is especially clear in interdisciplinary fields like statistical physics. Yes, I am seriously worried about the future of statistical physics in Japan; it is almost dying now, and there seems to be no way of stopping this tendency right away.

Bad weather at Narita, long waiting lines at the immigration, old guys occupying seats in Sky-Liner without reservations --- all these enhance my depression.


とはいっても、車窓から見えるラーメン屋の看板は日本の証。

家族の待つわが家に戻るのは、うれしいことだ。


眠っ
4/5/2004 (月)

ちゃんと夜に寝て、ちゃんと早起き。 普段よりもずっと早起き。

午前中は家でメールの読み書きなどをし、午後から大学へ。 家の前も、途中の道も、大学の居室の前も、満開の桜。 天気も回復し、実に快適。 これから研究したいことをいろいろと思い浮かべると、すなおにうきうきしてくる。 少なくとも、ぼくにとってほぼ理想的な居場所があるのだから、捨てたものではない、この国も。


4/6/2004 (火)

朝は7時前に目が覚めて夕方からは「おねむ」になってしまう田崎です。

どうも朦朧(もうろう)とするので何をやっていいかわからず、Rutgers での議論の延長で論文を読んだり考え事をしたりしています。 学期の開始にむけて何か準備しないといけないような気もするのではあるけど。


リアルタイムでもごそごそと書いておりましたが、今回の久々のアメリカ出張は、事前の期待なんぞをはるかに越えて、めちゃくちゃに有意義だった。

Princeton でも Rutgers でも、みなさんがぼくの訪問をとても喜んで歓迎してくれた。 仮のオフィス、ネットワークへの接続、Princeton から Rutgers への移動の足(というか、ぼくの運転手は、Spohn と Lebowitz だった。ど、どうしようって感じだよね。チップ出すべきなのか?)から、食事(たいていのことには動じないぼくだけど、急に Sinai 家で食事と言われたときは、びびった)まで、やたら気をつかってくださって、なんか恐縮してしまうくらい。


Princeton のセミナーでは、かの「世紀の大論文」にまとめた Hubbard model での強磁性の仕事(←ぼくの、現時点での、最高の業績)と関連する摂動展開の仕事(←これって、やってから十年くらいたつけど、未だにどこにも書いてない(やっぱり書いた方がいいなあと思ってます))について話した。 Lieb がセミナーの後にわざわざコメントして、手放しで褒めてくれたのは、やっぱりうれしい。 もちろん、彼にここまで評価してもらったのははじめてだし、彼が安易に褒めないことはよく知っているから。

念のためいっておくけど、別に Lieb が Princeton の教授で Boltzmann 賞・Poincare medal など諸々を受賞している統計力学・数理物理の権威だからうれしいんじゃないぞ。 彼こそが、Hubbard model の物理を数理物理のレベルで真摯に研究するという道を拓いた人であり、その重要さと難しさを誰よりも熟知しているから、うれしいのだ。 彼こそが、理論物理の研究というのは、持ち合わせの技術で解ける問題をみつけてきて解く営みなどではなく、目標とする「物理」について深く深く考え抜き、そこから、もっとも適切な視点・思考法・理論的技法を(時にはゼロから開発して)見いだしつつ進んでいく営為なのだということを、(ポスドク時代の共同研究などを通じて)ぼくに教えてくれた人だから、うれしいのだ。 彼こそが、科学者は「よい科学」を生み出すことを目指すべきだということを、厳しく教えてくれた人だから、うれしいのだ。

どうよ? 若者っぽいだろう。 (母語は書きやすいなあ、やっぱし。)

Michael Aizenman は、ぼくが数理物理をやろうと思ったきっかけとなった論文を書いた人。 ぼくの昔からのスターだ。 Michael も、ぼくが Princeton を訪れたことをとても喜んでくれて、週に五日間も授業があり(←去年ゼロだったので、そのつけがまわったらしい。別に体制派の意地悪とかでいっぱい教えているわけじゃない)、面倒な委員会をやらされていて忙しいのに、時間を割いてたくさん話をしてくれた。


ぼくは日頃から、ラッキーな奴だと言われているのだけれど、今回、Rutgers で Herbert Spohn と議論できたのは、われながらめちゃラッキーだったと思う。

Spohn も、数理物理の多彩な分野で活躍し続けている巨人の一人だが、とくに、非平衡系を表現する確率過程の研究については、多の追随を許さない第一人者である。 佐々さんと SST の研究をすすめ、Raphael と確率過程での摂動展開を開発してきて、ある程度、ぼくらなりの視点・結果がでてきたところで、世界中でももっとも議論してみたいと思っていた相手が他ならぬ Sphon だったのだ。

今回、Rutgers に行こうと思ったのは、統計物理の世界的中心人物である Joel Lebowitz と議論したかったからだ。 彼の研究の幅はきわめて広く統計物理全般におよぶけれど、とくに、近年は非平衡系の研究の重要な流れのひとつをつくっている。 大きな話題になり、ぼくらもさんざん議論した Derrida-Lebowitz-Spohn も彼の最近の仕事だ。 (ちなみに、Gene Speer も Rutgers にいる。)

それで、Lebowitz にメールして訪問の日程を相談したところ、ちょうどそのころ Spohn も来るからより楽しいぞ、という返事が返ってきたのだった。 おお、やったあ、一石二鳥 --- って感じである。 おまけに、むこうに行ってから知ったのだが、今回の Spohn のアメリカ滞在はたったの二週間。 帰国する日は、ぼくとぴったり重なっていた。 こっちは、何年かぶりのアメリカ訪問なんだから、なんちゅう偶然だ。

というわけで、Lebowitz おじさんと Spohn と、話したかったことは、あらかた徹底的に話してきた感じです。 初日の朝は、Spohn が運転する車で、Lebowitz と三人で Princeton から Rutgers に向かったのですが、最初は世間話をしていたのが、だんだん我慢できなくなってきて、途中で「仕事の話していい?」って言って「長距離相関のことだけど・・・」と議論をふっかけてきました。 しかし、彼らは、まったくもって「長距離相関信者」じゃない。 「長距離相関が熱力学を殺す」といった世迷い事は鼻で笑っていた。 いったい、あの PRL のレフェリー軍団はなんだったんだろ?

SST に代表される「果敢な挑戦」についても、ぼくが「ぼくたちは、まだ経験が浅いだけ、馬鹿みたいに楽観的なんだ」と言ったら、Joel は即座に「そういう奴らこそが必要なんだ」と励ましてくれた。 科学を進めるのは、そういう態度でしょう。

具体的なところでは、SST の現象論からはいって、ポテンシャル変化法を経て、Hyashi-Sasa のゆらぎの式や弱カノニカル性などの予想に至るぼくらの思考の道筋を、Spohn は(ろくに説明もしないのに)瞬時に理解して、きわめてもっともらしいという意見を述べてくれた。 いくつか、関連するかもしれない結果も教えてくれた。 Raphael と進めている摂動展開についても、われわれのやっていることが、新しいことであり、かつ、本質をついているだろうという実感を得た。 一次元の DLG に長距離相関はないという通説は、おそらく誤りだろう。 この通説をつくるのに大いに貢献した Herbert も Joel も、ぼくらに基本的には賛成してくれている。


行きの飛行機で読み始めた The Catcher in the Rye は、アメリカにいる間にホテルなどで読み進めて、さいご、帰りの空港で時間をつぶしているあいだに、読み終えた。

昔、何度も日本語訳で読んだ本だけれど、はじめて英語でちゃんと読んだのは、うれしいことだ。 ていうか、やっぱり、おもしろかった。 (どうでもいいことなのですが、村上春樹には子供を描くことができない(子供がいないからなんだろうけど)というのは議論の余地のない真実だと思っています。 (評論の類はいっさい見ないので、世間でどう言われているか知りませんが。) とすると、 The Catcher in the Rye の翻訳って大丈夫なのかな?  主人公の妹の台詞の雰囲気を日本語にするのは、誰がやろうと、至難だろうから。)

なにか Salinger を読み続ける相にはいってしまった気がして、Princeton の書店で、Nine Stories のペーパーバックをみつけて買って、帰りの飛行機のなかで読んでいました。 今回、アメリカに滞在した間、サンドイッチや飲み物を買ったのを除けば、これが唯一の買い物。 家族といっしょにアメリカを旅行したとき(娘と妻はアメリカの親戚(女性)とモールのなかの店を次々とまわり、息子とぼくはゲーム屋に入って、マリオなどをやって時間をつぶしていた(日本にいるときと、いっしょ))に比べると、なんたる違いか。


4/7/2004 (水)

隣の井田さんの部屋がきれいなので(←人がかわるにあたって、以前の江沢先生の居室を完全に掃除・改装したわけで、それが着任から数日できたなくなっていたら、かえって問題だよな)、悔しいので、ぼくの部屋も掃除。 かなりものを捨てたので、すっきりしてきたぞ。


今日は、朝は7時代に起きて、午前中から大学で仕事。 お昼を食べにいったん家にかえり、再び午後から出勤して掃除や仕事。

時差ぼけから回復して元気になったという見方もあるだろうけれど、渡米前は10時過ぎにおきて昼食後に大学に来る生活をしていたことを思い出すと、今日の暮らしぶりの方が時差ぼけなのかもしれない。


夜の道を歩きつつ、driven lattice gas での

について、再度まじめに考察。

けっきょく、定常状態測度が Gibbsian であると認めれば、すべてうまくいくという事実を確認。 これは気持ちがよい。 われわれの摂動展開を見る限り、Gibbs である可能性は高い(証明は夢想もできないが)。 逆に、Gibbs が破れるなら、これはダメだ(単にモデルがダメなのか、非平衡定常統計力学のプロジェクトがダメなのかは、わからないが)。


4/9/2004 (金)

今日の FD: (FD の意味、このコーナーの趣旨等については、去年の十月の雑感(10/8/2003)を参照。)

FD の基本は、なんといっても学生さんたちとの円滑なコミュニケーションであろう。

部屋の前を通りかかった三年生の女子学生さんと私との本日の会話を紹介しましょう。

  学生さん: (二、三人でドアをあけた部屋の前を通り過ぎつつ)こんにちはああ。

  田崎  : (机に向かって計算をする手を止めて)あ、こんにちは。

  学生さん: あ、こないだ、ホームページ見ましたよ。

  田崎  : 今頃やっとかよっ?

すみません。 この日記は幸いにも全国規模で物理の学生さんたちに読んでいただいているらしいし、一年生に入ったばかりでもすでに読んでくれている学生さんがいるようだし、つい・・・

どうも、オチがつけられないなと考えていたら、とつじょ、ぼくは物理学科の FD 推進委員とかそういうものに選ばれていたことを思い出した。 web 上での真摯な FD への取り組みが評価されての抜擢であろう。 ていうか、そのうち、なんかアンケートとかやらなきゃいけないんだなあ。


昨日は入学式の後の教員紹介とホームルーム、その後、夜は井田さんの歓迎の会食。 今日は、教務委員として、新入生への履修説明会。 旅行の疲れはないつもりだったけれど、万全ではないらしく、妙に疲れるなあ。

それでも、合間をぬって、Katz-Lebowitz-Spohn の driven lattice gas の最初の論文にのっている一次元の厳密に解けるモデルを自分の言葉で理解しおえる。 これは、Rutgers 以来消化しようと思っていたことで、面倒がらずに表式をちゃんと書き下した結果、最初に思った描像のとおりであることを納得。 実は、このモデルには長距離相関がなく、その事実が、1次元での長距離相関の不在という信念の基礎の一つになっていたのだ。 しかし、長距離相関の不在は、このモデルの特異な性質であることがはっきりとわかった。


4/11/2004 (日)

病気とか風邪とかいうわけじゃないのだが、どうも調子がでない。だるい。 帰国後すぐはかなり元気だったのに、かえって不調だ。

アメリカから戻った翌日、大学で元気に仕事をしていて、みんなと時差ぼけの話になった。 そのとき、川畑さんが、彼くらいの年になると帰国して二、三日くらいでどっと疲れが出るようになると話していた。 そのときはいっしょに笑っていたのだが、この年で、帰国してから一週間でどっと、というのは。


夏休みに、物理学会の一般向け(なのかな?)のセミナー(ここに以前のやつの記録がある)で、アインシュタイン特集みたいなのをやるそうで、そのなかでブラウン運動と非平衡統計力学の話をすることになっている。 (このテーマなら佐々さんの方が適役だけど、講演者が駒場の人ばかりになっても困るとかいった事情もあるように感じたので、ともかく、引き受けた。 やるからには、ちゃんとやります。)

直前になって話すネタがないと困るので、今日は、(元気もないので)アインシュタインの 1905 年のブラウン運動の論文を読んで、自分なりに考え直すという優雅な日を過ごす。 いちおう、きわめて単純な状況(たとえば、1次元ランダムウォーク)で Einstein の関係を、一歩一歩堅実に進めて導出し、この関係の持っている意味を示し、そこから線形応答の Green-Kubo 公式への道をつける --- という筋書きをつくる。 たとえば、(このあたりの筋の見通しがつかなかった)少し前のぼくとかにとっては、非常にうれしいお話になる。

ただ、どういう聴衆を想定すべきなのかが、いまいちわかっていない。 最初は、「一般向け」というから高校生も聞くのだろうと思って、高校物理の知識だけで理解できるものをねらっていたのだが、どうもそうでもないのかもしれない。 依頼のメールを読み返してみたけれど、どうも、そのあたりの説明がないなあ。

この手の講演会の成否は、どういう聴衆に聞かせるのかということを明確にして、講演者がそれをしっかりと受け取って講演内容を吟味するかどうかにかかっていると思うんだけど、そう思うのは少数派なのかな?  実際、前に参加したアエラムックでも、高校生にもわかるように書こうと努力していた人はほんとに少なかった。 けっきょく、「こういう聴衆を想定してください」と言っても、みな、いつもと同じようにしか話さないので、あきらめて、そういうことを気にしなくなったのだろうか?


さらに、講演会を意識して、江沢洋「だれが原子をみたか」を再び読む。

この本は、本当におもしろいと思う。 ぼくなんかが今この年になって読んでも、わくわくする。

そして、相手の予備知識についてよくよく考え抜いて、読者がつねに少し背伸びしながら読むように工夫されている。

でも、現実の高校生は、こんなしっかりしたものは、読まないのかもな・・・


4/12/2004 (月)

テレビなんかほとんど見ないのに、ときおり、無意識に

ポッポポ ポポポー 3 時だよー
とうたっている自分に気づいてしまう私です。 テレビをいっぱい見ているみなさんは、さぞや、大変だろうとお察しいたします。
物理学会の講演会については、想定すべき聴衆をはっきりさせてほしいと世話人にメール。 外への宣伝についてだけじゃなくて、講師に向けても。

さっそく誠実なお返事があり、いちおう、「大学教養程度の物理の知識をもった人」ということになりそう。

別に参加者を限定しようっていんじゃない。 そういう予備知識のない高校生なんかが飛び込んできて一生懸命聞いても、なにか得るところはあるにちがいない。

それよりも、明記してある予備知識がある人が聞いて、最初からまったく意味不明というような講演があってはならないということになるわけだ。 そっちが大事。 「場の作用を共形不変になるように、この形におきます」とか「この公式を生成消滅演算子のフーリエ表示を使って書くとこうなるわけです」みたいなのを唐突に言うのは禁じ手ということになる。

さあて、みなさん、がんばりましょう。


ポッポポ ポポポー 4 時半だよー
というわけで、大学教務委員会に、理学部代表の教務委員として出席。

万年教務委員なので、これが三年に一度ずつ巡ってくるのだ(理学部の三学科で順番にまわしているから)。

昔は、理学部外の会議にでるときはネクタイをすべきかとか、ジャケットだけは着ようかとか、迷ったものだったが、最近は、あまり気にせず、派手じゃないかっこうで気楽にでかけていくようになってしまった。 こうして、大人になるほど、大人っぽくない服装になっていく私です。

会議は、もちろん、ほとんど退屈なわけだが、ハンディーのある学生さんを支援するための新しい体制作りの報告には感心した。 必要が生じてから、関係部署がすばやく対応して、新しい体制で動き始めたようだ。 こういうところで、お役所精神にしばられずに、柔軟によい方向(「もちろん、まだまだですが」と教務部長も強調していた)に向かえるというのは立派だなあ、と珍しく思う。


4/14/2004 (水)

ついに学期がはじまった --- ということをいやが上にも自覚させんとばかり、昨日は、長い長い、そして、重い教授会。

さらに、今日からは、講義もスタート。 ま、二つのクラスいずれも慣れ親しんだ顔が多く(とくに、(日々の FD 的活動の成果だろうか)前列の方に、すごく慣れている顔が並んでいて)、こちらとしては苦労せずハイテンションに入っていけるので、精神的には楽です。 これからもよろしくお願いします。


さて、学期がはじまったところで、毎年題目がかわる駒場の講義について。

今年は、

現代物理学 --- 「くりこみ群」の視点

月曜2時限目 (10:40--12:10) 723 教室

「くりこみ群」は、現代の理論物理学におけるもっとも強力な手法のひとつである。場の量子論、統計力学、物性論から確率論や力学系まで、とくに、異なったスケールの絡み合いが非自明な現象を生み出す様子を調べる際に、圧倒的な威力を発揮する。

しかし、「くりこみ群」は単なる理論の手法ととらえるべきではなく、より深く、われわれが世界を認識するための視点とみなすべきだと私は考えている。この講義では、できるだけ初等的な題材を選び、技術的な詳細にこだわることなく、「くりこみ群」の視点の本質を理解してもらうことを目指す。それと同時に、物理学において、異なったスケールの絡み合いが如何に多様な現象を生み出すのかも、いくつかの実例を通じて学ぶことができるようにしたい。力学、統計力学、確率論などの予備知識は必要に応じて説明するが、一年生にはやや敷居の高い講義になるかもしれない。

で行きます。

はい。ついに世紀の必殺技「くりこみ群」を出してしまいました。

実は、講義内容を伝える日まで、「無限」+「ゆらぎ」をキーワードにした講義にするつもりだったのですが、締め切りの日になってかっこいい題名を考えるもなかなか決まらず、そのうち時間切れになりそうになって、とっさに上の講義題目を送ったのでした。 さあて、世界的にもほとんど例がないであろう学部初年級にむけての「くりこみ群」の講義。 いったいどうなることかとお思いかも知れませんが、なあに、田崎ならちゃんとやってくれるであろう。

ちなみに「一年生にはやや敷居の高い講義になるかもしれない」と明言したのは、かならずしも、人減らしをねらってのことではありません。 昨年、Ising model のかなりハードな講義に最後までつきあってくださった一年生の学生さんが、こういったことを書いておくべきだったと注意してくださったので、それを取り入れたのです。 ただし、数学についていえば、去年よりは軽くするつもりでいます。

第一回目は19日の月曜です。 ご興味をおもちで、ご都合がつく、受講資格をお持ちの皆さまの、ご来聴を歓迎いたします。 (あとで消す注記:部分的に小さい字で書いたのは「小さすぎて、うっかり見落としちゃったあ」と言って無視してね、というメッセージですよ、もちろん。 まったく理解して下さらなかった方がいらっしゃったので、念のため。)


4/15/2004 (木)

再び、いい天気。

午前中は、仕事をしていても、くりこみ群の講義のネタが確定しないので、なんとなく、そわそわとしてしまう。 どうせ一回目は一般的なことをくっちゃべるわけだが、

の二つは、いっけん区別はつきにくいが、本質的にちがうのである。 同じ雑談でも、後者の方が心に余裕があるからずっと良質の雑談になる。

というわけで、小さな公園のわきをとおる遠回りの通勤コース(通称「野鳥コース」)を歩きながら、素材を考える。 うまい具合に、簡単で非自明な例題(別に新しいものじゃない)に思いあたって、式(と言っても、ばっちり高校生レベルの簡単な式だけど)をいじりはじめた。 せっかく公園のそばを歩いたはずなのに、そのあたりを歩いている記憶はとんでしまっているのだが、ともかく、何週間かの素材は手に入れたので、一安心。

あと、古典電磁気学で、電磁気的質量とか静電場のエネルギーとかに関連して、くりこみ群の初等的な計算例ってつくれないかなあ?  大学初年級の学生さんたちにちょっと背伸びさせるにはちょうどいいし、なにせ「くりこみ」の発端となった問題ともある意味で通じるし。


4/16/2004 (金)

今日の FD:

というか、今日は理学部の FD について相談する会議ではないか。 おいらは、係になってしまったんだ。

小会議室に向かおうとしていると、Y 君が質問にやってきた。 去年の今頃は「幽霊っていますかね?」とかいう質問しかしなかった彼が、今日は Kepler 問題について自主的に復習していると言って質問しに来たのだ。 しかし、もう会議だ。時間がない。

私はこれから会議に出席する。 理学部の教育改善のための重要な会議だ。 君の初等的な質問などにつきあっている暇はないのだ。 帰りたまえ!
と言って追い返したりするとアホ丸出しの FD 制度の弊害の実例になってそれもまた一興なのだが、そこはそれ、あわてて会議に行く準備をしながら Y 君の質問を聞き、技術的なものだと判断し、むかえの部屋にいた理論物理研の四年生諸君にぼくにかわって回答するようにお願いして、会議室に走る。
4/19/2004 (月)

前回(3/2)が好評だったので(本当です、複雑な気持ちですが)続編を。

今週の『少年ジャンプ』

ええと、他にはとくに感想ないなあ。(あ、でも、ライト君、盗聴器を気にしないでいいの?)
というわけで(?)駒場の「現代物理学」の第一回目。

ううと、自己採点で、70点だな。

いっぱいしゃべったし、たくさんの学生さんがいらっしゃったけど誰もおしゃべりしないで一生懸命聞いていてくださったけど、ともかく、自分としては、よくわかんないけど、70点でした。 すみません。 次週からは自己採点の得点が上がるようにがんばります。

ついでですが、講義で初対面の学生さんの言葉から「熱力学の教科書、読みました」がなくなり、「日記、読んでます」ばっかりになったことを論評抜きで伝えておこう。


午後からは佐々さんと林さんと、延々と議論。

おもしろく有意義であったが、疲れた。

疲れて妻とビールを飲んでいるので、簡単ですが終わり。


4/20/2004 (火)

大学教員にはこんな日もあるんだなあ、と思うような、気疲れする一日。 楽しかったのは、体育種目の抽選にはずれてサッカーにまわされちゃった女の子(!)の愚痴を聞いてたときくらいか。

がっくりしながらも、明日の講義の準備。 ノートを読みつつ、教室に並ぶ学生さんたちの顔を思い浮かべると、自分でも驚いたくらい、妙に元気が湧いてきて、やるぞって気持ちになってくる。 こういう気持ちになれるというのは、本当に恵まれているんだろう思う。 みなさん、どうもありがとうございます。


4/24/2004 (土)

ううむ、あわただしい一週間であった。

講義がおわって、人と長々と話をして、急いでお弁当を食べながら次の講義の準備をしていると事務から電話がかかってきて、あわてて教務の雑用で走り、そのまま講義の教室へ急ぐ、みたいな感じ。 普通の大人なら、40代ともなれば、こういう風に用事を次々とこなしていくのに慣れているのだろうけど、日頃は時間がこういう風には経たない生活をしているので、なんか目新しい。

来週もあわただしいであろうなあ。そろそろ目新しいとか言ってられない。


あわただしい中で、大いに愉しく有意義だったのは、小松さんと何度も会って、彼の最近の実験について詳しく議論したこと。

この実験のことを知ったいきさつをちょっと。

先日、Rutgers 大に行ったとき、Spohn から、1次元の driven diffusive system におけるカレントの異常なゆらぎの仕事についての話を聞いた。 おお、こりは面白いし、佐々さんや林さんの最近の仕事とも関連が深いじゃないかと思ったので、月曜に駒場に行ったときにコーヒーを飲みながら、その話を軽く紹介した。 そしたら、やっぱり関連は深いわけで、佐々さんはそのあたりの話には完璧にピントがあっていて、85 年あたりの Spohn らの論文にさかのぼって、ばっちり知っていた(それでも、ぼくが伝えたなかに佐々さんの知らなかったこともあったんだけど)。 というわけで、ぼくが知らなかったことを色々教えてくれたついでに、なんと、この前の学会で小松さんが話した小松・中川の新しい実験結果では、このカレントゆらぎに対応する異常拡散がみえているようなのだと教えてくれた。 学会では、佐々さんがその関連の可能性を指摘し、大いに盛り上がっていたのだそうだ。 なんか、江戸の敵を長崎で、というか、またしてもシンクロニシティというか、ともかく、物理は愉しいわい。

というわけで、火曜日以降は、関連論文をいっぱい勉強しながら、小松さんに実験の詳細を教えてもらって、矛盾に悩んだり、解釈したり、新しいデータ処理の方法を相談したりと、大いに楽しんだ(今も、継続中)。 丁寧できれいな実験結果、きわめて頭のいい解析、そして、驚くべき結果。 三拍子そろって、素敵である。


今日も大学に行けば雑用があったような気がするが、面倒なことはいっさい忘れることにして、さぼってずっと家にいることにする。

ようやく非平衡系に対して自分なりの勘が育ってきたところで、前々からずっと懸案の課題だった Spohn の本の後半に真面目に取り組む。 家にこもって、ひたすら本だけを読んだ。 前にざっと眺めたときは、ピントのあうところはほとんどなかったのだが、さすがに、こちらの知識と問題意識が飛躍的に増えているので、一生懸命に読むとちゃんと意味がわかる。 なるほろ、こういうことが書いてあったのか、gradient condition ってのはあれのことか、こういう限定でこういう技術でこういう定理を証明するのか、と久々にひたすら真剣に勉強する私。 (ショックのプロファイルの詳細とか)未だにピントの合わないところは適当にすっとばしながら、ともかく、本の後半の全体像は把握できたと思う。 お勉強フェイズに入ったところで、こちらも懸案の McLennan の本の一部(McLennan-Zubarev measure のところ)を読んでみる。

McLennan-Zubarev measure について McLennan と Spohn の本を見比べつつ悩んでいるうちに、ふと、Raphael とぼくの摂動論の構造が前よりもよく見えるような気がした。 お勉強フェイズにも飽きてきたところなので、ちょっと考えてみると、境界に化学ポテンシャルの差をつけて流れを駆動する格子ガスについいても、自然な摂動論が作れそうだということが、あっさりと、わかった。 前に Raphael が提案したときは、簡単にはできないと結論したのだが、なんでそう思ったんじゃろ?  単に前は物理(および、自分の開発したテクニックの意味)が見えきっていなかったということだろうけど、こうやって、直接には関係ないお勉強をして人の考え方で物事を見たりすることで、頭がゆさぶられて、ものの見方の自由度が増し、あっという間に視点が広がるんだろうな。 こういう風に、自分の世界が微妙に広がる感じって、なんというか、生理的に快感です。

しかし、「常識」がつくほどに、driven lattice gas での長距離相関のべきが謎。 1次元では長距離相関がないという「常識」は、おそらく、嘘なのだが、2次元以上で信じられている r^{-d} の減衰は、われわれの摂動計算の結果とは合わない。 通常のセミマクロな論法でどうやって r^{-d} という結果がでるのかというのも、今日、理解したことのひとつ。 ううむ、たしかに、何も変なことがなければ r^{-d} になるなあ。 しかし・・・


4/30/2004 (金)

あわただしいとか言っているうちに、四月もおわりになってしまった。 本当にあわただしいわい。


今日は、夏休みにある「物性若手夏の学校」のテキストの(本当の?)締め切りだったのだ。

まだ四月で、ぜんぜん「夏の学校」という気分になれないから、そんな原稿は書けない --- などと言って延ばし延ばしにしていたのだが、今日は、そんな私にプレッシャーをかけるかのように、初夏を思わせる暖かい気候。 お天気にも励まされて、原稿を完成。 ちょうど最後の見直しをしていた時、K 君がやってきて、今年の卒業研究をぼくとやることになったと言う。 スケール不変性などに関心があるというので、なにか手始めに読む物はないかなと考え、あ、そうか、と、できあがったばかりの夏の学校のテキスト草稿を読んでもらうことに。 「なんで夏の講義のテキストの締め切りが四月なんだよっ」と秘かに(でも、ねえか)怒っていたのだが、期せずして役立ったのではないか。


高校生の娘が、家で、自らの服装を評して
「昔の人みたい」
と言っている。

なにか、布でも巻いて弥生人のような姿(?)でもしているのかと思ったら、そうでもない。 普通に、シャツとジーパンだった。

ただし、

「シャツの裾をジーパンの中に入れている」
ので、「昔の人」だそうだ。 いや、昔と言うが、ぼくらが若かった頃は・・・



やっぱ、昔か。
中学生の息子がクラブに新入生を勧誘するビラをつくっていて、
デモストやってます!
と書いている。

「デモンストレーション」を「デモスト」と略してしまうのか。

まったく昨今の若者の略しすぎにも困ったものだ。 だいたい、「デモスト」では、「デモ」と「スト」みたいじゃないか。



と思ったが、よく考えると、「デモ」は「デモンストレーション」略か。

略しすぎなのはあんたらだ、昔の人よ。


小松さんの実験との関連で、個々の粒子が t^{4/3} の異常拡散をみせるような d=1 driven diffusinve system を作りたい。 昨夜の佐々さんとのメールのやりとりで、指針はわかっている。 最近身につけた gradient condition の知識を活かし、このモデルでこのパラメターと、ピンポイントで指し示してやろうと構想。 よーし、いけるぞ、これだ、と思ったが、よく調べると、まさに gradient condition のために、粒子の平均速度が密度の線形な関数になってしまっている。 ぐへ、これじゃ、だめなんだ。

前の月へ  / 次の月へ


言うまでもないことかもしれませんが、私の書いたページの内容に興味を持って下さった方がご自分のページから私のページのいずれかへリンクして下さる際には、特に私にお断りいただく必要はありません。
田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp