* Resource Management in Asian-Pacific Program, Research School of Pacific and Asian Studies, The Australian National University

 

+ 学習院大学経済学部

 

1 タイ国内のカレン族人口は合計438,450人(Tribal Research Institute 2002)で,タイ国の総人口約61,810,000人(2001年末現在,外務省2003)の0.7%に当る。タイ国内のポー・カレン族の集落は現在,北部のメーホンソン県,チェンマイ県,タック県,及びウタイタニ県,並びに中部のカンチャナブリ県を中心に散在している。

 

2 この地域の個々の山村は,1つの独立した村落の形態をとる場合と,母村とそこから分かれ通常は母村に隣接立地する子村とから成る形態をとる場合の,何れかが一般的である。行政制度上,子村は母村に属する。しかし実質的な村落運営は,母村も子村もそれぞれの首長により独立して執行されている場合が多い。

 

3 バン・メーチャン村の歴史を数人の村人に尋ねたところ,村人達の先祖は,200〜250年前から同村の現在地近傍で暮らしてきたと言う。他方,メサリアン郡メーホー地域に現在居住するポー・カレン族は,約150年前にビルマから最初に同地域へ移住してきたカレン族の子孫であると,1960年代後半に現地調査を執り行なったHinton(1975)は指摘する。

 

4 2003年現在,バン・メーチャンの村内に公共の電気は未だ引かれていない。

 

5 バン・メーチャンには現在(2003年の現地調査時点),年齢が100歳を越えると言われる首長のWさんが健在である。

 

6 バン・メーチャン界隈に居住するポー・カレン族が最も畏れるこの最高精霊は,"The Lord of the Land and Water (Thing kh chae khang kh chae)" (Hinton 1975:41), "The Spirit of the Area (thi kho chae kang kho chae)" (Somphob 1986:169),或いは "Guardian spirit (kue chae)" と呼ばれる(Kwanchewan 1988:91)。

 

7 2003年の新年祭は,第一著者が現地調査中の1月27日から30日の4日間に恆り営まれた。

 

8 5ロットの「山面区画」の中には,厳密に言えば,面的には必ずしも連続していない複数のサブロットより構成されるロットもある。

 

9 バン・メーチャンの各世帯が保有する水田(タイ語でナー〈Naa〉と称し,英語ではirrigated terraceと呼ぶ)の平均面積は,2.00ライである。ナーは休閑させなくとも連続して耕作することが,一般に可能である。

 

10 タイ国内の森林保護政策は,1960年代頃からの環境意識の高まりにより次第にその厳しさを増してきた(Santita 1996:261 et al.)。この動向に伴ない,保護森林地区(protected forest zone)に指定された山間部森林地域に居住する山地民が,強制的に立ち退きを求められるケースが,折々問題化している(Gravers 2001:68)。最近の例を挙げると,1991年に世界自然遺産に認定・登録されたカンチャブリ県とウタイタニ県に跨るトゥンヤイ・フェイカーケン動物保護区の内側に立地するカレン族集落が,強制立ち退き或いは農業活動の制限を余儀なくされた(細川  2003)。これに対し,準保護森林地区(reserved forest zone)内に立地するバン・メーチャンの場合,厳しい森林保護政策が焼畑に対して及ぶ程度は,上記動物保護区に対するほど厳しくない。

 

11 メサリアンの町中に住む低地タイ人及び華僑,並びにメーホー周辺のモン族及びタイ族等は,同様な投資活動を以前から行なっている。

 

12 山地民農業の土壌管理に関するここでの考察は,タイ国チェンマイ大学農学部(MCC)のProfessor Phrek Gypmantasiriからの指導に負う所が大きい。

 

13 例年は8世帯全てがキャベツ栽培と取り組んでいた模様であるが,8世帯中1世帯は,前年度までに積み重なったキャベツ栽培による負債等の諸事情により,2002年のキャベツ栽培を見送った。

 

14 厳密に言えば,「子供達或いは子供」。

 

15 近代化による生活様式の変化や村内人口の増加に伴ない,婚姻の姿形は或る程度柔軟に変化しているものの,母方居住制("matrilocal system")を基本とする婚姻形態は,バン・メーチャンの社会を依然として色濃く特徴づけている(Yos 2001: 108-112)。

 

16 The Hill Tribe Development and Welfare Center in Mae Hong Son。

 

17 一例として,80歳の父親を27歳の娘が世話をしている。

 

18 バン・メーチャンの一般認識では,「働ける間」とは「眼が見えて足腰の利く間」を意味する模様である。

 

19 第二著者がバン・メーチャンで聴き取り調査(2004年)を進めた際,親の死亡と家屋の取り壊しとの関係については,原則として次の基準が適用されるとの説明を村人から受けた。再確認を必要とする暫定情報であるが,参考までに記す。

    (1)親が娘を訪ねそこで死亡したとき,娘の居宅を壊す必要はない。

    (2)親が息子を訪ねそこで死亡したとき,息子の居宅は壊さなくてはならない。

    (3)親が子供達或いはその家族と同居している折りに死亡したとき,その居宅は壊さなくてはならない。

    (4)親が死亡したとき,その親が死亡したときの場所(家)を親子関係の文脈の中でとらえられるとき,娘の家を訪ねていた場合を除き,当該家屋は原則として壊さなくてはならない。

 

20 例えば,(1)バン・メーチャンにおける陸稲とキャベツの同時並行栽培の実態を更に追って調べる試み,(2)同村の高齢者環境を高齢者世帯を対象とする恣皆調査により一層深く整理・考察する試み,及び,(3)「死生観」を軸とした宗教的理念の側面から居住家屋の再生(取り壊しと新たな建設)儀式の意味と背景に迫る試み,を挙げることができる。