1 大蔵省企業会計審議会「退職給付に係る会計基準注解」注2を参照。

 

2 大蔵省企業会計審議会「企業会計上の個別問題に関する意見第二 退職給与引当金の設定について」,196811月を参照。

 

3 消費された労働サービスに対応している金額のすべてではなく,その一部しか費用計上されないことが多かったことから,ここでは「不完全ながら」という修飾語を付している。

 

4 現金支出時に費用を即時計上する方法は,厳密には配分の手続にもとづく利益計算といえないかもしれない。少なくともこの文脈では「配分」を厳密に定義する必要がないことから,ここでは上記の方法を広くとらえた配分の一形態とみなす。

 

5 これは費用配分の原則と呼ばれることもある。

 

6 さしあたり過去勤務債務や数理計算上の差異は考慮しない。当面これらを無視しても議論の本質は損なわれない。

 

7 大蔵省企業会計審議会[1993]を参照。

 

8 FASB1986]を参照。

 

9 減損貸付金の会計処理を定めた「金融商品に係る会計基準」(大蔵省企業会計審議会[1998])は,「退職給付に係る会計基準(大蔵省企業会計審議会[1998])」におよそ半年遅れて公表されている。退職給付に係る会計基準が公表された時点において,減損貸付金に関する会計処理は,公表されたルールとしては確定していない。しかし公表までの審議に要する時間を考慮すれば,ふたつの会計基準の導入に際し,基準設定主体が両者間の整合性を意識していたことは十分にありうる。そうであれば,ここで減損貸付金の会計処理と比較対照しながら年金費用の会計処理を論じることも許されるであろう。

 

10 いわば減損にもとづく切り下げ後の簿価<債権の取得価額<減損発生後の回収可能見込額<当初の契約にもとづく回収見込額という大小関係にあったとする。

 

11 言い換えれば,(減損前に)いったん計上された利息収益が減損損失によって相殺された後,その相殺額にみあう利息収益が改めて計上されることとなるため,その「二重計上」される分だけ,総額の損益が純額の損益を超えるのである。

 

12 FASB1977]を参照。

 

13 米国のような公表ルールを持たなかった日本における,「金融商品会計基準」導入前の実務は必ずしも明らかでない。ただ,税法が債権償却に消極的なスタンスを一貫してとり続けており,また企業による有税償却の積極的なインセンティブを示すことができない以上,米国と同様の処理が日本でも行われていたと推察される。

 

14 望ましさについての判断は分かれるが,ここでは「減損が生じた貸付金の簿価はただちに切り下げるべき」という判断をそのまま受容している。

 

15 簿価をどこまで切り下げるのかについては,いくつかの選択肢がありうる。例えば減損貸付金の簿価を減損判明時点の時価まで切り下げても,「減損の事実を期間損益にただちに反映させる」という目的は達成できる。ただ,市場金利水準の変化次第では,減損が生じた貸付金の時価がむしろ上昇してしまう場合もあるため,この方法は「簿価の切り下げ」という達成目標にとって完全な手段とはなりえない。

 

16 大蔵省企業会計審議会[1998],「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書 三 基本的考え方 1および2」を参照。

 

17 後にこれを勤務費用と利息費用に分解することは妨げられない。

 

18 大蔵省企業会計審議会[1968]「三 退職金費用の期間配分の基準 1」を参照。

 

19 大蔵省企業会計審議会[1998]「退職給付に係る会計基準注解 4」を参照。そこでは,「年金により支給される退職給付に係る退職給付見込額は,現役従業員については退職時点の給付現価額により計算し,退職従業員については,期末時点の給付現価額により計算する。」とされている。また「退職給付に係る会計基準 退職給付費用の処理 退職給付費用の計算」では,「(1)勤務費用は,退職給付見込額のうち当期に発生したと認められる額を一定の割引率及び残存勤務期間に基づき割り引いて計算する。」「(2)利息費用は,期首の退職給付債務に割引率を乗じて計算する。」「(3)期待運用収益相当額は,期首の年金資産の額について合理的に予測される収益率(以下「期待運用収益率」という。)を乗じて計算する。」とされている。これらを総合すると,勤務費用については受給者の勤続期間をもとに,また利息費用や期待運用収益については給付終了までの期間をもとに配分計画を設定するよう求められていることが理解できる。

 

20 もちろん,実際には複数の支給対象者に関する退職費用が合計されるため,例えば特定期間に「正の費用」が一切計上されず,「負の費用」すなわち期待運用収益だけが配分されるような事態は起こりえない。しかしそのことは,現行ルールにもとづく期間配分のありかたを支持する根拠にはならない。単純なケースに還元したときに顕在化するものこそ,現行ルールにもとづく期間配分が抱える最も深刻な問題といえる。

 

21 第1節第2項D「『期待されている役割』と代替的な達成手段」以降の議論を参照。

 

22 この拠出総額を勤務費用の要素と利息費用の要素に分けようとすれば,現行ルールの問題点を再び抱え込むことになってしまう。したがってここでは,拠出総額を複数の要素に分けることなく配分計画を設定することとなる。

 

23 いうまでもなく,そのことは,基金を利用したほうが有利という結論とは結びつかない。基金を利用した場合は拠出額について投資機会が限られてしまい機会費用が生じることもありうるし,また拠出によってビジネスに廻すべき資金が不足した場合は,追加の資本コストが生じることもある。

 

24 大蔵省企業会計審議会[1968]「四 退職給与引当金設定の具体的方法 3 現価方式 2」には,「わが国企業における退職給与引当金の設定方式は,ほとんど法人税法の規定する方法によっているが,この方法は,その基本的な考え方においては,期末要支給額計上方式に現価方式を結合した方法と異ならない。」とある。

 

25 消費された労働サービスの対価をとらえるうえで,期末時点における全従業員の退職を想定して求めた,退職一時金要支給額の増加分が最善の指標かどうかについては検討の余地がある。ただ,最善かどうかはともかく,旧来のルールが退職一時金について,労働サービスの消費という事実にもとづく費用配分を目指していたとはいえるであろう。

 

26 大蔵省企業会計審議会[1968]「四 退職給与引当金設定の具体的方法 3 現価方式 2」は,先の引用箇所に続けて,「ただし,法人税法における期末要支給額の算定方法は,従業員の全員が自己都合により退職するとした場合を前提とし,かつ,期末要支給額に割引率を適用して計算した現在価値額が,期末要支給額の二分の一に相当する金額となることを前提としている。」としている。

 

27 あるいは,類似したケースでどのような測定操作が求められており,問題のケースで求められている測定操作がそれと等質的かどうかを確かめなければならない。いわば利益に与えられる経験的な解釈を直接的に記述するのが困難な場合は,利益を導く測定操作の整合性という観点から,新たなルールから導かれてくる利益の有用性を間接的に確かめることも意味を持ちうる。もちろん,そこでは,現行の体系から導かれてくる利益情報の有用性が与件とされる。

 

28 この方法によれば,予測単位積増方式による各期に均等に割り当てられた「配分の基礎となる額」のうち,勤務費用とみなされなかった部分は利息費用となる。これが利息費用と呼ばれるのは,外見上(あるいは計算技術上),勤務費用にみあう未払いの労働対価(退職給付債務)が時の経過によって増価した分とみなしうるからである。しかし退職給付債務と一般の金銭債務との相違点は前節で確かめたとおりであり,外形上の類似性に関わらず,「配分の基礎となる額」のうち遅延認識した部分を通常の支払利息と等質的とみなすのは難しい。

 

29 いわゆる「グロス展開」についての第1節の議論,とりわけ減損が生じた貸付金に関する議論を参照。

 

30 退職給付債務は金銭債務である以上,そこから利息費用が計上されるのは当然という議論に十分な説得力を見出せないのは,第2節で確かめたとおりである。

 

31 大蔵省企業会計審議会[1998]「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書 基本的考え方 2 退職給付費用の処理に関する基本的考え方 2)各期の発生額の見積もり」を参照。

 

32 最近は,もっぱら「比較可能性」を重視する観点から,代替的な仮定をひとつ(あるいは少数)に絞り込もうとする動きもみられる。複数の方法を容認しておけば,個々の企業にとって最適な方法を経営者に選ばせることが可能となり,そのことをつうじてより有用な利益情報が提供される可能性もある。これに対し画一的な処理を強いれば,その方法が適切とはいえないケースにもそれが強制されてしまう。このような事実は問われず,もっぱら複数の方法を容認した場合の問題点(悪意的な経営者による利益操作のおそれ)だけが強調されていることから,「画一化」の動きが今後支配的なものとして根づいていくかどうかは定かでない。こうしたことから,ここでは,比較可能性を過度に強調する議論を敢えて採り上げていない。

 

33 付言するなら,第2節までに示してきた代替案を採用すれば,ここに記した問題を回避することができ,同時に,旧来のルールが抱えていた問題点も回避できる。企業年金については,例えば,「グロス展開」を行わず,基金に対する拠出総額を退職時点までに「単純に」均等配分する方法を想定すればよい。また退職一時金については,現行ルールのもとで割引現在価値に引きなおされている勤務費用を割り引かず,そのまま各期の勤務費用とする方法を想定すればよい。

 

34 大蔵省企業会計審議会[1998]「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書 会計基準整備の必要性」には,「国際的にも通用する内容」という記述がみられる。

 

35 発生主義を採用してきた退職一時金については,見積もりの修正に関する問題が生じうる。ただ,支給倍率などに着目する場合は,見積もりの改訂という事実が支給倍率などに(自動的に)反映されるため,人為的に配分計画を修正する必要はなかったといってよい。

 

36 大蔵省企業会計審議会[1998]「退職給付に係る会計基準の設定に関する意見書 基本的考え方 3 過去勤務債務及び数理計算上の差異の処理」などを参照。数理計算上の差異と類似している過去勤務債務とは,過去に遡って給付水準の見直しが行われた場合に生じる,母体企業の追加負担額をいう。これは制度そのものの改訂により生じるものであるから,厳密にとらえた見積もりの改訂に起因する損益とは異なる。とはいえ,過去勤務債務の問題と数理計算上の差異の問題には共通点もみられる。

 

37 大蔵省企業会計審議会[1998]「退職給付に係る会計基準 退職給付費用の処理 2 退職給付費用の計算 4)」および「退職給付に係る会計基準注解 9」などを参照。

 

38 このほか,差異が存在しても当初の配分計画を修正せず,実現ベースで(差異がキャッシュフローに裏づけられた時点で)把握する方法もありうる。いわば個々の従業員が退職した時点,あるいは年金給付が行われている期間などにおいて,支払いに充当される退職給付引当金の取り崩し額と実際の支給額との差を修正損益とみるのである。ただ,見積もりの誤りが判明しても,なお旧来の配分計画を踏襲する方法は,現行ルールではほとんど受け入れられていないといってよい。ただ,キャッシュフローに裏づけられた成果を重視する考え方に立てば,むしろ中途で配分計画を修正してはならないという考え方もみられる。

 

39 「はじめに」における「本稿の基本的な分析視座」を参照。

 

40 勤務費用にみあう額の基金への拠出が常に行われており,かつ,割引率と期待運用収益が類似している場合は,市場金利水準の変化が割引率に及ぼす影響と,期待運用収益に及ぼす影響とが相殺しあうはずである(勤務費用に等しい拠出額を,割引率と等しい収益を生む変動利付債に廻す場合を想定すればよい)。にもかかわらず割引率改訂の事実を配分計画(の修正)に反映させれば,「不必要なグロス展開(互いに相殺しあう収益・費用のグロス展開)」を行うことになる。その意味でも,割引率改訂の事実を期間損益に反映させる方法をサポートするのは難しい。

 

41 財団法人企業財務制度研究会[1999b]に,想定可能な代替案がいくつか紹介されている。150ページ,para.375などを参照。

 

42 米国にはAPB1971]があり,そこでは,見積もりの修正について,原則として,修正損益を将来にわたり繰り延べていく方法が指示されている。

 

43 固定資産に関する減損損失についても,それが将来に予想される営業損失を先取りしたものというより,むしろ当期に生じた収益力低下にもとづき,結果的に過剰となってしまった投資額を切り捨てるための手続とみなされているからこそ,当期の損失として即時計上されているのであろう。

 

44 数理計算上の差異を生み出すその他の要因としては,年金基金の資産に関わる期待運用収益の改訂がある。

 

45 前出のAOB1971]を参照。

 

46 いわゆる概念フレームワークにおいて,資産が,会計の外で決まる事象にひきつけて定義されていることは,その現れといえる。財団法人企業財務制度研究会編[2001]などを参照。

 

47 日本の現行ルールは繰延費用の計上に比較的寛容と言われてきたが,研究開発費の即時償却を原則とした会計基準が導入されたことにもみられるように,そのスタンスは抑制的なものに変わりつつある。討議資料「財務会計の概念フレームワーク」(企業会計基準委員会[2004])も諸外国と類似した形で資産や負債を定義している。