*) 学習院大学経済学部教授。Information Networks and Financial Intermediation 〜 A Survey and Critical Comments (I). 内容などの連絡先:〒171-8588豊島区目白1-5-1学習院大学経済学部、TEL(DI):03-5992-4382、Fax:03-5992-1007、E-mail: Kenichi.Tatsumi @gakushuin.ac.jp
1) ちなみに、2009年1月から、ようやく株券の電子化(しかしながら、私見では、これは単なる「紙なし化」に過ぎない、というべき)が始まったばかりで、証券業務の多く、特に証券会社間ネットワークではまだ電子化に手を付けられていない。2009年時点では、証券の情報化はまだまだ進んでないというべきである。
2) 日本の多くの金融機関では、資産クラスの取引処理がそれぞれ別々のシステムによって実行され統合化が進んでいない。個別のうち、株式と為替が進んでいる一方、デリバティブ、債券、キャッシュは遅れている。そのため全体として処理の効率化が進んでいない。この意見は、過去においては当然ながら、最近も時々見ることがある。
3) ちなみに、グループの一社だけが運行許可あるいは航路許可を得れば、グループ内の他社は共同運航(英語はcodeshareなので、直訳するとコード共有)という形態によって実質上その航路の運行をできるようになる。必ずしも意図的な規制逃れであるとは限らないが、共同運航は航路許可を無意味な行政にしている、のは事実である。
航空連合によって加盟航空会社各社は、空港施設の利用や燃料の購入を共同で行ってコストを削減できるほか、共同運航による路線網の拡大と拡充で顧客増が期待できる、というメリットがある。
4) これを解決するには、推奨エンジンなどを使ってユーザーの興味・嗜好に合わせたリンク構造を自動的に生成するような仕組みが必要になる。近い将来には、それも可能になるだろう。
5) L. A. N. Amaralらは2000年の論文で、スモールワールドに次の3つの種類があるとした。
scale-freeネットワーク - 経路が一部のノードに極度に集中している。ウェブサイトのリンク、論文引用、食物連鎖など。
broad-scaleネットワーク - 経路の集中はあるが、ある程度で頭打ちになる。共演関係のネットワーク(例えば「ベーコン指数」)など。
single-scaleネットワーク - 経路の集中するノードはあるが、集中するノードほど数が減る。送電網、神経回路網、通常の人的ネットワーク。
6) ネットワーク内の通信を高速化するアプローチはいくつかある。まず、一つの経路で送る情報(の量)を増やすことが考えられる。しかしながら、複数の情報が一つのシンボル(伝達ツール)に乗っていれば雑音の影響を受けやすい。また、他の経路が空いているかぎり次の方法がとれる。つまり、複数の経路からそれぞれ異なる情報を送り、受け手側で識別する。あるいは一つの情報を複数の経路に分け送り、受け手側で合成する、方法である。理論上、経路の数をn倍にすることによりn倍の高速化が実現できる。この場合複数の経路が必要になるが、他の経路が空いている場合に限って利用することも可能であり効率的でもあるが、必然的に待ち時間がかかる。
7) 例えば、プロバイダが自社で動画配信やIP電話などのアプリケーション・サービスを提供する時に、自社の通信だけつながりやすくすると、他の企業は大打撃を受ける、などが指摘されている。また、追加料金を払うサービス事業者のパケット転送を優先する場合がある、ことなども指摘されている。
8) 米国連邦通信委員会(FCC)は2005年、「ブロードバンド4原則」(「Internet
Policy Statement」(インターネット政策宣言))を発表し、消費者には@アクセス、Aアプリケーション利用、B機器の接続、C提供事業者、のいずれの面でも合法の範囲内で「選択の自由」が保証されるべきだとした。この4原則に「D不当な取り扱いの禁止」と「E透明性の原則の徹底」という2原則を新たに追加して、「イノベーションを可能にするインターネットのオープンなアーキテクチャー」の重要性を維持するための政策としての具体的性を高める、という宣言を2009年9月に行った。前者はブロードバンドアクセスの提供事業者に、特定のコンテンツやアプリケーションを不当に扱うことを禁止する。後者は、同じくアクセス事業者に対して、ネットワークの管理方式の公表を義務付け、P2Pなどのトラフィック制限を隠れて行うことを禁じる(会津(2009))。
日本でも、総務省が2006年から「ネットワークの中立性に関する懇談会」を開催し、ISPのコスト負担問題、P2Pトラフィック制限の是非などを取り上げ、「IPネットワークでは、レイヤー間、レイヤー内のいずれにおいても、利用者の選択の自由を最大限確保すること」と要約できる原則を確認している。
9) 長期増分費用方式とは、あるサービス(例えば、相互接続における交換機能)の生産量を増減させた場合に生ずる総費用の変化(これを長期増分費用LRIC=Long Run
Incremental Costと呼ぶ)をモデルで算定する方式である。仮に事業者の中で発着信が自己完結していた場合の設備量と他事業者の着信も運ぶ場合の設備量を比べ、追加で必要になる設備量がどれだけかを仮想モデルにより求め、それに対応するコストを算定するという手法を採る。
この際、最新の技術を用い、最も効率的な設備をモデル上新たに構築するモデルをボトムアップモデルと言い、ネットワークは所与とし、会計上の原価を評価替えするモデルをトップダウンモデルと言う。
具体的な、負担費用は次の公式で決められる。
フォワードルッキングコスト(前向きのコスト)=長期増分費用+共通費の合理的配賦
ここで、長期とは、全ての投入要素が可変的なものとして扱うことのできる十分に長い期間、で経済学では伝統的な定義である。増分とは、ネットワーク要素(例えば、交換機能、伝送機能)を新たに提供する場合に発生する費用、である。使用する最新の技術とは、現時点で利用可能な実証された最も効率的な技術で、それを採用するとされる。