2 これは公益事業一般にいえることであるが,企業規模が比較的大きい電力会社はこれまで安定的にサービス提供を行ってきた信頼感に大きなブランド価値を保有していると考えられている。しかし,消費者が供給事業者選択の自由を持たない市場,すなわち企業間競争のない特殊な環境下で構築されたものに過ぎないことから,現状のままで規制企業のブランド価値を計測することを問題視する考え方もある。たとえば,総務省郵政研究所[2002]では,このような批判の根拠として,「競争市場における,いわゆるトップ企業は熾烈な企業間競争を勝ち抜くことで現在のブランド価値を構築してきている。競争に勝ち続けてきたという事実を企業と消費者との関係から見た場合,企業が消費者に提供する価値(商品・サービス)が消費者の期待度と同等もしくはそれを上回っていたからであり,両者間にそうした関係が構築されて初めて,消費者の企業に対する信頼感や好感度が向上するのである。」と指摘している。もっとも,今後の競争環境拡大により,こうした議論は消えていく可能性もある。
3 たとえば独占禁止法に抵触しかねない問題や環境問題を想起すればよい。
4 米国マーケティング協会のホームページ
<http://www.marketingpower.com/> Accessed 26 August 2006.
1935年版:
Marketing is the performance of business activities that direct the flow of
goods and services from producer to consumer or user.(マーケティングとは,生産者から消費者あるいは利用者に,商品およびサービスの流れを方向づける企業活動の遂行である。)
1985年版:
Marketing is the process of planning and executing the conception, pricing,
promotion and distribution of ideas, goods and services to create exchanges
that satisfy individual and organizational objectives.(マーケティングとは,個人と組織の目的を満足させる交換を創造するために,アイデア・商品・サービスについての,概念形成・価格設定・プロモーション・流通を,計画し実行するプロセスである。)
2004年版:
Marketing is an organizational function and a set of processes for creating,
communicating and delivering value to customers and for managing customer
relationships in ways that benefit the organization and its stakeholders.(マーケティングとは,組織とステークホルダーを益する方法で,顧客に向けて価値を創造・伝達・提供し,また顧客との関係性を円滑にするための,組織的な機能とその一連のプロセスである。)
6 参考までに,日本マーケティング協会のホームページには「マーケティングの定義」は次の通り掲載されている。「マーケティングとは,企業および他の組織(教育•医療•行政などの機関,団体などを含む)がグローバルな視野(国内外の社会,文化,自然環境の重視)に立ち,顧客(一般消費者,取引先,関係する機関•個人,および地域住民を含む)との相互理解を得ながら,公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動(組織の内外に向けて統合•調整されたリサーチ•製品•価格•プロモーション•流通,および顧客•環境関係などに係わる諸活動をいう)である。」<http://www.jma-jp.org/>
Accessed 26 August 2006.
7 グローバル・コンパクト(GC:
Global Compact)は,1999年1月31日に開かれた世界経済フォーラムの席上,コフィー・アナン国連事務総長が提唱した。企業のリーダーに国際的なイニシアチブであるGCへの参加を促し,国連機関,労働,市民社会と共に人権,労働,環境の分野における10原則を支持するというもの。<http://www.unic.or.jp/globalcomp/>
Accessed 23 August 2006.
8 1970年代に電通PRセンターによって作られたスローガンである広告戦略十訓の内容は,@もっと使わせろ Aもっと捨てさせろ B無駄遣いさせろ C季節を忘れさせろ D贈り物をさせろ E組み合わせで買わせろ Fきっかけを投じろ G流行遅れにさせろ H気安く買わせろ I混乱を作り出せ,というもの。もともとは社会学者パッカードが社会へ警鐘を鳴らす意味で挙げた「セールス9訓」を引用している(Packard
[1960])。
9 Kotler and
Keller [2006] p.582. も企業が多くの場合,製品・サービスを即売することよりも,顧客との長期間にわたる関係性構築を求めることを指摘している。
11 大企業のセールス,マーケティング,ブランドなどの役割が細分化された組織では,マーケターはセールスの下位におかれ,マーケティングとセールス部門間にコンフリクトが生じる可能性もある。これを回避するには両部門間の役割・責任を定め,連携を強化し,業務プロセスを統合させることなどが指摘されている(Kotler et al. [2006])。見方を変えれば,電力会社は機能分化よりも,最初から機能統合を目指せるポジションにあるとも考えられる。
12 Schultz et al. [1993] で示された考え方。Schultz and Schultz [2004] では顧客価値,EVAなど近年発達してきた理論を取り込んでいる。また,前者は単にバンドルされた考え方であったが,後者では顧客との接触における方法論としてタッチ・ポイントという概念を示している。これはDavis
and Dunn [2002] のコンタクト・ポイントに類似する概念である。日本では前者を博報堂が,後者を電通が使用しているようである。
13 従来からも人口動態変数のみの手法は批判されている。たとえばEttenberg [2002] は「顧客を人口統計指標(年齢,所得,居住地等)で分類するだけでは顧客の購買動機について,基本的には何の情報も得られない。ターゲット設定において,顧客の購買行動をウォンツ(欲求)ではなくニーズ(必要性)の観点から捉えている点に問題がある。」と指摘している(同訳書,p.163)。
14 このような考え方に類似するものとしてChristensen
et al. [2005] は顧客の「ジョブ」に焦点を当てたセグメンテーションを提案している。
15 あくまでもイメージだけであるので,実際にデータに基づいた分析などは行なっていない。
16 この2分法はSwan and Combs [1976] を引用した嶋口
[1994] に従っている。
17 経済産業省資源エネルギー庁のホームページ<http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2006EnergyHTML/
html/i1280000.html> Accessed 26 August 2006.
18 たとえば,フランスで取引されている「仮想発電設備」(VPP:
Virtual Power Plant)のことを指すが,現時点でこの部分は日本にはない市場である。今後も登場するかどうかは制度設計次第である。
19 このようなサービスを提供するビジネスにアイピー・パワーシステムズの「受配電管理システム」や中央電力の「電気料金一括契約サービス」がある。
20 公正取引委員会[2006]によれば,PPSの電力供給能力は2005年度で約90万kWに達しており,今後の運転開始予定の新規電源を累計すると2009年には約270万kWに達すると予想されている。よって,今後もこの分野では既存電力会社からの需要離脱の拡大,あるいは供給過剰による価格下落の傾向が続くものと考えられている(同書参考資料編p.19)。
21 Kotler
and Keller, op.cit.,
pp.196-198. は,少数で大規模の購入者,密接な供給業者と顧客の関係性,プロフェッショナルな購買,複数の購買影響者,多重的な販売訪問,派生需要,非弾力的需要,変動需要,地理的な購買者の集中,直接購買,を挙げている。
22 Roberts [2005] は,攻撃的なマーケティングに関する調査や研究は数多くあるが,防御としてのマーケティングになると驚くほど少ないと指摘したうえで,豪州電気通信事業者Telstraが新規参入企業に対して行なった「防衛マーケティング」について解説している。Telstraは儲かる顧客を死守しつつ,市場侵食のペースを遅らせることにより防衛に成功した。ここで議論されている「儲かる顧客と儲からない顧客を選別すること」を日本の電力会社で行なう場合,その企業理念や組織文化には大きなパラダイム・シフトを強いられるであろうが,自由化時代の今後の課題であることは確実である。
25 事業の概要は独立行政法人国立環境研究所ホームページに掲載されている。
<http://www.nies.go.jp/osirase/chotatsu/kokoku/esco/dounyu.html>
Accessed 26 August 2006.
27 2006年2月22日付電気新聞掲載の富士経済の予測による。
28 3.3.1〜3.3.2は巽[2006b]に加筆している。
29 電力会社各社のホームページから作成。各社管内の着工新設住宅戸数の差が大きいこと,また新築と改築の別が不明確であるなど,比較の観点が必ずしも一定ではない。ここでは個別の地域比較を行なうことが目的ではないため,あえて各社名を伏してA〜J社としている。地域によっては戸数の絶対数が少なくとも,採用比率は非常に高い場合もある。
31 井出[2005]は,ガス事業者には私営・公営の企業形態の相違の他,ガスの酒類(天然ガス系,LPガス系,石油ガス),ガス原料の調達形態(自ら輸入,他者から購入など),事業規模や供給構造等の面で異なる多様な事業者が存在していること,それぞれの事業規模の差が大きい(需要家件数900万件超から1,000件未満まで)こと等から,料金水準は全国平均で116.1円/m3であるが,標準家庭は(55万kcal/件・月)で2.97倍(2001年4月1日現在)の内々価格差が存在することを指摘している。
32 電力会社の発電,送電,変電,配電からなる大規模な電力ネットワーク(系統)から供給を受ける電力のこと。
33 東京電力「戸建てオール電化(エコキュート設置)ユーザー調査」(2004年8月)によると,導入後の顧客が「大変満足している」は31.4%,「まあ満足している」までを含むと94.2%に及ぶこと,さらに他人に「是非勧める」は39.0%,「どちらかといえば勧める」までを含めると93.6%に及ぶとしている。
34 株式会社リクルート「住宅建築に関する意識調査2005」。
35 ネットリサーチのDIMSDRIVE『オール電化住宅』に関するアンケート(N=5943)による。このアンケート回答者のうち,実際にオール電化住宅に住んでいると解答しているのは4.9%で全国の普及率より高い(N=292)。そのうち,オール電化住宅に満足している人は87.3%との結果が出ており,東京電力の調査結果より劣るものの,オール電化の製品性能への満足度の高さはここでも裏付けられている。
<http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/enq/060803/>
Accessed 09 August 2006.
36 空気の熱でお湯を作るなど,環境を考慮して開発されたヒートポンプ式の家庭用給湯システム。関西電力の登録商標。
37 実際,前出の『オール電化住宅』に関するアンケートでも,半数近く(47.0%)が補助金制度を知っていると回答している。
38 『オール電化住宅』に関するアンケートでは,住宅ローンの金利優遇制度については11.6%,火災保険が割引になることは9.3%しか知られていない。
39 なお,東京ガスはCO2排出に関して,電化厨房はガス厨房の1.5倍であることをホームページで紹介している。<http://eee.tokyo-gas.co.jp/task/kaiteki/gasdekaiteki/machigai/03.html>
Accessed 09 August 2006. 環境性能に関する議論は比較対象によって意見の分かれるところである。
42 Jaffe [2005] はHDD型ビデオ・レコーダーによるTVCFスキップ問題による米国広告業界の地殻変動を指摘している。通信事業への進出に失敗し,コンテンツ産業取り込みは従来からセンスがないと揶揄される電力業界ではあるが,通信と放送の融合問題をはじめ,ユーザーの立場から複合メディアに対する最新の理解は不可欠である。
43 不動産会社,ハウスメーカー各社のオール電化の取り組みについては,加藤[2005]を参照せよ。
44 この分野では中国電力の電化住宅コム(http://www.denkajutaku.com/)が比較的歴史が長く,コンテンツも充実している。電力業界内では従来から比較的電化採用比率の低かった東京電力であるが,最近はSwitch!というオール電化普及のためのブランド戦略で攻勢に転じている(http://www.tepco-switch.com/)。また,九州電力のキレイ・ライフでは住宅ローンと高熱費のシミュレーションも行っている(http://www.kireilife.net/
pages/alldenka_cost_loan.html)。
47 Hamel and Doz
[1998] p.30. は「複雑な側面をもつアライアンスの多くは,混乱し,衝突し,焦点を失う。そこまで悪くはなくても,1つの企業が『良いとこ取り』を行なう,あるいはより戦略的にコーディネートされた競合パートナーに人質に取られることになる。」と指摘している。
48 電力会社では既に,ハウスメーカーなどのアライアンス上の補完プレーヤーを会員組織化し,優良会員を表彰するなどの制度を設けている動きもある。今後は販売実績を対象とした表彰だけではなく,別の視点も必要となろう。
50 2004年12月23日付日本経済新聞朝刊。なお,リフォームローン(はぴeリフォームローン)はオリエント・コーポレーションと提携している。