経済最適化問題を例とする数学Web教材自動作成システム

 

白田 由香利

 

1頁】

近年の大学教育におけるWeb教材利用の拡大は顕著であるが,他方,そのWeb教材作成の手間及び専門知識の習得に時間が掛かり,教育現場の問題となっている。我々は,XMLXSLTなどのセマンティックWebの技術を用いて教材の自動生成をはかり,この問題を解決しようと考え,e-MathシステムEBLバージョンを開発している。本システムの特長は,教師が最低限の,文章題に関するメタレベル記述を記載し,それをシステムに入力すると,自動的にXMLファイルが生成され,指定のXSLTを通してWebブラウザ上に教材が表示される点である。一般に数学教材のWeb化は,数式の生成表示が困難なため,他のWeb教材に比較して困難と言える。その問題を解決するため,本システムでは数式処理システムMaple及び,数式表現生成システム Equation Serverを利用している。これらの機能により,教師は数学の細かい計算及び,その数式表現のWeb化に伴う煩雑な作業から解放され,さらに,コンピュータ知識がない教師でも仮想キャラクタを用いた学生との会話機能をもつWeb教材が自動生成可能となった。本論文では,学生の視点からの本システム利用方法,及び,教師の視点からの教材作成方法を説明した後,本システムの構成と機能を概説する。また,本研究のロードマップと関連研究についても言及する。

キーワード:セマンティックWebXMLXSLTWeb教材,自動生成,知識ベース,数式処理,経済最適化問題

 

Web-Based Mathematical Learning Material Automatic Generation System for Economical Optimization Problems

 

Yukari Shirota

2頁】 

Today, an increasing number of universities use distance learning systems by using World Wide Web. However, there exists a cost problem for teachers to develop learning materials. It takes a lot of time, practice, and devotion for teachers. To solve the problem, we have developed an automatic generation system which is called e-Math EBL version. The system automatically generates mathematical learning materials using the Semantic Web technologies such as XML and XSLT. The teacher has to only to write the minimum information of the target problem as a meta-level description file. The system then executes the remaining material generation transactions, which includes generation and displaying XML files through XSLT stylesheets. In general, it is more difficult to develop mathematical Web contents. The reasons are (1) it takes a lot of time to represent mathematical expressions, and (2) it is difficult to display the mathematical expressions on Web browsers. To solve the problem, our system has used a mathematical software Maple and a mathematical presentation system named Equation Server. As our system invokes these systems as sub modules, any teacher can develop his/her own mathematical Web-based learning materials without other person’s help. Then the teacher would be released from tedious XML programming work to devote his/her energies to more creative work. In this paper, how to learn on the generated learning materials from a student’s viewpoint and how to create the learning materials from a teacher’s viewpoint are explained. Then the system architecture and functions are described. In addition, we will explain this research road map and the current status, and related work to implement our research goals.

Keyword: Semantic Web, XML, XSLT, Web-based learning materials, automatic generation, knowledge base, mathematical symbolic processing, economical optimization problem

 

 

1.はじめに

 

近年の大学教育におけるWeb教材利用の拡大は顕著であるが,他方,教師にとってその教材作成の手間及び専門知識の習得に時間が掛かり過ぎる点が教育現場の問題となっている。我々はこの問題解決のため,XML,XSLTなどのセマンティックWebの技術を用いて教材の自動生成をはかる,e-MathシステムEBLバージョンを開発している,,。本EBLシステムの特長は,教師が最低限の,文章題に関するメタレベルデータを記載し,それをシステムに入力すると,自動的にXMLファイルが生成され,指定のXSLTを通してWebブラウザ上に教材が表示される点である。従来からRDFXLTのセマンティックWebの技術を用いて教材を自動生成する研究はあるが,本システムでは,仮想キャラクタによる会話機能もXSLT上のプログラミング機能として予め定義してあること,及び,数学の公式や経済の概念・知識などを予め知識ベースに格納し,その公式を組み合わせて,ゴールである関係式を推論させること,及び,数式処理システムは,Web上の数式表現(MathMLやイメージファイル)を生成する機能を実現したことが挙げられる。これらの機能により,教師は数学の細かい計算及び,その数式表現のWeb化に伴う煩雑な作業から解放される。また仮想キャラクタ機能をもつWebコンテンツの作成は,多大なコンピュータ知識を必要とするため一般に難しいが,本EBLシステムでは,こうしたコンピュータ知識をもたない教師でも仮想キャラクタを用い3頁】た学生との会話機能を自動生成可能とした。

EBLシステムの基盤システムであるe-Mathシステムは2001年から,またその拡張版である本EBLシステムは2003年10月より学内限定でWeb公開してあり,学生が利用可能となっている10。教材内容は,著者が担当する経営数学1及び2の内容に準じており,その補助教材として学生に活用されている。

本論文では,次節で,学生の視点からの本システム利用方法,及び,教師の視点からの教材作成方法を説明した後,第3節で本システムの構成と機能を概説する。第4節では本システムの研究のロードマップと現在の状況,及びその実現のための関連研究について言及する。

 

2.e-Math EBLバージョンInteraction Agentの仕様

 

本節ではe-Mathシステム EBLバージョンの仕様を学生及び教材作成する教師の視点から解説する。本論文では,本システムをそのメインプロセスの名前を取ってInteraction Agentと以後呼ぶこととする。Interaction Agentの扱う数学問題は,経済最適化問題である。

 

2.1 生成されたWeb教材の利用法

まず,学生の視点から自動生成されたWeb教材の利用方法について述べる。Interaction AgentWeb教材を自動生成することを特長とするが,生成されたWeb教材を利用する学生にとっては,普通教師が手でプログラミングしたWeb教材の利用と差異はない。Interation Agentでは,最適化問題1問につき,4枚のWebページを生成する(図1~4参照)。Webページ上には仮想キャラクタの教師が表示され,仮想教師は学生に質問したり解法の説明などを行う。学生は,画面右下のOKボタンを押すことで次の画面に進める。

1で示した最適化問題は経済数学における典型的な問題である利潤最大化問題である11。この問題では,収入(revenue)R,及び生産コスト(cost)Cを表わす2式が与えられており,利潤(profitΠを最大化する生産量(quantity)Qの値を聞いている。そのため,学生はΠの関数式Π()をまず求める必要がある。仮想教師のガイダンスにあるように,そのためには,関係式 Π=R-Cを知識としてもっている必要がある。一般に最適化問題の解法のために必要となる関係式は複数である。

次に複数の関係式及び,問題として与えられた式を解くことにより,ターゲットとなる利潤Πを生産量Qの関数として表現する(図2参照)。この計算はシステム内部では数式処理システムMapleによって実行されている。この計算過程が理解できなかった学生を支援する機能として図2の画面にある"More Detail"ボタンが用意してある。このボタンを押すことでMapleが計算した結果及び途中の計算プロセスを画面に表示できる(図2の右側のウィンドウを参照のこと)。

以後の解法手続きは,数学の一般的手法である最大値発見手法に従う。つまり利潤Πの式を生産量Qで一階微分して,極値を求める。これを示した画面が図3である。その後,極値のうち最大値となるものがあるか判別する。これに対応する画面が図4である。図3に示すように,微分の詳細過程を示すため"More Detail"ボタンが生成される。また図4では,グラフを表示し,4頁】グラフ上でその最大値をマークしてある。グラフは"Graph"ボタンを押すことで表示される。このステップバイステップな微分計算過程,及びグラフはMapleを使って作成した。

 

図1:最適化問題教材の1ページ目の例

 

図2:最適化問題教材の2ページ目の例

 

5頁】

図3:最適化問題教材の3ページ目の例

 

図4:最適化問題教材の4ページ目の例

 

 

 

2.2 Web教材の作成法

次に上述したような最適化問題のWeb教材を作成する方法を教師の視点に立って説明する。

教師は図5に示すメタレベル記述ファイルを作成し,Intearctive Agentシステムに入力する。教師の作業はこのファイルを書くだけである。残りのXMLファイル作成などの作業はシステムが自動的に行ってくれる。

 

6頁】

図5:メタレベル記述ファイルの例

 

メタレベル記述ファイルは問題定義及びその解法を指定するための最低限の情報である。こうした数学問題を定義する方式は数学問題一般に適用可能である。

(1) 与えられたデータと条件は何か。(属性dataで定義し,givenで指定)

(2) 未知データは何か。(属性unknownで指定)

(3) 与えられたデータと未知データの間の関係は何か。(属性relationshipで定義)

(4) 解法プランはどのようなものか。(属性findで指定)

属性dataの値は以下の四つ組である。

(名称,シンボル,数式,条件式)

関係式が複数ある複雑な問題例を以下に示す。

Given1)1個当たりの平均費用関数AC=AC()

Given2)価格Pと取引量(生産量)Qの関係を表わす需要関数f(,)0

Relationship1)利潤=収入-費用,                      Π=R-C。

Relationship2)収入=価格×取引量                   R=P×Q。

Relationship3)平均費用=費用÷取引量           AC=C÷Q。

この問題は,平均費用関数式と需要関数が与えられた時の利潤を最大化する問題である。この問題では,解法に必要な関係式が上記のように3つ存在する。これらは問題中には提示されず,学生が経済知識として知っていることを前提としている。こうした複雑な問題もInteration Agentは記述可能である。

現在のInteration Agentは問題対象を最適化問題一般としている。よって対象は経済学だけでなく,高校数学で勉強する図形に関する最大化問題なども記述可能である。図形に関する最7頁】適化問題では,問題の文章だけでは理解が難しいことがあるので,メタレベル記述ファイルの仕様を図6のように拡張した。図6に示す最適化問題は,球に内接する円錐を最大化する問題である。属性 figureに表示したい図のファイル名を記載することにより,それに対応する"Figure"ボタンが追加生成される。我々はInteration Agentの最適化問題記述能力を試すために,世界的に広く使われてきた数学のテキスト3冊12,13,14に載っている最適化問題50題を記述し実際にWeb教材を自動生成した。この結果,問題なくWeb教材が自動生成できることが確認できた。

 

図6:問題説明に図を挿入する場合のメタレベル記述ファイル

 

一般に教師が数学問題を作成する場合,数式の係数を学生が解き易いように調整する手間が大きい。実際にWeb教材化する場合,内容及び表示レイアウトなどを含めて調整し完成されるまでには多大な人的コストを必要とする。しかしInteration Agentを使うことにより,それらの煩雑な作業が自動化されるので,教師はWeb教材アプリケーション作成が容易に行えるようになる。

 

3.Interation Agentシステム概要

 

本節では我々の開発したInteraction Agentシステムの構成及び機能について説明する。本システムは,学生が問題を選択すると,対応するメタレベル記述ファイルが選択され,それを入力として教材が逐次動的に生成され,Webブラウザ上に表示される。本e-Mathシステムの最終ゴールは,学生に対する仮想教師のきめ細やかな自然なガイダンスを実現することである。そのため学生の反応に応じて教師側の対応を動的に変化させる必要がある。そのための,学生からの入力を受け取り,動的に教材を生成するEBLシステムのメインプロセスをInteraction Agentと呼ぶ。Interation Agentの内部フローを図7に示した。

8頁】

図7:Interaction Agentシステムの内部フロー

 

我々の開発したInteraction Agentは入力されたメタレベル記述ファイルのみから,対応するXMLファイルその他の関連ファイルを自動生成する。その際に,以下のサブモジュールを必要に応じて呼び出す。

(1) 推論エンジン(Prologインタプリタ)。

(2) 数式処理システム(Maple15)。

(3) 数式表現生成システム(Equation Server16)。

(4) Webページ生成機。

まず推論エンジンであるが,これは知識ベースに予め経済学関係式や数学の公式などの知識を蓄積しておき,それらの知識を知的に処理して問題解決のために利用するためのものである。現バージョンのInteration Agentでは直接,教師が問題解決に必要な関係式を,そのメタレベル記述ファイルに記載するようになっている。しかし次期バージョンでは,これらの関係式は知識ベースにルールとして格納し,Prologを使って推論し求めたい式を導出させる予定である。現在,関係式を一般的なルールとしてどのようなスキーマで格納すべきか,関係式に関連するデータの効率的検索実現のためのメタデータ付加の方式などを検討している。

次に数式処理システムについて説明する。数式処理システムは,人間に代わって与えられた連立方程式や微積分などの数式を記号的に解くアプリケーションソフトウェアである。またグラフ描画機能や計算経過のステップバイステップ表現の作成機能などももっている。図7に示すようにInteration Agentプロセスは必要に応じて数式処理システムMapleを呼び出し,その計算結果のファイルをXMLファイルから参照している。第2節の仕様の説明にあった"More Detail"ボタンや"Graph"ボタンは,この計算結果ファイルを表示するものである。

9頁】次に数式表現生成システムを説明する。数式をWebブラウザ上に表示することは従来,容易ではなかった。しかし近年のMathMLなどの技術の発達により数式をWeb表示する技術が成熟してきた17Intearactive Agentシステムでは,MathMLを含む各種数式表現形式ファイルを生成するため,Equation Serverと呼ばれる市販のツールを用いている。Equation Serverが生成した数式イメージファイルは,XMLに埋め込む形でWeb上に数式を表示する。例えば,図8の上から2番目のXMLファイルの中に<img>"というXMLタグが在るが,このタグ値としてEquation Serverが生成したイメージファイル名が埋め込まれている。

残る最後のサブモジュールが,Webページ生成機である。このWebページ生成機はPerlで我々が開発したモジュールである。図7を使って自動生成の流れを説明する。まずメタレベル記述ファイルが入力されると,そのfind属性値(例:max)を見て,問題の種類を判別しそれに対応する問題解決プランを得る。現在用意してある問題解決プランは,最大値を求める最適化問題,及び,最小値を求める最適化問題の2つである。将来,例えば,ラグランジェの未定乗数法用のWeb教材を自動生成させたい場合,ラグランジェの未定乗数法の解法プランをデータベースに登録する。

最適化問題の解法プランは,ターゲットの数式を関係式を用いて書き表し,それを一般的な数学の極値問題の解法手続きにより解く,というステップを踏む。これを問題に対して具体化したものが自動生成された個々のWeb教材のページである。最適化問題は同じ解法プランをもっているため,それを4個のステップに分割し4ページのWebで表現することとした。Interation Agentは,各Webページを作成するため,それに対応する解法プラン関数(Perlプログラム)を解法プラン関数データベース(DB)から検索し,Webページ生成機の元で実行するという手順を繰り返す。この解法プラン関数には,解法のための(A)数学的手法アルゴリズム,及び,(B)その解法過程に対応するXMLタグの生成手法(具体的にはそれをprint文で書き表す)の2種類が記載されている。

将来的にはこうした問題解法プランも知識として知識ベースに登録したい。現在は解法プラン関数の中に,数学的手法アルゴリズムとそのXMLによるプレゼンテーション生成法,の2種類の異なる知識が混在しているが,これを分化して,数学的手法アルゴリズムは知識ベースのルールとして登録,他方,XMLによるプレゼンテーション生成法はPerlライブラリとして整備したいと考えている。

Web上でのプレゼンテーション方式は,予めXMLのタグとして定義してある。例えば仮想キャラクタの喋りに対応するXMLのタグとして「質問」,「回答」,の2種類のタグ“<Q>"<A>"が定義してあり,XMLタグ値の台詞を喋るようになっている。これらのプレゼンテーション方式をWeb上でどのように具体化するかについては,XSLTスタイルシートで定義する。よってXSLTシートを変更することで,その具体的表現方法は容易に変更可能である。このXSLTスタイルシートは予め作成して,スタイルシートDBに格納してある。本Interation Agentシステムにおいては,Microsoft Agent18による仮想キャラクタが使用されている。Microsoft Agentの制御はVBScriptプログラムによって行うが,この制御用プログラムを我々のシステムでは,XSLTスタイルシートに埋め込んである。よって,XSLTスタイルシートを変えることにより,この仮想キャラクタ自体を変更したり,どのような動作で喋るか等を変更することが可能である。

結果として,図8に示すようなXMLファイル,数式処理システム及び数式表現生成システ10頁】ムの出力ファイル,XSLTスタイルシートなど,ブラウザ上に表示されるべきコンテンツ群がシステムによって用意される。これをWebブラウザに入力することで,学生の見ている画面上に図1から4のようなWeb教材が表示される。

 

図8:Interaction Agentにより自動生成されたXMLファイル

 

4.研究ロードマップ及び関連研究

 

本節ではまず本研究の目標及びロードマップを示す。我々の研究目標は以下の3つである。

(1) Web教材の自動生成:誰でもがWeb教材を作成できる。

11頁】(2) Web教材の個人化:各学生の進捗度に合わせたWeb教材の個人化を図る。

(3) 人間教師が行うような質の高い対話及びガイダンスの実現:学生の能力を伸ばす良質な対話機構をシミュレートし,仮想キャラクタ上に実現する。

現在の状況は,(1)の自動生成機能について,対象を最適化問題とした上で本機能を実現したところである。(2)及び(3)はこれからの実現目標である。(1)の自動生成機能に対しても改良すべき点は多々あり,現在,学生からのアンケート結果を元に改良法を検討している。特に問題となっている点は,「複数の関係式から求める一つの式を計算する過程が,機械的で人間にとって分かりにくい」ということである。普通人間が式の変換を順次行う様子を,システムでもシミュレートしてほしいという要望である。現在の仕様では,与えられた式及び関係式を連立方程式として一気に解いて,求める式を計算している。しかし,この方法では人間の行うようなステップバイステップな,式の変換過程は生成できない。現在,我々はこの式変換過程生成を推論エンジンによってどのように実現するか,検討している。

次に目標(2)の個人化についてのe-Mathシステムの状況を述べる。我々はe-Mathシステムに学習トランザクションデータベースを付加し,学生の学習履歴をすべて記録している。e-Mathの学習履歴分析モジュールでは,履歴情報をデータマイニングなどの手法により解析し,次に提示すべき教材を自動選択可能である。この際,学生が間違った原因や状況を仮想教師が解説する機能をもつ19,20。この目標実現に関連した既存研究は多々ある21。特にハイパーメディアシステムの分野にAdaptive Hypermedia(略してAH)分野があり,ユーザモデルを適応することでユーザに適合したWebコンテンツの見え方を変更する手法が研究されている。そこでは各種のユーザモデルや関連コンテンツを情報検索する技法が提案されている22,23,24,25,26,27,28。また,教育を対象とするAHシステムとして,複数の教師によるを作成及び編集を想定した協調的な教材開発システムも盛んに研究されている29,30,31。上述した3つの目標のうち,最も研究が進んでいる分野と言えよう。

上述した3つの研究目標のうち最も実現が難しいものが(3)の教師ガイダンスの実現である。現在,我々は人工知能分野の機械学習方式による本目標の実現可能性を検討している。以上が我々のe-Mathシステムに関する研究の状況である。

次に目標(1)Web教材の自動生成の関連研究について述べる。我々のInteraction Agentは,最適化問題についてのWeb教材アプリケーションを,知識ベースとセマンティックWeb技術を用いることで自動生成することができた。現在こうしたWWW上のアプリケーション作成においてセマンティックWeb技術が広く使われるようになっている。これにより,コンテンツにメタデータを付加することにより内容の意味をプログラムに理解させ,高度な意思決定処理を実現することが可能となる。これを支えるメタデータ標準としてDublin Core32XMLRDFがある。

特に世界中で教材交換を行う場合,その互換性を保持するためメタデータ標準化は重要である。Web教材に対するメタデータとしては,IEEE Learning Technology Standards CommitteeLTSC)がDublin Coreの拡張として定義している"Learning Objects Metadata Standard"LOM33SCORMSharable Content Object Reference Model34IMSInstructional Management Systems35などがある。SCORMe-Learning技術標準化団体ADLAdvanced Distributed Learning Initiative)が,e-Learningのプラットフォームと教材コンテンツの標準規格として開発している。SCORMでは,LOMメタデータを付与し,教材の再利用を高めようとしている。最新版は12頁】SCORM Version 1.3ドラフトであり,日本語訳はALIC/先進学習基盤協議会のWebサイトから入手可能である36

こうした教材メタデータに基づき,RDFあるいはXLSTなどの技術を使ってWeb教材を自動生成する研究は多い37,38,39XSLTを用いて数学用Web教材を作成するシステムとしてはWME40がある。しかしこれら既存の研究では,XMLファイルに書かれたメタデータ値をそのまま利用しているものが殆どである。我々のInteraction Agentは,メタレベル記述ファイルという最低限必要な情報から,知識ベース上の公式や関係式を使い,数式や説明文などの情報を自動生成する点が新しいと言える。Interaction Agentでは,自動生成されたこれらの情報がXMLファイル上に埋め込まれるが,このXMLファイルを書く作業もプログラムが人間に代わって行っている。上述したWMEという数学用Webコンテンツ自動生成システムと我々のInteraction Agentを比較すると,以下のように言える。

(1)WMEWeb化する際にXSLT技術を用いて教師の手間を軽減するのみで,問題解決のプランを生成するなどの機能はない,及び

(2)教師がどのように対話して支援するかなど,教師の台詞の自動生成を含む対話的教材の作成機能はない。

 

5.まとめ

 

本論文では,XMLXSLTなどのセマンティックWebの技術を用いて教材の自動生成をはかるe-Math Interaction Agentシステムについて説明した。本システムの特長は,教師が最低限の,文章題に関するメタレベル記述を記載し,それをシステムに入力すると,自動的にXMLファイルが生成され,指定のXSLTを通してWebブラウザ上に教材が表示される点である。一般に数学教材のWeb化は,数式の生成表示が困難なため,他のWeb教材に比較して困難と言える。その問題を解決するため,本システムでは数式処理システムMaple及び,数式表現生成システム Equation Serverを利用している。これらの機能により,教師は数学の細かい計算及び,その数式表現のWeb化に伴う煩雑な作業から解放され,さらに,コンピュータ知識がない教師でも仮想キャラクタを用いた学生との会話機能をもつWeb教材が自動生成可能となった。本論文では,学生の視点からの本システム利用方法,及び,教師の視点からの教材作成方法を説明した後,本システムの構成と機能を概説した。本e-Mathシステムの研究には3つの目標があるが,本論文で述べた内容は,その1つ目の目標である自動生成機能について,対象を最適化数学問題に限定して実現したものに過ぎない。今後の課題は多く,本研究は発展する。今後とも学生の学習を効果的に支援するシステム機能の実現を研究していきたい。

 

謝辞 本研究の一部は,平成15年度科研費基盤研究(C)(2)「マルチメディア教育支援システムeMathにおける教育用データベースの構築」(課題番号:15606014,代表:白田由香利),及び,平成14年度(財)放送文化基金研究「マルチメディア教育支援システムe-Mathにおける対話エージェントの試作」による。ここに記して謝意を表します。

 

 

13頁】 

参考文献

1 W3C: XML, http://www.w3c.org/TR/xmlschema-2/.

2 Michael C. Daconta, Leo J. Obrst, Kevin T. Smith, and Leo Joseph Obrst: The Semantic Web: A Guide to the Future of Xml, Web Services, and Knowledge Management, John Wiley & Sons Inc, 2003.

3 W3C: XSL Transformations (XSLT) Version 1.0, W3C Recommendation 16 November 1999, http://www.w3.org/TR/xslt.

4 Thomas Passin: Semantic Web: A Field Guide, Independent Pub Group, 2003.

5 Yukari Shirota: “Applying XML and XSLT Techniques to Personalized Distance Learning System for Business Mathematical Education,” Proc. of The International Conference on Advanced Information Networking and Applications (AINA 2004), Fukuoka, Kyushu, Japan, March 29 - 31, 2004 (in printing).

6 Yukari Shirota: "Knowledge-Based Automation of Web-Based Learning Materials Using Semantic Web Technologies," Proc. of The Second International Conference onCreating, Connecting and Collaborating through Computing (C5), Kyoto, Japan, January 29-30, 2004 (in printing).

7 Yukari Shirota: "A Metadata Framework for Generating Web-Based Learning Materials," Proc. of The 2004 International Symposium on Applications and the Internet (SAINT 2004) Workshops, Tokyo, January 26 - 30, 2004, pp.249-254.

8 Resource Description Framework: http://www.w3c.org/RDF/.

9 W3C: XSL Transformations (XSLT) Version 1.0, W3C Recommendation 16 November 1999, http://www.w3.org/TR/xslt.

10 Yukari Shirota: “Educational Interactive Functions of the Multimedia E-Learning System E-Math and its Database-Centered Construction Methods,” Gakushuin Economics Papers, Vol.40, No. 4, Jan. 2004, pp.347-362.

11 Edward T. Dowling: Mathematical Methods for Business and Economics, McGRAW-HILL, 1993.

12 D. Downing: CALCULUS, The Easy Way ('Third Edition'), Barron's Educational Series, 1996.

13 D. Ebner: MATH WORD PROBLEMS, The Easy Way, Barron's Educational Series, 2002.

14 B. L. Bleau: Forgotten Calculus ('Third Edition'), Barron's Educational Series, 2002.

15 Maplesoft: Maple, http://www.maplesoft.com/.

16 Design Science: WebEQ, http://www.dessci.com/en/products/webeq/.

17 Pavi Sandhu: The MathML Handbook, Charles River Media, Inc., Hingham, Massachusetts, 2003.

18 Microsoft Corporation: Microsoft Agent, http://www.microsoft.com/msagent/default.htm.

19 白田由香利:「経営数学用Web教材システムe-Mathにおける対話エージェントによる教材選択および提示機能」,日本経営数学会誌,Vol.25, No.2, pp.141-150, 2003年11月。

20 白田由香利:「学習履歴データベースにおけるデータマイニング相関ルールに関する考察」,夏のデータベースワークショップ2003(DBWS2003)(第131回情報処理学会 データベースシステム研究会),2003-DBS-131,2003年7月16日~18日,網走,pp.1-8。

21 Ruimin Shen, Peng Han, Fan Yang, Qiang Yang, and Joshua Zhexue Huang: “An Open Framework for Smart and Personalized Distance Learning”, J. Fong et al. (Eds.): ICWL 2002, LNCS 14頁】2436, Springer-Verlag,  Berlin Heidelberg, pp. 19-30, 2002.

22 Nicola Henze and Wolfgang Nejdl: “Knowledge Modeling for Open Adaptive Hypermedia,” Proc. of the 2nd International Conf. on Adaptive Hypermedia and Adaptive Web-Based System (AH 2002), Malaga, Spain, May 2002.

23 Kenneth M. Anderson and Susanne A. Sherba: “Using open hypermedia to support information integration,” Proc. of OHS7 - the 7th International Workshop on Open Hypermedia Systems, held in conjunction with Hypertext 2001, Denmark, 2001.

24 Peter Brusilovsky: “Methods and techniques of adaptive hypermedia,” User Modeling and User Adapted Interaction, 6 (2/3), pp.87-129, 1996.

25 Leslie Carr, Sean Bechhofer, Carole Goble and Wendy Hall: “Conceptual linking: Ontology-based open hypermedia,” Proc. of the 10th International World wide Web Conference, Hongkong, May 2001.

26 Kaj Gronbaek and Randall H. Trigg: From Web to Workplace: Designing Open Hypermedia System, MIT Press, 1999.

27 Nicola Henze and Wolfgang Nejdl: “Extensible adaptive hypermedia courseware: Integrating different courses and web material,” Proc. of the International Conf. on Adaptive Hypermedia and Intelligent Web-Based Systems (AH2000), Trento, Italy, 2000.

28 Nicola Henze and Wolfgang Nejdl: “Adaptation in open corpus hypermedia,” IJAIED Special Issue on Adaptive and Intelligent Web-Based Systems, 12, 2001.

29 Tobias Kunze, Jan Brase and Wolfgang Nejdl: “Editing Learning Object Metadata: Schema Driven Input of RDF Metadata with the OLR3-Editor,” Proc. of Semantic Authoring, Annotation & Knowledge Markup Workshop (SAAKM 2002) at 15th European Conf. on Artificial Intelligence, Lyon, France, July 2002.

30 Changato Qu and Wolfgang Nejdl: “Towards Open Standards: the Evolution of an XML/JSP/WebDAV Based Collaborative Courseware Generating System,” Proc. of the 1st International Conference on Web-based Learning, Kowloon, Hongkong, China, Aug. 2002.

31 Heidrun Allert, Hadhami Dhraief, Tobias Kunze, Wolfgang Nejdl and Christoph Richter: “Instruction Models and Scenarios for an Open Learning Repository - Instructional Design and Metadata,” Proc. of E-Learn 2002: World Conference on E-Learning in Corporate, Government, Healthcare, & Higher Education (formerly the WebNet Conference). Montreal, Canada, October 2002.

32 Dublin Core Metadata Initiative (DCMI), http://dublincore.org/.

33 Learning Technology Standards Committee of the IEEE: Draft Standard for Learning Objects Metadata IEEE P1484.12.1/D6.4.12, June 2002.

34 Advanced Distributed Learning: SCORM, http://www.adlnet.org.

35 IMS Global Learning Consortium, http://www.imsglobal.org/.

36 ALIC/先進学習基盤協議会: ADL SCORM Version 1.3 アプリケーションプロファイル, http://www.alic.gr.jp/.

37 Matthias Jarke: “Metadata and Personalized On-Line Learning,” Proc. of The Twelfth International World Wide Web Conference, W3C, 20-24 May 2003, Budapest, Hungary.

38 Johann Gamper, Judith Knapp: “A Data Model and its Implementation for a Language Learning 15頁】System,” Proc. of The Twelfth International World Wide Web Conference, W3C, 20-24 May 2003, Budapest, Hungary.

39 Mohammed A. Razek, Claude Frasson, and Marc Kaltenbach: “A Context-Based Information Agent for Supporting Intelligent Distance Learning Environments,” Proc. of The Twelfth International World Wide Web Conference, W3C, 20-24 May 2003, Budapest, Hungary.

40 Paul S. Wang, Norbert Kajler, Yi Zhou, Xiao Zou: “WME: towards a web for mathematics education,” Proc. of ISSAC 2003, Philadelphia, Pennsylvania, USA, pp. 258-265, August 3-6, 2003.