1) 本論では前者を手塚(成城大学),後者を小山(学習院大学)が担当している。
2) 企業の契約理論は,ギボンズ(R. Gibbons)(2005)によると,レントシーキング理論,所有権理論,インセンティブ・システム理論,適応理論に分けられる。現在主流の機会主義的行動に重点を置く取引費用理論はレントシーキング理論に分類されるが,不確実性への対応を考察する適応理論の側面も有している(伊藤(2008)参照)。
3) 取引費用理論では契約後の事後的な機会主義的行動を如何に統治するかが問題となるが,ハート(O.Hart)(1995)の所有権理論では契約の不完備性を前提として,所有権の付与の仕方による事前の投資インセンティブへの影響が考察されている。
4) ダイナミック・ケイパビリティの概念の詳しい説明や最近の理論の進展についてはヘルファット等(C. E.Helfat)(2007)を参照。
5) 市場機構を作動する上での商人の役割については,古くはマーシャル(A. Marshall)にまで遡ることができる。マーシャルの主張については池本(2004)で詳細に検討されている。
6) 信頼の定義や市場,企業およびネットワークとの関係については手塚(2002)も参照されたい。
7) 市場と組織の効率性の比較を厳密に行うためには,内部組織の機能や形態についても検討する必要があるが,これは比較的軽視されてきた(Argyres(2009))。本稿でも本格的には取り扱わないが,ヒエラルキーの下でもし経営者が選択介入によって,市場で可能なことを容易に再現できるなら,すべてを効率的に組織が実現できることになり,企業と市場の境界の決定問題を扱う理論は必要なくなる。現実にはなぜそれが不可能なのか検討する必要がある。
8) 1990年6月にフランクフルト(マイン)大学で行われた,ドイツの経営学会第52回年次大会では,ウィリアムソンが記念講演を行ったが,その時の統一論題でピコーは新制度派経済学の有用性に関する発表を行っている。
9) Picot, A. & Michaelis, E.(1984), Steinmann, H. & Schreiyögg, G.(1981, 1984)及びSteinmann, H. Fees, W. & Gerum, E.(1985)がその論争を構成する諸論文である。これらの論争に関しては生駒(1986a,b,c)に詳しい紹介がある。この論争の決着はついておらず,筆者が直接話した限りでは,シュタインマン,ピコー両教授とも自らの説を現在も(少なくとも1992年夏の時点では)主張している。