1) 川嶋・他(2007)。なお,同論文で試みた考察の淵源に川嶋(1975)がある。
2) 前稿では,需要曲面に基づき求められるマクロの需要曲線を導出需要曲線と呼んだ。本稿でも,この呼称を継承して用いる。
3) 前稿と同様に本稿でも,社会便益(厳密に言えば,総社会便益)を表わす計測指標として,消費者余剰(厳密に言えば,総消費者余剰)を適用する。従って本稿の考察に於いて,限界社会便益曲線と限界消費者余剰曲線は同義語となる。なお,総社会便益(gross
social benefit)と純社会便益(net
social benefit),及び総消費者余剰(gross
consumer’s surplus)と純消費者余剰(net
consumer’s surplus)は,厳密性を期す上で夫々明確に区別する必要があるが,以下では文脈上明らかな場合には煩瑣を避ける目的で,「総」及び「純」の語は省略する。
4) 「効用の水準に影響を及ぼす外部経済性(正及び負)を明示的に内含する」需要曲面に基づき求められるこれら2曲線は,一般に一致せず,両者間の乖離幅の大小は,需要曲面が内含する外部経済性(正及び負)の多寡に依存する。これに対して伝統的な経済学的考察の枠組では,効用の水準に影響を及ぼす外部経済性(正及び負)は価格曲線に通常は転化されるので,マクロの需要曲線と限界社会便益曲線は一致する。
5) 厳密に言えば,純社会便益。以下の項目(2)及び(3)に於いても同様。
6) 厳密に言えば,外部不経済性の発現を抑制する目的で徴収される課税の最適額。
7) 厳密に言えば,外部経済性(正)の発現を促す目的で交付される補助金の最適額。
8) 前稿ではこの水準を「仮想需要水準」と呼んだ。しかし本稿では,意味する内容に照らしてより適切な表現と判断される「仮想均衡需要水準」なる術語を用いる。なお,仮想均衡需要水準を効用函数の引数に含める本稿の考察は,Buchanan(1965)が外部経済性について論じた「クラブの理論パラダイム」の流れを汲む。
9) 即ち,「外部経済性(正及び負)に関して中立的な」需要曲面。
10) トレッキング・ルートのイメージについては,川嶋・他(2007)の212頁を参照されたい。
11) 厳密に言えば,限界総社会便益函数(function
for marginal gross social benefit)。
12) 厳密に言えば,総消費者余剰函数(function
for gross consumer’s surplus)。
13) 厳密に言えば,総社会便益函数(function
for gross social benefit)。
14) 図A3に描かれている需要曲面を表わす函数は,P=0.72−N2+0.75M0.75。但し,0.0≦M≦2.0,N≧0 且つ P≧0。また,同図に描かれる準導出需要曲線は,次の連立方程式によって表わされる。
P=0.72−N2+0.75M0.75
{M=N
但し,0.0≦M≦2.0,N≧0 且つ P≧0。
15) 導出需要曲線を表わす函数は,P=0.72−N2+0.75N0.75。但し,N≧0 且つ P≧0。
16) 限界社会便益曲線を表わす函数は,P=0.72−N2+1.3125N0.75。但し,N≧0 且つ P≧0。
17) これらの価格曲線(price
curve)は,外部経済性(正及び負)を内含するか否かの観点により類例化されているが,この類例化の基準は必ずしも必然性に拠るものではなく単に考察の便宜上設けたものである。なお,ここでの価格曲線は生産者に対する価格曲線ではなく,消費者に対する価格曲線を意味するので,「消費者に対する費用曲線(cost
curve for consumers)」,「費用曲線(cost
curve)」,「個人費用曲線(private
cost curve)」,又は「平均費用曲線(average
cost curve)」とも呼ばれる。
18) 厳密に言えば,「外部経済性(正及び負)を内含しない」消費者に対する価格曲線。
19) 厳密に言えば,「外部不経済性を内含する」消費者に対する価格曲線。
20) 価格曲線が費用曲線と呼ばれることも手伝って,価格と需要水準の積は社会費用(social
cost)(より厳密に言えば総社会費用,gross
social cost)と呼ばれる。社会費用を需要水準で微分した値が,限界社会費用(より厳密に言えば限界総社会費用,marginal
gross social cost)として定義される。
21) 即ち,類例−Aに属する価格曲線は,平均費用一定の特性(厳密に言えば,「消費者に対する平均費用」一定の特性)を有する。
22) 即ち,類例−Bに属する価格曲線は,0.0≦N≦0.4 の値域に対し平均費用一定の特性を有し,N>0.4 の値域に対し平均費用逓増の特性(厳密に言えば,「消費者に対する平均費用」逓増の特性)を有する。「消費者に対する平均費用」逓増の特性を有する価格曲線は,混雑している道路の利用者が互いに及ぼし合う外部不経済性(即ち,混雑の外部不経済性,集積の外部不経済性,又は過密の外部不経済性などと呼ばれる概念の下で扱われる外部不経済性)の考察に当たり,最適な交通混雑税(即ち,交通混雑の外部不経済性の発現を抑制する目的で徴収される最適課税額)を論ずる際にしばしば適用される。このような背景との関わりに照らし,最適な交通混雑税を対象に第二筆者が試みた考察を纏めた論文,及びそれらの試みが主たる考察対象としている論文を挙げると,例えばWalters(1961),Kawashima(1980,1990),Else(1981,1982),及びNash(1982)がある。ところで上で触れたように,類例−Bに属する「消費者に対する価格曲線(換言すれば,需要側の価格曲線)」は,外部不経済性を内含するが故に平均費用逓増の特性を有し,その好個の具体的な価格曲線例として,「混雑の外部経済性(external
diseconomies of congestion)を内含する」価格曲線がある。翻って,供給側の価格曲線の中で平均費用逓増の特性(厳密に言えば,「生産者に対する平均費用」逓増の特性)を有するものに目を遣ると,例えば「生産規模に関する部不経済性(internal
diseconomies of production scale)(即ち,「規模の内部不経済性」,又は「集積の内部不経済性」などと呼ばれる概念のもとに扱われる内部不経済性)を内含する」価格曲線がある。
23) 即ち,Nの減少函数として示される価値曲線。換言すれば,平均費用逓減の特性(厳密に言えば,「消費者に対する平均費用」逓減の特性)を有する価格曲線。
24) 即ち,最大の純社会便益を保障する,最適需要水準並びに最適課税額又は最適補助金額を求める。
25) 本稿に於いて総消費者余剰(即ち,総社会便益)は,「純消費者余剰(即ち,純社会便益)」と「消費者が支払う総支出額(即ち,総社会費用)」の和として,定義される。
26) 本稿に於いて純社会便益は,総社会便益から総社会費用を減じた差として定義されるが,特定の需要水準に対して算出される総社会便益は,限界社会便益曲線(厳密に言えば,限界総社会便益曲線)を,0.0から当該需要水準の値まで積分することによって得られる(固定総社会便益が存在しないと仮定できる場合)。また,総社会費用は,「需要水準」と「当該需要水準に対応する価格曲線函数(即ち,費用曲線函数又は費用函数)の値」の積として定義される。よって特定の需要水準に対して算出される総社会費用は,限界社会費用曲線(厳密に言えば,限界総社会費用曲線)を0.0から当該需要水準の値まで積分することによって得られる(固定総社会費用が存在しないと仮定できる場合)。従って純社会便益は図式的に述べると,上から限界社会便益曲線に,下から限界社会費用曲線に囲まれる図形の面積に等しい(固定総社会便益及び固定総社会費用が存在しないと仮定できる場合)。
27) 即ち,最適点を通る垂線を,導出需要曲線と価格曲線が上と下から挟み込む線分の長さが,最適課税額に等しく,価格曲線と導出需要曲線が上と下から挟み込む線分の長さが,最適補助金額に等しい。
28) より具体的に言えば主な狙いは,均衡需要水準が最適需要水準を上回るとき,外部不経済性の発現を抑制する目的の課税徴収を介して,前者を引き下げて後者に一致させることにあり,逆に均衡需要水準が最適需要水準を下回るとき,外部経済性(正)の発現を促す目的の補助金交付を介して,前者を引き上げて後者に一致させることにある。
29) 即ち,均衡点が課税徴収前又は補助金交付前に存在しない場合。
30) これらは,本稿の考察を進める上で等閑視すべからざる課題であるが,遺憾ながらここではこれ以上立ち入らない。
32) 限界社会費用価格形成原理に関する啓発的且つ含蓄豊富な労作に,例えば大石(2005,特に205頁以降)がある。
35) この理由は多分に,「費用側面で生ずる外部不経済性」の大きさと「効用側面で生ずる外部経済性(正)」の大きさが相拮抗し,その結果,両者を纏め合わせた「総体的な外部経済性(正及び負)」が中立化されているためと考えてよかろう。
36) 都市集積や交通混雑の現象を対象に,最適な都市規模や最適な道路交通サービス需要水準(又は,最適な道路交通量)を検討する考察は勿論,ヴォランティア活動プログラムや教育活動プログラムを対象に据え,それらのプログラムに参加する人数の最適規模を探る考察に対しても,需要曲面分析的アプローチは応用可能であろう。