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揺動散逸定理の量子破綻

清水明
(本講演は藤倉恭太との共同研究にもとづく)

線形非平衡統計力学の基本原理とさえ言われる揺動散逸定理だが、それにどんな意義を見いだすかは人それぞれだろう。筆者の場合は、外場に駆動された非平衡状態において測定される応答関数と、外場のない平衡状態において測定される平衡ゆらぎという、まったく別々の独立な実験結果が、普遍的に結びついていることに最も大きな輝きを感じる。ところが、その観点から勉強してみると、量子系については、実は理論も実験も根拠が薄弱であることが判る。それは無理もない面もある。線形非平衡統計力学が盛んに研究されていた頃には、この問題に答えるために必要な、量子多体系の理論も量子測定理論も未発達だったからだ。しかし、今やこれらの理論は十分に発達したと言えるので、我々は、この長年の未解決問題に決着を付けるべく、理論解析を行った。その結果、揺動散逸定理は、古典系では完璧に成立するものの、量子系では部分的に破綻してしまうことが判った。

References:
K. Fujikura and A. Shimizu, Phys. Rev. Lett. 117, 010402 (2016).
A. Shimizu and K. Fujikura, arXiv:1610.03161.