*)学習院大学経済学部教授。「IPOにおける引受証券会社と発行企業の行動:米国の研究の展望(The
Behaviors of UWs and Issuing Companies before and
after IPO: A Survey of Researches in the U.S.)」の内容などの連絡先:〒171-8588豊島区目白1−5−1学習院大学経済学部、TEL(DI):03-5992-4382、Fax:03-5992-1007、E-mail:
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1) IPOアロケーションについては,野村
(2003) がまとめたように,米国では,2002年半ば頃から,人気の高いIPO銘柄の不正な割り当てをめぐる問題が注目を集めていた。主要投資銀行が疑惑の対象として挙げられ,制裁金を支払って規制当局との和解に至るところも出始めた。
規制強化の動きも進められ,2002年7月末には全米証券業協会(NSAD)が規則改正案を出した。さらに,証券取引委員会(SEC)の依頼を受けてニューヨーク証券取引所(NYSE)とNASDにより諮問委員会が設置され,2003年5月には20の提言から成る報告書が提出された。
諮問委員会報告書は,IPO銘柄の不正な割り当て問題にとどまらず,ブックビルディング方式によるIPO手続き全体が抱える問題点を洗い出した。IPO価格決定の不透明性の解消,不正な割り当ての排除,投資家によるIPO関連情報へのアクセスの格差解消,発行体及び投資家教育の必要性といった観点から,必要な対策が提言された。引受証券会社のみならず,発行企業に対する提言も含まれている。
2) 主幹事証券会社の役割を研究する際無視できないのが,監査法人である。日本ではIPOの審査において監査法人が一定の役割を果たす。IPOにおいて監査法人は,発行会社あるいは投資家にどう把握・理解され,どう判断されているのか,それを正確に確認する方法はわからないが,著者と桂山氏の準備的なデータ整理では,上場後株価パフォーマンスには監査法人によって高低があるという結果が出ている。
それは,監査法人ではなく,協業している主幹事証券会社の効果なのではないか,と疑われる。監査法人間の競争に関しては,手数料や監査マニュアルに差がなくなって,コンサル重視傾向がある,と言われる。IPOや資金調達のコンサルティングについては,証券会社との補完関係の存在が予想できる。
そこで,主幹事証券会社と監査法人はどれ位協業しているかペアリング調査をしてみることが考えられる。証券大手3社各社と最大のシェアでペアを組む監査法人のペア比率を3社別に計算し,監査法人名とともに作表してみればよい。もしこの比率が高ければ,監査法人の役割は主幹事証券会社の役割と区別できなくなる。監査法人の役割は主幹事証券会社の役割のなかに埋没していることになる。
3) IPO後パフォーマンスの計測にあたっては,いくつか注意するべき事柄がある。特に公開後のファイナンスとM&Aの有無である。
米国では,高い売上成長率や資本成長率を達成している企業でも,IPO後,資産収益率,営業キャッシュフロー対資産比率(いずれも業種調整後),PBR,PER,などはIPO後減少する。Jain-Kini
(1994) 参照。
IPO後ファイナンスを意図する企業は,その目的のため,IPOに際して投資家に利益を与える。そして公開後は高株価を維持するかもしれない。米国では,IPO後高株価になる企業には,SEOが観察されるケースが多い。参考文献はWelch
(1996)。この効果はIPO後パフォーマンスの大きさから分離しなければならない。
公開後比較的遠くない時期にM&Aを行う会社が,日本でも,ある。そのような会社も株価を高く維持する。第三者割り当て増資を引き受けたり,市場から株式を買い集めるために必要な買収資金を調達するため,である。この効果も,IPO後パフォーマンスの大きさから分離しなければならない。
年率初値乖離率あるいはIPO後パフォーマンスに対して回帰分析の説明変数と期待されるその効果の方向は,
ファイナンス有企業は1,無し企業はゼロ(+),
上場日からその後のファイナンスまでの月数(−),
SEO調達額あるいはその自然対数値(+),
ファイナンス公表日時価総額に対するSEO調達額(?),
IPO調達額に対するSEO調達額(?),
M&Aを行う企業は1,無し企業はゼロ(+),
などとなる。
4) 95年には株式公開を目指す企業の3割が,ウォールストリートを使わず,DPOを利用した。DPOの申請数は95年の253件から96年には428件に急増し,97年は9ヵ月で389件に達した。しかし実際に許可を得るのはその半数以下で,DPOの6割が失敗する,といわれる(いずれも出典不明)。
さらにインターネットの登場がDPOに拍車をかけた。95年,地ビールメーカーのスプリングストリート社がインターネット上でのIPOに成功して以来,インターネット上での株式公開が人気を呼んだ。しかし,DPOの最大の課題は株主がいかに換金できるかという点で,一般に,会社が売却されるか,従来の株式公開を行うか,会社が株を買い戻すまで株を持っているしかない。