
1.高等教育改革の推進と新たな教育・研究組織の創設
(1)大学の専門大学院創設と既設大学院および学部教育の充実
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本計画における重要課題の一つが、法科大学院の開設の検討である。国際化・情報化などにより複雑に変動する現代社会において、高度専門職業人の育成が大学に強く求められている。このような社会的要請に応え、このたびの司法制度改革に関連して法曹養成に特化した法学専門教育を行う法科大学院の開設を検討することが必要である。また同様の観点から、ビジネススクールについての検討も必要である。 以上のような専門大学院の創設や既設大学院の改革を進めることは、学部教育の改革に対しても波及効果が大きい。大学院教育を視野に入れたカリキュラム改革を通して、より魅力のある学部教育をめざし充実を図るとともに、学部・学科の再編成についても検討することが必要である。
これらのために必要な施設設備は、教育・研究プログラム上の必要性をよく見極めながら整備するものとする。 |
(2)女子大学の大学院創設と学部教育の見直し
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大学における専門大学院の創設と並ぶ重要な課題が、女子大学の大学院開設である。ユニークな学部教育を基礎とする女子大学の大学院は、国際文化交流に関する高い専門性を有する実務家を養成することを目的とし、そのために特に実践的教育プログラムに重点を置くことが望ましい。 大学院の開設に際し、学部教育の見直しを行うこととし、現在の2学科体制については、両学科の個性を残しつつもカリキュラムの共通部分を拡充する方向で、教育プログラムの再編を検討することとする。 また以上のような大学院開設・学部教育の見直しに伴って、特色のある教育プログラムを展開する上で必要とされる新教室棟の建築など施設設備の整備を行いたい。
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(3)教育方法の改善
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大学院・学部教育の充実のためには、授業方法の改善が不可欠である。討論やプレゼンテーション等を通して、学生が自ら問題を発見し、多様な観点からその問題に接近することができる能力を育成するための斬新な授業方法の開発に努めることとする。マルチメディア教室もこのような授業方法の改善の一環として、高密度の授業を効率的に行うために活用されるべきである。教員の教授能力の一層の向上を図り、授業の内容や方法の改善に資するためのファカルティ・ディベロプメントを積極的に行うことも必要である。学生一人ひとりに対するきめの細かい指導を行うためには、ティーチング・アシスタント、リサーチ・アシスタントの活用が必要である。 なお、演習室、自習室、実験室等の狭隘化や実習施設の老朽化の現象も見受けられるので、既存施設の活用を含め、その整備・充実を図ることが必要である。 |
(4)教育環境の向上
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創造性豊かな学生を育てるには、自発的な勉学、研鑚を促すことが必須である。その一環として、学習院の持つ豊富な図書資料、歴史資料、電子媒体資料等を適切かつ効率的に保存・提供する体制を整備し、学生にとってより優れた教育環境を創出することが必要である。 平成13年度には、人文科学研究科心理学専攻の臨床心理学コースが、臨床心理士受験資格のための指定を受けたが、今後さらに各種資格取得の要望に応えるための講座を設置することも検討することとする。大学・女子大学においては、同じく平成13年度から学生の学習機会の拡大等を目的として、日本女子大学・立教大学・早稲田大学との間で5大学間交流協定を締結し、学生交流と単位互換が始まったところであり、さらにその活用を進めることも大切である。なお、一部の研究科ですでに実施されている飛び入学制度の拡充についても検討することが必要である。 |
(5)特色ある独創的・先端的研究活動の推進
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従来から人文・社会・自然の各分野にわたり、さまざまな特色ある研究が行われており、大学の理学部においては、ハイテク・リサーチ・センターの事業や未来開拓学術推進事業なども実施されてきている。今後とも、これらの研究業績を踏まえ、学習院の特色を生かしつつ、わが国の学術研究の推進に寄与する独創的・先端的研究活動を推進することが重要である。 |
(6)教育・研究における社会との連携
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今日、高等教育と社会との連携・協力を図ることが強く求められているが、大学および女子大学においては、専門的な実務経験者を任用する特別客員教授制度、特別専任教授制度等が実施されているところであり、今後、さらに、これらの制度の積極的な活用などによって、産学連携による共同研究を行うことも必要である。また、このような社会との連携は、研究の分野に止まることなく、教育の領域においても推進されるべきである。学生が企業や各種公共団体等で研修の機会を持つインターンシップ制度の確立が急がれる。 |
(7)自己点検・評価体制の充実
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高等教育改革の推進および新たな教育・研究組織の創設にあたっては、厳しい自己点検が必要である。すでに大学等から自己点検・評価の一環として報告書が出されているが、自己点検・評価体制の一層の充実と自己点検・評価の結果の高等教育改革への活用が今後の課題である。第三者機関による評価の導入も検討すべきであろう。 |
2.少人数一貫教育体制の整備と初等・中等教育における新教育課程の実施
(1)学習指導要領改訂に基づく新教育課程の実施
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新しい幼稚園教育要領が平成12年度から実施されたことに引き続き、改訂された学習指導要領に基づき、小学校・中学校については平成14年度から、高等学校については平成15年度から、それぞれ新しい教育課程が実施される。これを契機に、幼稚園、初等科、男女中・高等科のカリキュラム・生徒等指導体制の連携強化、習熟度別授業など児童・生徒の学力差への対策の強化等を図り、一貫教育の一層の充実をめざすこととする。 その際、新設される総合的な学習の時間の活用などにより、学習院の学校としての特色ある教育を積極的に展開するとともに、家庭教育との連携についても一層の強化に努めるものとする。 |
(2)学校週5日制への移行
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幼稚園・初等科は、平成14年度から学校週5日制を本格実施する。これに伴い、基礎・基本の学習に一層努力し、豊かな人間性や自ら学び自ら考える能力などの「生きる力」の育成を図ることとする。なお、年間授業時数をできるだけ確保するため、初等科においては、短縮授業を廃止することとする。 中等科および女子中等科については、平成15年度から学校週5日制に移行することを目途として、準備を整えることとする。 高等科・女子高等科については、教育課程の編成上、なお検討すべき問題があるので、引き続き検討を継続することとする。 |
(3)少人数教育の推進
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男女中・高等科は、1学級45人から40人による一貫教育体制へ移行したところであるが、初等科では、現在1学級44人編制となっている。国公立の小中学校では、義務教育標準法の改正に伴い、40人以下の学級編制となっており、学習院としても財政状況を勘案しつつ、今後とも40人以下の学級編制をめざして少人数教育の推進に取り組んでいく必要がある。 また、現在、英語、数学の教科などで行われている分割授業は、きめの細かい指導が可能であるので、生徒の学力向上をめざし、その活用をさらに進めることとする。合わせて、教科によってはティーム・ティーチングを活用することにより、授業を効果的に進めることも必要である。 |
(4)学校間の連携の強化
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一貫教育をより効果的に行っていくために、幼稚園から大学までの学校間の連携をより一層強化しなければならない。そのため、教員間の交流の活発化、男女中・高等科における学校運営の一体化の促進を図るとともに、教科単位の学校間連携の場としての教科連絡会の活性化、一貫教育推進委員会のあり方ならびに進学基準などについても検討する必要がある。 また、一貫教育の趣旨に基づき、両大学へ男女高等科の生徒が多く進学するよう、各学校ともに魅力ある学校づくりに努力することが肝要である。そのためには、大学・女子大学と男女高等科が連携しながら、両大学への両高等科生徒の授業聴講制度の導入や男女中・高等科の生徒などを対象にした大学教員による授業を実施することなどにより、大学・女子大学の学部・学科の内容や学校生活等について、積極的な周知を図ることが必要であり、これらについて両大学と両高等科の間で具体的な協議を進めることとする。 |
(5)教員研修の充実
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各学校における教育の充実を図るためには、教員が学内外や海外での研修を通じて指導能力を向上させることが必要である。幼稚園から男女両高等科までの教員を対象とした研修には、短期・中期・長期の海外および国内研修制度があり、東京都および私立学校関係団体などが開催する研修会もあるが、すべての教員ができるだけ研修に参加し、研鑚に励むことができるよう配慮するものとする。 |
(6)教育改革の推進に伴う施設設備の整備
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少人数教育推進のために分割授業の拡充や学級編制の規模を検討しなければならない初等科については、必要な施設設備の整備を進めるとともに、女子中・高等科などについても、よりきめの細かい授業を行っていくために、施設設備の整備を図ることが必要である。 |
3.国際交流の促進と支援制度の充実
(1)国際交流の基盤整備
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国際交流基金は、多くの寄付者の支援を得て、現在約20億円の基金を確保するに至っている。教員・学生などの国際交流を促進するための基盤整備として、国際交流基金の充実を図るとともに、両大学と外国の大学との交流協定の締結の推進が重要な課題である。ただしその際、量的な拡充と同時に、質的な内容の充実について十分配慮することが必要である。 |
(2)国際交流体制の整備
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国際交流の促進にあたっては、外国人教員の招聘や教員の海外派遣、ならびに留学生の受入れや派遣などの体制の整備や語学教育の充実促進が肝要である。このために大学国際交流センター・女子大学留学生センターの事業の充実が必要であり、また、大学の外国語教育研究センターや霞会館イングリッシュセミナーなどの事業を行っている女子大学語学教育センターの充実・活用を推進するとともに、日本語講座の充実など、外国人留学生の日本語能力の向上を図ることとする。外国人留学生にとってのさし迫った問題である宿舎の確保を図るため、国際交流の拠点ともなりうるインターナショナル・ハウスの整備について引き続き検討する。 また、男女中・高等科などにおいても、留学生の受入れ・派遣や海外語学研修ならびに海外からの帰国生徒の受入れ等が実施されており、これらの一層の充実が望まれる。 |
(3)留学生交流への支援拡大
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留学生交流を推進するにあたっては、奨学金制度の整備が極めて重要である。国際交流基金の充実を図りつつ、受入れ・派遣ともに奨学金制度を整備し、留学生交流の支援を拡大することとしたい。なお、「広く薄く」ではなく、明確で具体的な留学目的を持つ意欲的な学生を重点的に奨励するような奨学金制度の整備を図ることとする。その際関係団体等の実施する奨学事業にも十分配慮するものとする。 |
4.情報教育の有機的連携と高度情報化の推進
(1)情報教育の有機的連携
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今日、コンピュータを活用する情報教育の必要性が急激に高まってきており、新学習指導要領においては、小学校段階からコンピュータの活用を行うこととなり、高等学校では平成15年度から「情報」が必修科目となる。一貫教育を行っている学習院では、学校間の有機的な連携を通して、初等科から大学までの情報教育を効果的に行うものとする。 各学校の情報設備の整備については、当該学校と大学計算機センターおよび情報ネットワーク委員会で連絡・調整する。情報教育については、教科連絡会等を通じて、有機的な連携を図らなければならない。
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(2)高度情報化の推進
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情報化は、日本のみならず世界各国で急速に進展している。学習院としても教育・研究の基盤としての情報化を一層高度なものにしていかなければならない。 各学校の情報設備は、情報教育の高度化のためにもマルチメディアの設備を含めて整備・充実を図ることが必要である。また、ネットワークシステムの高速化をさらに進めることとし、状況により無線LAN(Local Area Network)を導入する。図書館・図書室については、初等科で図書システムの導入を進めることとし、図書システム導入後の対応が遅れている学校については、体制の整備を図らなければならない。広報強化と在学生等の利便性から、学習院のホームページをさらに整備・充実していく。 |
5.課外活動・環境教育等の充実と学校生活環境の整備・改善
(1)課外活動の充実と関連施設の整備
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生徒・学生にとって、教科等の学習活動とともに、スポーツ・文化活動など課外活動は重要であり、恵まれたキャンパス環境の中でのゆとりある教育と活発多彩な課外活動こそ、学習院の教育を特徴づける2つの柱である。新部会室棟として富士見会館が竣工し、現在、新教室棟の地下にトレーニングセンターの建設も進められているが、特にスポーツ活動については、運動種目の多様化もあって、キャンパスは狭隘となり、関係施設設備も新たなニーズに対応し難くなりつつある。今後、これら施設設備の立地をも含めた整備計画を立て、資金面への配慮に呼応した年次計画のもとに改善を図っていきたい。 |
(2)環境教育・体験学習等の重視
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環境問題は世界的に関心を集めているところであり、学習院でも女子大学の環境教育センターが中心となり、環境教育に取り組んでいる。環境教育は今後ますます重視されると思われ、学習院全体として環境教育への取り組みを強化することが望まれる。 また、近年は体験学習・自然学習等の重要性が言われており、特に幼児・児童・生徒の学習にあたっては、キャンパス内での緑の整備も必要である。なお、学習院には校外施設として沼津游泳場、八幡平松尾校舎などがあるので、これら施設の一層の活用を考える必要がある。 |
(3)奨学金制度の拡充
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生徒・学生の中には、経済的な事由により勉学に専念できない者も増えつつある。大学・女子大学は、こうした学生に対し、平成14年度から従来の学習院奨学金を人数・貸与額等大幅に拡充した、新しい貸与奨学金制度を開始することにしたが、今後とも経済状況に対応しつつ、勉学に専念できるよう奨学金制度を整備する必要がある。 |
(4)就職活動の支援
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この数年、大学生の就職は、経済状況を反映して非常に厳しいものになっている。就職部のみならず、関係教職員も就職部と協力して、さまざまな機会を通じて就職活動を支援していかなければならない。特に、女子大学は平成13年度から最初の就職活動が始まったところであるが、早急に各方面からの支援の充実を図らなければならない。 |
(5)保健管理の充実
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幼児・児童・生徒・学生・教職員などが、心身ともに健康で学校生活を送り、教育・研究に携わることができるよう、保健管理を充実するとともに、カウンセリング機能を含めて保健センター構想を検討していく。カウンセリングについては、大学の学生相談室、女子大学および女子中・高等科のカウンセリングルーム(C.A.T.ルーム)において活発な活動が行われているが、初等科・中等科・高等科においてもその充実が必要である。 |
(6)防災・災害対策の充実
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幼児・児童・生徒・学生等の生命、身体の安全確保は、学校の基本的な最重要課題である。校舎等の耐震補強工事の継続などハード面での対策に加え、防災・災害対策における各学校および法人本部間、さらに行政機関を仲介とした地域との協力関係の構築などソフト面での諸対策を推進することとする。 |
6.生涯学習体制の拡充
(1)生涯学習センターの拡充
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生涯学習センターは、約2年間のパイロットスタディーを経て、平成11年4月、新たに取得した西11号館にて、カルチャー、エクステンション、マネジメントの3つのドメインを柱に正式発足した。3年を経て、その内容・規模の充実とともに受講生数も順調に伸びてきた。今後はさらに、他大学、民間カルチャーセンターの動向や経済状況等を眺めながら、常により多く社会のニーズに応えられる講座を提供していくことが、生涯学習センターの使命である。その具体策として、ビジネスマンを対象としたマネジメント・スクールの拡充、学生への進路支援および社会人のキャリアアップ等を視野に入れた資格取得関連講座の拡充、学校週5日制移行にあたっての児童・生徒等を対象とした講座の提供、夜間・土曜日講座の拡充、学内諸施設の有効利用等を検討する。 |
(2)社会人教育の推進
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社会における生涯学習への意欲の高まりに伴い、開かれた学校が求められている。生涯学習センターの拡充とともに、社会人などを対象とする「学習院公開講演」、「学習院大学公開講座」、「学習院女子大学戸山セミナー」などの実施を推進する。 また、大学・女子大学においては、すでに社会人を受け入れているが、社会人の再教育や専門的な勉学の場としての要望が強いため、大学院を含め大学・女子大学への社会人入学を促進していくこととする。 |
(3)学校週5日制等に対応した生涯学習の推進
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学校週5日制への移行にあたって、土曜日・日曜日を利用してさまざまな学習や体験活動を行い、個性豊かな人間形成を図ることが求められている。このため、生涯学習センターなどにおいて、児童・生徒等を対象とした学習や体験活動を行う講座の開設等を検討することが必要である。 また、生涯学習の役割の増大に対応して、学校施設の利用等、卒業生・父母へのサービスの充実を図る必要がある。 |
7.学習院の歴史・伝統の継承
(1)学習院の歴史・伝統を踏まえた教育活動の推進
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学習院は、弘化4年(1847年)に京都で開講されて以来、150有余年の歴史と伝統がある。こうした歴史と伝統を継承しつつ、風格ある自由な校風のもとに、戦後は政治、経済、社会、文化、教育などの諸分野で優秀な指導者となり得る人材を養成することを目的として、教育が行われてきた。今後も各学校において、このような歴史と伝統を踏まえた教育活動を推進していくことが肝要である。 |
(2)女子中等科・高等科創立120年事業の実施等
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学習院には女子教育の長い伝統があり、女子中等科・高等科は、平成17年(2005年)に、華族女学校創立以来120年目を迎えることとなる。このため、記念式典などの開催と「女子中・高等科120年史」の刊行等を計画している。この創立120年を契機に、女子中等科・高等科における教育の一層の充実を図ることとする。 |
(3)歴史的建造物・文化財の保存と活用
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学習院には、戸山キャンパスに国の重要文化財に指定されている旧学習院正門(女子大学、女子中等科・高等科正門)をはじめ、歴史的建造物や文化財も少なくない。その保存に努めるとともに、各学校における教育活動等で、これらの活用に努めるものとする。 また、学習院の長い歴史の中で蓄積されてきた史料や標本類などには、学習院ならではの貴重な資料も多く、さらに大学五十年史編纂などの際収集された文書・資料もある。これらの保存・公開などについて、「学習院博物館」構想を含め検討を進めることが必要である。 |
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