*) 前者は学習院大学経済学部教授,後者は京都大学大学院生(博士後期課程)。"IPOs' Monthly Initial Return Anomaly and Nikkei Jasdaq Average", 内容などの連絡先:〒171-8588 豊島区目白1−5−1 学習院大学経済学部,TEL (DI): 03-5992-4382,Fax: 03-5992-1007,E-mail: Kenichi.Tatsumi@gakushuin.ac.jp

   本稿作成にあたっては,三宅綾氏などJASDAQの方々,等からいただいたヒントなどが参考になった。さらにはネット上の論議なども参考になったが,論理的に不明瞭なところもあり,引用できなかった。

1) 従来,この現象の分析は,単純な多重回帰式における曜日ダミー変数などの回帰係数の有意性を判定する方法でなされた。この方法には,致命的な欠点があり,宮野・辰巳[4][5]は,Wayland[15]テスト,Bandt-Pompe[1]などのそれ以外の新しい方法で,この現象を捉えた。株価は実際ウィークデー5日間の一定パターンの繰り返しなのか,そのような要素をどれ位もっているのか,を非線形時系列分析法によって体系的に検討した。ちなみに,株価という絶対水準指数にはトレンド(あるいはマイナスのトレンド)が存在する。そこで,収益率が分析に用いられる。

2) 曜日効果と月効果には,その現象の発見から,その現象を説明する仮説の提示まで含めれば,非常に多くの参考文献がある。その一端はTong[14]の展望と参考文献から知ることができる。ところが,本研究はどちらかというと,新しい研究方法の提示とそれに基づく事実発見であり,それに係わる参考文献は極めて限られる。それゆえ,Tong[14]のみを参考文献に挙げておくことにしたい。

   曜日効果,月効果以外の,さらに高頻度の収益率変動パターンには日中のU字型効果が知られている。米国,日本,韓国の日中U字型効果の展望,文献紹介と相互の比較については辰巳・金[9]を参照。

3) このような問題は景気変動論などの経済学分野では気付いている。月月の曜日がどのような構成になるかによって月次データに大きな影響を与える可能性があり,X12ARIMAでは月次データに月中曜日調整を施している。なお,曜日構成に対してはダミー変数で対応しているが,それには本文でも記したように大きな問題があると著者は考えている。

4) 外れ値に対しては,何らかの基準でそれを判断し,別の値に置き換える方法がとられる。理由もなく除去したり,無視する方法は最近はとられない。

   外れ値であっても,将来発生する可能性が低い場合にはこれを除去することが適当と考えられる。逆に,将来同様の変動が再び起こり得ると考えられる場合にはその情報を含めて分析・予測を行うべきである。

   その場合でも,外れ値をそのまま含めるのではなく,外れ値をそれを判断する臨界値に置き換える方法がとられる。外れ値の統計処理法では次のように臨界値が設定される。まず分析するデータの頻度分布を計算する。第一の方法は,同分布の両側裾野各1%内にあれば外れ値と認識する。この場合両側裾野各1%点が臨界値になる。第二の方法は,その最上位四分位点と最下位四分位点のそれぞれから外側にこの範囲の1.5倍点(これらが臨界値になる。それらが作る範囲を内堀と呼ぶ)を超えれば,外れ値と認識するTukey, J. W.の方法である。以下参考文献は省略。

   なお,外れ値の統計的検証法には,母集団が正規分布し外れ値が1つの時のみ有効に応用可能であるGrubbs-Smirnov検定,OLS推定量に基づくKrasker-Kuh-Welsch法,などもあるが,データの置換には用いられていないため解説は省略する。

   誰もが納得する特異データ処理方法は現在も知られていない。いくつかの分析では,必要がある場合,例外除外の図表を描いたり計測を行う2本立ての分析を行う方法がとられる。

   なお,回帰分析する場合などには,特異データは不均一分散を生じさせる。不均一分散の影響を検定するには,ふつうF検定する。回帰係数についてはそれを修正するWhite (1982) のheteroskedasticity-robust standard errorsを計算することが多い。その他の方法もある。

   観測データから得られる情報を利用する際の検討事項として,データのウェイト付けをどうするかという問題がある。例えば,足元のデータの動きをより強く反映したボラティリティを得るためには,直近のデータに大きなウェイトを与える形で加重平均した値を用いる方法がある。この方法は,データのジャンプをならすことが可能となるというメリットも同時にあるが,一方で直近時点に大きなショックが発生した場合にはボラティリティが増大するといった問題もある。

   債券価格にはduration(金利が変化した時の債券価格の変化)の逆数,そのvolatilityにはvega(volatilityが変化した時の債券価格の変化)がウェイトとして用いられることが多い。

   変数にウェイトを付けてOLSする方法がWLS (weighted least square) である。情報が多いと思われる変数に,それの多少に応じてウェイトを付けるが,ウェイトにどれだけ経済的意味を付けられるかが分析成功の鍵になる。国際証券投資などの分野では,国・企業の時価総額などで非説明変数を割った加重回帰(WLS)する方法も試みられている。

5) 日経ジャスダック平均は,JASDAQ全上場銘柄(日本銀行と管理銘柄を除く)を対象に1983年11月11日(公表は1985年4月1日)から「ダウ方式」で算出開始された平均株価で,JASDAQ市場全体の相場動向を示す。2002年10月1日以降日経店頭平均から名称が改められた。他方,ジャスダック指数は,各銘柄の時価総額を加重平均して計算される指数で,算出開始は1991年10月28日。

6) 東証マザーズが99年11月に,ヘラクレスが2002年12月に,成長企業を対象とした株式市場として相次いで創設された。

7) 荒すぎるが,「初値乖離率」と「日経ジャスダック平均の前日との変化率」との関係を計測してみるのも,1つの確認方法であろう。

8) ブックビルディング方式とは1997年9月よりスタートした新規上場株の公開価格決定方式である。機関投資家の意見を基にして仮条件を決定し,その仮条件を投資家に提示して,投資家の需要動向を把握した上で公開価格を決定する。分析は辰巳・桂山[11]を参照。