1 大蔵省企業会計基準委員会[1998],「第二 税効果会計に係る会計基準 二 繰延税金資産及び繰延税金負債等の計上方法 2」を参照。

 

2 このほかにも,例えば,法制度の変更(消費者保護を立法趣旨とした新法の制定)を契機として,保証契約付きで販売した製品に関する補修支出の増加が翌期以降に予想される場合(保証契約にもとづく補修の請求が容易になり,これまで消費者が交渉のコストを理由に諦めていた分まで補修の請求が行われるようになった場合)などを想定できる。このとき,製品販売時点の法制度を与件とすれば,相対的に少額の製品保証引当金を繰り入れるだけで済む。しかし翌期にはより引当金設定額以上の補修支出が求められることとなり,そこでは費用の追加計上が求められることとなる。逆に,新法施行後の水準で補修支出を見積もれば,翌期に追加の費用計上は求められない。ただ,いまだ施行されていない法にもとづく水準の費用(その意味で,必ずしも当期の収益と適切に対応していない費用)が当期に賦課されることとなる。このケースで,補修支出に係る当期と翌期いずれの見込みにもとづいて引当金繰入額を設定するのかも,本文中のケースと同様の問題といえる。

また,返品調整引当金を設定しているケースで,翌期に施行される予定の新法によって返品率の変化が見込まれる場合に,当期と翌期いずれの返品率にもとづいて引当金繰入額を設定するのかも,本文中のケースと同様の問題といえそうである。

 

3 引当金に係る一連の設定プロセスにおいて,まず先に費用(繰入額)の大きさが決まり,それに従属する形で負債(引当金)の大きさが決まるとすれば,税効果における繰延法のほうがより整合的な処理といえそうである。逆に,まず先に将来の負債(引当金)が決まり,それに従属する形で(負債が賦課されたことに伴う)費用(繰入額)が決まるとすれば,資産・負債法のほうがより整合的な処理といえそうである。しかし「企業会計原則」注解18には,この点についても明確な記述がない。

 

4 英国のケースについては齋藤真哉[2003]などを参照。

 

5 繰延税金資産は,将来における税負担の軽減という便益を反映したものであり,収益の獲得に貢献しながらやがて消滅するタイプの資産(あるいは生産的な用役の提供が期待されている資産)と意義づけるのは困難であろう。

 

6 子会社に対する貸付金のようにビジネスの一環で融資を行っている場合は,話が違ってくる。

 

7 ここでいう「割り増し」が,均等額配分の形で行われるのか,いわゆる「利息法」の手法によるのか,それとも差異解消年度にまとめて認識するのかは,ここで議論の本質に影響を及ぼさない。というのも,ここでは,総体としての「利子費用相当額」の意味を問うているからである。

 

8 さしあたり西村[2001]を参照。もっとも,そこでは,繰延税金負債にあわせて,繰延税金資産のほうも割引現在価値で評価する可能性が模索されている。

 

9 こうした関係は,なにも税金費用を期間配分する場合に固有のものではない。例えば退職給付債務の場合も,勤務費用と利息費用との間に同様の関係を見出すことができる。やや一般化すれば,将来のキャッシュアウトフローを見込んで期間配分を行う際,配分の結果として導かれてきた負債の変動額を,費用に関連する複数の要素で説明しようとするケースが,「入り繰り」の典型例なのである。

 

10 さまざまな手数料などは考慮しない。

 

11 税効果会計自体が「差異はやがて解消されるはず」という前提のもとに成立している以上,こういう単純な想定から議論を始めることも許されるであろう。なお,いうまでもなく,会計と税務で処理が一致している状況から説き起こすことには,一方を他方に合わせるべきという規範的な判断が含まれているわけではない。

 

12 大蔵省企業会計基準委員会[1998],「第二 税効果会計に係る会計基準 一 一時差異等の認識 2」を参照。

 

13 大蔵省企業会計基準委員会[1998],脚注12で引用した箇所には,期間差異(「収益または費用の帰属年度が相違する場合」)以外の一時差異が列挙されている。

 

14 斎藤(静樹)[1999],安藤[2000]などを参照。

 

15 「基礎的会計理論」(AAA[1966])においても,物価変動が反映された利益計算を解説する際,時価評価益相当額(「時価評価に伴う純利得」)について,現在でいう純利益(「取引基準による利益」)と同様に税効果を適用すべきことが,数値例において示されている。

 

16 日本公認会計士協会の国際委員会による邦訳によった。

 

17 西村[2002]は,一時差異を税効果の認識対象とする方法の背後には「実現仮説」が存在する,という表現でこの点を説明している。

 

18 繰延税金資産や繰延税金負債を,期間差異に関連する部分と期間差異以外の一時差異に関連する部分とに区分する方法も想定できる。にもかかわらず,そうした区分が実際に行われていないことは,両者の等質性が強調されていることの現れとも解釈できよう。

 

19 もっとも,税効果会計の導入によって,税金費用の合理的な期間配分が「掲げられた理念どおりに」達成できたかどうかは,事実にてらして慎重に確かめる必要がある。この点について醍醐[2004]を参照。

 

20 広く一時差異を税効果の認識対象とするためには,いわゆる繰延法ではなく,資産・負債法の考え方を採らなければならない,という見解は少なくない。いわば期間差異以外の一時差異から税効果を認識する方法は,税金の合理的な配分という観点からは説明できず,繰延税金資産や繰延税金負債などの「実在性」を根拠とするしかない,というのがその趣旨のようである。しかし本文の議論からすれば,期間差異以外の一時差異から税効果を認識するのは,(純利益ではなく)包括利益と課税所得との差額にもとづく税効果をとらえようとするためとも解釈できる。いわば繰延法の考え方を包括利益にまで拡張したものと位置づけられる。そう理解すれば,期間差異以外の一時差異を税効果の対象とする方法は,いわゆる繰延法の立場からもサポートできることとなる。

 

21 期間差異以外の一時差異(例えば貸方差異)に税効果を適用しなければ,将来に予想される税負担の分だけ評価益が「過大」計上されてしまう。一時差異が解消した際,企業の手元に残るであろう「実質額」で評価益を計上するためには,期間差異以外の一時差異にも税効果の適用は必要,という議論もありうる。こう考える場合は,「その他の包括利益」と純利益の等質性を前提とする必要もない。ただこの場合は,税金費用の合理的な配分という観点から基準の全体に統一的な解釈を与えるのは困難となろう。

 

22 日本の「税効果会計基準」は全部配分法を採用している。

 

23 このほか,資本維持論における実体資本維持の考え方なども,現在行われている事業活動の継続を与件としたものといえる。