1 例えばキャッシュフロー情報と期間配分の手続にもとづく利益情報との関係や市場の効率性,あるいは利益情報が企業価値の評価に資するメカニズムなどについて,現時点までの研究成果を踏襲することを指す。

2 ここで「投下資金の回収余剰計算」を例示したのは,必ずしも,このような要約によって現行ルールの特徴を最も端的にかつ矛盾なく記述できるからではない。現行ルールの特徴を「投下資金の回収余剰計算」ととらえる立場の優れている点や問題点は別途検討したい。

3 以下では繰り返さないが,より具体的な事実にてらした意味づけがなされている分だけ,より下位の基礎概念ほど環境条件の変化にさらされやすいという特徴を有している。環境条件の変化が生じたとき,最初に変化するのは個別具体的な会計基準であり,旧来「測定上の基本原則」といわれてきたものが変化後の会計基準を包摂できなくなったとき(すなわち,旧来の計算・開示原則では説明できないものが含まれるようになったとき),より上位の基礎概念に変化が生じることとなる。詳しくは通時的な分析に係る後の記述を参照。

4 個々の会計基準は,直接には,ここで記した具体的な計算・開示原則と結びついている。個別の会計基準は階層構造をなす基礎概念によって解釈を与えられる対象だが,集合体としての会計基準自体にも階層構造がみられ,同位の会計基準の間に整合性や首尾一貫性の問題も生じうる。

  このうち具体的な会計基準の階層構造については,(狭義の)会計基準・適用指針・実務対応報告などの形をとる。また同位の会計基準にみられる整合性や首尾一貫性の問題は,典型的には,類似したケースに類似した基準が適用されているかどうかという形で顕在化する。具体的には,割賦購入の会計処理とファイナンス・リースの借り手側の会計処理との整合性の問題などがよく知られている。

  もっとも,類似したケースかどうかの判断に際しては,より上位の基礎概念にてらした分析(割賦購入とファイナンス・リースとの等質性を強調することは,事前に期待された投資成果の事後的な把握に資するかどうかの検討など)を行う必要がある。こうしたことから,類似したケースに類似した会計基準が適用されているかどうかという問題は,外形上は個別基準間の整合性に係る問題として現れるが,実質的には,より抽象的な基礎概念をどう要約・整理するのかという問題に還元される。

  逆にいえば,類似したケースに適用される,類似した会計基準に関する整合性の分析においては,単に測定技法の(外形上の)類似性を主張したところで新たな含意は得られない。何を類似したしたものとみて,何を異質なものとみるのか,その判断規準がより上位の基礎概念とどう関わっているのかを分析対象としたときに初めて,新たな含意を期待しうることとなる。

  個別基準間の整合性を問う議論はよくみられるが,そこでは外形上の(典型的には測定技法の)類似性に着目した議論が多く,等質性・異質性の判断規準がどのような上位概念から導かれてくるのかに着目した分析は,著者の知る限りきわめて乏しい。

5 米山正樹「退職給付会計と現行ルールの内的な整合性」『経済論集(学習院大学)』第42巻第2号,20057月,119-147ページ。

6 念のため補足するなら,会計情報が利害関係者の行動に及ぼしている影響を分析するのは,実証的な会計研究に期待される役割である。これに対し,その観察された事実にもとづき,特定の体系から導かれてきた利益情報が利害関係者の行動に影響を及ぼしている理由(利益情報と利害関係者の行動との因果関係)の解明のほうは,伝統的なスタイルの会計研究が担うべき重要な役割のひとつといえる。

7 国際決済業務を行う金融機関に求められる自己資本比率規制もこの範疇に含まれる。

8 剰余金の分配規制においては株主と債権者が成果配分の当事者となり,税務申告制度においては課税当局とその他のステークホルダーが成果配分の当事者となる。