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新規学卒就職者の組織適応プロセス:職務探索行動研究と組織社会化研究の統合の視点から*
竹内 倫和**
1.研究の目的
近年,新規学卒就職者(以下,新規学卒者)の組織社会化(organizational socialization)に関する研究が,組織論,特にミクロ組織論(組織行動論)領域において関心の度を高めつつある(e.g., Haueter, Macan, & Winter, 2003; Saks, Gruman, & Cooper-Thomas, 2011)。組織社会化とは,「新規参入者が組織の外部者から内部者へと移行をしていく過程」と定義づけられるものであるが(Bauer, Bodner, Erdogan, Truxillo, & Tucker, 2007),新規学卒者は入社後,組織への社会化を行い,円滑に組織への適応を果たすことが,キャリア発達上重要な課題として位置づけられている(Super, 1957)。また,企業においても,新規学卒者を企業へ適応させることは,早期離転職を抑制するとともに,早期の戦力化を図ることが可能になり,企業の経営管理上も重要な課題といえる(Cooper-Thomas & Anderson, 2006; Harvey, Wheeler, Halbesleben, & Buckley, 2010)。
そのような中,組織社会化研究では新規学卒者の組織適応を促進する要因の特定化が行われてきた。このようないわゆる組織社会化のプロセスアプローチに位置づけられる研究では,主として新規学卒者の組織適応に向けた「個人」と「組織」の役割を明らかにする研究が行われている。具体的には,「個人」要因として,「期待と現実との一致」(Irving & Meyer, 1995; Wanous, Poland, Premack, & Davis, 1992)や個人が組織に適応するために自発的に情報収集し,結果のフィードバックなどを求める「プロアクティブ行動」(Ashford & Black, 1996; Morrison, 1993; Wanberg & Kammeyer-Mueller, 2000),パーソナリティなどの個人差要因として,「プロアクティブパーソナリティ」(Kammeyer-Mueller & Wanberg, 2003)及び「自己効力感」(Bauer & Green, 1994; Jones, 1986; Saks, 1995)が組織社会化の促進に重要な役割を果たすことがこれまでに明らかになっている。
また,「組織」の役割としては,入社直後に行なわれる「導入教育」(Klein & Weaver, 2000; Saks, 1996)が新規参入者の組織適応に有効であることが明らかになっている。さらに,最も
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検討されてきた組織要因としては,導入教育を含むより包括的な概念である「組織社会化戦術」がある。この組織社会化戦術は,新規参入者の組織社会化を促進するための企業施策であり,多くの研究において取り扱われ,その効果の検証が行なわれてきた(e.g., Bauer et al., 2007; Jones, 1986; Saks, Uggelslev, & Fassina, 2007)。
しかしながら,上記の組織社会化研究におけるプロセスアプローチの課題は,主として新規学卒者の組織適応を促進する「組織参入後」の要因に焦点が当てられており,「組織参入前」の要因がいかなる影響を及ぼすのかについて必ずしも十分な検討がなされていないことである。個人のキャリア発達が入社前からの連続性を持っていることを勘案すると,入社前の職務探索行動(job search)研究とのつながりを視野に入れた組織適応プロセスの解明が必要である(Saks & Ashforth, 2002; Takeuchi & Takeuchi, 2009)。すなわち,新規学卒者の入社前の職務探索行動から入社後の組織適応へといたる一連の組織適応メカニズムを解明することが研究上肝要なことといえる。そのような中,新規学卒者の入社前の職務探索行動が直接的に入社後の組織適応に影響を及ぼすのではなく,他の変数を媒介にした間接的効果の可能性が示唆されている(竹内・高橋, 2010)。とりわけ,個人−環境適合(Person- Environment fit: P-E fit)概念は,新規学卒者の入社前の職務探索行動と入社後の組織適応との関係に介在する重要な媒介要因であると注目されており(e.g., Cable & Judge, 1996; Saks & Ashforth, 1997, 2002; Swanson & Fouad, 1999),入社前の職務探索行動とP-E fit,入社後の組織適応の3者の関係を時系列的に明らかにすることが極めて重要な課題といえる。
上記の研究上の課題を踏まえ,本研究では新規学卒者に対して実施した2回の縦断的調査をもとに,入社前の職務探索行動から入社1年後の組織適応へといたる新規学卒者の組織適応プロセスの解明を実証的に行うことを目的とする。とりわけ,職務探索行動と組織適応とを結びつける媒介要因としてP-E fit 概念に着目し,検討を試みる。
2.概念的枠組み
(1)キャリア探索行動と個人−環境適合
これまでの職務探索行動研究の中で,新卒予定者が就職活動時に行う「キャリア探索行動(career exploration)」は,キャリア選択及び発達に影響を及ぼす中核的行動であり,その重要性が指摘されてきた(e.g., Blustein, 1997; Stumpf, Colarelli, & Hartman, 1983; 竹内・竹内, 2010; Werbel, 2000)。このキャリア探索行動は,「自身のキャリア発達に関連する情報について収集する行動」と一般的に定義づけられる概念である(Blustein, 1997; Stumpf et al., 1983)。つまり,就職活動中の個人が自己理解や職業理解,キャリアガイダンスなどのキャリアに関する情報を積極的に収集することによって,より納得度の高いキャリア選択に結びつき,その後の組織及び職務への適応につながると考えられ(Blustein & Phillips, 1988; Phillips & Blustein, 1994; Stumpf, Austin, & Hartman, 1984; Stumpf & Hartman, 1984; Super, 1957),キャリア探索行動の重要性が指摘されているといえる。既存研究において,このキャリア探索行動は情報収集する対象を基にした2つの下位概念が設定されている(Stumpf et al., 1983)。すなわち,自己の興味や価値観,これまでの諸経験の探索などの自己理解に基づく自己キャリア探索行動(self exploration)と,企業研究や業界研究,職務・職業理解に基づく環境キャリア探索行動(environmental exploration)である。
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その一方で,新規学卒者の学校から職業への円滑な移行を行うための重要な概念として,個人−環境適合(P-E fit)概念が注目されている(e.g., Cable & Judge, 1996; Saks & Ashforth, 1997, 2002; Swanson & Fouad, 1999)。つまり, 就職活動結果として, 個人と仕事環境(work environment)とが一致していればいるほど,個人の組織や職務への積極的な態度や行動に結びつくと考えられるからである(Kristof, 1996; Lauver & Kristof-Brown, 2001)。P-E fit 概念は,もともと人間の行動は,個人と環境との相互作用によって決定されると仮定する概念であり,代表的な研究者であるLewin(1951)による行動関数(B = f (P・E))など,相互作用論者の考え方に基礎を置くものである(Sekiguchi, 2004)。この概念を応用して初期のP-E fit 研究では,Holland(1997)によるRIASEC 類型(六角形モデル)など職業心理学の領域において議論が展開されてきた。すなわち,職業選択場面及び就職活動結果における個人と職業との適合(Person-Vocation fit: P-V fit)が重要視され,個人と職業との適合を高めることが,その後のより良い仕事への適応(work adjustment)に結びつくと考えられてきた。その後,個人が適合する仕事環境(work
environment)の対象に関する検討が行われ,(1)個人−職業適合,(2)個人−組織適合(Person-Organization fit: P-O fit),(3)個人−職務適合(Person-Job fit: P-J fit),(4)個人
−同僚/集団適合(Person-Group fit: P-G fit),(5)個人−上司適合(Person-Supervisor fit: P-S fit)の5つが P-E fit の下位概念として指摘されている(Judge & Ferris, 1992;
Kristof, 1996; Kristof-Brown, Zimmerman, & Johnson, 2005)。しかし,このP-E fit 概念を本研究で用いるためには,以下の点での留意が必要である。
第1に,P-E fit の下位概念に関して,欧米の研究ではP-O fit とP-J fit を就職活動結果指標として取り上げて検討することが多い(Cable & Judge, 1996; Saks & Ashforth, 1997)。しかし,日本企業において,組織との適合(P-O fit)を重視して採用活動を行っている企業が多い一方で,他方,応募者に対して職務記述書に基づく明確な職務内容を事前に明示して採用活動を行っている企業はほとんどないのが実情である。むしろ,仕事に関していえば,特定の「職務」よりも幅の広い,営業や経理,人事などといった「職業」概念に基づいて,わが国企業の採用活動ならびに新規学卒者の就職活動が行われるのが一般的といえる。このような日本的な職業選択の特殊性を加味し,新規学卒者のP-J fit ではなくP-V fit に基づく検討の必要性が指摘されている(竹内, 2009)。
第2に,入社前段階と入社後段階において,新規学卒者のP-E fit の知覚度合いが異なることが指摘されている(e.g., Bretz, Rynes, & Gerhart, 1993)。このことは,就職活動結果として入社直後段階での新規学卒者のP-E fit を把握するだけでなく,入社後のP-E fit の知覚度合いも継続的に把握し,入社1年後の組織適応にいかなる影響を及ぼすのかを精緻に検討する必要性を示唆するものである。
したがって,本研究では入社前の職務探索行動と入社後の組織適応とを繋ぐ概念として,P-O fit とP-V fit に焦点を当て,さらに入社時点及び入社1年後段階での新規学卒者のP-O fitとP-V fit をそれぞれ測定し,検討を行うこととする。
新規学卒者の就職活動時のキャリア探索行動と入社時点のP-E fit(P-O fit・P-V fit)との関係を直接的に検討している研究はこれまでにないが,以下の議論から両者の関係性を考えることが可能である。
就職活動結果指標であるP-E fit(P-O fit・P-V fit)を高めるためには,新規学卒者がPerson(個人)である自分自身の諸特徴について理解すること,あるいはEnvironment(環境)である組
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織の価値観や特定の職業につく上で求められる能力要件などを適切に理解することが極めて重要である。キャリア探索行動の下位概念である自己キャリア探索行動は,自己の興味や価値観,あるいは能力など,自己に関する情報を収集し,自己理解を深めていく行動である。したがって,自己キャリア探索行動をより積極的に行った新規学卒者は,P-E fit 概念の中でのPerson(個人)について,それを行っていない新規学卒者よりも高く理解されていると考えられる。その一方で,環境キャリア探索行動は,企業研究や業界研究,職業理解などを通じて,P-E fit 概念のEnvironment(環境)に関する理解を高める行動と考えられる。実際に,Zikic & Saks(2009)では求職者に対する実証研究結果から,個人が希望する職種に関する明確な考えの保持を意味する職務探索明瞭性(job search clarity)に対して,環境キャリア探索行動が有意な正の影響を及ぼしていることを明らかにしている。この結果から,新規学卒者は環境キャリア探索行動を通して,希望する職業や組織などの環境(environment)面に関する理解をより高めていくことと考えられる。
以上の議論より,就職活動時にキャリア探索行動を熱心に行った新卒予定者は,自己についてよく理解し,組織や職業などの環境について高い理解が得られているため,両者の適合感を意味する入社時点でのP-O fit 及びP-V fit が高いことが考えられる。したがって,就職活動時のキャリア探索行動と入社時点のP-E fit に関する以下の仮説が設定された。
仮説1a: 就職活動時の自己キャリア探索行動は,入社時点での個人−組織適合及び個人−職業適合に対して,有意な正の影響を及ぼすだろう。
仮説1b: 就職活動時の環境キャリア探索行動は,入社時点での個人−組織適合及び個人−職業適合に対して,有意な正の影響を及ぼすだろう。
入社1年後のP-O fit とP-V fit への影響について考えると,就職活動時のキャリア探索行動からの影響を考えることができるが,入社1年後時点では,組織に入ってからの企業施策(教育訓練施策等)の影響など,その他の規定要因の影響力が強く,キャリア探索行動の直接的な影響力は必ずしも大きくないと考えられる。例えば,竹内・高橋(2010)では,就職活動時に行った職務探索行動が,入社1年後の職業的アイデンティティに対していかなる影響を及ぼしているのかを検討している。その結果,職務探索行動は,入社1年後の職業的アイデンティティに対して直接的に有意な影響を及ぼすのではなく,入社時点の職業的アイデンティティに直接的な影響を及ぼし,入社時点の職業的アイデンティティが入社1年後の職業的アイデンティティに影響を及ぼしていることが示された。同一の概念ではないものの,職業的アイデンティティは,本研究で設定しているP-E fit の下位概念であるP-V fit と近い概念であり,この結果を本研究に援用することが可能であろう。つまり,就職活動時に行ったキャリア探索行動は,直接的に入社1年後のP-E fit に影響を及ぼすのではなく,むしろキャリア探索行動の結果である入社時点のP-O fit 及びP-V fit が入社1年後のP-O fit とP-V fit を高める可能性が示唆される。したがって,入社時点のP-E fit と入社1年後のP-E fit に関する以下の仮説が設定された。
仮説2a: 入社時点の個人−組織適合は,入社1年後の個人−組織適合及び個人−職業適合に対して,有意な正の影響を及ぼすだろう。
仮説2b: 入社時点の個人−職業適合は,入社1年後の個人−組織適合及び個人−職業適合に対して,有意な正の影響を及ぼすだろう。
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さらに,上記の仮説1から就職活動時のキャリア探索行動が,入社時点のP-O fit 及びP-Vfit を高め,仮説2から入社時点のP-O fit とP-V fit が入社1年後のP-O fit とP-V fit を高めることが示唆された。このことは,入社時点のP-E fit が就職活動時のキャリア探索行動と入社1年後のP-E fit(P-O fit・P-V fit)との関係を媒介していることを示すものといえる。したがって,キャリア探索行動と入社時点及び入社1年後のP-E fit(P-O fit・P-V fit)の3者の関係について,以下の仮説が設定された。
仮説3a: 入社時点の個人−組織適合は,就職活動時のキャリア探索行動(自己キャリア探索行動・環境キャリア探索行動)と入社1年後の個人−環境適合(個人−組織適合・個人−職業適合)との関係を媒介しているだろう。
仮説3b: 入社時点の個人−職業適合は,就職活動時のキャリア探索行動(自己キャリア探索行動・環境キャリア探索行動)と入社1年後の個人−環境適合(個人−組織適合・個人−職業適合)との関係を媒介しているだろう。
(2)個人−環境適合と入社1年後の組織適応
既存の組織社会化研究における組織適応の指標としては,個人の組織や職務に対する態度的概念を用いて検討しているのが一般的である(Bauer et al., 2007; Saks et al., 2007)。具体的には,組織に関する態度概念として,組織への情動的な一体化意識を示す「組織コミットメント」(e.g., Allen & Meyer, 1990; Ashforth & Saks, 1996; Ashforth, Saks, & Lee, 1998; Cohen & Veled-Hecht, 2010; Cooper-Thomas & Anderson, 2002; Klein, Fan, & Preacher, 2006; Riordan, Weatherly, Vandenberg, & Self, 2001; Saks & Ashforth, 1997, 2000)や現在勤めている企業を辞めて,他の企業への転職意向を意味する「転職意思」(e.g., Ashforth & Saks, 1996; Ashforth et al., 1998; Cooper-Thomas & Anderson, 2002; Riordan et al., 2001; Saks & Ashforth, 1997, 2000)が代表的指標として用いられている。また,職務に対する態度概念としては,個人が従事する職務全般に関する満足度合いを示す「職務満足」(e.g., Ashforth & Saks, 1996; Ashforth et al., 1998; Cooper-Thomas & Anderson, 2002; Klein et al., 2006; Riordan et al., 2001; Saks & Ashforth, 1997, 2000)が多くの研究で用いられている。したがって,本研究でも組織適応の具体的指標として「組織コミットメント」,「転職意思」,「職務満足」の3変数を用いて検討を行う。
入社1年後のP-O fit 及びP-V fit と組織適応との関連については,仕事適応理論(theory of work adjustment, Dawis & Lofquist, 1984)から考えることができる。仕事適応理論とは,個人と仕事環境とが,お互いに必要とする要件(requirements)を持っており,個人の持っている特性と仕事環境が持っている特徴とが一致した時に,適応の結果としてより良い仕事の関係が形成されるという考え方である。具体的には,以下のようにまとめられる。まず,自己のニーズが仕事環境によって充足された時に,個人は「満足感(satisfaction)」を感じ,仕事環境が必要とするものが個人によって満たされた時に,仕事環境は「(要件の)充足度(satisfactoriness)」を高める。このような従業員の「満足感」及び仕事環境の「充足度」の双方が高い時に,個人と仕事環境とが一致(correspondence)していることを意味する。その上で,この個人と仕事環境との一致度合いの高さが,個人の職務満足を高め,その状態が継続することによって長い勤続年数(tenure),すなわち仕事適応につながるという理論である。
本研究に上記の理論を援用すると,個人と仕事環境(組織と職業)との一致は,入社1年後時点でのP-O fit 及びP-V fit で示されることになる。そして,新規学卒者が組織との適合及び
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職業との適合が高い状態にあることによって,所属する企業への高いコミットメントや職務満足感が得られ,さらに転職意思が抑制されると考えられる。以上の仕事適応理論に基づく,入社1年後のP-E fit(P-O fit・P-V fit)と組織適応との関係性についての議論から,以下の仮説が設定された。
仮説4a: 入社1年後の個人−組織適合は,入社1年後の組織コミットメントと職務満足に対して有意な正の影響を及ぼし,転職意思に対して有意な負の影響を及ぼすだろう。
仮説4b: 入社1年後の個人−職業適合は,入社1年後の組織コミットメントと職務満足に対して有意な正の影響を及ぼし,転職意思に対して有意な負の影響を及ぼすだろう。
上記の仕事適応理論に依拠すると,入社直後のP-O fit 及びP-V fit も入社1年後の組織適応に影響を及ぼすことが考えられる。しかし,入社直後と入社1年後時点であれば,組織や職業と適合しているかどうかの評価がより近い時間軸に基づくものであるため,(入社直後よりも)入社1年後の適合知覚の方が,入社1年後の組織適応に対して直接的な影響を及ぼすと考えられる。換言すると,仮説2で示したとおり,入社時点のP-O fit とP-V fit は,入社1年後のP-O fit 及びP-V fit に正の有意な影響を及ぼし,入社時のP-E fit の影響を受けた入社1年後のP-O fit 及びP-V fit がその後の組織適応を規定することが示唆される。このことは,入社1年後のP-E fit が入社時点のP-E fit と入社1年後の組織適応との関係を媒介していることを意味するものであり,以下の仮説が設定された。
仮説5a: 入社1年後の個人−組織適合は,入社時点の個人−環境適合(個人−組織適合・個人−職業適合)と入社1年後の組織適応(組織コミットメント・転職意思・職務満足)との関係を媒介しているだろう。
仮説5b: 入社1年後の個人−職業適合は,入社時点の個人−環境適合(個人−組織適合・個人−職業適合)と入社1年後の組織適応(組織コミットメント・転職意思・職務満足)との関係を媒介しているだろう。
以上の議論を踏まえ,本研究の分析枠組みを示すと,図1のとおりである。
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3.方法
(1) 調査方法・対象
本研究では,企業の新規学卒者を対象とする以下の2回の縦断的調査が実施された。第1回目(Time 1,以下T1)調査は,2006年4月に,複数の調査対象企業に新規に採用された304名の正規従業員を対象に集合一括調査を実施し,全数から有効な回答を得た。第2回目(Time 2,以下T2)調査は,T1調査から1年後の2007年4月に郵送法により行われた。T2調査対象者はT1調査回答者の内,調査協力が得られた207名である。T2調査の結果,171部(回収率:82.6%)を回収することができたが,T1調査と結合できないサンプル(5部)ならびに既に退職しているサンプル(29部)を除いた137部(有効回収率:66.2%)を本研究の最終的な分析対象とした。分析対象の回答者は31社に勤務する従業員(会社業種は,製造業が72.3%,非製造業が27.7%)で,属性(T1時点)として,平均年齢は19.9歳(SD=2.2)であり,男女比では男性が61.3%であった。学歴構成比では,高校卒51.8%,専門学校卒14.6%,短期大学卒4.4%,大学卒(大学院修了含む)が29.2%であった。
(2) 測定尺度
本研究で設定した測定尺度は,全て妥当性及び信頼性が確認されている精緻化された既存の尺度をもとに構成された。各項目への回答は,全て「1=そう思わない」から「5=そう思う」までの5段階評定によって求められた。
キャリア探索行動(T1) この尺度はT1調査で設定され,就職活動時に行った本人のキャリア探索行動の程度を回答するよう求めた。Stumpf et al.(1983)による尺度をもとに,自己キャリア探索行動5項目(α= .85) (項目例:「ひとりの人間として自分がどういう人間なのかをじっくりと考えた」)と環境キャリア探索行動4項目(α= .74)(項目例:「特定の仕事や会社の情報を入手した」)を用いた。この2次元の弁別妥当性を確認するため,キャリア探索行動の各下位次元を構成する項目がそれぞれの構成概念に寄与していることを仮定した2因子モデルの確認的因子分析を行った。その結果,上記2因子モデルがデータと高い適合度を示していることが明らかになった(GFI = .90; IFI = .92; CFI = .92)。なお,この2因子モデルと概念的に弁別されないことを示す1因子モデルとの比較を行った結果,2因子モデルの方が統計的に有意にデータとの適合度が高いことが示された(χ2 = 30.18, df = 1, p < .001)。したがって,以下の分析ではキャリア探索行動を自己キャリア探索行動と環境キャリア探索行動の2次元によって把握し,検討を行う。
P-E fit(T1・T2) これらの尺度はT1調査とT2調査の双方で設定され,入社時点及び入社1年後時点での新規学卒者の組織及び職業との主観的な適合知覚が測定された。個人−組織適合は,Cable and Judge(1996)を参考に構成された3項目(α(T1) = .81, α(T2) = .79)(項目例:「私の価値観は組織の価値観と適合している」),個人−職業適合は,Lauver and Kristof-Brown(2001)の個人−職務適合の項目を参考に「職業」へと変更を行った4項目を用いた(α(T1) = .75, α(T2)= .71) (項目例:「私はこの職業に必要な知識を持っている」)。T1及びT2サンプルに対する確認的因子分析の結果,上記2因子モデルにおいてデータとの高い適合度が得られた(GFIT1 =.93; IFIT1 = .93; CFIT1 = .93及びGFIT2 = .93; IFIT2 = .92; CFIT2 = .91)また,この2因子モデルと
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1因子モデルにおける確認的因子分析の適合度の比較分析を行ったところ,2因子モデルの方が1因子モデルに比べて有意にデータとのあてはまりが良いことが確認された(χ2T1 = 13.58, dfT1 = 1, p < .001及びχ2T2 = 10.60, dfT2 = 1, p < .001)。
組織適応指標(T2) 以下の各変数は,T2調査で用いられ,入社1年後段階での新規学卒者の組織適応状況が測定された。組織コミットメントは,組織との情動的な一体化意識を意味する情動的コミットメント(Meyer, Allen, & Smith, 1993)の6項目を用いた(α= .81)(項目例:「私はこの会社に,愛情を感じていると思う」)。転職意思は,山本(2000)を一部修正した2項目を用いて測定された(α= .81)(項目例:「私は現在と違った会社に転職したい」)。職務満足は,Cammann, Fichman, Jenkins, and Klesh(1983)をもとにした2項目を用いた(α= .63)(項目例:「全体的に見て,私は現在の仕事に満足している」)。組織適応が3つの構成概念で説明されることを仮定した3因子モデルに対する確認的因子分析を行った結果,データとの高い適合度が示された(GFI = .90; IFI = .94; CFI = .94)。さらに,この3因子モデルと無弁別を示す1因子モデルとの比較分析を行った。その結果,3因子モデルの方が有意に適合度の高いことが明らかになり(χ2 = 100.69, df = 3, p < .001),弁別妥当性が確認された。
コントロール変数(T1) T1調査時点における年齢(実数),性別(0 = 女性,1 = 男性),会社規模(0 = 従業員300人未満,1 = 同300人以上),会社業種(0 = 非製造業,1 = 製造業)の4変数を設定した。
(3) 分析方法
仮説の検証にあたり,まず観測変数による共分散構造分析を用いて本研究で設定した分析枠組み(仮説モデル)がデータとの高い適合度を有しているかどうかを確認する。ついで,共分散構造分析によって仮説モデルとデータとの高い適合度が確認された場合には,そのパス解析結果に基づき概念間の関係性の検討を行う。最後に,媒介関係の検証(仮説3と仮説5)では,Cole, Walter and Bruch(2008)の示唆にしたがい,上述の共分散構造分析による概念間の関係性の検証に加え,媒介変数の間接効果についてブートストラップ法を用いたソベル検定により検討することとする。なお,本研究で用いた全変数の記述統計と変数間の相関は,付表に示す。
4.結果
先に示した分析枠組みにもとづき仮説の検証を行っていく。本研究で用いた尺度による観測変数の共分散構造分析を行った結果,共分散構造分析の適合度の各指標(GFI, IFI, CFI)が,慣例的な採択基準である.90以上であることが示された(χ2 = 75.34, p < .001; GFI = .92; IFI =.91; CFI = .90)。このことから,本研究の分析モデルがデータとの高い適合性を有していることが確認された。また,本研究の分析モデルでは,媒介変数として設定した入社直後のP-E fit(T1)が入社前のキャリア探索行動と入社1年後のP-E fit(T2)との関係を「完全」媒介し,入社1年後のP-E fit(T2)は入社直後のP-E fit(T1)と組織適応指標との関係を「完全」媒介していることを仮定しているが,「部分」媒介の可能性も否定できない。そこで,新たに部分媒介モデルを設定し,当初の仮説化された分析モデル(モデル1)と部分媒介モデルとの比較分析を行うこととする。比較分析を行うにあたり,以下の3つのモデル(モデル2〜4)を新たに部分媒介モデルとして設定した。
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まず,入社直後のP-E fit(T1)が部分媒介していることを仮定し,本研究の分析モデル(モデル1)にキャリア探索行動(自己探索行動・環境キャリア探索行動)から入社1年後のP-E fit(T2)へのパスを4つ追加した「個人−環境適合(T1)部分媒介モデル」をモデル2として設定した。ついで,モデル3は入社1年後のP-E fit(T2)が部分媒介していることを想定した「個人−環境適合(T2)部分媒介モデル」である。このモデル3では,入社直後のP-E fit(T1)から各組織適応指標へと至る6つのパスが仮説モデル(モデル1)に追加された。最後に,モデル4は,媒介変数である入社直後と入社1年後のP-E fit(T1・T2)が双方とも部分媒介していることを仮定したものである。仮説モデル(モデル1)にモデル2とモデル3で追加された10のパスを組み込んだもので,モデル4は「個人−環境適合(T1・T2)部分媒介モデル」といえる。
新たに設定した部分媒介モデル(モデル2〜4)に対して共分散構造分析を行った結果,各モデルの適合度指標をまとめると表1のとおりである。GFI やIFI, CFI を見ると,モデル1とモデル2,3,4との間で大きな差は確認されなかった。また,χ2の差分に基づく仮説モデル(モデル1)と部分媒介モデル(モデル2〜4)との比較分析を行ったところ,各部分媒介モデルと仮説モデルとの間にデータの適合度に関する有意な差は確認されず,部分媒介モデルの適合度が,仮説モデルと比べて有意に高いということは示されなかった。したがって,倹約性(parsimony)の原理から,部分媒介モデルではなく,本研究で理論的に導出された仮説モデル(完全媒介モデル)に基づく検討の妥当性が示されたと言える。以下,仮説を検証するために,モデル1(仮説モデル)の各パス結果(図2)を具体的に見ていくこととする。
キャリア探索行動と入社直後のP-E fit(T1)との関係では,自己キャリア探索行動が入社直後のP-O fit(T1)及びP-V fit(T1)の双方に対して有意な正の影響を及ぼしていることが明らかになった。環境キャリア探索行動は,入社直後のP-V fit(T1)に対して有意な正の影響を
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及ぼすことを確認したが,P-O fit(T1)に対しては10%水準の有意傾向にとどまることが示された。これらの結果は,就職活動時の新規参入者の自己キャリア探索行動が,入社時点での組織との適合感及び職業との適合感を高め,環境キャリア探索行動は,職業との適合感のみを高めることを示すものである。以上の結果から,仮説1a は支持され,仮説1b は部分的に支持された。
入社直後のP-E fit (T1)と入社1年後のP-E fit (T2)との関係についてみると,入社1年後のP-O fit(T2)及びP-V fit(T2)に対する入社直後のP-O fit(T1)の有意な影響力を確認することができなかった。その一方で,入社直後のP-V fit(T1)は,入社1年後のP-O fit(T2)とP-V fit (T2)の双方に対して有意な正の影響を及ぼしていることが明らかになった。この結果から,新規参入者の入社直後の職業との適合感のみが入社1年後の組織との適合感ならびに職業との適合感を高めることが示された。したがって,仮説2a は棄却され,仮説2b は支持されたといえる。
仮説3は,入社直後のP-O fit(T1)及びP-V fit(T1)が入社前のキャリア探索行動と入社1年後のP-E fit(T2)との関係を媒介しているだろうというものである。上述のとおり,仮説2の結果から,入社直後のP-O fit(T1)は入社1年後のP-E fit(T2)に対して有意な影響を及ぼしていないことから,媒介効果は確認されなかった。また,仮説1及び仮説2の結果から入社直後のP-V fit(T1)はキャリア探索行動と入社1年後のP-E fit(T2)との関係を媒介している可能性が示唆される。そこで,ブートストラップ法のソベル検定(サンプル数= 2000)を実施し,入社直後のP-Vfit(T1)の間接効果を検証した。その結果(表2),媒介効果として考えられる全てのパスにおいて(「自己キャリア探索行動」→「P-V fit(T1)」→「P-O fit(T2)」・「P-V fit(T2)」,「環境キャリア探索行動」→「P-V fit(T1)」→「P-O fit(T2)」・「P-V fit(T2)」),入社直後のP-V fit(T1)が有意な間接効果を有していることが確認された1)。以上の結果から,
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仮説3a は棄却され,仮説3b は支持された。
仮説4を検証するために,入社1年後のP-E fit(T2)が組織適応指標に対して与える影響について見ると,入社1年後のP-O fit(T2)は,組織コミットメントと職務満足に対して有意な正の影響を及ぼし,転職意思に対しては有意な負の影響を及ぼしていることが明らかになった。同様に,入社1年後のP-V fit(T2)も組織コミットメント及び職務満足に対して有意な正の影響力を示すとともに,転職意思に対して有意な負の影響力を有していることが確認された。これらの結果は,新規参入者の入社1年後の組織との適合感及び職業との適合感が,組織コミットメントや職務満足を高め,転職意思を抑制する役割を果たしていることを示すものである。したがって,仮説4a 及び4b は支持されたといえる。
仮説5で示した入社1年後のP-E fit(T2)の媒介効果を確認するために,先のパス解析で媒介関係の可能性が示されている一連のパスに対する入社1年後のP-E fit(T2)の間接効果を検討した。なお,先の分析において入社直後のP-O fit(T1)は,入社1年後のP-O fit(T2)及びP-V fit(T2)に対して有意な影響を及ぼしていないことが示された。そのため,入社直後のP-O fit(T1)を起点とした影響過程における入社1年後のP-E fit(T2)の媒介効果は確認されなかった。ブートストラップ法を用いたソベル検定(サンプル数= 2000)の結果(表2),入社直後のP-V fit(T1)と組織適応指標(組織コミットメント,転職意思,職務満足)との関係において,入社1年後のP-O fit(T2)が有意な間接効果を有していることが確認された。また,もう1つの媒介変数である入社1年後のP-V fit(T2)においても,入社直後のP-V fit(T1)と組織コミットメント,転職意思,職務満足との関係における有意な間接効果が明らかになった2)。これらの結果から,入社直後のP-V fit(T1)と組織適応との関係における入社1年後のP-O fit(T2)とP-V fit(T2)との媒介効果が示唆され,仮説5a と5b は部分的に支持された。
5.考察
近年,組織社会化研究において新規学卒者の組織適応に影響を与える組織参入前の要因を特定することの重要性が指摘される中,本研究では入社前の職務探索行動から入社後の組織適応へといたる新規学卒者の組織適応プロセスを実証的に明らかにすることを試みた。また,上記目的の解明にあたり,わが国ではほとんど行われていない縦断的調査から得られたデータをもとに検討が行われた点は,一定の研究方法の厳密性とさらにそこから得られる研究結果の客観性を担保するものといえる。本研究の結果,特筆すべきことは,以下の3点にまとめられる。
第1に,入社前のキャリア探索行動が入社後の組織適応に効果的な影響を及ぼすことが確認された点である。さらに,その関係性は直接的な影響関係ではなく,入社時及び入社1年後のP-E fit(T1・T2)を媒介にした間接的な影響関係であることが本結果から示された。近年の組織社会化研究において,入社前の職務探索行動(キャリア探索行動など)が入社後の組織適応にどのように影響を及ぼすのかについて明らかにすることが懸案となっており,他の変数を媒介にした間接的効果の可能性が指摘されてきた(e.g., Cable & Judge, 1996; Saks & Ashforth,
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1997;竹内・高橋,2010)。そのような中,本研究で新規学卒者のP-E fit を介した入社前の職務探索行動から入社後の組織適応へといたる組織社会化プロセスを明らかにした点は,両者の関係性における間接的効果の一般化可能性を提示したという意味において,組織社会化研究の進展に対して一定の役割を果たすものといえる。とりわけ,欧米の文脈においては,数少ないながらもP-E fit が入社前の職務探索行動と入社後の組織適応との関係を媒介していることは実証的に示されているが(Saks & Ashforth, 2002),新規学卒者の就職活動方法及び企業の採用活動方法が異なる日本の文脈において,同様の結果が見出された点は,欧米や日本といった国や地域の文脈を越えた普遍的な結果の可能性を示唆するものといえる。
第2に,本研究で入社前の職務探索行動と入社後の組織適応との関係を媒介していることが確認されたP-E fit の中でも,入社時点のP-V fit が極めて重要であることが示された点である。本研究の結果,入社前のキャリア探索行動が入社時点のP-O fit とP-V fit を高めることが明らかになったが,入社時点のP-O fit は入社1年後のP-O fit 及びP-V fit には有意な影響を及ぼさない一方で,他方,入社時点のP-V fit のみが入社1年後のP-O fit 及びP-V fit を有意に高めることが確認された。そして,入社時点のP-V fit によって高められた入社1年後のP-E fit(P-O fit・P-V fit)が入社1年後の組織適応に効果的な影響を及ぼすことが示された。すなわち,P-E fit の中でも入社時点のP-V fit によって,入社前のキャリア探索行動から組織適応へとつながる可能性が示されたといえる。この結果は,以下の研究面及び実践面における含意を有するものといえる。
研究面では,欧米の多くの既存研究において職務探索結果指標として,P-E fit の中でもP-O fit とP-J fit を取り上げて検討しているため(Saks & Ashforth, 2002),本研究で見出された新規学卒者の入社時点のP-V fit の重要性は,日本的な職業選択文脈における既存研究にはない新たな知見を提供するものといえる。欧米においてもP-O fit とP-J fit ばかりでなく,P-V fit の効果について検討する必要性を示したといえる。実践面では,これまでの日本企業では「就社」といわれるように,組織の価値観と適合する新卒予定者を採用する,いわばP-O fit 重視の採用戦略を多くの企業でとってきたといえる。しかし,本研究結果はこのようなP-O fit を重視した人材の採用では,必ずしもその後の組織への適応につながらない可能性があることを示すものである。むしろ,近年の新規学卒者のキャリア意識の高さを背景にして,職種別採用などの新規学卒者の特定の職業に対する興味や能力と職業が求める能力要件との適合性を重視するP-V fit を重視した採用戦略の導入をわが国企業において検討する必要性を示すものといえよう。
第3に,キャリア探索行動と入社時点のP-E fit との関係において,環境キャリア探索行動よりも自己キャリア探索行動の方が相対的に強い影響力を入社時点のP-O fit 及びP-V fit に対して及ぼしていた点である。既存の職務探索研究では,自己キャリア探索行動ではなく,環境キャリア探索行動が就職活動結果に対して効果的な影響を及ぼすという指摘がなされており(Zikic & Klehe, 2006),本研究はそれと必ずしも一致しない結果が確認されたといえる。しかし,Zikic and Klehe(2006)の研究では,再就職者を対象にした調査であり,本研究のように新規学卒者を対象にしたものではない。この結果の一つの解釈として,本研究のように働いた経験のない新規学卒者の場合,自分がどのような人間で,どのような職業に興味,関心があるのかという自己に対する知識や理解が既存研究(Zikic & Klehe, 2006)の対象である就職経験者よりも不十分であるため,自己キャリア探索行動が就職活動結果に対して重要な役割を果たしていた可能性を考えることができる。例えば,竹内・竹内(2009)においてもわが国の新規
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学卒者を対象にした分析結果から,環境キャリア探索行動ではなく,自己キャリア探索行動のみが入社直後の組織適応に効果的な影響を及ぼすことを明らかにしている。しかしながら,上記のキャリア探索行動の役割に関する議論はあくまで推測の域を出ず,さらに本研究結果では,自己キャリア探索行動ばかりでなく環境キャリア探索行動も入社時点のP-V fit に対して有意な正の影響を及ぼしていることから,一般化が可能な議論かどうかについて,今後慎重に検討することが求められるだろう。
最後に,本研究の限界と今後の課題を提示したい。
第1に,本研究では,入社前の職務探索行動から入社後の組織適応との関係を媒介する要因としてP-E fit 概念を用いて検討してきたが,その他の概念が媒介している可能性がある。例えば,竹内・高橋(2010)では職業的アイデンティティが入社前の職務探索行動と入社後の組織適応との関係を媒介していることが示されている。本研究結果を含め,既存研究では媒介要因としてP-E fit と職業的アイデンティティのみが見出されているが,他の媒介要因が特定されることにより,新規学卒者の入社前の職務探索行動から入社後の組織適応へといたる新たな影響過程の解明につながると考えられる。このことは,組織社会化研究のプロセスアプローチに対する一定の貢献を果たすことになると考えられる。
第2に,調査方法論として,本研究では新規学卒者に対して実施した2回の縦断的調査を用いて検討を行ってきたが,更なる縦断的調査による検討が必要である。本研究のように入社前から入社後へといたる新規学卒者の組織適応プロセスを明らかにするためには,新規学卒者に対する入社前時点での調査から始めて,入社後複数回にわたる調査に基づく検討が必要である。したがって,今後更なる大規模かつ精緻な縦断的調査を行うことにより,本研究で見出された結果が再現されるかについて検証することが求められる。
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