1 藤井信幸『地域開発の来歴—太平洋岸ベルト地帯構想の成立—』日本経済評論社,2004年。

2 藤井前掲書では,高度成長末期に心性の変化が生じ,高成長追求が支持されなくなり,地域格差縮小圧力が強まったと説く(p17-22)。しかし,ここで検討したように,現在に至るまで,成長率を高める政策は,その具体的表現方法が変化しつつも,強い支持を集めているものと考えられ,心性の根本的な変化が生じたとは思えない。

3 加瀬和俊『集団就職の時代—高度成長のにない手たち—』青木書店,1997年。

4 計画や規制を偏重する論者は,たとえば,「現在,日本では人間の生活の香りもなく,大地の上に無機質な構造物を打ち立てる都市再生が推進されている」と批判し,「良好な自然環境とともに,人間的接触を可能にする公共空間の提供」を目指すような主張をする(神野直彦『地域再生の経済学—豊かさを問い直す—』中央公論社,2002年,p16-18)。あるいは,精神的豊かさを物質的欲求の上位に置き,「昨今はやりの大型の超薄型テレビを買わなくとも,週末の付き合いゴルフを断っても,高級ホテルでの豪華なディナーパーティを欠席しても,休日の朝,挽きたての珈琲を味わい,音楽を聴き,趣味の歴史書を読む,あるいは家族総出で家庭料理づくりを楽しむ—それらを通じて「生活の内実をもっと豊かにすることができる」はずである」と主張する(矢作弘『大型店とまちづくり—規制進むアメリカ,模索する日本—』岩波書店,2005年,p198)。しかし,人がどうにも制御しがたい生理的・物質的欲求あるいは原初的な欲動を失うことはあり得ない。経済発展や地域開発は,もとより精神的豊かさを徹底して追求するような高尚な活動ばかりを増大させるものではなく,自由競争は,欲動をストレートに発現させ,多くの人々にとって醜悪と感じられるような空間を作り出すことさえあろう。そうした欲動が抑圧されずに解き放たれるような場の存在は人間社会に不可欠の存在であるように思われる。自由競争の結果が,消費者の合理的な選択の結果とは限らないことは確かであろう。しかし,自由競争がどんなに醜悪に見える現象をもたらすにしても,それを人間社会の望ましいあり方に反するものと断じ,否定することはできないのである。

5 近年,日本が人口増社会から人口減社会へ転換したから,それに応じて経済政策を見直すべきだとの議論がしばしば見受けられるが,地域開発政策ははるか以前から地域の人口減への対応でもあった。そして,そうした地域開発政策の多くが必ずしも成果をあげてこなかった。したがって,今後の日本全体の人口減社会における経済政策を考えるにあたって,地域開発政策の失敗の歴史を見直すことには大きな意義があるであろう。

6 谷沢弘毅「戦後日本の地域間格差の動向」一橋大学経済研究所『経済研究』第432号,19924月。

7 岳希明「戦後日本における県民所得格差の縮小と県別要素賦存の変化」日本経済研究センター『日本経済研究』No.29199510月。

8 これについては人口移動の効果はなかったとする先行研究もある。Barro, R, J. and Sala-i-Martin, "Regional Growth and Migration: A Japan-United States Comparison," Journal of The Japanese and International Economies, Vol.6, No.4, 1992.

9 国際競争力のある製造業が地場産業として定着し,関連産業とともに集積的に発展するならば,確かに地域にとって魅力的であろう。しかし,プラザ合意以降の円水準においては,そうした製造業が少なくなっている。

10 前掲,矢作弘『大型店とまちづくり』。ただし,逆に,大型店の誘致を核として市街地の活性化が図られる場合もある。

11 200メートル四方の正方形を2つ並べた長方形をひとまとまりの地域と考え,2つの正方形の中心に商店がある場合と,長方形の中心に1つの商店がある場合を比較してみよう。土地が10メートル四方で区画され,各土地に1人の人が住んでおり,街路はすべて格子状に整備されているものとする。このとき,買い物に行くときに人が歩く距離をすべての人について合計すると,2つの商店がある場合,89200メートルとなる。一方,1つの商店しかないときには,133300メートルとなり,49.4%増加する。一般的には,距離が遠くなるほど,移動コストは逓増すると考えられるので,移動コストがもし距離の2乗に比例するとすれば,増加率は126.4%にもなる。ただし,2つの商店のときには駐車場はないが,1つの商店のときには駐車場がある場合には,マイカー所有率が上昇すれば,1つの商店のときの方が,移動コストが低下する場合もあり得る。しかし,車の利用に困難を感じる人も多く,また子育て中の家族など移動距離のコスト感がきわめて高い人々も存在する。移動距離に伴うコストは居住地の効用を考える際にきわめて重要である。

12 競争の結果,スーパーマーケットの独占が成立するのであれば,アクセス・コストも含め,消費者がスーパーマーケットを合理的に選択したからであると解釈することもできそうである。しかし,将来,競争がなくなることに伴うコスト(アクセス・コストの増加なども含む)まで含めて消費者が合理的に選択するとは想定しづらく,またたとえそのコストを認識したとしても,だからといってスーパーマーケットで商品を買わないと決断するほどの強い私的動機はあまりないであろう。したがって,スーパーマーケットの独占的勝利は,静学的な私的最適化の結果であるとしても,社会的最適化ないし動学的最適化の結果でないかも知れない。

13 かつての大店法は,短期的に市街地の中小小売店の保護に貢献した可能性はある。しかし,結果的に,規制を外れた郊外への大型店進出,チェーン型コンビニエンスストアの発展などをもたらし,旧来の中小小売店の衰退へとつながった。大店法の影響に典型的に現れているように,規制は自由競争を抑制するものではなく,競争の方向性を変えるのである。したがって,規制を導入する際,規制によってどのような競争が生ずるのかを十分に検討する必要があろう。

14 大都市内既成市街地などにおいて,土地所有権が細分化され複雑に入り組んでしまった場所がある。そのような歴史的空間条件に制約された結果,中小小売店が活発な競争をしながら集客力を維持しているような地域がいくつか存在する。こうした地域の発展メカニズムの検証も,地域開発政策を考察する際に貴重な示唆を与えるであろう。このほか,最近の注目すべきまちづくりの事例に関して,中沢孝夫『変わる商店街』岩波書店,2001年。

15 たとえば,多数の消費者と多数の小売業者との間の協力解が均衡となるようなゲームが成立する状況を考える必要があろう。

16 それ以前については,まだ分析していないので不明である。