2 さしあたり辻山[2002]を参照。また辻山・逆瀬・都・秋葉・平松・伊藤・小宮山[2002],辻山・平松・荒木・川村[2002]および辻山・小宮山・川村・鳥飼・石原[2002]も併せて参照されたい。
4 大蔵省企業会計審議会[1960],第一 企業会計原則と減価償却 三 臨時償却,過年度修正を参照。
5 商法における減損概念の変遷をサーベイした文献として,井出・林田[2004],宮島[1998a]などを参照。
6 大蔵省企業会計審議会[1962]でも,三 低価基準 1
原価時価比較低価法 において,将来の売却損失の早期計上という観点から低価基準が説明されている。実際,低価基準を適用する場合の時価として,「将来に予想される売却損失の早期計上」という解釈と整合する,正味実現可能価額による評価が原則とされている。
7 「固定資産の減損に係る会計基準」では,むしろ切放し法に近い処理が要求されている。ただ,これは減損損失の認識基準が厳しく,減損が生じたという判断が事実上覆されることはないといえるほど,誰の目にも明らかな収益力の低下が生じた場合に限って損失の計上が求められていることと連動していると考えられる。
8 もちろん,棚卸資産の低価基準を,固定資産の減損処理と等質的な,投資期間全体を通じた回収可能性を評価するための手段として意義づけた会計モデルを(現行ルールの制約外で)想定することはできる。しかしそのことと,現行ルールで容認されている低価基準に,投資期間全体を通じた回収可能性を評価するための手段としての解釈を与えられるかどうかは区別しなければならない。
9 大蔵省企業会計審議会[1962],第一 企業会計原則と棚卸資産評価 六 棚卸資産原価の配分方法(費用配分の原則)を参照。
10 実際には再調達原価の見積もりが困難であることから,正味実現可能価額によって再調達原価に代えることが容認されている。
11 陳腐化等に伴う評価損は,このほか,原価のうち有用性を失った部分の切捨てという形で意義づけられることがある。明文規定は存在しないものの,将来に繰り越しうる原価は収益獲得能力を有するという意味で有用な部分に限られるという考えは広く受け入れられている。陳腐化が生じている棚卸資産の収益獲得能力は低下していると考えられるから,そこで計上される評価損は有用性を失った原価の切捨てに相当するというのである。この有用性を失った原価の切捨てという手続は,投資期間全体を通じた回収可能性を評価する考えと決して矛盾しない。ただ,原価の有用性という概念は曖昧である。そのため,有用性の判断が,伝統的に,投資期間全体を通じた回収可能性にてらして行われてきたと主張することもできない。つまり,たとえ陳腐化等に伴う評価損の計上が伝統的に受け入れられてきたとしても,そのことからただちに,投資期間全体を通じた回収可能性を評価する考え方が従来から存在してきたとはいえない。
12 減損処理の対象となった投資プロジェクトの成果で,減損損失とされなかった部分(すなわち,減損以前に通常の利益に含めて報告された部分と,減損以降に通常の利益に含んで報告される予定の部分)を(過去に遡って損益を修正するなどの手続をつうじて)区分表示すれば,十分なキャッシュフローを生み出しているプロジェクトの成果と収益力が低下したプロジェクトの成果は完全に分離される。しかし実際に区分されるのは,減損損失だけに過ぎない。本文でいう「区分把握」は,その意味で不十分なものに過ぎない。
13 例えば,収益力の低下した投資プロジェクトから期待されるキャッシュフローを「単純に合計したもの」はプロジェクトに拘束されている資産の売却価値を超えているものの,それを割り引いて求めた利用価値は売却価値に満たない場合を考える。このケースでは,プロジェクトに拘束されている資産を売却処分するのが合理的な選択となる。
14 国際会計基準審議会の業績報告プロジェクトは,一時期,持続可能な利益の予測に資するため,「マトリックス形式」と呼ばれる損益計算書の様式を提案したが,同プロジェクトに寄せられる関心は,最近,その他の分野へと変化したようである。「マトリックス形式」に関心が寄せられていた頃の議論に関連して,辻山[2003]やBarker[2004]などを参照。
15 前節でも述べたとおり,たとえ投資の成果を持続可能な要素と一過性の要素に区分することで利益情報の有用性が高められるとしても,そのことは,持続可能な要素だけを報告すべしという規範的な判断には結びつかない。上記の区分が有用たりうるのは,総体としての成果が純利益という形で報告される場合に限られる。
20 このほか,損益計算書の表示区分を改訂する動きがみられるかどうかにも注目したい。第3節で述べたとおり,現行の損益計算書では,損益が生じた事業(あるいは投資プロジェクト)が継続されるのか,それとも中断・廃止されるのかという観点が重視されていない。どのような事業(あるいは投資プロジェクト)で生じた損益なのかにかかわらず,もっぱら反復的に生じるかどうかという観点から損益の区分が行われている。持続可能な利益の予測への貢献という視点からすれば,例えば,廃止される予定の事業に関する損益を独立掲記し,これを継続予定のプロジェクトに関する非反復的な損益から切り離すことで,利益情報の有用性が高まる可能性がある。このような改訂が試みられるかどうかにも注意を払いたい。