1 2001年3月に日本工業規格(JIS規格)として制定された「リスクマネジメント構築のための指針」のこと。阪神・淡路大震災を契機にリスクマネジメントのあり方が改めて問われた中で,地震・災害のほか,コンプライアンスや環境問題,情報漏洩などのさまざまな危機に対応して,組織体が管理体制を構築するための指針として制定されたもの(経済産業省事業リスク評価・管理人材育成システム事業[2005])。
2 たとえばトレーディングを行う際のポジションのポートフォリオをこのようなブックでマネージする。損益管理やリスクマネジメントに利用する帳簿の役割も果たす。勘定元帳とも呼ばれている。
3 協力体制といっても良い。しかしながら,マトリクス組織のように指揮命令系統が多次元的にデザインされた組織とは意味が異なる。
4 電気事業連合会ホームページhttp://www3.fepc.or.jp/tok-bin/kensaku.cgi「電力統計情報」等に,自由化範囲の拡大に伴う販売ポートフォリオの電力量組成の年次変化が確認できる。
6 元来90年代半ばまでの円高進行と燃料費の低下による差益を消費者に還元するための措置として,1996年1月に導入された。しかし90年代後半の円安進行,近年の原油価格の高騰を背景として,結果的に燃料価格上昇の消費者転嫁の傾向にあるとの指摘もある。
7 既存の大手電力会社の最終供給約款の存在は,与信リスク管理導入への動機を低下させる一因となる可能性もある。与信リスク管理にもミックスト・ブック・マネジメントの発想が要求される。
8 外部環境としての規制改革が部分拡大的かつ漸進的である現実を踏まえると,新たに求められる体制に合わせて全社のオペレーションを,一時に変更することは妥当性を欠く。体制変更の閾値をどこで見切るかは,各社の戦略に依存することは言うまでもない。
9 以下の@を調達側(負債:Liability),Aを運用側(資産:Asset)と考えると,金融機関での資産負債管理(Asset and
Liability Management: ALM)が電力会社においても必要なことが理解される。各市場でプライマリーなプレイヤーとして,その市場の商習慣での取引サイズにより,かつさまざまな商品を駆使して自由自在に取引できない場合,当然ながら取引コストは嵩む。この場合,合理的なコストでヘッジが行えないという問題が発現する。さらにヘッジ会計の適用を考える場合,キャッシュフローを合わせるために資産負債間で対応する各取引の期日も合わせる必要があり,これらすべてのオペレーションを縦横無尽に行うためには,市場が成熟することを待つしかない。
10 過去に国内外の金融機関で,オンバランス取引に対するオフバランス取引(簿外取引)が,不正取引や損失隠匿の温床となったことは周知の通りである。
11 このような視点から論じられたものに,たとえば Barton et
al.[2002], Walker et al.[2002]がある。
12 橘川[2001]はかつて企業家精神の活力に満ちた電力産業が,石油ショック後におけるさまざまな問題解決過程を通して,行政との距離を狭めたと指摘している。
13 一般用法では「非能率」,「形式主義」,「繁文縟礼」等と同義とされる。
14 Weber[1922]はビューロクラシーを「現代社会において最も合理的な機能(機械)」と見みており,他のあらゆる組織形態よりも技術的にみて優秀であると考えている。
15 「ビューロクラシーの逆機能」とは,米国の社会学者Merton[1949]が,Weberが詳しく言及しなかった,近代ビューロクラシーのマイナス面についての研究を通してあきらかになった概念。またGouldner[1955]はWeberが主に文献調査に依存していたことに対し,現場観察を中心にした現代産業組織のビューロクラシーに関する研究により,そのマイナス面をあきらかにしている。
16 東京電力株式会社[2005]によれば,2003年の顧客一軒あたりの年間停電時間における日米英仏比較において,他国ではそれが45〜80分であることに対し,東京電力管内ではわずかに2分であるということが報告されている。
17 鳥居[1994]に詳しい。また,最近の実証分析に伊藤他[2004]がある。
18 Tichy
and Devanna[1986]pp.44-47.
19 Merton[1949]は「目標の転移」というよくあるプロセスのことを,ひとつの手段だと考えられていた規則を守ることが自己目的化し,重点をおくべく目的から転じて,組織の中で規律が直接的な価値になることと説明している。
20 Weick
and Sutcliffe[2001]は高信頼性組織(High Reliability Organization: HRO)の典型的な例として原子力発電所を挙げているが,このような組織が不祥事や事故を起こすのは,まさに「ビューロクラシーの逆機能」に起因したパラドックスではなかろうか。
21 今村[2002]は,経営コンサルタントとして電力会社とのかかわりの中から観察されたこの種の問題点を指摘している。一連の指摘は定点観測という意味においては疑問も残るが傾聴に値する。
22 Murray[1975], Rainey et al.[1976], 齋藤[1977], 田尾[1983], 鎌田[1985], 田尾[1990]等を参考に筆者らがまとめた。
23 表中,各組織間の実線は隣接する組織間で差異があること,破線は曖昧さがあることを示している。
24 公−私組織比較といった二元論で論じることの問題点を筆者らは認識している。たとえば前例踏襲主義は私組織にも広く蔓延する可能性のある問題であり,公組織だけにこのようなマイナスイメージを与えるのは不公平である。この点ではむしろ公−私組織比較というよりも,たとえば古川[1988]の「組織年齢」という概念を適用し組織の硬直化に関する時系列分析を行うことも必要であると認識している。
25 電力会社では,特に現場の技術部門は生命にも関わる大きなリスクを背負っている。この場合は事なかれ主義では済まされず,リスクは滅失すべきものとして認識される。一方でファイナンシャルなマーケットリスクとの対峙においてはリスクを利用する発想が欠かせない。両者間の価値観の差が同一組織内ではコンフリクトを起こす可能性が高い。
26 たとえば,相田・藤波[1999], 可児[2004]等に詳しい。また,リスクマネジメント以前の問題であるが,よりプリミティブなレベルでの事件としてプリンストン債事件が挙げられる。本債券は当時,公共放送でも話題の商品として取り上げられた(NHK「クローズアップ現代」1997年6月11日放送)。「クレスベール証券の『プリンストン債』,上場企業に損失相次ぐ」(1999年9月11日付 日本経済新聞朝刊),「『プリンストン債』広がる波紋,上場11社700億円保有」(1999年9月14日付 日本経済新聞朝刊)等をみると,電力会社系設備工事会社が本債券を130億円保有していたことが報じられている。なお,その後の損害賠償請求により同社は2005年3月までに元本の約9割を回収している。
27 Lawrence and Dyer[1983]は競争が多すぎても少なすぎても非効率や非革新的な問題が発生するとして,その産業の中で「適度な競争圧力」を保つことが産業の健全性を保つために必要であると指摘している。