41頁】

 

育児休業が男性の仕事と生活に及ぼす影響

――ウィン-ウィンの観点から――

 

脇坂 明

 

 

1 課題と仮説

 

働き方の多様性が叫ばれるなか,ワーク・ライフ・バランス(Work LifeBalanceWLBと略)の観点から,育児休業の重要性が強調されている。育児休業の及ぼす影響は,休業をはさんだキャリアを考えるうえで,女性にかぎらず男性にも大きいであろう。

育児休業が女性の定着率を高めるなどの研究は多いが,男性を対象とした研究はいまだほとんどない。例外的なものとして,佐藤・武石(2004)は,2002年に行われたニッセイ基礎研究所の「男性の育児休業取得に関する調査」をもとに包括的に男性の育児休業をあつかっている。

これまでの育児休業の研究は女性利用者を中心としたものだが,利用する本人の昇進・昇格への影響とか,職場における代替要員の問題とか,育児休業はマイナスの影響を及ぼし,そのマイナス効果をどれだけ小さくできるか,という観点からの研究が多かった。そのなかで石田(2006)は異色で,プラスの側面を強調する。女性だけでなく男性が育児休業中に,同時遂行のタスクを行うことが,復帰後,仕事に役立つという見通しを立てている。石田の研究は,育児休業利用者4名(男女2名づつ)の詳細な生活時間について,管理職や専業主婦9名の生活時間と比較することで,「育児休業中の育児・家事労働のありようは,プレイイングマネジャーの業務のありように近い」という仮説を実証することにより,上記のような見通しを立てている。サンプルの選択や比較の仕方の厳密性に,やや問題は残るかもしれないが,挑戦的な論文である。

この石田の研究に触発されたのが,脇坂(2008)である。そこでは,ワーク・ライフバランス(WLB)塾注1)参加企業の個人調査を用いて,育児休業が,女性だけでなく男性にも「時間管理能力」や「仕事を効率的に進める能力」などを高めることを明らかにしている。また取得者本人だけでなく,職場のまわりの人も,その効果を認めている注2)

42頁】

本稿は,育児休業が男性の仕事と生活に及ぼす影響を,脇坂(2008)とは異なるデータを用いて,仕事に対する影響だけでなく生活まで含めて分析するものである。育児休業利用の経験のある男性だけでなく,男性本人はなくとも,職場のまわりに育児休業利用者がいたことの影響に着目している点が特徴である。

本稿の仮説のひとつは,石田(2006)の主張するように,育児・家事という複数のタスクを同時遂行することにより,時間管理能力やタスクを効率的に進める能力が高まる,その結果,仕事のやりがいや達成感が生まれる,というものである。2つめは,その育児休業経験者の仕事ぶりを学んで,同僚も,それらの能力を高めるという仮説である。仕事能力が高まれば,仕事にやりがいが生まれ達成感が生まれ,会社への愛着心もわくであろう。

 

2 使用データ

 

筆者も含む大学の研究者でつくられた「育児支援と企業経営に関する研究会」(代表 川口章同志社大学教授)がおこなった「WLBに関する調査」を用いる。調査は,2008917-19日に,gooリサーチ消費者モニターのなかの2049歳の働いている人(自営業含む)に対して,WEBアンケートで行われた。有効回答数は,4149名である。育児休業の利用であるので自営業を除き,民間企業正社員と公務員2611(男性1617,女性994)名を分析の対象にした。そのうち,とくに男性を主たる分析対象とする。

 

3 育児休業制度の有無と利用の有無

 

アンケートの設問では,勤務先に育児休業制度があるかどうか尋ね,育児休業を利用した経験の有無も尋ねた。後者については,本人の利用経験の有無だけでなく,職場のまわり(あなたが所属している会社の部署)に利用者がいたかどうかの選択肢も加えた。

 回答を5つのタイプに分けた。(1)本人利用経験者(まわりの利用の有無は問わない),(2)本人はないが「まわりに育児休業利用経験者がいる(まわりあり)」,(3)会社に制度はあるが本人もまわりも利用者なし,(4)制度なし,(5)会社に制度があるかどうか「わからない」の5つである。

本人利用の(1)のタイプとそれ以外のタイプの違いをみることが本稿の第一の目的だが,自分は利用していなくても同僚に利用者のいる(2)のタイプの特徴をみることが第二の目的である。

5つのタイプの分布をみると(図1),利用者は女性に多く,男性は少ない(1.3%;21名)が,男性においても,「まわりに育児休業利用経験者がいる(まわりあり)」が女性と同じくらい存在する(31.5%)。制度があっても「本人もまわりにも利用者がいない」男性(29.6%)と「制度がない」男性(22.8%),そして制度の有無が「わからない」(14.7%)という回答の男性がいる。

タイプにより年齢や勤続年数,年収の違いをみると,まず年齢による差はあまりないが,「制度なし」(36.2歳)がもっとも高く「わからない」(32.8歳)がもっとも低い(表1)。勤続年数は大きな差があり(表2),「本人利用あり」(15.0年)がもっとも長く「わからない」(8.6年)がもっとも短い。

 

43頁】

勤続年数が伸びてくると,まわりや本人が育児休業を利用する確率が高くなることがわかる。勤務先に制度があるかどうか「わからない」男性は,まだ会社経験が少ないといえる。年収は勤続年数に対応しており,平均年収が534万円なのに対し,「わからない」が423万円で,もっとも高いのは「本人利用あり」の623万円である。年収の回答は範囲値選択肢から選ばせているので,中位値をとって算出した。

44頁】

 

4 勤務状況

 

つぎに勤務状況をみる。表3で,5つのタイプにおける男性の仕事の状況をみよう。

恒常的に労働時間が長いのは,「制度なし」である。転勤や単身赴任が相対的に多いのは「まわりあり」である。また「本人利用あり」は,夜勤,休日出勤,出張が多い。男性育児休業利用者の現在の職場は,不規則ではあるが恒常的に長時間労働の職場ではない注3)

労働時間に関する回答に問題があり注4),実際の労働時間との関係が不明瞭なため,これ以上の解釈はしない。

45頁】

 

5 職場の均等、ファミフレの状況

 

5つのタイプの男性は,彼の会社や職場における男女の均等やファミリー・フレンドリー(ファミフレと略す)の状況をどのようにみているのであろうか。ファミフレとは,企業が従業員の家族に配慮した施策,そして慣行である。

男女均等でありファミフレな職場では,男性も育児休業が取得しやすいか,まわりが育児休業に好意的であると考えられる。データで確かめてみよう。

男女の均等については,「女性を積極的に活用・登用している(均等)」かどうかについて,「そう思う」から「そう思わない」の5点法で尋ねている。表4右欄のスコアをみると,本人利用>まわりあり>制度あり利用なし>わからない>制度なし,の順で均等である。「そう思う」割合は平均が12.6%なのに対し,「本人利用」では52.4%である(表4)。

現在の会社や職場についての感想に対する設問で,ファミフレ5項目「会社は上司や同僚に,育児に係る休業や短時間勤務に対して協力するよう求めている」,「女性の育児休業がとりやすい環境にある」,「男性の育児休業がとりやすい環境にある」,「結婚・出産後も女性が職場を辞めることなく働ける会社だと思う」,「子供が病気の時や学校の行事がある時に早退をするなど勤務時間の調整がしやすい環境にある」についても5点法のスコア化し,ファミフレ合計(25点満点)もみる。結果をみると,すべての項目において「本人利用」がトップで「まわりあり」がそれに次ぐ。そして,ほとんどの項目において,本人利用>まわりあり>制度あり利用なし>わからない>制度なし,の順に高い(表5)。「女性育休環境」のスコアに典型的にみられるように,「女性の育児休業がとりやすい環境にある」職場において,実際にも男性が育児休業を取得しやすい。もちろん男性の育休がとりやすい職場で男性が取得している。

46頁】

均等やファミフレだけでなく,年休取得や職場の人間関係などの状況はどうであろうか。「年休がとりやすい環境にある」だけでなく,「職場の人間関係は良好である」「職場に良き相談相手や良き指導者がいる」についても,本人利用>まわりあり>制度あり利用なし>わからない>制度なし,の順で高い(表6)。

これらの結果から,育児休業は男性本人が取得した場合だけでなく,まわりの女性(「まわりあり」は,男性利用者もありうるが,ほとんどが女性利用者だと思われる)が取得することによって,人間関係を良くし,年休もとりやすくする可能性が大きい。もちろん,もともとそういった職場において,男女とも育児休業が取得しやすい,という因果関係の方向の問題が残る。しかしパネル調査でないかぎり,因果関係は確定できない。いずれにしろ,育児休業の利用は,均等やファミフレ,そしてWLBと強く関係していることがわかる。

 

6 仕事に対する感想

 

さて本稿のメインの課題である現在の仕事に対する感想について,育児休業に関わった男性47頁】とそれ以外の違いをみよう。「やりがい」(私は,今の仕事にやりがいを感じる)や「達成感」(私は,仕事を通じて達成感を味わうことができる),「成長感」(私は仕事を通じて自分が成長していると感じる)といった仕事からの精神的充実だけでなく,「職場満足」(私は今の職場に満足している)「WLB」(私は仕事と生活のバランスがとれている)「愛着」(私は今の職場に愛着を感じる)といったトータルな感想も尋ねている。11項目について,「そう思う」から「そう思わない」まで5点法で評価した。

表7から本人利用経験者が充実した職業生活をおこなっている様子がうかがえる。「コミュニケーション」(私は上司とのコミュニケーションがとれている)と「定着」(私は,これからも,今の会社で働き続けたいと思う)以外の設問においてトップで,「必要性」(私は,今の職場で必要とされていると思う)や「やりがい」でとくに高い。そのつぎに「まわりあり」のスコアが高い。

「コミュニケーション」において,利用経験者本人はそれほど高くなく平均より低い。それに対して「まわりあり」がもっとも高い。その理由は,休業中の代替要員が関係していると思われる。休業を契機として,代替要員をはじめとして,仕事の分担の見直しが迫られる。そのときに上司を中心としてコミュニケーションがとれていなければ,うまく職場はまわらない。育児休業者がまわりにいない職場より,コミュニケーションがとれているということは,代替48頁】要員などへの対応がうまくいっていることがうかがえる。逆に,利用経験者は,休業したこともあるので,それほど上司とのコミュニケーションがとれていないのであろうか。

 

6−1 本人利用経験者の回帰分析

様々な属性の男性がいるので,制御変数を加えて分析してみよう。順序プロビットで回帰分析をおこなう。被説明変数に仕事の感想の各スコアを,説明変数として,育児休業本人利用ダミー,年齢,年収,職種ダミー,勤務先規模ダミー,職階ダミーとした((1)式)。また規模ダミーをいれるので,以後は公務員を除いた民間男子正社員にかぎった分析となる。労働時間は(注4)にある理由で加えなかった。

 

{仕事状況}= a1 + a2*年齢+ a3*年収 + a4*職種ダミー + a5*規模ダミー a6*職階ダミー+ 育児休業利用ダミー ・・・(1)

 

記述統計量は,付表1にあり,育児休業利用経験者は19名である。「やりがい」についての推定結果は付表2にある。年収の係数a3は正で有意で(1%水準),年齢の係数a2は負で有意である(10%水準)。専門・技術職にくらべて,サービス職,技能工のやりがいが低い注5)

さて「やりがい」はじめ仕事に対する感想について,それぞれの推定式における育児休業本人利用ダミーの係数をみると(表8),4つの変数を除き,正で有意である。ダミーの係数の大きさをみると,「愛着」(私は,今の職場に愛着を感じる),「必要性」,「誇り」(私は,会社や職場の上司・同僚のために働くことに誇りを持っている),「職場満足」(私は,今の職場に満足している)や「WLB」の効果が大きい。ただし,平均スコアでもみたように「コミュニケーション」(「私は,上司とのコミュニケーションがとれている」),「定着志向」が有意でなく,「達成感」「成長感」も有意でなくなる注6)

49頁】

 

6−2 まわりに育児休業利用者がいる男性の回帰分析

つぎに,(1)式の「本人利用ダミー」の代わりに,「まわりあり」(「まわりあり」=1,本人利用者を除いたその他=0)をダミーとして説明変数にして推定する。育児休業利用経験者はサンプルから除く。「やりがい」についての推定結果が付表3にある。

年収と年齢の係数の符号と有意性をみると,本人利用のときと同じで,すべての被説明変数に対して,年収は1%水準で正で有意である。年齢は負で有意なものと有意でないものが半々である。

そして「まわりあり」の男性の係数をみると,すべて正で有意である(表9)。本人利用では有意でなかった「コミュニケーション」と「定着志向」も正で有意である。「コミュニケーション」について,「本人利用ダミー」が有意でなく「まわりあり」が有意であるという事実は,先にも述べたように,休業を契機とした代替要員への対処について,上司を中心としてコミュニケーションが,利用者本人よりも,残された従業員がとれているということである。それだけでなく,すべて正で有意であり,職場にいる育児休業取得者(ほとんど女性と思われる)の影響をうけて,男性は充実した職業生活を送っていることがわかる注7)

50頁】

全体として,育児休業利用者男性本人にも,まわりに育児休業利用者のいる男性にも,育児休業は仕事面で良い影響を与えている。この理由としては,石田(2006),脇坂(2008)が予想したように,育児休業からの復帰者が時間管理能力などを高めた仕事ぶりを近くでみて,自らの仕事の進め方などに影響し,全体として充実する,と考えられる。

 

7 私生活の状況

 

仕事に対して,もう一方の私生活の状況をみる。これも5点法の回答である。

まず「人脈」(仕事以外の活動で人脈を広げている)「地域活動」(ボランティア活動や地域活動に熱心に参加している)などの活動4項目と「生活満足」(生活全般に満足している)の度合を尋ねている。

51頁】

10から本人利用経験者が充実した私生活をおくっている様子がうかがえる。一方,「まわりあり」は平均なみである。また表11の2つは,現在よりも「時間がほしい」と思っている項目である(ボランティア活動や地域活動に参加する時間がもっとほしい,趣味の活動に費やす時間がもっとほしい)。本人利用経験者は,現在,熱心なだけでなく,より地域や趣味や子供とすごす時間をほしいと思っている。そのつぎに「まわりあり」のスコアが高い。

仕事状況の分析と同じように,私生活の状況について順序プロビットで回帰分析を行った((2)式)。

 

{生活状況}= a1 + a2*年齢+ a3*年収 + a4*職種ダミー + a5*規模ダミー a6*職階ダミー+育児休業利用ダミー  ••••••(2)

 

年収の係数a3は,「スポーツ」(仕事の後や休日にスポーツをすることが多い)と「生活満足度」に正で有意である。

さて育児休業本人利用ダミーの係数をみると(表12),「趣味時間を増やしたい」を除き,すべて正で有意である。育児休業利用の経験のある男性は地域活動にもスポーツや趣味にも熱心であり,生活の満足度も高い。

育児休業の利用を契機として,たとえば買い物や育児支援サービス利用がそれまでよりも増える。このことを通じて,いままで触れることのなかった地域のネットワークや活動を知り,そのことがまた多くのスポーツや趣味に目覚めると考えられる。もちろん,もともと,そういった選好や価値観をもつ男性が,育児休業利用をしているにすぎない,という解釈も成立しよう。これも男性のパネルデータがないかぎり,因果関係の方向は確定できない注8)

52頁】

つぎに,「まわりあり」を同じようにダミーとして説明変数にして推定すると,「生活の満足度」が正で有意である(表13)。なお生活満足度と趣味活動は,年収が高い男性ほど高い。それ以外では,「地域で費やす時間を増やしたい」のみが正で有意である。まわりに育児休業者がいたときに,仕事でみられた変化ほど大きな影響は私生活に与えていない。ただ,少なくとも地域で活動したいという影響は,まわりに育児休業利用者がいたことによって,私生活の面でも影響をうけ,良い方向にはたらいている。

8 結果のまとめ

 

男性の育児休業利用経験者は,ほかの男性にくらべて仕事も私生活も充実している。ただ,仕事では「上司とのコミュニケーションの良好性」のみ,ほかにくらべて高くない。

また本人の利用経験はないが,会社のまわりに育児休業利用者がいる男性も,充実した仕事生活をおくっている。「上司とのコミュニケーションの良好性」も高く,同僚の育児休業を契53頁】機として,仕事の分担,見直しがうまくいったことが推測される。かれらのまわりの育児休業利用者は,ほとんどが女性であると考えられるので,女性の育児休業利用が増えることが,たんに女性本人にメリットをもたらすだけではなく,同僚の男性にも少なからずの仕事への影響を与えていると考えられる。

一方,私生活への影響をみると,男性の育児休業利用経験者は,ほかの男性にくらべて充実した私生活を送っており,それだけでなく,地域のために費やす時間をより増やしたいと考えている。育児休業の経験は,地域とのつながりを深めており,これこそWLBだといえる。しかしながら,本人の利用経験がなく会社のまわりに育児休業利用者がいる男性については,私生活の面では大きな影響を与えていない。家族とすごす時間も多くない。生活満足度が相対的に高いことぐらいである。しかし地域のために費やす時間をより増やしたいとは考えている。

このように女性の育児休業利用は,男性の育児休業利用をうながす効果は今のところ小さいかもしれないが,同僚の男性の仕事姿勢をかえ,潜在的に私生活をも変える可能性を持っている注9)

 

9 考察

 

喧伝されているように,男性の育児休業利用ははなはだ少ない。厚生労働省の平成20年度「雇用均等基本調査」によると,育児休業取得率は女性が90.6%,男性が1.23%である(表14)。

また取得期間に関しては,男性は「1ヶ月未満」が54.1%と最も多い。「1ヶ月未満」の内訳が調査されていないが,5日から2週間といった1ヶ月の中でもはるかに短期間に取得者が集中している可能性も考えられる。女性の場合は「10ヶ月〜1年未満」が32.0%で最も多く,10ヶ月以上の取得者は5割を超える。この表では,男性は短期間,女性は長期間という特徴が顕著に表れている。

男性において,はなはだ育児休業利用が少ないという事実は,使用データにおける結果と同じである。利用する男性が少ないのだから,本稿の分析の少なくとも前半部分は,全体としてほとんど意味を持たないのであろうか。

平成20年度に厚生労働省が三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に委託した,子54頁】育て期の男女へのアンケート調査及び短時間勤務制度等に関する調査(両立支援に係る諸問題に関する総合的調査研究)を検討すると,末子出産時の休暇・休業制度取得状況において男性は「取得中である」と「取得した」を合わせると39.3%で,女性の34.6%を上回っている(図2)。休暇・休業制度の内訳をみると,男性では年次有給休暇制度利用者が53.2%と多いが,育児休業制度利用者は5.2%に過ぎない。一方で女性は「産休」が88.4%(もちろん産休は子どもを産める女性のみが取得可能である),「育児休業制度」が73.9%と高い(図3)。

このことから,男性の場合には「育児休業」制度としてではなく,「有給休暇」を育児目的で取得しているケースが多いと考えられる。男性の育児休業制度の利用が進んでいないのは事実だが,男性が育児に全く関与していないわけではない。育児休業を利用すると,雇用保険から給付金が出るといっても,少なくとも4割は手取り収入が減少する注10)。これに対して,いうまでもなく有給休暇であれば減少しない。ある程度,短期であれば,年次有給休暇を利用するのが経済合理的な行動である。

55頁】

「雇用均等基本調査」から男性の育児休業取得期間は「短期間」という特徴がみられたので,上記調査で「日数」に着目したい。男性の休暇・休業制度の平均取得日数をみると,育児休業制度が5.0日で最も多い(表14)。どの制度をみても,5日以下と非常に短期間である。我々の調査でも育児休業制度の取得者が21人と少ないが,平均取得日数は年次有給休暇制度の場合と大差がない。一方で,希望日数は22.7日と現在の取得日数よりも長く,現実と希望が乖離している注11)

日本の男性は,配偶者の出産のあとの育児に,必ずしも全く関わらないわけではない。有給休暇や育児休業などを利用しているが,ひじょうにその日数が短いことこそがポイントである。本稿の分析では,短い期間の育児休業でも大きな効果をあげている注12)

本稿の限界をふくめて,今後の課題を述べたい。使用データには職場における詳しい仕事内容や必要技能の設問がない。「仕事を効率的に進める能力」とか「時間管理能力」という概念を使って分析結果を解釈したが,より望ましいのは,一つのデータセットに仕事内容や能力と本稿のような設問が同時にあればよい。

56頁】

つぎに育児休業期間の長短がどう影響するかの分析が必要である。男性の育児休業利用者はほとんどが短いと考えられるので,本稿の結論にはほとんど影響しないと思うが,今後,長期の育児休業利用者が出てきたときとか,女性の育児休業利用者との比較のうえで重要である。

最後に,男女の本格的な比較が望まれる。結果に共通部分と相違する部分があろう。その理由を明らかにするためにも,新たな分析枠組みが必要とされるかもしれない。

 

参考文献

石田克平(2006)「育児と仕事の共通性について--仕事か家庭かの2項対立を超えて」『キャリアデザイン研究』2

 

佐藤博樹・武石恵美子(2004)『男性の育児休業?社会のニーズ,会社のメリット』中央公論新社

 

松原光代(2008)「男性の子育て参画の現状と企業の取組み」佐藤博樹編『ワーク・ライフ・バランス』ぎょうせい

 

増田香織(2010)「男性の育児休業」学習院大学経済学部ゼミ卒業論文

 

脇坂 明(2008)「育児休業は本人にとって能力開発の妨げになるか」『学習院大学 経済論集』444

57頁】

58頁】

59頁】