学習院大学経済学部教授。内容などの連絡先:〒171-8588 豊島区目白1-5-1学習院大学経済学部,TELDI):03-5992-4382Fax03-5992-1007E-mailKenichi.Tatsumi@gakushuin.ac.jp

1)   合理的とは,t=0の時点で,t=1での価格が正しく予測されていること自体ではなく,合理的な市場参加者がt=1での期待価格のもとで予算制約を満たす範囲で効用を最大化するということを意味する。

        合理的期待仮説研究を代表するルーカス,バロー,サージャント(文献は省略)らは,入手可能なあらゆる情報を効率的に利用して期待形成を行うとすれば,平均的にそれは正しく,継続的・体系的な間違いは生じないと考え,それゆえ,ケインズ的な裁量政策は無効であると説く。

2)   整理すると次のようになる。

       1)価格は「情報」の代表値である。つまり,価格は情報をすべて伝えることができるとする。

       2)市場の参加者には情報を「持つ者」と「持たない者」の二種類がいる。

       3)需要量の合計X, tX(p, s)+(1-t)X(p, 0)であらわされるとする。tは情報を持つ者の比率,したがって,(1-t)は情報を持たない者の比率である。関数X(p, s), それぞれの市場参加者の需要を表す関数として,pは価格,sは情報とする。

       4)市場均衡が成立するならば,供給量をXsとすると,Xs=X=tX(p,s)+(1-t)X(p,0)となる。この式を内生変数pで解くと,pは需要関数の形とXsを与件としてs tの関数として得られる。

       5)ここに,価格がすべての情報sを伝達するようになる。

     6sを持つ者の行動が価格に影響を与えることになるならば,時間の経過とともに,情報を持たない者(1-t)sと均衡価格pの関係に気が付き,均衡価格pを観察すればsを推測できるようになる。

       7)価格がすべての情報を伝達するようになると,市場参加者は情報を収集するインセンティブをなくす。したがって,いずれt=0となってしまう。しかしながら,t=0の時,価格は情報を正確に伝えることができないので,その時の価格はこのモデルでの均衡価格ではない。

        したがって,本文で後述のように,規制などが価格を動かせない場合,情報が複数ある場合,上の議論は成り立たない。

3)   リアル・オプション理論などを用いた「最適停止問題」は,この問題を解く一つの方法である。情報を獲得するためのコストと収益の差額が無リスク資産の収益と等しくなるところまでは情報を収集することになる。

        この点は,現代のマーケティング理論でも取り入れられ,次のように表現される。消費者は商品への関心(こだわり)によって情報収集や意思決定の方法を変えていると考えられている。つまり,関心の高い財・サービスについては,できるだけ多くの情報を収集した上で多面的な評価基準による慎重な意思決定が行われる。他方,関心のない財・サービスについては余り情報収集を行わないで意思決定が行われる。

        このような状況のもと,当然,誰の関心が高いかどうかの個人情報が基本的に重要になる。さらに,企業などから消費者への情報提供のあり方としては,関心のない財・サービスでは,詳細な情報を提供することは無駄になり,できるだけ詳細を削ぎ落として情報を提供する一方,消費者・利用者の関心自体を高める努力が必要になる。

4)   価格ドットコムなどの価格検索サイトがその例である。商品情報を提供する企業については,利用者・消費者が探索を打ち切ることを前提として,利用者・消費者のためのポータルの整備などを行い,使い勝手を改善し,役立つ情報をできるだけ簡単に入手できるようにする等,情報の提供に努めていくことが重要になる。インターネットを用いたビジネスでは,ビジネスを確立するまでは参入障壁が非常に低く(参入障壁がどのように形成されるかは本文で後述),競合企業が次々に現れ,しかも利用者・顧客はクリックいくつかで他社サイトへ移動できるため顧客基盤の安定性がなく,利用者・顧客を満足させる新しいサービスを次々と展開し集客力を高めなければ競争には勝てない厳しさがある。