1 東京都立大学大学院社会科学研究科経済政策専攻博士課程   E-mail suzudai555@hotmail.com

2 この定義については,Scott [2003], p.262を参照。なお,企業会計基準第8号「ストック・オプションに関する会計基準」では,原資産を自社の株式とするコール・オプションのうち,報酬として付与されるものを「ストック・オプション」と定義している(第2項(2))。そこでの定義は,会計基準の範囲を念頭にいれた定義であると思われるが,この点にかんする若干の問題については,鈴木[2005]の注釈5を参照。

3 in-the-moneyとは,行使価格よりも株価が高い状態にあることをいう。なお,しばしば,ESOによるペイオフが株価と連動するという記述をみるが,これは,in-the-moneyの状態に限ったことである。

4 インセンティブ報酬という点は多くの研究で指摘されていることであるが,たとえば清水・堀内[2003],Core and Guay [2001], pp.253-287を参照。また財務論では,たとえばBrealey et al. [2006], Chap.12を参照。さらには会計基準においても,たとえば実務対応報告第1号「新株予約権及び新株予約権付社債の会計処理に関する実務上の取り扱い」で言及がある。

5 この点, Delves [2003], pp.110-115, 石井・有馬[2004, p.75を参照。また,企業会計上のエージェンシー問題についてはScott [2003], 9章,斎藤[2006a, pp.241-243を参照。

6 この点については,大塚[2003, p.13を参照。大塚[2003]ではESOの特徴が要約されている。

7 この点,清水・堀内[2003, pp.101-114を参照。

8 この点,企業会計の議論では,ESOを企業のコストとするのが一般のようであるが(たとえば與三野[2002]),関西経営者協会のストックオプション専門委員会では,ESOの特徴として,株式市場からの報酬であると明記している(http://www.kankeikyo.org/contents/01_topics/teigen7.htm)。また,景山[1998]でも,ESOにかんする所得が企業によって支払われるのではなく,株主が間接的に支払うと指摘している(p.9)。おそらく,こうした違いが生じる理由のひとつとしては,「企業」の概念の定義の違いがあると思われる。

9 詳しくは,会社法第二編第三章を参照。なお,弥永[2005]では,ESOの経済的価値の開示は,株主総会をつうじた株主の適切な意思決定や取締役等の報酬規制という観点から少なくとも重要であると指摘している(p.111)。

10 株主総会ではなく,取締役会においてESOの付与を決定した場合でも,付与日の2週間まえまでに株主にたいしてその内容を伝えなければならないとされている。詳しくは,会社法第240条第2項を参照。

11 行使価格とは,ESOの権利行使時に払い込むべき価額である。権利確定日とは,ESOの権利が確定した日をいう。なお,たとえばGuay et al. [2003], p.407Bodie et al. [2003], pp.66-67,さらには企業会計基準適用指針第11, 41項で指摘されているが,付与日から権利確定日までの期間では,一般にはESOを取得する権利に譲渡制限が付されている。

12 この点,Deshmukh et al. [2002] でも,効率的市場の観点からすれば,株価は(ESOの付与の)公表日に利用可能なすべての情報をそくざに反映すると指摘されている p.42)。なお,市場のアノマリーについては,Brealey et al. [2006] を参照。

13 本稿では税の効果については議論しない。税の効果については,たとえばDeshmukh et al. [2002] がわかりやすい。

14 ESOが必ずしも,企業の業績に貢献しているとは限らないという研究もある。たとえば,Hanlon et al. [2002] を参照。

15 株式価値にたいするESOの下落要因は,通常のコールオプションよりは少ないかもしれない。それは,ESOの非譲渡性,権利行使条件,退職にともなう満期の繰上げ等の要因によるが,この点はGuay et al. [2003], p.407Bodie et al. [2003], pp.66-67を参照。

16 G4+1 [2000], paras.2.2-2.3,企業会計基準第8号の用語の定義(2項)を参照。なお,これらと類似の契約条件はAICPA [1972], para.10でも指摘されている。

17 企業会計基準第8号の用語の定義(2項)を参照。

18 企業会計基準第8号の用語の定義(2項)を参照。なお,いうまでもないが,ESOを行使することは可能であるが,インサイダー規制等により,ESOの経済的価値を換金できない場合がある。この点,FASF [2003], p.53を参照。

19 Deshmukh et al. [2002] も指摘しているように,この点は多くの研究で指摘されることであるが,たとえば大塚[2003], p.14でその趣旨が要約されている。

20 ESOの付与によってESOの経済的価値だけ株価の下落要因となるが,ここでは,それを希薄化のコストとするのではなく,実際の株価の下落を希薄化としている。

21 だたし,測定上の困難性から,ESOの経済的価値を測定することによって費用額を決定するとしている(paras.10-12)。

22 この点,荻原[1999]でも,労務出資としてESOを解釈することが可能であるとしている(pp.377-378)。なお,金銭以外の出資については,会社法第207条を参照。

23 IASB [2004] では,株主から従業員等へあたえられた株式やオプションは費用に該当するとしているが,そこでの説明は,株主が無償で企業に株式やオプションを譲渡し,それを企業が従業員等にあたえたとみなすとしている(para.BC19-BC22)。

24 たとえばASBJ [2005] ,第37項を参照。

25 ここでの擬制の必要性は,ESOが営業取引とみなせる点からくる。詳細は鈴木[2005]を参照。

26 この点,たとえばIASB [2004], paras.BC201-202を参照。IASB [2004] では,付与と同時に権利が確定するようなESOについては,付与時に費用認識を求めている(para.14)。

27 ただ,Hull and White [2004] では,付与時で費用を認識するものの(p.4),ESOを付与時点から清算時点まで再評価するとしている(p.5)。おそらく報酬としての費用は付与時に認識するが,その後のESOそれ自体の評価損益を認識するということであろう。その解釈については後述。

28 Hull and White [2004] を参照(p.8)。

29 たとえば嶺[1982]でも,行使日基準として紹介されている(p.67)。

30 Hull and White [2004] でもそうした見解が紹介されている(p.4)。

31 Hall and Murphy [2002], p.15を参照。

32 Black-Sholesモデルがヨーロピアンのモデルである点は,たとえば木村[2002, pp.155-169,田畑[2002, 7章,Duffie [1996], pp.197-204Dixit and Pindyck [1994], 同訳書(第5章)を参照。なお,たとえばShreve [2004] でも指摘されているように,アメリカン・オプションの価格は,ヨーロピアン・オプションの価格と一致するとしているが(p.363),ESOの行使状況は,必ずしもそうした理論とは一致していないようである。

33 Bodie et al. [2003] でもこの点が言及されている(p.70)。

34 労働サービスの提供が対象勤務期間にわたる点については,paras.14-15を参照。

35 この点,鈴木[2005]を参照。

36 なお,FASB [2004] の基礎となっているFASB [1995] でも,付与日が,企業と従業員等との間で,ESOの契約条件について合意した日であるから,と指摘している(para.150)。さらには,一般に,持分証券の発行にかんする合意がなされた後は,その持分証券の価額が変動したとしても,その合意された価額に影響はないとしている(para.122)。

37 G4+1 [2000] については今福[2001, 4章も参照。

38 Guay et al. [2003] では,ESOを資本処理した場合に,ESOの保有者が負担するリスクの事後的な実現を利益の計算に反映させるべきかどうかを検討している。すなわち,ESOの保有者は企業の純資産の価値における変化の一部をうけとるが,そうした事実を利益計算に反映させるかどうか,ということである(p.407)。この点,そうした考え方は,利益の計算が,普通株主の純資産(資産−負債)のどんな変化も適切に反映する,という会計目的とは首尾一貫するとしたうえで,問題点として,一般には,会計の利益の計算は,資産の現在価値の変化を反映しないことから,資本の要素を再評価することは,市場参加者の,将来キャッシュフローの価額やリスクの評価の妨げとなるような利益の流列をうみだすかもしれないとしている(p.407)。

39 ここでは,議論の対象をESOに限定せず,それをふくむ業績連動型請求権のフレームワークを議論しており,そのなかで,そうした業績連動型請求権を,その有効期間(life)をつうじて利益計算をおこなうとしている(pp.13-14)。

40 ESOが行使されない場合には収益が認識されるが,この点,ASBJ [2005] では,既存の会計基準(「金融商品に係る会計基準」第六一(1))との整合性によるとしている(第42項)。

41 ここでの「株主」という用語が何を意味しているのか,についての解釈が問題となりうるが,少なくとも,ここではESOの保有者は株主には入らない。なお,斎藤[2006]では,わが国の会社法において,資本の概念は株主の払い込みをベースとしたものであり,株主の拠出でないものは,利益と認識したうえで留保利益に振り替えるのが原則であると指摘している(p.11)。

42 確率空間については,Christensen and Feltham (2003), pp.30-38も参照。

43 たとえば森村・木島[1991],舟木[2004]を参照。

44 本稿では主に個々の結果が有限個の場合を検討するが,たとえばといった連続集合であってもよい。

45 下記の注を参照。

46 から実数Rへの写像の逆像をとする。すべてのボレル集合にたいしてとなるとき,写像可測であるといい,確率変数とは,から実数Rへの可測な写像をいう。ここで,は以下の条件を満たす可算加法族である。

  (1

  (2ならば

  (3ならば

47 可測空間上での実数値関数が以下の条件を満たすとき,は確率測度であるという。

  (1 

  (2)互いに排反な事象列にたいして,

48 契約をしている以上,分散はあるものの,1に近いと考えられる。また,設例では販売価格が契約によって特定されていることから確率変数ではなく定数であることに留意したい。なお,企業会計原則でも「売上高は,実現主義の原則に従い,商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」としている(損益計算書原則 三のB)。

49 この事業リスクという概念は,斎藤[2006a]の「事業のリスク」を念頭においている(pp.52-54)。

50 もちろん,すべての費用について上限と下限があるというわけではない。